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031.指名依頼をあなたへ

手のひらの上で踊ろう!【クライ編】と合わせて二軸同時進行中です。

https://ncode.syosetu.com/n2899ja/


※こちらは【アキラ編】です。

 キラーブルの討伐。

 これが支部長からの話だった。いわゆる指名依頼というやつだ。


 このバーンの街から北東に広がるチックシー大平原。

 そこではキラーブルの大型種が群れをなして暴れているらしい。人死にこそ出ていないものの、最近では、郊外の農村部にまで現れるようになり、農業被害が拡大しているとのことだった。

 群れの数は全部で八頭。そのそれぞれが、俺の身長の三倍以上の体高をしているらしいから、なかなか厄介な相手だ。

 報酬額は八頭全部合わせて金貨二百四十枚。群れの全てを討伐して初めて依頼達成となる完全成功報酬型だ。


 断ることもできたのだが、俺はこの依頼を受けることにした。

 報酬に目が眩んだというのもあるが、ここらで冒険者組合のお偉方に恩を売っておくのも悪くないという打算の方が理由としては大きいかもしれない。

 人とのつながりっていうのは、いつ、どういう巡り合わせで役に立つかはわからないからね。


 というわけで、俺は今、キラーブル討伐に向けて情報収集を行っている。

 最も情報を持っているだろう冒険者組合では一通りの話は聞き終えたらか、あとは、こちらもかなりの情報を持っていそうな商業組合の行商部、それと、実際に被害が出ている農業組合。

 目撃場所、出現時刻、大きさや習性、食の好みにスリーサイズ、どんな些細なものでもいいからできるだけ多くの情報を集めておきたい。

 アライグマのときみたいに、迂闊に飛び込んでピンチを迎えるのはもう懲り懲りだ。


   ⚫︎


「ま、そういうわけだから、明日から討伐依頼に行ってくるよ」


 宿屋の食堂で、昨日よりもほんの少しだけ豪華な夕食を頬張りながら、今日の出来事をルシュに報告する。


「討伐できたかどうかにかかわらず五日後には帰ってくるから、ルシュは街で待っててくれよ」


「いや。わたしも行く」


「わざわざ危ないところについて来ることないだろ?」


「危ないから行くの。前のときだって、わたしがいなかったら死んじゃってたかもしれないんだよ」


「それはそうだけどな、ルシュ。俺はお前を危ない目に遭わせたくないんだよ」


「わかってる。でも、見えないところで心配するだけなんて嫌なの」


 俺はなんとか説得を試みるが、ルシュは譲る様子をみせない。


「ね? お願い」


「わかったよ! わかったから、そんな目で見るな」


 甘いと言われようが、阿呆だと言われようが、俺はこの『潤んだ瞳でお願い作戦』に滅法弱いんだよな。


「やった! ちゃんと役に立つから期待してて」


「あー、はいはい。よろしくな」


「テキトー過ぎ」


「すまんすまん。それでルシュの方はどうだったんだ?」


 ジト目で睨んでくるルシュに、俺は慌てて話題を変える。


「今日一日情報収集してたんだろ?」


「そうそう! すっごい良い情報がるんだよ!」


 ルシュが、聞いて聞いて、とキラキラした目で訴えかけてくる。

 オチは大した事ないのに、話す前から自分でハードル上げてくるヤツっているんですよね……


「ぜひ聞かせてほしいですね」


 一応そう言っておかないといけないよねってことで、そう答える俺に、ルシュは大仰に頷いてみせる。


 さあ、発表します! そんな意気込みでルシュが身を乗り出す。

 ドルルルルルルルルルルルッルとドラムロールが鳴る。もちろん俺の脳内で。


「それがさ、すっごい美味しそうなフルーツタルトのお店を見つけたの。帰って来たら一緒に行こうね!」


 はあ……やっぱりね……


「ああ、楽しみにしているよ……」


 溜め息とともに食事を終えて、打ち合わせを切り上げると、俺たちは明日に備えてそれぞれの部屋へともどることにした。


 そう。それぞれの部屋に! もらったばかりの報酬で一部屋追加したのだ。

 はあ、これで、今日はゆっくり眠れそうだな……


   ⚫︎


 長閑な田園風景の中で馬車を走らせること半日。

 俺たちは、つい最近キラーブルの襲撃を受けたというアサク村に来ていた。

 広大な麦畑では麦の穂がさらさらと風に揺れ、村の外に広がる草原では牛たちがのんびり草を食んでいる。カントリーミュージックが聞こえてきそうな田園風景だ。


 村に着いた俺たちは、さっそく聞き込みを始めていた。


「いやあ、もんのすんごく恐ろしかっただよ。あれを見たら腰を抜かしてなんもすることができんかったで。なされるがまま、ただ見とるだけで、このあり様だよ」


 上の前歯が二本抜けた村長さんの話では、三日前にキラーブルの群れが村に現れ、麦畑は踏み荒らされ、他の作物もかなりの食害にあったそうだ。

 実際に現場も見せてもらったが、なかなかひどい様相だった。


 キラーブルはもともとは臆病な草食動物らしく、巨大化した後も積極的に人を襲ったことはないという話は冒険者組合で聞いていた。

 村長さんの話と現場の様子からしても、人間側からすれば暴れているように見えても、キラーブルにとっては、ただの食事ぐらいの感覚なのだろう。

 しかし、だからと言って放置をしていい問題ではなさそうだ。

 こういった農業被害が続けば、小さな農村にとっては死活問題だし、巨大な体を維持するための採餌量は半端なものではないだろうから、この広大な大平原であっても、やがて荒廃してしまうおそれすらある。


「パンの値段も上がっちゃうね」


「そうだな」


 結局、これは農村や旅人たちの安全だけの問題ではない。

 一つの異常が巡り巡って、俺たち一人ひとりの問題となるのだ。


 村長さんに礼を告げて、村のはずれへと向かって歩きながら、俺は腕を組んでうんうん唸る。


「どうしたの? 何か悩んでる?」


 その道すがら、ルシュが俺の顔を覗き込んでくる。


「何が問題なの?」


「数だな」


 八頭という数は一人で相手をするには多すぎる。

 ダンプカー以上にでかい牛たちに、周りをずらりと取り囲まれたらと思うとゾッとするぜ。

 確かに俺は、攻撃の威力や走る速度などの出力に関しては異常なものがあるが、たぶん防御力に関してはそうでもない。普通に突き指はするし、突き指をすれば普通に痛い。ムントの訓練でも、普通に斬られて、普通に血を噴き出していた。

 ダンプカー八台に衝突されると考えると、たぶん、というか絶対、死ぬ。


「得意のナイフで遠くからやっつけるっていうのは?」


「確かにそれも考えたんだけどな……」


 あまり遠くからだと、目標に到達する前にナイフが燃え尽きてしまう。逆に、ナイフが届く距離というのは、相手からしても十分攻撃の射程圏だろう。 

 仮に投げナイフで一頭を倒せたとしても、残る七頭が逃げ出してくれるならまだいいが、興奮したら手をつけられなくなるというキラーブルが、一斉に突進でもしてこようものなら、バッドエンドまっしぐらだ。


「じゃあ、狭いところに追い込んで、一頭一頭順番にやっつけていくか、だね」


「それができれば苦労しねえよ。『狭いところに追い込む』っていう最初の条件の時点で詰んでるんだからさ」


「じゃあさ、自分一人で全部をやろうとするんじゃなくて、そういうのはその道のプロにお願いすればいいんじゃないかな」


 そう言って立ち止まったルシュの視線の先には、一人の牛飼いの少年が立っていた。


アキラ編は月・木連載となります。


【以下テンプレ】

是非ともブックマークをお願いします。

ベージ下部から評価もしていただけると作者が喜びます。


同タイトル【クライ編】と合わせて二軸同時進行中です。

https://ncode.syosetu.com/n2899ja/

よろしければそちらもお楽しみください。

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