第19話: ヴァリウス・ソレアの演奏
本選の舞台。会場は満席で、観客たちの静かな期待が漂う中、ヴァリウス・ソレアの名前が呼ばれた。ヴァリウスは深呼吸を一つして、心を落ち着けると、軽やかな足取りでステージに上がった。彼の背中はまっすぐに伸び、歩く姿にはどこか自信に満ちたものがあった。その姿からは、長年の訓練と音楽への真摯な姿勢が感じられる。
彼がアルペイロの前に座ると、会場の空気が少しだけ引き締まった。観客たちは息を呑み、彼が奏でる音楽を待ち望んでいるようだった。ヴァリウスはアルペイロの鍵盤に手を置き、まずは静かに目を閉じた。その手のひらから、何か大きなものを引き出そうとしているかのような、集中した雰囲気が漂っていた。
そして、演奏が始まった。
最初のフレーズは穏やかな和声から始まる。ヴァリウスの指が鍵盤を叩く音は、まるで風のように軽やかで、それでいてどこか深みを持っていた。そのメロディは柔らかく、聴く者の心をゆっくりと包み込むようだった。だが、すぐに彼はリズムを加速させ、メロディも力強く変化していく。和声は次第に複雑さを増し、調和が崩れそうで崩れない、まるで揺れる木の枝のように微細なバランスが保たれていた。
曲が進むにつれて、ヴァリウスの演奏はますます強く、そして繊細になっていく。リズムが変わるたびにメロディも変化し、次々に新たな和声が紡がれる。その進行は決して簡単ではなく、時折驚くようなリズムの変化が現れるが、ヴァリウスはまったく動じることなく演奏を続けた。指先がアルペイロの鍵盤を正確に、そして力強く叩くその姿勢は、まさに音楽に没頭している証拠だった。
観客の目線は、ただ一つのことを見つめている。ヴァリウスの演奏。その指が動くたびに、音が空気を震わせ、観客はその音楽に引き込まれていった。音楽の流れの中で、彼の心情が少しずつ色濃く表れていく。どこか切なく、同時に希望を感じさせる旋律が重なり合い、和声の中に浮かび上がるメロディは、聴く者に強い印象を与えた。
特に印象的だったのは、曲の中盤での和声の転換だ。ヴァリウスは非常に大胆に和声を変え、リズムも急激に変化させる。その瞬間、会場の空気がピンと張り詰め、すべての聴衆がその音楽に集中するのが感じられた。音楽の中で、まるで一つの物語が展開されているかのようだった。リズムが変わり、メロディが引き込まれると、観客たちは息を呑んだ。
演奏の終わりに向かうにつれて、ヴァリウスは再び静けさを取り戻す。メロディは穏やかになり、最初の和声に戻る。しかし、最後に和声が微妙に変化し、終わり方が少し不安定に感じられる。その不安定さが、次第に安定へと向かっていく様子は、まるで終わりを迎えた後に新たな始まりがあるかのように感じさせた。
ヴァリウスの演奏が終わった瞬間、会場はしばらく静まり返り、その後一斉に拍手が巻き起こった。観客たちはその演奏の余韻に浸りながら、彼の音楽が持つ深さと力強さに感動していた。ヴァリウスは静かに頭を下げ、満足そうに微笑んだ。彼の演奏は、技術的な完成度だけでなく、感情を豊かに表現する力を持っていた。




