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第55話 さくらちゃんとマメタと池の女神様


 日曜日、マメタはさくらちゃんのおうちでげーむをしていた。

 もちろんさくらちゃんとは、魔女のさくらちゃんである。

 そして、マメタはさくらちゃんと遊びに来たわけではない。

 近所の子どもたちと遊びに来たのである。


 意外なじじつであるが、さくらちゃんのおうちは小学生くらいの子どもたちに人気のスポットである。なにしろ、さくらちゃんのおうちには闘技王のレアカードや人気のゲームが山のようにあるのだ。

 それで公園に行ってもおともだちがいないときは、マメタはさくらちゃんちにやってきて、子どもたちが現れるまでさくらちゃんと遊ぶのであった。

 さくらちゃんは最初、マメタ(や小学生)の訪問をいやがっていたが、なんだかんだで最近はおうちに入れてくれるようになった。

 きょうもイタリア人配管工がパーティするゲームであそんでいたさくらちゃんとマメタだが、さくらちゃんが、とつぜん、


「ちょっとマメタロウ、アイス食べたくない? お駄賃あげるから、あんたアイス買って来なさいよ」


 と、居丈高に言った。

 マメタはさくらちゃんが2メートル50センチの巨人になったかのような錯覚を覚えた。それくらいの上から目線だったのだ。


「もちろん、あたしもタダ働きさせるほどあこぎな魔女ではないわ。おつりはお駄賃にしていいわよ」


 さくらちゃんはマメタに金色のピカピカの500円を渡した。

 正確にはマメタが背負っている風呂敷に突っ込んだのである。

 こうして、マメタはまだまだ暑い日差しの下、500メートル先のコンビニまで出かけていくことになったのである。

 もちろん、マメタとしてもお駄賃がもらえるなら悪い条件ではない。

 それに何より、マメタはそんじょそこらの豆狸ではない。かつてはおはぎや笠利のお使いだぬきだったのである。この程度のお仕事くらいわけはない。

 自信満々にアパート海風の外階段を下り、テチテチ歩きはじめて、そして5分後のこと。

 マメタはカラスのくちばしに咥えられて大空を舞っていた。


「やーん! たーすーけーてー!」


 マメタのことを餌だと思ったのか、それとも風呂敷からはみ出た500円玉がピカピカ光って見えたのか――おそらく後者であろう。カラスは光ものが好きなのだ。

 マメタの眼下には、ぐんぐん遠ざかっていくアパート海風とコンビニがあった。

 マメタが帰るべき場所である宿毛(すくも)さんのおうちも遠くなっていく。

 もう二度とおうちに帰れないかもしれない、と思ったマメタは心細くなった。

 しかし、突如としてむくむくと、このままではいけないという意志が心の底にわきあがった。

 このまま二度と宿毛さんのおうちに戻れないとしても、ほこりたかき茶色の毛玉としては、傍若無人なカラスに一矢むくいてやらねばならないと決意したのだ。


「はーなーせー! マメタはおこだぞー!」


 マメタはもうめちゃくちゃに暴れた。

 驚いたのはカラスである。

 カラスは背中のピカピカにしか目がいっていなかったので、咥えている茶色の綿埃が暴れ出すとは夢にも思わなかったのである。

 そこで、カラスは思わずくちばしを離してしまった。


「わあーっ!!」


 宙に投げ出されたマメタ。

 その体は、どこかの空き地にある小さな池へとまっさか様に突っ込んだ。


「ぶくぶくぶく~~~~!!」


 それは背の高いパネルに囲まれた空き地で、パネルには『怪異退治組合やつか支部』の文字が印字されていたが、マメタからはわからない。

 空き地は丸石でぐるりを取り囲まれた、どこかの家の庭にあるようなごく普通の池と、池のそばに古い祠があるだけの何もない空間である。

 マメタは命からがら池からはい出した。

 全身ずぶ濡れで、三割くらい小さくなっている。目のまわりのタヌキ模様がなければ、タヌキだということもわからないかもしれない。


「おつかいに来ただけなのに~……ん? あれれっ、500円玉がない!」


 どうやら落っこちた際に、500円玉も風呂敷からすっぽ抜けてしまったようだ。

 カラスにさらわれた上、大切なお金もなくしてしまうなんて。

 池の水だけでなく悲しみの涙にもぬれたマメタの目に、妙な輝きが目に入った。

 池の真ん中に、薄絹をまとった美しい女性が立っている。

 女性は金色の髪に青い目、白い肌をした外国人風の人物で、額には月桂樹の冠をかぶっていた。


「さてはうちゅうじんかな?」

「かわいらしいまめだぬきよ。わたしはこの池にすむ女神です……」


 女神は正体を自己宣告した。


「あなたが落としたのはこちらの金色の500円玉ですか? それとも、こちらの銀色の500円玉ですか……?」

「あっマメタの500円玉。女神様、ひろってくれてありがとうございます。マメタのは金色の500円玉です!」

「正直なあなたには、両方さしあげましょう」


 女神は二つの500円玉を両方置いて去って行った。





 マメタは500円玉を抱えて号泣しているところを、ホウキに乗ってやってきたさくらちゃんに発見された。


「五百円玉がふたつに~! 違法な偽造通貨所持のうたがいでマメタけいさつにつかまっちゃう~!」

「なになに、何やってるのよマメタロウ」

「マメタですう~!」


 マメタは涙ながらに事の次第を語ってきかせた。カラスに落っことされて、池の女神様に出会い、そして謎の銀色の500円玉を渡された一部始終を、である。


「こんな銀色のごひゃくえんだま、あやしすぎますっ!」

「落ち着きなさい、マメタ。それはちゃんと日本で流通してる立派なお金よ。違法じゃないわ」


 そう、マメタは最近の子なので、銀色の500円玉を見たことがなかったのだ。

 そうなの? と首をかしげるマメタ。

 そうなのだ。


「池の女神が正直者のアナタのためにお金を二倍にしてくれたんだわ。これは凄い発見よ、マメタ……!」


 さくらちゃんは何の変哲もない普通の池に熱い視線を送っている。





 その後、さくらちゃんはマメタと一緒に宿毛さんちに行き、さめざめと泣いていた。仕事帰りの宿毛湊(すくもみなと)は煙草をぷかぷか吸いながら、畳の上に置かれた二枚の一万円札を手に取った。

 ピカピカに輝く金色の一万円札と、銀色の一万円札である。


「察しの通り、あの池の女神は投げ入れたものを複製してくれる。使いようによってはとんでもないことになるので、組合が箝口令を敷いて厳重に封印している土地だ。まあ、なんでも複製するといっても、ごらんの通り色は金と銀の二色になる」

「あたしの食費が~!!」


 さくらちゃんは畳に突っ伏して大きな泣き声を上げる。

 宿毛湊は「欲をかくからだ」と言ってやりたい気持ちであったが、本人も反省していることだし、そこはぐっとこらえた。


 ちなみに池に投げ込んだものを、元の色に戻す方法はまだ発見されていない。

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