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棘とか涙とか  作者: 遠藤 敦子
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 トロントの大学も長期休暇に入り、私はその分アルバイトに明け暮れていた。しかしアルバイト先のレストランは客数が例年より少なくなったそうで、シフトがどんどん削られていく。出勤できたとしても、人件費削減の都合上で早上がりになることもしばしばだ。22年間生きてきて高校生からトロントにいるけれど、トロントから出たことは今までになかった。そこでトロントの外を見てみようと、私はカナダ横断旅をすることに決める。といっても全てをまわるのではなくて、気になっている場所を何箇所かまわるだけだけれど。


 まずはトロントと同じオンタリオ州から巡る。オタワではノートルダム大聖堂を見学した。星空を連想させるような青い天井が美しく、私はそれの虜になる。その後はバイワードマーケットに行き、メープルクッキーやサーモンを購入した。年配の男性店員に

「君、日本人なの? 僕この前東京行って来たよ」

と言われ、男性店員の東京旅行話で意気投合する。

 オタワで2日ほど過ごした後は、ナイアガラの滝を見に行った。向こう側にアメリカのニューヨークがあるので、国境側を見られて新鮮な気分だ。私は1人なので景色以外は写真を撮っていないけれど、カップルや友人同士で来ている人は自撮りしたりお互いに写真を撮りあったりしていた。滝を見た後はギターの看板でお馴染みのレストランで食事をする。平日だったのとランチタイムのピークが過ぎていたこともあり、人はまばらだった。


 翌日、エドモントンに向かうためいったんトロントの空港に行く。タクシーで向かっていたけれど、車内にいたのは30代後半くらいの男性運転手と私だけだった。最初は無言だったけれど、男性運転手の態度がどんどん変わっていく。

「名前なんていうの? 日本人?」

と聞かれたので、(すい)ですと下の名前のみ教えた。知らないひとに石原翠(いしはらすい)というフルネームを教えたくなかったから。

「俺、日本の女の子大好きなんだよね。前の彼女も日本人だったけど、いま彼女いなくて〜」

私が日本人と知るやいなや、運転手はいきなりこう言ってきた。日本人だから誰でも良いのか? そう思うと気持ち悪くてたまらなかったのだ。さらに男性運転手は、ズボンのチャックの隙間から下半身を出して見せてきた。

「ほら、俺のでかいだろ?」

と男性運転手はニヤニヤしながら言う。汚いものを見せられて吐き気がした。ちょうどトロントのショッピングセンターに近かったので、

「ごめんなさい、空港に行くって言ったけどやっぱりここで降ります」

と言って私はタクシーから降りる。お金がもったいなかったけれど、これ以上こいつと一緒にいたくないという気持ちが勝ってしまったから。

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