013.討伐依頼をあなたへ①
手のひらの上で踊ろう!【クライ編】と合わせて二軸同時進行中です。
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※こちらは【アキラ編】です。
帝都への旅に向けた準備期間として俺が定めたのは二週間。多少の前後はあるかもしれないが、そこを目途にこの街を出ようと思っている。
思えば、絶望からのスタートだった異世界生活もずいぶん板についてきたものだ。
色々な人の助けを借りて、知識を得て、技術を得て、仕事をして金を稼ぐ。相変わらずその日暮らしではあるが、何なら元の世界での生活よりも充実していると言ってもいい。
そして、今こうして世界を回る旅に出ようとしているのだから、面白いものだ。
さて、これからの二週間はその日の食う寝るに困らなければいいというわけにはいかない。しっかりと旅の準備を整えていかなければならないのだ。
俺は先日ヒヨコ屋で買った革鞄から元の世界からキャリーオーバーしたノートを取り出す。そこには昨夜のうちにまとめておいたタスクの一覧が書かれている。
まずは次の街バーンまでの道のりに関する情報収集。
宿場町や危険なポイントなど、どこにどんな場所があって、どれぐらいの時間がかかるのか。そんなことすら知らずに出発するのは命をドブに捨てるようなものだ。
まあ、これに関してはさっそくムントを頼らせてもらおうと思っている。
情報収集が終われば、次は必要物品の買い出し。
水や食糧、着替えやテントなど旅における必要最低限の物資はあらかじめ準備しなければならないし、できればそれらを積むための荷馬車を一台購入したいと考えている。
必要物品についてもムントの意見を参考にさせてもらおうと思っているが、なにせ俺は魔法が使えないので、彼らが魔法で解決できるようなことも俺には問題となることだってあり得る。だから、これについては自分でもよくよく考えておく必要があるだろう。
そして、忘れるわけにはいかないのが、ナルへの挨拶だ。これはタスクリストの一番上にでかでかと書いてある。
一応これでいて俺も冒険者の端くれなので、ナルが教えてくれた店を自分で探そうと思っているのだが、一週間経っても発見に至らなかった場合には、冒険者組合に依頼を出そうと思っている。
必要物品の購入に、依頼料。金はいくらあっても足りない。これまでみたいに猫探しや荷運びのバイトこなすだけでは、二週間後の出発は絶望的だろう。
というわけで、俺が今来ているのは冒険者組合サンドロ支部の第三支所だ。
実入りのいい仕事といえば、討伐依頼や素材収集依頼。冒険者のお仕事の花形だ。
少しドキドキしてしまうが、俺は討伐依頼を初めて単独で受けてみようと思っている。
「なかなか良さそうなのがないなあ」
そう独り言ちながら、依頼が貼られた掲示板を隅から隅まで目を通していく。
ここまで組合に足繁く通った経験からして、そもそも討伐依頼というのは数が少ない。そう頻繁に討伐が必要なほど魔物が出ていないってことでもあるので、それはそれで喜ばしいことなのだが、仕事を求める側からすると痛し痒しといったところだ。
一方の素材収集依頼については数こそあるが、どれも単価が安くて、俺なら荷運びで出来高込みの報酬の方が割が良さそうにも思える。
常にそれなりの需要があるデモンファットテールの素材収集依頼もここ最近はずいぶん少なくなっているようだ。これは多分、先日の巨大種の素材が出回った影響もあるのかな。
「うーん、困ったなあ。他の支所に行けばもう少しマシな依頼があるのかなあ」
「どうしたんだ、アキラ? さっきからずっと悩んでるみたいだけど」
頭と首を捻っている俺に声をかけてきたのは、ムントの一人息子ガイルだった。
「やあ、ガイル! 奇遇だな」
「いや、奇遇でもないんだな、これが」
「どういこと?」
「これ、何だと思う?」
そう言いながらガイルは手に持った紙切れをヒラヒラと見せる。
「デモンファットテールの討伐依頼。さっきさ、第二支所で受託してきたんだ」
「まじで!?」
そうかあ、いいなあ。第二支所に行くべきだったか、失敗したな。
「それでアキラを探してたんだよ。俺と一緒に行かないか? 報酬と素材の売却で結構な額になるぜ。もちろん半々でいいよ」
「まじで!? いいのか?」
なんかさっきから「まじで!?」しか言っていない気がするが、これは嬉しい誤算だ。
「俺一人じゃちょっと苦労しそうだし、アキラも父ちゃんの修行受けた後だから力試ししたくなってんじゃないかと思ってさ」
「ガイル一人って、ムントさんは?」
「父ちゃんは来ねえよ。この前のデモンファットテールの巨大種の素材の金が入ったからしばらく休業なんだとよ。母ちゃんとのんびりするからしばらく帰って来るなってほっぽりだされちまったよ」
「へえ。じゃあ、ガイルは帰ったらお兄ちゃんだな」
「気持ち悪いこと言うんじゃねえよ、バカ。で、受けるのか? 受けないのか?」
「やる、やる! やります! やらせてください! あ、でも」
ガイルは未成年だし、討伐依頼なんて危険なことに連れ出して大丈夫なんだろうか?
「俺だってれっきとした冒険者だぜ。なんならアキラよりも先輩だ。それに父ちゃんの許可もとってある。アキラが一緒ならいいってさ」
なるほど。それで俺を探してたってわけか。
それにムントが許可を出したってことは、俺とガイルの二人なら安全マージンを十分とった上でも勝算があるってことなんだろう。
「じゃ、そういうことならよろしく頼むよ」
「おう!」
俺が拳を突き出すと、ガイルはムントによく似た笑顔でその拳を打ち返した。
単独ってわけではなくなったけど、こうして俺はめでたく初討伐依頼を受託したのだった。
第三支所で共同受託の書類にサインを終えると、俺たちはすぐに出発するべく準備に取り掛かった。
とは言っても、俺もガイルも得物は常に持ち歩いているので、準備した物はサソリの素材を入れて運ぶための荷車だけだ。俺がいるのでラクーダは不要なのでちょっとした経費節減になっている。
「で、聞いてなかったけど、依頼の詳細は?」
「なあ、アキラ。誘った俺が言うのも何だけどさ、依頼の中身を聞く前に依頼を受けるのはやめた方がいいぜ?」
「す、すんません……」
耳が痛い。胸が痛い。中学生ぐらいの少年に説教される大人って惨めだな。
「南正門の近辺にデモンファットテールの群れが確認されたらしいんだ。確認されただけでも十匹程度の群れが三つ。そのせいで、今南正門は封鎖されてる。完全成功報酬で一匹当たり金貨三枚、討伐個体を持ち帰って素材の権利ごと冒険者組合に引き渡せば追加で二枚。なかなか割がいい仕事だけど、討伐依頼は全部で三件出されてんだ。早い者勝ちだぜ」
「結構な数だな……大丈夫なのか?」
「まあ、大丈夫なんじゃないか? 父ちゃんと互角にやり合うアキラがいるわけだし」
「いやあ……あんまり期待されても……」
ムントと互角にやり合えているように見えたのは、ムントが俺に合わせて手合わせをしてくれていたからだ。真の戦闘力ではピッチフォークを持った農民と宇宙からやってきたヤサイ人間ぐらいの差があるだろう。
それに俺が学んだのは対人戦、それも一対一での戦い方であって、複数の魔物相手となるとちょっと自信がない。
実際、この前ムントに連れていかれたデモンファットテール討伐では、二匹を相手取るたけでやっとこさという感じだった。
「大丈夫だって。なんとかなるなる」
ガイルのこの自信が実力に裏付けされたものなのか、若さ故のものなのかは測りかねるが、一方がこれだけ楽観的なのだから、他方の俺は少し心配し過ぎるぐらいでいいのかもしれない。
まずは安全第一で、無事に帰ってくることが一番の成果だからな。
東門の冒険者ゲートから街の外へ出た後、ガイルを乗せた荷車を俺が曳きながら城壁に沿って南正門へと向かう。
俺が移動の足で、ガイルが索敵係だ。
「アキラ! 右斜め前方、砂埃が立ってるのが見えるぞ!」
単眼鏡で索敵をしていたガイルが声を上げた。
「了解! ガイル、打ち合わせは覚えてるな?」
「もちろん! 直接戦闘はアキラ、俺はサポートでできるだけ各個撃破できる状況を作る。そんで危なくなったらすぐ逃げる」
「オーケー。それじゃあ、突っ込むぞ!」
ガイルが指示する方向へと俺は速度を上げる。そして、俺の目からも砂埃が視認できるところまで距離を詰めた。
そこには、剣戟の音が響いてきた。
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