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転生裁判~裁判オタクが判決を~  作者: くるみりな
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第1話 初めての出廷

 「さぁ、出廷です」

 

 ウサギのその声に背筋がピンと伸びた。

 扉の前に立ち、大きく息を吸う。上手く飲み込めない。でも、行かなくちゃ。

 そう決心した公子は目の前のドアノブに手をかけた。

 その時、一つの違和を感じた。


 「あれ、この扉……?見たことあるような……」

 「今は余計な事を考える時間はありませんよ!クレイマントが待っていますよ!

 ……あなたなら大丈夫です」


 ウサギがそう言って微笑みかけたように見えた。

 もう一度息を吸う。今度は飲み込める。

 

 『今は余計な事を考えてる場合じゃない……』

 

 自分にそう言い聞かせ、扉を押した。


 「ここが……法廷?」


 澄んだ青色の薄雲が掛かった。机や椅子には精巧な装飾があしらわれている。

 そんな非現実的で幻想的な空間。だが公子には確かな見覚えがあった。

 

 「ここは、いつも通っていた裁判所……?まぁでも裁判所なんてどこも似たような……」

 「その通りでございまし。ここは間違いなくキミコ様が足しげく通った裁判所の一室でしてよ」


 声の先を見るとそこには切れ長の美しい女性が立っていた。

 しかしヒトではないの明らかだった。要所にコバルトブルーの鱗を煌めかせ、大きな尻尾が生えていたからである。


 「お初にお目にかかりまして。キミコ様の補佐を務めまし竜人族リザードのリンと申しませ」


 リンと名乗るその女性は少しぎこちない敬語で続ける。


 「キミコ様が気になること、たくさんある存じます。ですがそれは後程。裁判が始まりましゆえ」

 

 時間が流れるにつれて増えていく疑問。でも今はそれを押し殺すしかない。

 席に着いたその瞬間、証言台と共にクレイマントが現れた。

 そのクレイマントを目の当たりにした公子は言葉を失う。


 「え……?!推し様」


 そこには、公子が通った裁判所の裁判長が立っていたのだ。

 動揺を隠しきれない。落ち着け、落ち着け。そう言い聞かせる。


 「惑星ジアースよりお越しのカメヤマダ様でございまし。さぁキミコ様、彼を新たな旅路へと導きませ」


 リンはそういうとキミコに一冊の本を手渡す。

 キミコは茫然としながらも、その本を開きページを捲る。

 しかしその本の3ページ以降は読むことができない。

 

 「なにこの文字……?」


 読めたのはほんの2ページ。それ以降のページはすべて文字化けを起こしている。


 「キミコ様の官位レベルでは、クレイマントの伝記メモリアから読み取れるのは基本情報に過ぎませんわ。言葉は通じまして。直接話を聞いて判決を下さいます」

 

 出身:惑星ジアース

 種族:ヒト

 名前:カメヤマダ シゲヒコ

 性別:男


 その基本情報ともう一つわかったのは。


 「死因……」


 転生裁判。転生するということはそういうことだとわかっていたはず。

 だが大好きだったカメヤマダの死を簡単には受け入れられたくなかった。

 このまま読み進めれば、推しの死の理由を知ることはできる。


 「キミコ様。無理して伝記を読む必要はありませんでしてよ」


 リンは優しく声をかける。

 しかし公子は、ウサギが掛けてくれた言葉を自分の中で反芻した。


 『大丈夫……大丈夫……』

 

 伝記に目を落とす。

 死因は、"陲ォ螳ウ螂ウ諤ァ″からの過剰防衛により死亡と書いてあった。

 

 「過剰防衛……?どういうこと?一部読めないし……」

 

 対話をして転生先を決める。この言葉の意味はそういうことだった。

 私は胸に手を置き深呼吸をした。そして、 


 「カメヤマダさん、あなたは自分がなぜ死んでしまったんのか覚えていますか?」


 意を決した公子は、カメヤマダに一直線に質問を投げつけた。

 

 「あの女が悪いんだ……俺は……何も……」


 カメヤマダは肩を震わせながらボソボソと何かをぼやき続けている。


 「あの……!もう少しハッキリお話していただけませんか?過剰防衛されたってことはあなたが何かしたんじゃないんですか?!」


 公子は意を決して詰め寄る。早くこの裁判を終わらせていろんな疑問を解消したい。推しが犯罪を犯した理由を知りたい。この2つの心が公子を奮い立たせていた。

 しかし、

 

 「俺ハ……オレハアアアアアア!!」

 「キミコ様!!」


 カメヤマダの体の周りに黒い雲が立ち込めた。

 その黒い雲が手の形を成し公子の方へ襲ってきた。


 「ピギャッ!」

 

 公子は思わず顔を覆う。


 「輝きましっ!!」


 リンのその声とまばゆい光と共に黒い雲と証言台はその場所から跡形もなく消えていた。


 「あれは、どういうこと?」

 「初日お疲れ様でございました。お疲れでしょう。お話はお部屋でしませ」


 そういうとリンは公子の椅子を引き、入ってきた扉へと誘った。

 扉を開けるとそこにはウサギが待っていた。


 「おかえりなさい、キミコ様。お茶を淹れますね」


 公子は、部屋の真ん中にあるたくさんのお菓子が並べられたテーブルに着いた。

 

 「さ、甘いものでも食べながらティータイムといきましょう」

 「ありがと……ねぇさっきのはどういうことなの……?」

 「順を追って僕から説明させていただきます。まずは一度心を落ち着けてください。」


 ウサギはそういって公子とリンにお茶を勧めた。

 甘いストロベリーの香りが公子の心を落ち着けてくれた。


 「私がイチゴが好きなことも知っているんだね……」

 「はい、あなたをこの転生裁判の審判に推薦したのはこの私ですから」

 「じゃあどうして最初なにも知らないふりしたのよ!」


 公子はウサギに強く当たる。それもそのはずである。

 なにも知らない公子に何の説明もせずに、出廷させた張本人がすべてを知っていたからだ。

 

 「あなたを過大評価してしまっていた……といったところでしょうね」

 「勝手に評価して勝手に落胆しないで!」

 

 公子は怒りを露わにする。


 「申し訳ありませんです、キミコ様!この兎の性根は私が叩き直しまし!」


 リンが間に入る。リンの凛とした美しい容姿に反した言葉使いに公子はほだされる。


 「リンさん……私もごめんなさい。急に怒ったりして……ウサギさん、説明をお願いします」


 公子は、お茶を一口飲みさらに心を落ち着ける。


 「いえ、私も言いすぎました。あと、自己紹介がまだでしたね。私は兎人族(ラビット)のフェグと申します」

 「フェグさん、よろしくね!」


 フェグは私に軽く会釈をし続ける。


 「先ほどの裁判でクレイマントが陥ったのはカース状態という状態です。聞かれたくない話は誰にだってあるものです。それを引き出す為には、まずは信頼関係を引き出すことが重要なのです」

 「なるほど、信頼関係……ねぇ、カメヤマダさんには前世の記憶はないの?私の顔を見れば知らない顔ではないはずなのに……」


 そういうと、フェグは公子に鏡を見せた。するとそこには、まるで天使のような可憐な少女が映っていた。


 「私、成人女性だよ?!どういうこと……?!」

 「あなたも転生しているのですから当たり前ですよ」

 「私裁判してないよ‼」

 「先ほどもお話したように、あなたは僕がここへ推薦したので裁判は行われていません」


 公子はなるほどとハッとした


 「話を戻しますが、カース状態に陥らせずに話を聞くにはまずはクレイマントの生い立ちや自慢話でも聞いて心を開かせることですね」

 「なるほどね……」

 「次に、転生先についてです。転生先の惑星は100種類ほどあるとお話したことは覚えていますか?」

 「うん、覚えてる!暗記できるわけないって思った!」


 そう公子が言うと、フェグは少し呆れたようにこういった。


 「一気に覚えろとは言いません。徐々に覚えれば結構ですから。それまではこの本を持って出廷してください」

 

 そういって惑星の図鑑の様な本を手渡した。


 「ありがとう!助かります!」

 

 公子はその本を受け取りパラパラと流し読みをしていると、リンが物憂げに話し始めた。


 「私たち竜人族の住む星は、ジアースに比べたら住みにくいます。でもいい星でし!」


 リンのまっすぐな言葉に公子は姿勢を正す。

 私情を挟ませまいと言わんばかりにフェグが間に入り説明を続ける。


 「転生先を決める基準は元々暮らしていた惑星ごとに基準を設けランク付けされています。転生前の記憶はクレイマントに残らないとはいえ、下位のランクの惑星に転生すれば適応するのに苦労するとされているのです」

 「つまりクレイマントがジアース出身の場合と、2人の出身の星出身の方だったら同じだけランクを上げても違う星に転生するということなのね……」

 「その通りです」


 フェグは淡々と説明を続けた。

  

 「そのクレイマントが、ランクを下げるべきか上げるべきかを判断するのがあなたの仕事です」

 「なるほどね……」

 「クレイマントから証言を引き出して、正しく導いてあげてくださいね、キミコ様」


 リンは自分の頬を叩き、


 「キミコ様!私は護ることしかできません!ですがきっと力になってみせまし!」


 決意を新たにした眼差しを公子に向ける。

 

 「今回の裁判は、キミコ様が現世を知っていましたがこれはかなり珍しいことです。だからこそ、あなたの真価が試されているといっても過言ではありません」

 「そっか……これは試験のようなものなのね。裁判に大事なのは公平性、私は間違えないよ!」


 公子の熱意の溢れる表情に2人は笑顔でうなずく。


 「私、必ず正しい判決を下します!」

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