011.武器をあなたへ
手のひらの上で踊ろう!【クライ編】と合わせて二軸同時進行中です。
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※こちらは【アキラ編】です。
翌日の午前。
冒険者組合で報酬を受け取った俺は、武具店が立ち並ぶ区画をぶらついていた。
税金として報酬の一割を徴収されたのは痛かったが、まあ、所得税だと考えればそんなものだろうとも思う。
そういうわけで、今の手持ちは金貨八枚と銀貨と銅貨が合わせて数枚。日本円にしておよそ八万円とちょっとといったところか。このうちの金貨五枚はナルからの借り物だとはいえ、無一文からのスタートだったことを考えれば、ずいぶんと潤ったような気もするが、これが全財産なのだから、やはり心許ない。
しかし、今から俺は、このなけなしの金の中から武具を揃えなければならない。少なくとも剣だけはマストだ。
ムントの助言を受けてとりあえず剣だけは購入しようと決めていた俺は、とりあえず一番近くにあった武具店の戸を開けた。
「いらっしゃいませー」
中から声をかけてきたのは、赤毛をポニーテールにまとめた美人さんだ。
この店は当たりだ!
俺は心の中でガッツポーズを決める。まあ、開店休業みたいに、店の中にはお客は全くいないけどね。
「あー! お客さん、今、開店休業とか失礼なこと考えてたでしょ」
美人さんが腰を手に当てたまま、ツカツカと俺の前まで来て、胡乱な目で見上げてくる。
か、かわいい……
「武器屋が賑わうのは夕方からなんですよ。冒険者の皆さんが帰ってくると、武器の買い替えや修理の需要があるんです。でも、うちは小売だけで修理はやってませんけどね」
「じゃあ、やっぱり——」
客いないんじゃないか、と言いかけたところで、美人さんの鋭い視線に気づき、慌てて口を噤む。
「それで、お客さん。何をお求めで? 品揃えには自信があるんですよ。ほとんどが一点物なので少し値は張りますけどね」
店内を見渡すと、確かに色々な武器が置いてある。
一番安い物は木剣で銀貨3枚から。展示品で一番高い物は白金貨2枚の戦斧だが、店の奥にはさらに高価な物もあるらしい。
俺はとりあえず一番安い木剣を手にしてみる。
「お子様用ですか?」
「いや、俺用だけど。それに俺は独身だよ」
そうか。この世界では、俺の歳で、剣を手にするような子どもがいてもおかしくはないのか。
下心があるわけではないが、一応、独身であることはしっかりアピールしておかなければならない。
「剣を始めようと思ってるんだ。練習用だから木剣でもいいかな、と思ってさ」
「ダメですよお」
美人さんは俺にグイッと一歩詰め寄ると、チッチッチと立てた人差し指を横に振る。
この娘、美人なのにパーソナルスペースがやけに狭いから、ちょっと危うい。
「いいですか? まず、木剣というのは、まだ真剣を振れるような体ができあがる前の子どもか、その子たちに稽古をつける大人が使うものです。お客さん、冒険者ですか?」
「駆け出しだけどね」
「だったら木剣で練習なんてしたらダメです。木剣でできた事が真剣でできるとは限りませんから。お客さんはもう体は出来上がっているんですから、真剣を使って練習するべきです。もっと言うと、練習用の真剣というのもいただけません。初心者こそ、これから実戦で使う物で鍛錬を積むべきです。武器は自分の命を守るための物ですからね」
なるほど、一理あるな。いや、素人の俺からすると、一理どころか真理に聞こえる。
「じゃあ、店員さん」
「リーサです」
「じゃあ、リーサさん」
「リーサですってば」
「じゃ、じゃあ、リーサ。何かお勧めはあるかな?」
呼び捨てに満足したように頷くと、リーサは顎に人差し指を当てて首を傾げる。
あざとかわいい!
「お勧めと言っても、剣には種類が色々とありますからねぇ。お客さんは——」
「アキラだよ」
折角名乗ってくれたので、俺も名乗り返す。
リーサはそれに満足して、再び笑顔を作る。
お互いに名前で呼び合う、これがはじめの一歩だよね。何のはじめなのかは知らんけど。
「アキラさんは、剣をどういうふうに使いたいですか?」
「そうだなあ。一番は、相手からの攻撃をしっかり受け止めるっていうのが目的かな」
デモンファットテールの尾針の一撃をバシッと受け止めたムントの姿はちょっとカッコ良かった。
「そう考えると、両手でグッと持てるやつがいい。盾と同時に使うなんて器用なことは出来なさそうだしな」
リーサは「なるほど、なるほど」と頷いている。
「それで、こっちからの攻撃は、手数よりも一撃の威力を重視したいかな」
「だったら、これとか——」
リーサが壁に掛けられている剣に手を伸ばすが——
「すみません。届かないので、取ってもらえます?」
続いて、立てかけられている剣を手にするが——
「ご、ごめんなさい。ちょっと重いので、手伝ってもらえます?」
武器にはかなり詳しそうなんだが、その華奢な体はつくづく武器屋には向いてないよな……
そうして並べられたのは、三本の大剣。
「左からグレートソード。かなり重たいですけど、威力という点では一番ですね。真ん中がクレイモア。一回り小さい分、軽量ですからバランスはこちらの方がいいかもしれませんね。最後はファルシオン。これだけ片刃ですね。片手剣としても使えますから、取り回しでは一番優れていると思います。銘はありませんけど、どれも良質な鋼を使って、黄の大陸で打たれた良品ですよ」
リーサの流れるような説明に感心しながら、俺は3本の大剣を見比べる。
ファルシオンはムントが使っていた剣だな。ムントに教えを請うなら同じタイプの方がいいのかもしれないが、ムントの戦いぶりを思い返してみても、俺があんな風に剣を振るうイメージが全く湧いてこない。あの人、見た目に似合わず剣捌きは華麗なんだよな。
となれば、残る二つのうちのどちらかだが……
「この二つって、どう違うんだい?」
「端的に言うと、大きさ、重さ、装飾です。ぜひ手に取ってみてください。こういうのは、手に馴染むかどうかっていうのが大事ですから」
そう言われて、俺は二本を順に手に取ってみる。
クレイモアは軽い。軽過ぎるぐらいだ。その分、速く振ることはできるのかもしれないが、少し心許ない感じがする。
一方のグレートソードも軽いのは軽いのだが、こちらの方がなんとなくしっくりくる感じだ。
「ちょっとだけ降ってみてもいいかな?」
「もちろんです」
同意を示したリーサが俺から距離をとる。
それを確認した俺は、グレートソードを上段に構える。
そして、それっぽく見えるように、一度目を瞑って精神統一のフリをした後、目を開き、それを一気に振り下ろした。
「きゃあ!」
剣圧に押された空気が店内で暴れ回り、リーサのスカートを乱暴にはためかせる。
白!
何がかは言えない。俺と彼女の名誉にかけて。
「す、すごい! アキラさん、ほんとに素人なんですか?」
リーサがひらめくスカートを押さえながらも、そんなことは気にも留めていない様子で、目を輝かせる。
「剣を握ったの、今日で初めてなんだけど。でも、やっぱり今のすごい、よね?」
「すごいですよ! 私には剣筋が全く見えませんでしたもん。どこぞの剣豪だと言われても納得のレベルです!」
「そうかな? そうだよね!」
「そうですよ! この剣もきっと喜んでいますよ!」
「そっかあー。じゃあ、この剣貰っちゃおうかな。いくら?」
「金貨五枚です!」
高い! のか? やっぱり相場がよくわからん……
「ちょっと高いかなーなんて……」
さっきまでのハイテンションが急に萎んでしまった。
剣の相場はわからないが、少なくとも今の俺にとって、金貨五枚は安い金額ではない。
「何を言っているんですか。破格のお値段ですよ。あ! もしかして、素人からぼったくってるんじゃないかって疑ってるんですね? そんな悪い女だと思われていたなんて、私……悲しいです」
そう言って、リーサは両手で顔を覆った。
いや、悪い女だよね? その言動があからさまに。
「わかった! わかったよ! 買うから!」
「毎度ありがとうございます!」
リーサが笑顔で俺の手を握り、その少しひんやりとした体温が、逆に俺の体温を上昇させた。
ちくしょう! 最高だ! もういくらだっていい! 全部買ってやんよ!
しばらくは毎日投稿予定です。
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