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009.初依頼をあなたへ①

手のひらの上で踊ろう!【クライ編】と合わせて二軸同時進行中です。

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※こちらは【アキラ編】です。

「おい! カーディの婆さんはいるか?」


 赤髪を短く刈りそろえた厳つい顔のおっさんの怒鳴り声が部屋中に響いた。


「何だい、騒々しいね。死人でも出たかい?」


 やれやれといった感じで窓口から出てきたのは、さっき俺の受付をしてくれた老婆だ。


「逆だよ、逆。死んでたんだよ」


「何がだい?」


「サソリだよ。デモンファットテールだ。誰がやったかは知らねーが、頭が木っ端微塵だったぜ」


「そりゃ、朗報じゃないか。それにしてもあのデカブツがねえ……」


 デカブツのサソリ?


「あのー、それって砂漠にいたでっかいサソリのことですか?」


「ああ、そうだ。って、黒髪たぁ珍しいな! にーちゃん、強く生きろよ!」


「あんた、アレと遭遇したのかい?」 


 老婆が値踏みをするような目で俺を見る。


 たぶん俺が殺ったヤツなんだろうけど、この雰囲気だと、黙っておくのが正解だよね?


「い、いやあ……遭遇したというか、死んでるのを見たっていう方が近いような?」


 俺の曖昧な受け答えがまずかったのか、なんとなく老婆が疑惑の目を向けているように感じる。そこはまあ、気にしないようにしておこう。


「そんなことより、婆さんよ。討伐依頼の方はどうなるんだ?」


 厳つい顔のおっさんが思い出したかのように老婆に尋ねる。


「そりゃあ、あんた、死んでたって自分で言ったんだから、討伐はしていないってことだろう? 討伐対象がいないんだったら、当然依頼そのものが取り消しってことになるだろうね」


「そんな後生な!」


「まあ、手付金は取っといていいよ。あたしも鬼じゃないからね」


「鬼じゃねーか! せ、せめて、素材! 素材は俺らが貰っちまってもいいよな?」


「討伐した者が捨てて行ったっていうんなら、構わないんじゃないかい? まあ、後からトラブルになってもあたしは知らんがね」


 俺のことをチラリと見ながら老婆がそう言った。

 この婆さん、見てたのか? それとも何か知ってるのか?

 見た目が魔女っぽいだけに、見透かされているような気がして、ちょっぴり不安になってしまう。


「よし! だったらあれは俺らのもんだ」


 一方の厳つい顔のおっさんはというと、老婆の話の後半部分が聞こえなかったのか、聞こえないフリをしたのかは分からないが、周囲に向かってそう宣言して、ガッツポーズを作っていた。


「そうと決まれば、ラクーダの手配だな。四頭、いや、五頭はいるか……」


「荷運びなら、この子を雇ってあげたらどうだい」


 老婆が俺に向かって顎をしゃくる。


「このにーちゃんを?」


「そうさ。この子ならラクーダ十頭分ぐらいの働きはするだろうよ」


「にーちゃん、本当か?」


 厳つい顔のおっさんは、確かめるというよりも、疑うといった感じで俺を見る。

 それもそうだろう。普通に考えて、ラクーダ十頭分の働きなんて言われて信用できるわけがない。しかし——


「まあ、あれぐらいなら曳けなくはないと思います。たぶん」


 それにしてもこの婆さん、やっぱり事情を知ってるんじゃないか?

 そう思って、俺は婆さんに怪訝な目を向ける。


「あんた、ここをどこだと思ってるんだい?」


 なるほど。冒険者組合にとっては、この程度の情報収集は朝飯前だということか。

 まあいい。あのサソリを俺が倒したってことも、この異常なパワーも、大々的に喧伝するつもりはないが、別に知られて困ることでもないだろう。

 それに、婆さんが仕事を振ってくれたのは、俺にとっては渡りに船だ。


「あの、俺からもお願いできませんか? ちょうど仕事を探していたもので」


 俺はさっき壁から剥がしたばかりの荷運びの依頼書をひらひらと見せる。


「婆さんの紹介だしな。わかった。成功報酬で、金貨三枚でどうだ?」


 高い! のか?

 やっぱりイマイチ相場がよくわからん。


「ケチ臭い男だね。拾い物で儲けようとしてるんだ。五枚ぐらい出してやりゃいいのに」


「そうは言ってもよお、頭と鋏の片一方は吹き飛んでるし、儲けもそこまでデカくならないかもしれんからなぁ。これでも奮発してるんだぜ」


 そう口を尖らせるおっさんに、俺は笑顔で右手を差し出す。


「では、金貨四枚でどうでしょう?」


「チッ、しょうがねえな」


 厳つい顔のおっさんは渋々といった感じで俺の手を握り返し、ここにめでたく、冒険者として初めての契約が成立した。


   ⚫︎


 ラクーダに跨り、おっさん——ムントというらしい——の腰にしがみつくこと一昼夜。

 依頼を受けた翌日の昼過ぎ、俺がこの世界で初めて出会った魔物の前に到着した。


 デモンファットテールと呼ばれるその魔物の死骸の傍には、テントが一つ張ってあった。


「父ちゃん!」


 到着した俺たちを見つけて、中学生ぐらいの男の子が駆け寄って来た。


「ガイル、何事もなかったか?」


「うん。そいつは?」


「荷運びの依頼を受けたアキラといいます。一応、新米の冒険者です」


 少し生意気そうな少年だが、一応依頼主なので、頭を下げておく。


「てことは、これはオレたちの物でいいってこと?」


「ああ。素材はな」


「その言い振りだと、討伐依頼の方はダメだったってことだね?」


 少年に続いてテントから出て来た女性の声に、ムントがビクリと肩を強張らせる。


「あー……その……最初から死んでたって、口が滑っちまってな……」


 面目なさそうに頭を掻きながら口籠るムントを見て、その女性は小さく溜息をはく。


「まあ、しょうがないね。あわよくばとも思ったけど、どの道これを見たら、私たちのやり口じゃないことぐらい、カーディさんにはすぐにバレちゃいそうだしね」


 それを聞いてあからさまに胸を撫で下ろすムントの視線の先には、頭部と左の鋏が無くなったサソリの死体が、あのときと同じままで横たわっていた。


「それで、アキラさん、と言ったかい? 荷運びに来てくれたってことだけど、一人かい?」


「ええ。これぐらいなら、俺一人でも曳けると思うので」


「それは頼もしいね」


 一瞬だけ驚いた顔をした後、女性は快活に笑う。


「とにかく一休みしなさいな。どうせ休みなく走って来たんだろう? おい、アンタ! ラクーダに水をやっとくれ」


 そう言うと女性は、木桶に向かって手を翳す。すると、どこからともなく水が溢れる。

 その女性は、青い髪をしていた。


「さあ、飲みな」


 俺は手渡された木製コップの水を一気に飲み干す。

 美味い! 水売りの水ほど冷たくはないが、砂漠で乾いた体に沁み渡る。


「砂漠で水が出せるのは便利ですね」


「母ちゃんのおかげで、水を持ち歩かなくていいもんな」


「おい、ガイル。俺にも一杯くれ」


 ラクーダの給水から戻って来たムントが俺の隣にドカリと座る。


「まったく人使いが荒いぜ」


「奥さんなんですか?」


「ああ。見てのとおり尻に敷かれてるよ」


 ムントがコップの水を勢いよく呷りながら答える。


「ガイル君は?」


「息子だよ。俺とかみさんのな」


 そう言われて改めてガイルを見る。

 確かに顔立ちは奥さんにそっくりだ。幸にも、というのは失礼かもしれないが、ムントに似ているところはほとんどない。ただ一つを除いては——


「髪の色……」


 ガイルは赤い髪をしていた。


「ガイルはこの大陸の生まれだからな」


「どう言うことですか?」


「知らねえのか? 親の髪の色が何色かは関係ないんだよ。どの土地で生まれたかで、どの神の加護を得るかが決まるんだ。まあ、ごく稀にお前みたいな例外もいるがな」


 ムントは笑いながら俺の肩を叩く。


「さあ、テントを片付けるぞ! 出発の準備だ!」


 そう言って立ち上がったムントに、俺はおずおずと手を挙げた。


「あのー、すみません。一刻だけ、いや、半刻だけ時間をもらえませんか?」


しばらくは毎日投稿予定です。

是非ともブックマークをお願いします。

ベージ下部から評価もしていただけると作者が喜びます。


同タイトル【クライ編】と合わせて二軸同時進行中です。

https://ncode.syosetu.com/n2899ja/

よろしければそちらもお楽しみください。

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