コインランドリー
自宅の洗濯機の調子がおかしくなり、
最近はコインランドリーの世話になっている。
買い換えるべきなのだろうが、
月1ペースでのまとめ洗いならそれほどの出費にはならない。
まあ、今度じっくり検討してみよう。
洗濯が終わるのを待っていると、男が店に入ってきた。
年齢は30歳くらいだろうか。
童顔だが無精髭が生えており、髪はボサボサで清潔感の無い風貌だ。
彼はパンパンに詰まったレジ袋を6つほど持参し、
その中に洗いたい衣服が入っているのだろう。
「あのう」
彼に話しかけられ、私は少しびっくりしたが態度には出さず、
「はい?」と答えた。
「どこ使ってます?」
そんなの聞いてどうすんだ?と思ったが、関わりたくないので
「3番です」と正直に伝え、さっさと会話を切り上げた。
すると、彼はとんでもない行動に出た。
彼は使用中の1号機の一時停止ボタンを押し、
蓋を開けて中身を取り出し始めたのだ。
「ちょ、ちょっと! 何してるんですか!?」
関わりたくはなかったが、さすがに看過できない。
私は思わず声を上げ、その奇行をやめさせようと試みた。
しかし彼は首を傾げながら、こう尋ねた。
「え、あなた3番ですよね?」
だからなんだと言うのだ。
どう見ても先客が使用中だというのに、
それを勝手に中断するなんてあまりにも非常識な行為だ。
それを伝えても彼は腑に落ちない様子で、
「服洗いに来たんですけど」と、まるで会話が通じない。
みんな同じ目的で店を利用しているのだ。
順番を守るなんてのは当たり前のルールだろう。
そう注意しても彼は非常識な行為をやめず、
中身を半分ほど床にぶち撒けた頃、別の男が店に入ってきた。
「え、何してんのお前?」
金髪ピアスのお兄さん。
タバコを吸いに外へ出ていた、1号機の先客だ。
かつて私の人生でこれほどまでに、
「あちゃ〜」と言いたくなる場面が他にあっただろうか。
いいや、無い。
「何してんのか、って聞いてんだけど」
金髪の男が真顔で距離を詰め、不審な男は沈黙を決め込む。
このままでは暴力事件に発展してしまいそうな雰囲気だったので、
私は彼にこれまでの経緯を伝えた。
すると不審な男は私を指差しながら、
「この人に命令されて……」と馬鹿なことを言い出した。
これにはたまらず「ぁあっ!?」と声を荒らげてしまい、
不審な男はビクッと後ずさりし、床の洗濯物を踏みつけた。
ああ、これはもうボコボコにされても仕方ない。
そう思ったのだが、金髪の男は眉一つ動かさず、
落ち着き払った口調で「どけよ」とだけ言い放った。
金髪の男は床に散乱した洗濯物をさっさと回収し、
元あった場所へと放り込み、洗濯を再開した。
そして、よせばいいのに不審な男が彼に話しかける。
「あのう、本当にあの人が……」と、言いかけたところで
金髪の男はハア〜っと大きくため息を吐き、
ようやく感情を表に出してくれたのだ。
「お前が開けて、お前が中身出したんだよな?
その事実は変わらないよな?
それなら、誰の命令かなんて関係ねえよ
100%お前が悪いんだろうが
まあ、命令なんてされてないんだろうけどさ」
不審な男が嘘をついているなんて一目瞭然だが、
こうして私への信用を言葉に出されて安心感を覚える。
「いや、あの人が開けたんです」
開いた口が塞がらない。
なんでこう、すぐにバレる嘘をつくのか。
私は冷静に対処する。
「警察呼びますか?
指紋を調べてもらいましょう」
「いや、警察呼ぶほどのことじゃ……」
と不審な男はしどろもどろになるが、
「あんたに聞いてるんじゃないよ」
私は金髪の男に尋ねているのだ。
しかし金髪の男は少し考えた後、首を横に振った。
まあそうだろう。こんなくだらないことで時間を取られたくはない。
洗濯が終わったら、さっさと帰ってこの出来事は忘れよう。
この店は結構居心地が良かったのだが、もう来ることはないだろう。
「僕は床に落ちてた洗濯物を拾ってただけなんです」
まだ言うか。
やっぱり警察呼ぶか?と思った矢先、
再び金髪の男がハア〜っと大きくため息を吐く。
私もそうしたい気分だ。
「お前さ、あれ見えねえの?」と指差した方向には防犯カメラが一台。
それを見た不審な男は「えっ!?」と本気で驚いたようで、
こいつは一体、どこの星から来たんだ?と思わずにはいられなかった。
それから不審な男は何も言わなくなり、店内をうろうろし始めた。
おとなしく順番を待つことにしたのだろう。
そう思っていたのだが、考えが甘かった。
彼は、2号機の一時停止ボタンを押したのだ。
「「 なんでだよ!? 」」