第20話「幼女はわけたい」
「……♪」
風見さんお手製のドーナツを食べている美海ちゃんは、俺の膝の上でご機嫌になっていた。
話に聞く限り、いつもおやつは風見さんが作っているようだ。
俺がプリンを買っていなければ、ドーナツが美海ちゃんの今日のおやつだったらしい。
「風見さんって料理だけでなく、お菓子作りもできるんだね」
「美海が喜んでくれるから、頑張って覚えたの」
妹のためにわざわざ覚えるだなんて、やっぱり風見さんは妹思いだ。
俺にもその思いやりを見せてほしいところだけど、美海ちゃんのかわいさがなせることなのだろう。
「いいお母さんになりそうだなぁ」
「ふぇっ!? それって……!」
何げなく呟いた言葉で、なぜか風見さんが顔を真っ赤に染めて、素っ頓狂な声をあげた。
「何を驚いているの……?」
「無自覚にそういうこと言うの、酷いと思う……!」
尋ねると、なぜか頬をパンパンにして怒られてしまった。
俺、そんなまずいこと言ったかな……?
「ねぇね、おこりっぽい」
「うぐっ……」
美海ちゃんがドーナツをかじりにながら、純粋な瞳で風見さんを見つめたからだろう。
妹の前で喧嘩をしたくない風見さんは、悔しそうに言葉を呑みこんだ。
後で文句を言われそうな気がする。
「美海ちゃん、ドーナツおいしい?」
「んっ……!」
とりあえず、美海ちゃんがこれ以上風見さんを煽らないよう、気を逸らさせた。
すると――。
「はい、せいちゃん……!」
お皿の上にあったドーナツを、美海ちゃんが渡してきた。
「えっ、これは美海ちゃんのだよ?」
「せいちゃんにあげる……!」
どうやら、俺がほしがったと思ったようだ。
自分のおやつなのに、俺にわけてくれるなんて、とても優しい子だ。
「ありがとう。でも、これは美海ちゃんのだから、美海ちゃんが食べて」
俺はお礼に美海ちゃんの頭を撫でながら、笑顔で伝える。
しかし、美海ちゃんは首を左右に振った。
「せいちゃんもたべる、はい」
もしかしたら、独り占めは良くないと思っているのかもしれない。
となると――。
「ありがとう、美海ちゃん」
この子の気持ちを汲んで、俺は受け取った。
そして半分に切って、風見さんに差し出す。
「はい、風見さん」
「私もいいの?」
「もちろんだよ」
風見さんだって食べてないのだし、これを作ったのは風見さんなのだから。
美海ちゃんもそれでよかったのか、満足そうに笑みを浮かべている。
「そっか……ありがと」
風見さんは頬をほんのりと赤くしながら、嬉しそうに受け取ってくれた。
なんだか、こういうところはかわいいと思ってしまう。
この後は、三人仲良くドーナツを食べるのだった。
――うん、やっぱり風見さんが作るものは何を食べてもおいしい。