第18話: 予選の緊張と初めての挑戦
予選当日、律希は会場に到着した。広々とした会場に足を踏み入れ、緊張感が漂う空気を感じる。周囲には他の参加者たちがそれぞれ準備を進めており、律希の順番が近づくにつれて心臓の鼓動が速くなり、手が少し震えるのを感じる。しかし、自分の順番をしっかりと把握している律希は、焦ることなく、静かに心を落ち着けようとした。
「焦らず、自分の音楽を表現するんだ。」律希は何度も自分に言い聞かせるように呟き、深呼吸をしながら、軽く指をほぐした。
待機室での緊張感が続く中、律希の目の前に立っているのはアンドレア・モレッティだ。彼は冷静で落ち着いた表情をしており、その姿勢はどこか音楽に対する絶対的な自信を感じさせた。彼はアルペイロの前に座る準備を整えながら、もうすぐ自分の番が来ることを静かに待っている。
アンドレアの名前が呼ばれると、会場内は一瞬で静まり返った。アンドレアは舞台に上がり、まっすぐにアルペイロの前に座った。彼の動きは無駄がなく、全てが計算され尽くされているかのように、舞台に立った瞬間から演奏に集中している様子が伝わってきた。
アンドレアが演奏を始めると、その音楽が一瞬で会場に広がり、聴衆を引き込んだ。アンドレアが選んだ曲は、リズムとメロディが複雑に絡み合い、ポリリズムを駆使した作品だった。音楽が進むにつれて、リズムの変化が巧みに盛り込まれ、聴衆の耳を引き寄せていく。特に、和声が複雑に転換していく部分では、アンドレアの指がすばやく、そして正確に鍵盤を打ち込み、弦を引くタイミングが完璧に調和していた。
「これはすごい…」律希は心の中で呟いた。アンドレアの演奏は単なる技術的な完成度にとどまらず、感情や表現力がしっかりと込められており、聴く者の心を揺さぶるような力強さを持っていた。その音楽は、まるで空間を満たしていくかのように広がり、聴衆がその演奏に息を呑んでいるのがわかった。
アンドレアの演奏が終わり、会場は拍手に包まれた。律希は深呼吸をして、次に自分が演奏する番だと自分に言い聞かせた。
ついに律希の名前が呼ばれ、舞台に上がる時が来た。律希は冷静に歩き、アルペイロの前に座った。アンドレアの演奏があまりにも素晴らしかったので少しプレッシャーを感じたが、律希は自分に集中することを決めた。
「焦らずに、自分の音楽を表現しよう。」律希は心の中で再度確認し、軽く指をほぐした。
演奏が始まった最初の数小節は順調に進んだが、途中でリズムに少しズレが生じてしまった。和声の転換部分で鍵盤を押すタイミングが少し遅れ、メロディがわずかにずれてしまった。その瞬間、律希は冷静さを欠きかけたが、すぐに気持ちを落ち着け、演奏を続けた。何度かリズムを取り戻しながら、次第に自分のペースを取り戻すことができた。
「ここで諦めるわけにはいかない。」律希は心の中で自分を励まし、演奏を続けた。後半に差し掛かると、リズムと和声がうまく調和し、律希は演奏を終えることができた。ミスはあったが、それでも全力で自分の音楽を表現できたことに満足していた。
全員の演奏が終了した後、審査員が舞台に現れ、結果の発表が始まる準備が整った。律希は控え室で静かに結果を待ちながら、他の参加者たちがどのように演奏したのかを思い返していた。アンドレアの演奏が非常に高い技術を誇っていたことを感じつつ、自分も精一杯やったことに自信を持っていた。
数分後、審査員が結果を発表するためにステージに現れた。律希は少しドキドキしながらも、結果を冷静に待つ。その時が来た。審査員が次々に名前を呼んでいき、予選を通過した参加者が発表される。
「音坂律希。」
律希はその瞬間、息を呑んでから、少し笑顔を見せてステージに向かった。予選を通過し、次の本選に進むことが決まった瞬間だった。律希はその瞬間、自分の努力が実を結んだことを実感し、次の挑戦に向けてさらに気を引き締めた。
本選に進む7人(演奏順)
1.ヴァリウス・ソレア
若きアルペイロ奏者で、その演奏には独特の力強さと情熱が感じられる。リズムとメロディが巧妙に絡み合い、聴く者を圧倒する力を持っており、予選でその演奏技術と感情表現で高評価を得た。
2.エリシア・ヴァラナ
優れた音楽理論を持つ奏者で、アルペイロの演奏においても非常に精密で緻密な技術を披露した。彼女の演奏は、音楽の持つ深さと美しさを見事に表現しており、聴衆を魅了している。
3.音坂律希
異世界に転生した作曲家で、彼の音楽は現代的でありながらもクラシック音楽の要素をうまく融合させている。自作曲をアルペイロで演奏し、その情熱的な演奏と努力が評価された。
4.アンドレア・モレッティ
若干25歳にして、アルペイロ奏者としてすでに名を馳せている天才。彼の演奏は圧倒的な技術と感情表現の融合が特徴で、予選での演奏でも聴衆を完全に魅了した。
5.イザベル・ノワール
非常に若いアルペイロ奏者で、その演奏は深い感情を込めた表現が魅力。彼女の演奏は、聴く者に強い印象を与え、リズムやメロディの変化に対応する能力が高く評価された。
6.カナリス・ドリル
若干17歳の才能溢れる奏者。非常に高い技術力と音楽的な深みを持ち、特に独自の和声感覚が評価された。彼の演奏は聴衆を魅了し、予選を通過した。
7.レティシア・ヴァイオン
感情豊かな演奏で知られる女性奏者。彼女の演奏は、和声を使いながらも感情をしっかりと表現しており、その表現力が高く評価され、本選に進むことが決まった。




