第22話「大人気ギャルの要求」
「おっかいもの♪ おっかいもの♪」
スーパーを目指して歩く中、腕の中にいる美海ちゃんはとてもご機嫌だった。
よほど買いものが好きらしい。
しかし――。
「美海、今日はプリンもドーナツも食べたんだから、おやつは買わないよ?」
「がーんっ……!」
風見さんの一言により、その表情は絶望に変わってしまった。
わざわざ効果音を口にするくらい、ショックだったらしい。
それにしても……なるほど、おやつを買ってもらえると思っていたのか。
「なんて可哀想なことを……」
「だって、お店に行ってから買わないって言ったら、絶対泣いて暴れるもん」
「まぁ、それはそれで確かに困るけど……」
俺は腕の中にいる美海ちゃんに視線を戻す。
美海ちゃんは泣きそうな表情で目をウルウルとさせながら、ジィッと風見さんを見つめていた。
だけど、風見さんは美海ちゃんを見ようとしない。
この目を見てしまったら、負けるとわかっているのだろう。
そうなってくると、美海ちゃんが標的にするのは――
「せいちゃん、おやつかってもらえない……」
――俺だった。
まぁ、自然な流れだろう。
俺を味方につけたほうが、話が早いからな。
「ごめんね、美海ちゃん」
本当なら美海ちゃんの味方になってあげたいけれど、お金を出すのは風見さんだ。
それに、美海ちゃんの健康を考えても、あまりおやつを食べさせるのはよくない。
だから、渋々断ったのだけど――。
「うぅ……」
縋るような目で、ジッと見つめられてしまった。
この子、これが自分の武器だと自覚しているんじゃないだろうか?
とりあえず、風見さんと同じように目を逸らすことにした。
すると――。
クイクイ――と、めっちゃ美海ちゃんが胸元の服を引っ張ってきた。
こっちを見ろ、ということだろう。
「風見さん……」
「駄目、買わないから」
くっ、これでは俺が板挟みじゃないか。
「美海ちゃん、今日はもう我慢しようね? 明日になれば、また風見さんがおやつを作ってくれるから」
「おやつ……」
「うっ……」
この子、どんだけ食い意地を張っているんだ……。
まぁそういうところもかわいいのだけど、さすがにこの状況では困る。
そのまま、頑張って美海ちゃんの誘惑から逃れていると――。
「むぅ……」
美海ちゃんは頬をパンパンに膨らませて、俺の胸に顔を押し付けてきた。
「拗ねちゃった……」
「そのまま寝ると思うから、寝かしてていいよ」
風見さんの言う通り、やがて美海ちゃんの頬はしぼみ、かわいらしい寝息が聞こえてきた。
ふて寝をしたようだ。
「子育てって大変なんだね……」
「そうだね。でも、今日は誠司がいてくれるから、私は助かったよ」
そう言って、ニコッと笑みを向けてくる風見さん。
ずるい。
こんなこと言われたら、誘われた時に断れなくなるじゃないか。
「誠司って子供好きなの?」
「また、ロリコン扱いする気……?」
「違うって。そうじゃなくて、普通に子供が好きか聞いてるの」
俺が白い目を向けると、風見さんは困ったように笑いながら返してきた。
「まぁ好きだね。もちろん、恋愛的な意味じゃなくて」
「わかったってば。でも、そっか……ふふ」
何やら楽しそうに笑っている風見さん。
悪巧みをしているな?
「ねぇ、誠司――」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないけど!?」
先手を打って断ると、風見さんが驚いたようにツッコミを入れてきた。
「だって、絶対悪巧みだし」
「酷い!! 私はただ、これからも家に来てって誘おうとしただけなのに……!」
まるで美海ちゃんかのように、頬を膨らませて抗議をしてくる風見さん。
子供か。
「美海ちゃんはかわいいけど、風見さんがからかってくるからなぁ?」
「だからからかってないって、言ってるでしょ……! いい加減怒るよ!?」
それは怒っているって言わないのだろうか?
「変なことをしてこないなら、これからも行かせてもらうよ」
俺だって、美海ちゃんの遊び相手になるのは楽しい。
何より、美海ちゃんはとてもかわいくて、話し相手をしているだけで癒される。
だから、遊びに行くのは問題がなかった。
――そう、風見さんがからかってさえこなければ。
「私のこと、抱きしめたくせに」
「――っ!?」
「頭撫でたりとかしたくせに」
やりすぎてしまったのか、風見さんがジト目を向けてきながら、俺がやったことを掘り返してきた。
「そ、それは、美海ちゃんを誤魔化すためで……!」
「でも、やったことは事実だし、明日学校でみんなに言っちゃおうかな~?」
それはやめてくれ。
男子たちから半端ない恨みを買うし、女子たちから弄られる気しかしない。
「くっ……要求はなんなの……?」
「ふふ、要求?」
脅しをかけてきているので、絶対何か求められると思って聞いたのだけど――風見さんは、ニヤッと悪そうな笑みを浮かべた。
いったい何を要求する気なのか……。
「要求はね――1日3回、私のお願いを聞いてもらいます……!」