第2話: 楽器との出会い
律希は目を覚ますと、見知らぬ森の中に横たわっていた。周囲には高い木々が生い茂り、遠くからは風に揺れる葉の音が聞こえてくる。空を見上げると、二つの月が輝いていた。どこか幻想的な光景に囲まれ、律希は自分が異世界に転生してしまったことを実感した。
「これは夢じゃない…のか?」
頭の中で何度もその問いを繰り返しながら、律希は立ち上がった。目の前に広がる光景を見渡すと、異世界らしい風景が広がっている。どこか温かみのある大地に、見慣れない植物が生い茂っており、空には不思議な星々がきらめいていた。冷たい土の感触が彼の足に伝わり、頭の中で何もかもが混乱していたが、まずはこの状況を理解しなければならない。
律希は自分の手元を確認すると、ポケットの中にあった作曲ノートが無事に手にしていたことに驚いた。それを見つけた瞬間、心が安堵した。このノートがある限り、彼は音楽を作り出すことができると感じたからだ。音楽は、彼の人生の一部であり、今後この世界でもそれを奏でる力を持っていると信じた。
「まずは、何か手がかりを探さないと。」
律希は周りを見渡し、少し歩き出すことに決めた。何もわからないまま、ただ歩き続けるのは不安だったが、前に進まなければ状況は変わらない。進む先に、少しでも情報を得られる場所があることを願いながら、足を踏み出した。
しばらく歩くと、遠くに明かりが見えてきた。街の灯りだ。律希はそれを目指して歩みを進めた。道の脇には不思議な生き物や植物があり、異世界の風景に囲まれた街の入口にたどり着いた時、律希は息を呑んだ。町の入り口にある建物の屋根には魔法のような光が灯っており、まるで映画の中の一幕のようだった。あたりを見渡すと、商人が商品を売っている小さな広場が広がっており、歩く人々の中には、様々な服装をした者たちが行き交っていた。
「ここは…どんな世界なんだろう?」
街に足を踏み入れた律希は、まずは周りの人々の様子を観察してみることにした。どの人もどこか異世界らしい装いで、魔法のような力を持つ者もいるかもしれないと考えながら、彼はゆっくりと足を進めた。音楽のことを考えていた律希は、すぐに目に入ったものがあった。それは街の中心にある、看板が掲げられた一軒の小さな店だった。その看板には、「楽器店」と書かれており、店の中にはいくつかの楽器が並べられているのが見えた。リュート、ギター、フルート、弦楽器と、様々な楽器が展示されている様子を見た律希は、胸が高鳴った。
「もしかしたら…ここで楽器を手に入れることができるかもしれない。」
律希は迷うことなく、その店へ向かって歩き出した。店の扉を開けると、心地よい音楽が店内から流れてきた。中には、店主と思われる中年の男性が、棚の上で楽器を磨いているのが見えた。
「いらっしゃい、どんな楽器をお探しですか?」店主は律希に気づくと、にっこりと微笑んで声をかけてきた。
律希は少し戸惑いながらも、自分が音楽をしていたこと、そしてここで楽器を手に入れたいことを告げた。
「実は、音楽をやっていたんです。でも、どこで楽器を手に入れたらいいのか分からなくて…」
店主は律希をじっと見つめた後、にこやかにうなずいた。
「なるほど、音楽が好きな方ですか。この店では、色々な楽器を取り扱っていますよ。もし、君が探している楽器があるなら、きっと見つかるだろう。」
律希は店内を見渡し、どの楽器を手に取るべきか迷った。すると、ふと視線を落とした先に、金色に輝くリュートが目に入った。それは、まさに彼が昔から弾きたかった楽器だった。律希の目がそのリュートに釘付けになった。
「そのリュート、良い目をつけたね。あれは、ここの中でも特に素晴らしいものだよ。」店主が話しかけてきた。
律希はその言葉に驚き、改めてそのリュートをじっと見つめた。リュートは細かく彫られた装飾が施されており、その艶やかな表面は光を反射して輝いていた。律希はその楽器に強く引き寄せられ、手を伸ばした。
「これ、欲しいんです。でも…お金がなくて…」律希は恥ずかしそうに告げた。
店主はしばらく黙って考え込み、やがて穏やかな笑顔を浮かべて言った。
「わかるよ。音楽は、道具さえあればすぐに始められるわけではない。君が本当に音楽をやりたいのなら、この街の音楽協会に行ってみるといい。彼らは、音楽に情熱を持つ者を支援している。演奏を通じて、君の才能を示せば、君に合った楽器を手に入れる方法を見つけてくれるだろう。」
律希はその言葉を噛みしめた。音楽協会に行けば、何かしらの方法で楽器を手に入れることができるのだろうか。彼の胸に新たな希望が芽生えた。
「ありがとうございます。音楽協会ですね。」律希は礼を言い、店主に深くお礼を言った。
店主は微笑んで頷いた。
「君が音楽を通じて成し遂げるべきことがきっとあるだろう。まずはその一歩を踏み出してごらん。」
律希はその言葉に胸を躍らせながら、リュートを置いて店を後にした。音楽協会へ向かう道を歩きながら、彼は確信した。この世界で自分の音楽が何か大きな力を持つことを、そして新たな一歩を踏み出すために、まずは音楽協会に足を運ぶべきだと。