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第19話「二人の気持ちを優先して」

「せいちゃん……」


 頭を撫でて宥めるものの、美海ちゃんは俺の膝に座りたくて仕方がないのだろう。

 曇った表情は直らず、悲しそうな目を俺に向けてきた。


 やっぱり、風見さんをよけてあげないと駄目なようだ。


「風見さん、もう終わりだよ」


 そう言って、風見さんをどかせるために、太ももの下に手を入れる。

 夏というのもあり、彼女は半ズボンだったので肌に直接触れてしまっているが、恥ずかしいのを我慢して持ち上げた。

 しかし――。


「やだ……」


 風見さんが抱き着いてくる腕にギュッと力を入れたため、下ろせなかった。

 そして、ウルウルと潤った瞳で、俺に訴えかけてくる。


 この姉妹、ずるい……。


 特に風見さんは、赤くした顔でそんな目を向けてきているので、俺の鼓動はバクバクとうるさいほどに、速くなっていた。

 そして、下ろすのも可哀想に思ってしまう。


「ねぇねの、ばかぁ……!」


 だけど当然、そうなるとこの子が黙っていない。

 自分の居場所がとられていて、代わってもらえないことで今にも泣きだしそうだ。

 多分、姉にいじわるされていると思っている気がする。


「美海ちゃん、こっちにおいで」


 風見さんをどかせることはできない。

 そして美海ちゃんも、今は頭を撫でるだけでは満足しない。

 となると、別の形を試してみるしかなかった。


 だから俺は手を後ろに回して、美海ちゃんを背中側に呼んだのだ。


「……?」


 美海ちゃんは涙目で、首を傾げる。

 意図が伝わってないようだ。


「おんぶするよ?」

「おんぶ……!」


 どうやら、美海ちゃんはおんぶも好きらしい。

 目を輝かせて、俺の後ろにテテテッと回り込む。


「いくよ?」

「んっ……!」


 美海ちゃんのおしりに手を回すと、美海ちゃんは俺の首に腕を巻き付けてきた。

 そのまま、俺は美海ちゃんの体を、腕の力で持ち上げてあげる。


「えへへ……」


 どうやら、機嫌は完全に直ったようだ。

 後ろからかわいらしい笑い声を漏らしながら、俺の頬に自分の頬をくっつけてきた。


 体勢的に腕が結構きついが、美海ちゃんが喜んでくれているので、なんとか頑張るしかない。


「……美海、いつの間に起きてたの……?」


 どうやら、視界に入って初めて、風見さんは美海ちゃんに気付いたようだ。

 なぜ今まで気付かなかったんだ、と問い詰めたくなるけれど、いつもと雰囲気が違っていたのが原因だろう。


 明らかに、夢見る乙女のような感じで、別人だったからな。

 少なくとも、普段俺をからかってくるギャルな彼女ではなかった。


「ねぇね、みうにいじわるしてた……!」


 やっと自分を見てくれたとわかったのだろう。

 ニコニコ笑顔だった美海ちゃんが、また不満そうに頬を膨らませて、物言いたげな目で風見さんを見始めた。


「えっ!? いじわるなんてしてないよ……!」


 心当たりがない風見さんは、慌てて首を振る。

 だけど、否定したところで、美海ちゃんが納得するはずがない。


「してた……!」

「え、えぇ……?」


 明らかに怒っている妹を前にして、風見さんは戸惑ったように視線を彷徨わせる。

 そして、俺と目が合った。


「美海ちゃんが座りたがっていたのに、風見さんが全然どけてくれなかったから、いじわるされたんだと思っているんだよ。思いっきり服を引っ張っても、風見さん気付かなかったし」


「そ、そうだったの……?」


 やはり、彼女は気付いていなかったようだ。

 本当にさっきまでのはなんだったのだろうか?


「ごめんね、美海……?」

「ねぇね、いじわる……! せいちゃん、やさしい……!」


 どうやら、美海ちゃんは風見さんのことをまだ許す気がないようだ。

 俺をわざわざ引き合いに出したのは、膝に座れなかった美海ちゃんに対して、代案を用意したからだろう。


 これは、美海ちゃんに許してもらうのは時間がかかりそうだな……。

 と、思ったのだけど――。


「……おやつ、もう一個食べていいから」

「んっ……!」


 おやつ一つで、あっさりと美海ちゃんの機嫌は直ったのだった。


 ――やっぱりこの子、単純だ。


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