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第6話: 新たな一歩


オーディションを終えた律希は、音楽協会の広間を後にし、静かな廊下を歩きながら心を整理していた。最初の緊張は解け、今は自分の音楽を届けられたことに安堵の気持ちが広がっていた。演奏中は心の中で何度も自分を励まし、音楽に集中しようと努力した。その結果として、今の律希には満足感があった。


「終わったな…」律希は小さく呟いた。もちろん、結果がどうであれ、演奏できたことに意味があると感じていたが、やはり心のどこかで少しでも評価されたいと思っている自分もいた。


音楽協会を出ると、夜の冷たい空気が律希の頬をかすめ、思わず肩をすくめた。オーディションが終わったばかりの律希は、緊張が解けてどこか軽く、そして少しだけ疲れていた。だが、その疲れは充実感に変わっていった。自分の音楽を演奏できたという事実に、少しずつ誇りを感じ始めていた。


数日後、律希は音楽協会からの手紙を受け取った。手紙には、オーディションの結果が記されていた。


「お疲れ様でした。あなたの演奏は非常に感動的でした。音楽に込められた情熱は素晴らしく、あなたがこれから成長していく姿が目に浮かびます。演奏技術にはまだ向上の余地があるものの、その努力と情熱は確実に音楽の世界で輝くものです。私たちはあなたの今後を楽しみにしています。」


律希はその内容をじっくりと読み、しばらく黙って考えた。音楽協会が自分の努力を認めてくれていることが、次の一歩を踏み出す大きな励みとなった。


律希は手紙を再び閉じ、深呼吸をした。「やるべきことが見えてきた。」その言葉を心の中で繰り返すと、少しだけ肩の力が抜けていった。結果は一歩前進であり、次に進むための大切な課題が見えた瞬間でもあった。


その後、音楽協会から再び手紙が届いた。律希はそれを開けると、また新たな驚きと喜びが広がった。


「律希さん、オーディションの結果について、お話ししたいことがあります。あなたの演奏は素晴らしかった。特に、音楽に対する情熱が伝わってきました。あなたの成長を支援するため、音楽協会として今後もサポートを続けたいと考えています。」


その後、手紙には詳細が続く。「私たちは、あなたがさらに成長するために必要な楽器を支援する準備が整いました。これから提供させていただくのは、『アルペイロ』という鍵盤楽器です。この楽器は、鍵盤を押すことで内部の弦が鳴り、音色が非常に豊かで、特に和音を奏でる際に深い響きが得られます。また、その音は非常に滑らかで、メロディを強調しながらも繊細なニュアンスを持っており、演奏者の感情をダイレクトに伝えることができる特徴を持っています。」


律希はその言葉を読み、驚きと喜びが胸に込み上げた。音楽協会が自分を支援してくれるという事実は、予想していなかった大きなチャンスだった。


「本当に、ありがとうございます。」律希は手紙を胸に抱きながら、感謝の気持ちを込めて呟いた。


数日後、律希の元に新しい楽器が届いた。それは、音楽協会が手配してくれた『アルペイロ』という鍵盤楽器だった。『アルペイロ』は、見た目が非常に美しい木製の本体に、並んだ鍵盤が特徴的なデザインをしていた。内部には弦が張られており、鍵盤を押すことで内部の弦が鳴り、まるで弦楽器のように豊かな音色を奏でることができた。その音色は、穏やかでありながらも深い響きを持ち、律希はその音を最初に聞いたとき、すぐに心を奪われた。


「これで、また一歩前進できる。」律希はアルペイロに触れ、その感触にしばらく目を閉じて耳を傾けた。音色が広がり、彼はその音に包まれるような感覚を覚えた。


アルペイロでの練習を続ける中で、律希は次第に音楽を自分の手で広める方法を考えるようになった。演奏活動だけでなく、自分の音楽を人々に届けるためには作曲をしていくことが必要だと感じた。そして、作曲活動を通じて音楽で生計を立てる道を模索し始めた。


「演奏だけではない。作曲をして、音楽で生計を立てるんだ。」律希は決意を新たにした。


そこで、音楽協会のスタッフに相談してみることにした。音楽協会の広間で、律希は自作曲を提供する方法について尋ねると、スタッフはすぐに他のイベント主催者に紹介してくれることになった。


「これからは、私たちのサポートを受けて、少しずつ自分の音楽を広げていきましょう。」スタッフは律希を励まし、音楽活動を支援するために協力を惜しまないと言った。


数日後、音楽協会の紹介で、律希は町の小さなパーティーの主催者から音楽の依頼を受けた。依頼は、イベントのために特別な演奏をしてほしいというものだった。律希は依頼を受けると、自分のアルペイロで演奏するために数曲のオリジナル曲を準備した。


パーティー当日、律希は会場に到着し、アルペイロをセットした。会場には地元の住民や少しの観客が集まり、律希の登場を待っていた。そのとき、パーティーの主催者が律希に歩み寄り、声をかけてきた。


「こんにちは、律希さん。今日は演奏をお願いできて、本当に嬉しいです。」主催者は笑顔で挨拶し、少し照れた様子の律希に向かって続けた。「実は、リクエストがいくつかあるんです。パーティーの雰囲気を壊さないように、少し軽快で明るい感じの曲をお願いできませんか?みんながリラックスできるような、楽しい気持ちになれる曲がいいですね。」


律希は頷きながら、「了解しました。明るくて軽やかな曲を演奏します。」と答えた。


「それと、お願いがもうひとつ。もしよければ、少しだけ温かみのあるメロディを入れてもらえると、雰囲気がより和やかになると思います。」主催者は続けた。「楽しい中にも、ほっとできるような音楽があったら、きっとみんな喜びます。」


律希はその要望をしっかり受け止めて、「分かりました。明るいメロディに温かみを加え、リラックスできるような演奏にします。」と、心を込めて答えた。


主催者は満足そうに頷き、「ありがとうございます。みんなに素敵な時間を提供してくれることを期待しています。」と言いながら、演奏準備を進める律希を見守った。


演奏が始まると、軽やかなメロディが会場に広がり、聴衆はすぐにその音楽に引き込まれていった。律希はリズムに合わせて鍵盤を弾きながら、心地よい空気を作り出すことを意識して演奏を続けた。アルペイロの豊かな音色が会場に響き渡り、参加者たちは次第に和やかな雰囲気に包まれていった。


演奏後、主催者がすぐに駆け寄り、感謝の言葉を口にした。「本当に素晴らしい演奏でした!みんな、すごく楽しんでいましたよ。」律希は照れながらも、嬉しそうに頭を下げた。


「ありがとうございます。少しでも楽しんでもらえたなら嬉しいです。」律希は穏やかな笑顔で答えた。


主催者は嬉しそうに続けた。「次回のイベントでも、ぜひお願いしたいです。あなたの音楽で、またみんなに素敵な時間を提供してもらいたいです!」


律希はその言葉に胸が温かくなり、改めて音楽家としての道を歩んでいこうと決意を新たにした。「次回も頑張ります。」と心の中で誓い、笑顔を見せた。


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