予兆
「ここのところ、毎日日照りだなー。」
「ああ、まあ、作物が育ってるのはいいことだ。みんなで作った用水路もあるし。」
二人の男はくわを片手に、土を耕していた。
服を着ていない上半身には、翼のタトゥーをしており、体中に傷のようなものもある。
すると1人の男が
「イカロスに差し入れもって行くか。あいつ、一ヶ月も鍛冶屋休んで、自分の剣作ってるらしいぜ?」
「まだあいつ17だろ?無理すると早死にするだろうに。」
二人の男はくわを放り投げ、先ほど収穫したとうもろこしを手に、
町外れの鍛冶屋へと向かった。
「こらっ!テーナ!ジャミラスを泣かさないの!」
女の喧騒が聞こえ、二人は振り返る。
「だって~。ジャミィーがのろいんだよー」
この辺ではいたずら好きで有名な子供、テーナがモウクに怒られていた。
テーナの足元でグスグス言ってる小さな子供をどうやら泣かせてしまったらしい。
「のろいなんてこと無いでしょ!ジャミラスのペースにあわせてあげなさい!」
「どうした?またテーナがジャミーを泣かせたのか?」
「そうなのよ。ほら、ジャミラス、立てる?」
グスグス言いつつもジャミラスは立ち上がり、綺麗な白髪を揺らしながら涙を拭いた。
「だ・・・だいじょうぶ・・・グスッ・・」
顔立ちは女の子のようだが、れっきとした男の子で、名門貴族ルークシル一族の末裔である。
貴族である彼が、なぜ平民であるモウクにタメ口を聞かれているのかというと
ここ、シディア貴国は、王といった身分のいない珍しい国で
貴族とは名ばかりの要するに有権者が、国の「まつりごと」を仕切っている。
だから、直接的な身分の違いは皆無。
しかし、モウクはまだ17になったばかりの少女だが、ひときわ面倒見がよく、
貴族からも特別扱いされることが多い。
モウクがジャミラスの服についた土埃をはらってやると、テーナがすぐさまジャミラスの手を掴み、走っていった。
「元気なこった。あ、そうだモウク。」
1人の男がニヤニヤしながらモウクに話しかける。
モウクは首をかしげ、「何?」と愛想良く返事をした。
「今からイカロスんとこ行くんだけどな、用事が出来ちまってさ、代わりに行ってくんないか?」
するとモウクは、頭のてっぺんからあごの先まで真っ赤になり頬おさえた。
「ドュカロのとこに!?う、うーん・・・い、行きたいけど・・・店番が・・・。」
モウクの家はこの国に1つしかない酒屋で、毎日の売り上げは貴族の有権者の収入にも匹敵し、
それゆえ、店番が1人でもいなくなると商売に影響が出てしまう。
「それなら俺らがやっからよ!なあ?」
「おう!行ってきてくれ。任せとけって、勝手に商品飲んだりしないから・・・多分。」
「え?でも今用事があるって言ってなかった?」
「細かいことはいいから!ほら、行け行け!」
モウクは背中を押されるようにしながら店を出た
乱れた髪を丁寧に手で整える。
「あいつの前で、とちったりすんなよ~。」
後ろから、ふざけた罵声にも似た声が聞こえたが、受け流しておいた。
ちょっと軽いステップを踏んでいる。
意中の相手と今から会うのだから、心が躍らないはずがない。
「ドュ、ドュカロ~・・・いる~?・・・」
町外れも鍛冶屋の前で、モウクは立っていた。
中からは、熱気とカナヅチの音がする。
「し、仕事中かな?」
「失礼しマース・・・」と、断り無く鍛冶屋に入る溶けた鉄のにおいと油のにおい・・・それに
「ドュカロのにおい・・・は~・・久しぶりにかいだ・・・。」
モウクはしばらくうっとりしていたが、はっと