第7話: 音楽家としての歩み
律希は、音楽活動を本格的に開始してから、すぐにその楽しさと同時に厳しさも実感し始めた。最初の依頼から得た自信を胸に、次のステップを踏み出そうとしていた。次のイベントのために演奏する準備を整えながら、彼は自分の音楽がどのように広がっていくのかに心を躍らせていた。
アルペイロの音色に触れるたび、その音に込められた感情やメッセージをどのように表現するか、律希は次第に考えを深めていった。自作曲を演奏することは、彼にとってただの仕事ではなく、心から伝えたいことを音楽に込める重要な作業だった。
律希は、音楽協会からの紹介で次の依頼を受けることが決まった。それは、小さな音楽フェスティバルの一部として、彼の演奏を披露するというものであった。規模は前回のパーティーよりも大きく、観客も多いため、律希は少し緊張しながらもそのチャンスを楽しみにしていた。
その日、律希は音楽協会の担当者とともに、フェスティバルの会場に足を運んだ。会場は、町の広場に設けられた大きなテントの中で、数十人の参加者が集まっていた。そこで彼は、他の演奏者たちとともに、ステージの準備を進めていた。
「大きなイベントですね。緊張しますか?」担当者が律希に声をかけると、律希は少し考えてから答えた。
「緊張しますけど、でも楽しみです。自分の音楽をもっと多くの人に届けたいという気持ちが強いですから。」律希は微笑みながら答えた。
「それが大事ですね。」担当者は温かい目で律希を見守りながら言った。「自分の音楽を信じて、その気持ちを込めて演奏すれば、きっと観客にも伝わりますよ。」
律希はその言葉に励まされ、ステージに上がる準備を整えた。会場内の音響設備が調整され、いよいよ彼の番が近づいてきた。
「次の演奏者は、律希さんです!」司会者の声が会場に響き渡り、律希は深呼吸をしてステージに立った。彼の手元にはアルペイロが置かれ、その鍵盤が静かに彼を待っている。
律希はゆっくりとアルペイロの前に座り、鍵盤に手を置いた。会場の空気がピンと張り詰め、彼は最初の音を奏で始めた。軽やかなメロディが響き渡り、会場の空気を一気に明るく包み込む。律希の演奏が進むにつれて、観客はその音楽に引き込まれ、次第にリラックスした表情を浮かべていった。
最初は軽快なリズムの中に柔らかなメロディを乗せて、会場の空気を穏やかに、そして次第に活気づけるように弾き進めた。アルペイロの深く豊かな音色が、聴衆の心に穏やかな波を引き起こしているようだった。和音が広がるたびに、空気が少しずつ温かくなり、律希自身もその音の中に溶け込むような感覚を覚えた。
中盤に差し掛かると、メロディに少し変化を加え、ゆったりとしたテンポに切り替えた。和音が重なり、メロディの中に柔らかな響きが混じることで、観客はよりリラックスし、心地よい静けさが会場に広がった。律希はその瞬間、音楽を通じて観客と心が通じ合っているような感覚を強く感じた。
「この音楽で、少しでも人々の心に触れることができれば…」律希は演奏しながら心の中でそう思い、曲を奏で続けた。
演奏が終わると、会場にはしばらく静寂が広がった後、拍手が鳴り響いた。その拍手に律希は少し照れくさそうに頭を下げた。彼の演奏に対する反応は、前回のパーティーとはまた違った形で、観客の心に直接響いたようだ。
演奏後、律希は数人の観客と話すことになった。彼らは彼の音楽に感動し、さらに自作曲の背景について質問をしてきた。
「すごく素敵な演奏でした。あのメロディは、どこか懐かしさを感じさせるような、でも新鮮な印象もあって。」一人の観客が律希に話しかけてきた。
「ありがとうございます。」律希は少し恥ずかしそうに答える。「曲には、僕自身が感じた温かい思いを込めて作ったんです。音楽で、聴いてくれる人々の心に少しでも触れられたらいいなと思っています。」
「本当に心に響きました。」別の観客が続けて言った。「また次回も楽しみにしています。」
律希はその言葉に少し驚きながらも、嬉しそうに微笑んだ。「ありがとうございます。次回ももっと良い演奏をお届けできるように頑張ります。」
その会話を終え、律希は次の演奏に向けて気持ちを新たにした。このイベントで得た反応が、自分の音楽に対する自信をさらに深めることになった。
イベントが終わり、律希は音楽協会の担当者と一緒に会場を後にした。彼は心の中で、次のステップへの道が開けたような気がしていた。
「今日は本当に良かったですね。」担当者が話しかけてきた。
「はい、すごく楽しかったです。」律希は答えた。「自分の音楽が、少しでも多くの人に届いた気がして嬉しいです。」
「それに、報酬も大きかったですね。」担当者がにっこりと笑いながら言った。
律希は少し驚きながら顔を向けた。「報酬?」
「もちろん。」担当者は頷きながら説明した。「今回はあなたの演奏に対する報酬として、100ルナが支払われることになりました。」担当者は律希の反応を見ながら続けた。「これからも、あなたの音楽活動に対して支払いが発生する場合があります。音楽家として生活していけるよう、こうした報酬を受け取ることが自然になるんですよ。」
律希はその言葉にしばらく考え込み、ゆっくりと答えた。「なるほど…自分の音楽で生計を立てるという実感が、少しずつ湧いてきました。」
担当者はにっこりと笑いながら、「次回も音楽活動を続けていけるよう、こうしたチャンスをどんどん増やしていきましょう。」と言った。
律希はその言葉を胸に、「次も頑張ります。」と改めて決意を新たにした。
律希の音楽家としての道は、着実に前進している。その決意を胸に、彼は次なる目標に向かって歩き出すのだった。
1ルナ=約1000円です。
100ルナあれば一ヶ月は生活できる物価の世界です。