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第45話 ホリシン・サマー・バケーション(上)


 ホリシンこと堀江進二(ほりえしんじ)は白い砂浜に正座していた。

 目の前には明るく輝く大海原(おおうなばら)があり、水平線はどこまでも遠い。

 背後には無人島の、手つかずの原生林が生い茂っていた。

 燦々(さんさん)とした太陽の陽射しに温もった砂が絶望を柔らかく受け止めてくれる。

 彼は両の瞳から一筋ずつ涙をこぼした。


「なんで…………こんなことに……………」


 自分は悪くないのに、と彼は思った。

 迷惑系動画配信者として活動し、やつか町でも少なからずやらかした前科もちの彼ではあるが、今回ばかりはその言葉は正しかった。

 彼は悪くない。しかし悪くないからといって状況が良くなったりはしない。


 ホリシンは無人島にひとりぼっちだ。

 ずばり、遭難(そうなん)している。





 ユーチューバーが生放送配信中に消えた。


 そんな通報が怪異退治組合やつか支部にもたらされた。

 ホリシンが消えてから一週間くらい経ってのことである。

 相模(さがみ)くんと狩人の宿毛湊(すくもみなと)が駆け付けると、はぁちゃんの良きライバルことホリシンの姿は自宅マンションから完全に消え失せていた。

 自宅には鍵をかけたまま。生活用品やらスマホ、配信用機材もそのままだ。

 最後の配信はゲーム実況だったようだ。

 モニターには『トロピカン・サマーアイランド』という、見たことのないゲームのスタート画面が表示されたままになっている。

 青い海と太陽、そして島。

 たぶん無人島だろうイラストが大写しになり、ブラジルだかメキシコだか陽気そうな国を意識したBGMが鳴り響いている。

 そして机の上には白い大きな箱が置かれていた。


「どうしましょう、宿毛さん」


 相模くんが不安そうに狩人を見あげた。

 ホリシンには浅からぬ縁のあるやつか支部である。

 とはいえ失踪人の捜索そのものは警察に任せるしかない。

 怪異や妖怪の存在が認められなければ、後は科学捜査の出番だ。


「差し迫った危険はなさそうだが、ひとまず機材には絶対に触らないように。それから念のために的矢(まとや)を呼んで来てくれますか」

「的矢さんですか?」

「あいつなら俺たちに見えないものが何か見えるかもしれません。いや、見えないほうがいいんだが……」


 歯切れの悪い様子の宿毛の様子を見て、相模くんは何もかもを察した。

 霊感持ちの狩人をわざわざ呼ぶということは、まあ、そういうことだ。

 しかし、わざわざ相模くんが呼ぶまでもなく的矢樹(まとやいつき)はマンションに現れた。

 廊下から一際(ひときわ)すらりとした青年がにこやかな笑顔で室内に入ってくる。


「宿毛先輩、今日の現場がここだって聞いて、来ちゃいました~。先日、ななほし町で起きた交通事故の件でぜひとも先輩のお耳に入れておきたいことがあって~」


 ちょうど同じタイミングで、ここにはいない人物の声が部屋に響いた。


『だれか~助けてくださ~~~~い!』


 室内には警察からやってきた鑑識と私服刑事、作業の監督をするために宿毛湊と相模くんがいた。

 もちろん、狩人ふたりと、事前に注意を受けていた相模くんはミスをおかさなかった。

 しかし、現場にいた刑事のひとりが卓上にあったものに手を伸ばす。

 部屋の中で異彩(いさい)を放つ、机の上に置かれた白い大きな箱だ。

 彼は箱の(ふた)を開け、その中を覗き込もうとした。

 先ほどの声は《《箱の中から聞こえてきたのだ》》。

 咄嗟(とっさ)の判断が速かったのは宿毛ではなく的矢だった。

 彼は走って、不用意に箱を開けた刑事を突き飛ばす。


「な、なんだ急に!? 誰だお前は!」


 いきなり暴力を振るわれたと思ったのだろう、もみ合いになり、的矢はバランスを崩して机の上に手をついた。

 体の一部が箱に触れる。

 そのとき、信じられないことが起きた。

 その体が半透明に透けたのだ。

 急速に現実感を失っていく的矢樹に、宿毛湊が駆け寄ろうとする。


(いつき)っ!!」


 その姿は箱の中に吸い込まれるように消えてしまった。

 誰もが言葉を失う中、宿毛湊は問題の箱に近づいて行く。

 ホールケーキをしまうような大きな箱の中に、精巧なジオラマが納められていた。

 レジンを流しこんだ青い海。きらきらと輝く白い砂浜。幾本ものヤシの木。手つかずの大自然が広がる陽気な南国の島の姿がそこにあった。

 そしてジオラマの中におさまるよう小さくなった的矢樹が砂浜に尻もちを着き、呆然としてこちらを見あげていた。

 誰も悪くない。悪くないが、状況はとても悪い。


「相模さん……」

「はい……」

諫早いさはやさくらを呼んでください」

「……はい」


 やつか町の夏が本格始動した瞬間であった。

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