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072.臨時パーティをあなたへ①

「おう、約束どおりの時間だな。まあ、座れ」


 約束の時間に支部長室を訪ねると、ニマルズ支部長はちゃぶ台の上に書類を広げて仕事をしていた。


「悪いがまだ仕事が片付いてねえんだ。そこのポットに茶が入ってるから、それでも飲みながら待っててくれねえか? 書類の上にはこぼすんじゃねえぞ」


「はあ、それは構いませんけど、ここの数字、間違ってますよ」


「てめえ、何見てんだ! 機密書類だぞ! で、どこが間違ってるって?」


 機密書類をこんなに堂々と広げられてたら、嫌でも目に付くってもんだろうに。そんなことを思いながらも、目に入った誤りを一通り指摘していく。


「だから、こことここの数字が反対なんですよ。それからここも。あー、もう! ちょっと貸してください! 俺が全部チェックしますから」


 数字の間違いって、一つ見つかると全部確認しないと気持ちが悪いんだよね。


「そ、それはありがてえが、中身は読むんじゃねえぞ」


「はいはい、わかりましたから、一枚目はどれですか?」


 それから俺たちは数字のチェックと内容確認を分担して作業に取り掛かり、すべてのチェックを終えたときには一時間以上が経過していた。

 表計算ソフトどころか、電卓もないんで、なかなか骨の折れる作業だったが、久しぶりのデスクワークは少し楽しかったとも言える。


「す、すまねえ、アキラ。助かったよ」


「昨日の飲み代の礼代わりですよ。そんなことより、この書類」


 俺は先ほどチェックを終えたばかりの書類の山を指差す。


「みなさん忙しいのはわかりますけどね、支部長に上がってくる前にしっかりとチェックさせとかないと、苦労するのは支部長ですよ」


「面目ねえ……入ったばかりの新人に任せきりにしちまってたのは俺の不手際だ。それにしても、お前のこと、力任せの脳筋野郎だとばかり持っていたが、算術もできるとは意外だったぜ。どうだ、次の支部長にしてやるから、ここで働かねえか?」


「そんな失礼なことを言う人の下では働きませんよ」


 この世界に来てから人並み外れた力を得てしまったために、結果として脳筋に見えるかもしれないが、どっちかというと本来の俺は机上の空論をドヤ顔で披露するもやしっ子なんだよ。


「お疲れ様。はい、お茶。支部長も」


 ようやく片付いたテーブルの上に、ルシュが淹れたてのお茶を置いてくれた。


「おお! ありがとう、ルシュ」


 熱々のお茶を啜りながら、俺は「ふう」と一息つく。


 畳にちゃぶ台と座布団。緑茶を片手に脚を伸ばせば、縁側で猫が背伸びをする。昭和の茶の間だな、これは。


「まあ、結構儲かってるみたいだから、しっかり仕事してくださいよ、支部長」


「そうだね。少しぐらい利益を還元してくれてもいいのにね」


「アキラ! てめえ、やっぱり中身を見てやがったな。しかもルシュまで!」


 ちょうどそのとき、支部長室の引き戸がガラガラと開かれる音がした。


「支部長、入りますよ」


「お、おじゃましまーす……」


 ニマルズ支部長の怒声を遮り、部屋に入ってきたのはヒューリーとマホロだった。


「チッ! もうそんな時間か。まあいい、二人とも座れ。茶はそこだ」


「二人も支部長に呼ばれたのか?」


「ああ。厄介事を起こしたつもりはないから、厄介事を押し付けられる方だろう」


「そ、それか、無駄に怒られるかのどっちかです」


 まあ、支部長に呼ばれたときの感想なんて、冒険者ならみんな似たり寄ったりだよな。

 それにしても、マホロよ。ニマルズ支部長に限って言えば、無駄に怒るなんてことはないと思うぞ。怒られるのだとしたら、そこにはきっと理由がある。まずは自分の胸に聞いてみることだな。


「先に依頼の話を終わらせておくつもりだったんだがしょうがねえ」


 お茶のおかわりを注ぎに行ったニマルズ支部長が、再び俺の対面に腰を下ろす。

 まあ、マホロの気持ちはわからんでもないかな。頑固親父に叱られる直前みたいな圧迫感があるんだよな。


「ひとまず、昨日のアースイーターの討伐、ご苦労だった。特に、アキラ。問題解決のための戦術立案、ミミズをほぼ一人で殲滅した戦闘能力、多数の冒険者をまとめ上げた統率力、不測の事態への対応力、どれも冒険者を初めて一年未満とは思えんほど見事だったぞ。何より一人の人的被害どころから、怪我人も出さずに依頼を成し遂げたことを俺は高く評価している」


「いや、みなさんの助けがあってこそですよ」


 実際、予想外の数の多さに混乱する中、真っ先に継戦に向けて戦況を整えてくれたのはイグマだったし、ミスティが避難誘導をしてくれたので、さらなる混乱を未然に防ぐことができた。それに、この二人だ。

 ヒューリーの水魔法はちょっとレベルが違い過ぎる。

 十三匹もの巨大なミミズを水牢に閉じ込めたときの水量はざっと見積もっても一万トンを超える。いくら雨が降っていて水の供給源があったとは言え、一人であれだけの量の水を操るなんて異常過ぎる。

 そして、異常と言えばこの女、マホロだ。

 なに、あの隕石みたいなヤツ? こいつが本気を出すとこの星は滅びてしまうかもしれない。あのとき見たあれが彼女の最大最強、本気の本気の限界火力だったと信じたい。


「仲間のおかげ——その一言が言えりゃあ、立派にパーティのリーダーをやっていけるだろう」


 ニマルズ支部長は腕を組んで頷いているが、パーティって言ってもうちは二人組だからね。

 それに、戦闘時以外のリーダーはどちらかと言うとルシュだ。


「それで、昨日のうちに依頼達成の報告にしに行ったんだがよ、公爵が直接お前に会いたがってんだ。後日場を設けるから、追加報酬の話でもしに行ってこい」


 うげえ……まじか……


「公爵に会わなくてもいいっていうのを報酬にできませんかね?」


「馬鹿言ってんじゃねえよ。会いたくねえなら、自分でそう言いに行け。俺は御免だぜ」


 はああ……気が重いぜ……

 偏見は良くないけど、レシーノ公爵にあんまりいいイメージがないんだよなあ……


「まあ、今回はチームを組んで取り組んだんだ。リーダーとして、そいつらの分までがっつりとふんだくってこい」


「わかりました……」


 そう言われると行かざるを得ないよな。俺もみんなの働きにはきちんと報いたいし。


「とりあえず依頼の話はこれで終わりだ。今日の本題はここからだ」


「俺たちが呼ばれた理由がわかるんですかね?」


「お、怒られるんですか?」


 すっかりとぬるくなった茶を啜りながらヒューリーが尋ね、マホロはその背中に隠れてオドオドしている。


「怒りゃあしねえよ。それとも、怒られるようなことでもしてんのか?」


「ひぃ!」


 ドスの効いたニマルズ支部長の声にマホロが縮み上がり、ヒューリーを盾にして「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り始める。

 確かにニマルズ支部長の顔は怖いけどさ、それにしてもちょっとビビり過ぎだろ。それともよっぽどのトラウマでもあるのか?


「それじゃあ、俺たちはこれで——」


 依頼の話も終わり、俺たちの用事は済んだことだし、そろそろお暇しようと立ち上がったところで、俺とルシュはニマルズ支部長い呼び止められてしまった。



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