表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
棘とか涙とか  作者: 遠藤 敦子
3/5

3

 バーで飲んでいると、現地の男性に声をかけられた。

「君こっちの人なの?」

トロントに住んでるけど旅行で来たと言うと、男性は私の話に興味津々だ。高校生からトロントに留学していることやいま大学生であること、アルバイト先でシフトカットされて旅行を決意したことを私は彼に話した。

 そのまま彼と意気投合し、流れで家に行くことになる。付き合っていない異性の家に行くことには抵抗感があったものの、羽目を外したい気持ちもあって彼についていくことにした。しかし私は疲れていたこととお酒に酔っていたこともあり、何もせず眠ってしまったのだ。

 翌朝、彼に2階にある青いブランケットを取ってきてほしいと頼まれる。承諾して階段を登ろうとすると、手のひらに木の棘が刺さってしまった。あまりの痛みに20歳を過ぎているにも関わらず、ぼろぼろ涙が溢れてくる。

「どうしたの? 大丈夫?」

彼に聞かれ、そこの階段で怪我したと返す。

「かわいそうに、痛い思いさせてごめんね。なんとかするから」

彼はそう言って、棘の取り方についてGoogleで検索し始めた。彼は瓶や穴の空いたコインやピンセットを使って棘を取ろうとしてくれたけれど、なかなか取れない。私は痛過ぎて子どものように泣いてしまった。すると彼はトゲの刺さった箇所にキスをし、耳元で

「ごめんね、痛かったね。もう大丈夫だよ」

と囁いて、子どもをあやすように抱きしめる。それだけでなく、指や唇で涙も拭ってくれた。しかし私はどういうわけか、嫌だとは全く思わなかった。


 私が落ち着いたタイミングで、彼が車でホテルまで送ってくれることになる。車内で彼は

「とにかく病院行った方がいいよ。予約なしで行けるとこ知ってるから」

とエドモントンで予約なしでいける病院を勧めてくれた。待ち時間が発生しても構わないので、なるべく早めに病院に行きたかった私としては非常にありがたいアドバイスだ。

 いったんホテルに戻り、シャワーを浴びて身支度をする。それから彼が紹介してくれた予約なしで行ける病院に向かった。すでに数名の患者さんがいたけれど、ものすごく待たなければならないということはなかったのだ。

 そうこうしているうちに私の番がやってきた。棘を抜いてくれた男性医師は優しそうな年配の方だ。ピンセットで抜かれたので痛みはあったけれど、刺さって泣いていた時と比べると一瞬の出来事だった。塗り薬と絆創膏を何枚かもらい、お会計も完了させる。数日は安静にしましょうとのことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ