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第115話 雨

 今日は早朝から一日中雨、という予報を聞いて、昼前に買い出しに出かけた。


 帰り道、濡れそぼったコンクリート舗装の歩道の上に、一点、色のちがう箇所があった。直径四十センチほどの円形で、はじめはそこだけ周囲と劣化のぐあいが異なるのだろうと何とも思わなかった。しかし、何気なくその部分に足を置くと、自分の濡れた長靴の足あとがクッキリとついた。


 どうやら、色がちがって見えるのは、そこだけ乾いているせいらしい。


 雨を遮るものもなく、隣り合っている部分はぐっしょり濡れているのに。


 足をどけて見ていると、じきに他の部分も雨でぬれ、まわりの舗装と同じ色に同一化して見えなくなった。




報告2


 歩道のない住宅街の道を徒歩で通っているとき。


 ほかに歩行者の姿はなかった。雨脚が強くなり、ばたばたと住宅の屋根や駐車場のルーフに雨が当たる音があたりに響いていた。


 ふと雨音にまぎれて、車のエンジン音と、タイヤがじゃりじゃりと濡れた路面を擦る音が背中越しに聞こえてきた。雨音がうるさく距離がつかみづらいが、大体5メートルくらいの距離に近づいてきた感じ。それからしばらく歩いたが、抜かされることはなく、ずっと距離を保っていた。道が車がぎりぎりすれ違えるくらいに細いので、通り過ぎてもらおうと路肩に寄った。


 背後を振り返って車との距離を確認することはしなかった。


 いっこうに脇を通り抜ける気配がないので、確認すると、車の姿はどこにもなかった。曲がり角や、駐車場もない道。




報告3


 犬の散歩から帰ってくると、雨にぬれた自宅のコンクリート塀のあちこちがボコボコと浮かび上がり凹凸状になっているのが見えた。


 塀は薄いベージュのペンキ塗装が施されている。塗装部分と、コンクリート本体の間に空気が入り、浮かんでいる様子。目視で三か所ほど同じ状態になっているのが見えた。


 ペンキが腐食したのかもしれないと思い、状態を確認しようとボコボコの部分に触ってみた。すると、思いのほか柔らかい感触があった。そのまま手の平で押してみると、手首までのめりこんでしまった。まるで流行っているグニャグニャのおもちゃ(スクイーズのこと)のような感覚。


 面白半分に、どこまでいくのかと押してみると肘の手前まで飲みこまれた。


 どう考えても、塀の厚みをこえている。


 ふと冷静になると怖くなり、腕を抜いた。


 飼い犬はずっと耳とシッポを下げたまま怯えた様子だった。





 雨の日は不思議と怪異の報告が多くなる。


 相模くんは事務所に持ち込まれた怪異案件の報告書をまとめていた。緊急性のあるものはすでに、各狩人に割り振って確認に行ってもらっている。


 もちろん緊急性があるかどうか、というのは狩人免許を持たない相模くんには判断ができないので、報告はすべて支部長か的矢樹が確認している。


 そして、相模くんの手元に残った報告を眺めてみると、なるほどささやかな事件ばかりである。こんな目にあったら、雨模様の憂鬱な雰囲気と相まって嫌な気持ちにはなるだろうが、わざわざ人を呼びつけるほどではない――少なくとも、書面で確認するかぎりはそういうふうにみえるものばかりである。


 事務所に残った相模くんは本部に送る報告書の内容の整理に取り掛かった。


 この作業がなかなか難しい。


 相談者は怪異に遭遇して大なり小なり混乱状態にあるため、話の骨子というものが掴みづらい。適宜、余計な情報——『犬は三歳の秋田犬』など――は取捨選択しなければならないが、もしかすると取り除いた部分が大切なところかもしれないので、簡潔にまとめるだけでも気を遣う。


 集中して作業をして、一時間ほど経った。


 マグカップの中のコーヒーはすっかり冷たくなっていた。


 いつの間に雨脚が強くなったのだろうか。


 雨粒が屋根を打つばたばたという音も強まっている。


 リズミカルな雨の音を聞いていると、どうにも感覚が狂う。一種の催眠状態というか。作業に集中しすぎていたせいかもしれない……。


「がんばってるねえ」


 ふいに声をかけられた気がして、相模くんは背後を振り返った。


 事務所にいるのは自分ひとりだということを思い出したのは、そのときだった。

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