ツンデレちゃんのトリセツ〜ハートは正しい向きで〜
今日はバレンタイン。こんなにドキドキするバレンタインは初めてだ。義理チョコしか貰った事のない人生だった。だが、今年は彼女がいるバレンタインなのだ。期待値は高い。
例え、俺が彼女の頭突きをくらって顎を痛め、治るまでの限定のお付き合いだとしても。30分で痛みなんか引いたのに8ヶ月も痛いフリをして付き合ってもらっているとしても。
俺の彼女は桜田智世という名前で俺が清水智。名前に同じ漢字があるから運命を感じてる。中学、高校同級生の桜田奈菜世の一個下の妹さんだ。智世ちゃんって名前を呼んでも怒らなくなるのに、付き合って4ヶ月かかり、高校2年と1年と学年が違うから会えるのは学校のバス停。話ができるのは下校にかかる50分。たったの50分って思うかもしれないけどほとんど2人っきりの50分が週に3回ある。胸に手を当てて考えてみて。大好きな女子とそんな風に過ごせているかい?
それで、なんでドキドキしているかって言うと、今日が月曜日だからだ。実は一緒に下校するのは、火木金。月曜日はお互い下校時間が合わないのだ。2年生だけ課外をやるのなんで?自分が早いのならいくらでも、待つけど、こっちの都合で女子の下校時刻を遅らせるなんて紳士の俺には無理すぎるのに。
思いあまって、昨晩彼女に送ったSNSは
『明日、月曜日だけど、一緒に帰りたい。1時間待ってくれないかな?』
潔く既読無視されている。いっそ送信取り消しすべきか?いや、しない。耐える。
そのまま既読無視されたまま課外を受けた。課外が終わると、美術室に行ってみる。彼女がもしかしたら、部活に美術部で時間を過ごしてないかと思ったからだが、居なかった。慌ててバス停に走る。居ない。帰っちゃったか。とぼとぼとバスに乗った。
バスに乗って20分、電車に乗って20分。駅から俺は自転車を押しながら不便な所に住んでる彼女を親が迎えにくるスーパーの駐車場までゆっくり歩いて10分。
いつも別れるスーパーの駐車場を見遣ると智世ちゃんがいた!思わず駆け寄る。
「智世ちゃん!待っててくれた!」
待っててくれたよね。今日は特別な日なのに会えないかと思ったけど、嬉しい。そんな思いを込めて声をかけると、
「待ってるのは母の迎えで、清水先輩ではないですね。」
可愛いツンデレ解答を返してくれた。大丈夫。お母さんの迎えが遅れるなんて、そんな事なかったくせに。
「お母さんくるまで一緒にいるよ。てか俺渡したいものがあって。」
彼女からチョコを貰えなくても自分から渡せば良いって気づいてから楽になった。何も男子が女子に渡したっていいはずだ。リュックから箱を取り出した。
「まさか、手作りとか言いませんよね?」
受け取りながら引き気味に言われた。
「いや、それはさすがに。智世ちゃん甘いものグルメだから。」
可愛いチョコを選んだつもりだ。
「じゃあ、私はこれを」
智世ちゃんから渡された!えっ?
「くれるの?チョコ!」
「うーんまあ。手作りです。」
手作り!心が躍った所で、
「あれ、智、智世、あらー」
後ろから桜田奈菜世、智世ちゃんの姉の声がした。
「お邪魔だった?」
大いに邪魔だ。
「あ、お母さんの車、来たみたい。じゃ」
智世ちゃんはあっさりとしたもので、興味深けに俺の手の包みを見る桜田姉を引きずって現れたシルバーの車へと向かっていった。
家に帰ると自室にこもり、ドキドキしながら、人生お初に頂いた手作り本命チョコを開ける。まず驚いたのは形だ。一見ハートみたいなのだが、余計なもんがついてる。そう、逆にすると分かる。スペードだ。さすが、ツンデレの智世ちゃんは素直にハートのチョコを作れなかったと見える。大丈夫、大丈夫。俺には分かっている。わざわざ逆向きにして、ハートの方にして写真を撮る。三個入ってたから一つを思い切りよく口にいれた。ぷにゃあ。
グミだ!チョコレートグミだ!
随分珍しいものを作ってくれたなと感激のあまり、智世ちゃんにSNSを送る。
『ありがとう!チョコレートグミ!早速1個いただきました。美味しい。料理上手だね♡』
ついでにハートの方にわざと撮った写真も送っておいた。
珍しく、すぐに返事が来た!
『先輩のチョコ、さすがのピンクでドン引きです。グミの意味調べといて下さいね。』
俺のも気になってもう、開けたんだ!可愛いなぁ。グミの意味?調べないよ。調べないから。
fin
※「バレンタインにグミ意味」で調べると渡さない方が良いって出てきます。だけどチョコレート味。捻れてますよねぇ。
実は以前連載してた小説の番外編です。削除してしまいましたが、新しくバレンタインなので、その設定で短編を書いてみました。読んで下さりありがとうございます。