第9話 邂逅
僕が目を覚ますと、周りはまだ明るかった
ドレイクはまだ帰ってこない
することもないので空を眺めていると
近くから獣の叫び声が聞えてきた
次の瞬間
ゾウのような、しかし首が長く鼻の短い不思議な動物が結界を突き破り、僕のいる家に向かって突進してきていた
咄嗟の判断で僕は窓から空に向かって飛び出した
上からそいつの様子を見ていると、しばらく家をボコボコに踏み潰してから僕の方を見て唾のような物を吐き出した
当然届くはずもなく、それは重力に従って地面に落ちていった
しばらくそのまま飛んでいたが、
そいつはどこかに行く気配もないので一旦移動することにした
行く当てもないからとりあえず畑の方に行ってみた
畑があったところには、ぼこぼこに均された更地があった
ドレイクはここにもいなかった
死んじゃったのかな
そんな不吉な考えが頭をよぎった
・・・帰るか
そう思って飛び立ったが、直ぐに思い出した
家はもう無いのだということを
既に焦燥感は消えてしまっていた
何をする気も起きなかった
「ふふっ」という乾いた笑いが出てきたが、自分にもどうしてか分からなかった
とにかく適当な木の枝に止まって休もう
そう思って僕は近くの大きめな木の枝に止まった
しばらくすると、緩やかに眠気が襲ってきた
そのままウトウトしていると、
「カサカサッ」という何かが木を登るような音が聞こえた
周りを確認したが、それらしい影は見当たらなかった
きっと葉が擦れた音だろう
その刹那、腹部に紐のようなものを回され、強く後ろに引っ張られた
気づくと僕は宙に吊るされていた
紐のようなものは蜘蛛の糸だったのだ
それも僕よりも大きい蜘蛛の
「グウゥア!ガァァァ!」
激しく身をよじったが、糸はより強く絡んでくるだけたった
「カチカチッ」
と牙を鳴らしながら蜘蛛は僕を品定めするように眺めている
しばらくすると蜘蛛は僕の周りに六角形の巣のようなものを張り始めた
どうするつもりなのか分からないが、いいことでないのは確実だろう
巣を張り終わると、蜘蛛はどこかへ行ってしまった
今のうちに何とかしないと!
しかし僕にできるのは身体能力の向上と噛み付くことと引っ掻くことぐらいしかない
これじゃあ脱出は・・・
いや、諦めたらダメだ!
しかし、僕の抵抗も虚しく、糸は微塵も解けなかった
さらには蜘蛛も戻ってきてしまった
蜘蛛が近づいてくる
口からダラダラと体液のようなものを垂れ流している
その汁が触れた木の枝から「ジュウジュウ」と煙がのぼっている
ここまでか、僕は諦めて目を瞑った
その瞬間、「ガキンッ!」という音と共に首筋に物凄い衝撃を感じた
思ったほど痛くない
なんなら痒くもない
目を開けると蜘蛛は近くでのたうち回っていた
次の瞬間、蜘蛛が耳をつんざくような悲鳴を上げた
両手の塞がっている僕はしっかりとその音を聞いてしまい耳が痛くなったが、問題はそこではなかった
向こうから「カサカサ」という音が重なり合ってこちらに向かってきていたのだ
話は変わるが僕は極度の集合体恐怖症で、見なければどうということは無いのに、いつもどういう訳か見てしまうのだ
そして今回も例に漏れず見てしまった
そこからの記憶はいつもない
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デュークに家で待っているように言うと、俺は直ぐに畑に向かって走り出した
今の絶叫はマンドラゴラのものに違いない
しかし畑の周りには結界を張っておいたはずだし、マンドラゴラが勝手に抜けるはずもない
いや待てよ、昨日って結界張ったっけ?
そういえば愛しのマンドラゴラちゃんが育ちきったことに浮かれてて張り直すの忘れたような気もするな
まずい
せっかく育てたマンドラゴラちゃんがまた失われてしまう!
そんなようなことを考えながら畑に着いたドレイクは言葉を失った
目の前の光景が理解できなかったのだ
そこにはつい10分前まであったはずの畑は無く、ボコボコの更地が広がっていた
おかしい
マンドラゴラがひとりでに抜けるはずもないし、抜けたとしてもその辺にいる魔物ではマンドラゴラの叫びで即死だろう
全身の細胞が警告を発していた
マンドラゴラを気まぐれでどうにか出来るレベルの魔物が近くにいるということだからだ
俺は即座に戦闘態勢をとった
・・・、一瞬が何時間にも感じられる
首筋にチリチリとした殺意を感じた瞬間
ものすごい爆音とともに光線が飛んできた
光線の威力は尋常な物ではなかった
絶対防御と呼ばれた俺の防御壁を持ってしても6割程度しか軽減できていなかったのではないだろうか
もし咄嗟に壁を張れていなかったら即死だっただろう
全身の痛みとめまいに耐えながら周囲を確認すると、煙が立ちこめていた
逃げなければ
このタイミングを逃したら確実に死ぬ
俺は可能な限り気配を殺し、そして可能な限り速くそこから離れた