第52話: エスカルドとの格闘
律希はエスカルドを家に持ち帰り、その重さを手に感じながら、少しの間じっとその楽器を見つめていた。新しい楽器を手に入れることは、いつでも特別な感情を呼び起こす。しかし、エスカルドは律希がこれまで触れてきた楽器とはまったく異なるものだった。
「これをどう使えばいいのか…」律希はしばらく悩んだ。エスカルドは金管楽器のように息を吹き込んで音を出すが、その形状はまったく新しいもので、どこから手をつければいいのか迷ってしまう。まずは、息を吹き込んで音を出す方法を覚えなければならなかった。
律希は楽器を手に取り、まずはゆっくりと息を吹き込んでみた。最初に出た音は、ひどくかすれたもので、まるで息が足りないかのようだった。金管楽器のように強く息を入れようとしても、どうしても思うような音が出ない。
「こんなに難しいとは思わなかったな。」律希は少し疲れたように息を吐き、何度も深呼吸をした。エスカルドは吹き込み方の加減が非常に重要な楽器だと感じていた。どの程度の力で息を入れるのか、それによって音が大きく変わるため、少しの差で音が変わってしまう。
律希は何度も何度も息を吹き込み、少しずつその感覚を掴んでいった。最初のころよりは音が安定してきたものの、まだまだ思うように音が出せるわけではない。それでも、彼は諦めることなく練習を続けた。
「強すぎる息だと音が割れるし、弱すぎると何も聞こえない…」律希はその微妙なバランスを探しながら、エスカルドを吹き続けた。
しばらくすると、音の響きに少しずつ変化が現れ始めた。律希が息を吹き込むたびに、エスカルドから出る音色が安定してきた。最初は不安定でかすれていた音が、次第にクリアで力強いものに変わり、金管楽器らしい重厚な響きを持つようになった。しかし、それでも完全には思う通りの音を出すことはできなかった。
「まだまだだな。」律希はそう呟き、楽器を一度休めた。その音色には独特な響きがあり、メロディや和音の進行にどう組み込むかを考える余裕がなかった。ただ、今はこの楽器を使いこなせるようになることが第一だと感じていた。
その後、律希はエスカルドの特徴に少しずつ慣れ始めた。息を吹き込む力加減や、音程を調整する方法を試しながら、音の幅を広げるためのテクニックを少しずつ学んでいった。しかし、思ったよりもその道のりは長いと感じ、徐々に練習が苦しくなってきた。
「今はまだ、曲を作ることなんて考えられないな。」律希は疲れた体を引きずりながら、もう一度楽器を手に取った。エスカルドに関しては、これから何度も練習を重ねる必要があると、律希は実感していた。
その日の練習が終わると、律希は楽器を丁寧に片付け、部屋の隅に置いた。明日また練習することで、この楽器にもっと慣れ、自由に音を操ることができるようになるだろうと信じていた。
「でも、まだまだだな…」律希は心の中で呟き、気持ちを引き締めるように立ち上がった。エスカルドを使いこなすためには、焦らず地道に続けることが大切だ。どんなに難しくても、少しずつでも確実に進んでいかなければならない。
新しい楽器との出会いは、決して簡単なものではなかった。しかし、律希はそれが自分にとっての成長の一環だと理解していた。この音楽の道を歩んでいくためには、挑戦し続けることが必要だ。自分にとっての「新しい音」を見つけるために、これからもエスカルドと向き合っていくことだろう。




