第7話 畑
次の日
ドレイクは朝から機嫌が良さそうだった
珍しく鼻歌を歌っていて、臓物スープがいつもより多いのが機嫌のいい証拠だ
「なんかいいことあったの?」
「ん?なんでだ?」
「いや、なんか嬉しそうだから・・」
「あ~、やっぱわかっちゃうかぁ、実はなぁ、どっかの誰かが突っ込んできたせいでほぼ全滅したマンドラゴラが収穫できるくらいに大きくなったんだよ。もう大変だったんだから、毎日俺の魔力を吸収させて雑草を抜いて周りの魔物よけの結界かけ直してカクカクシカジカ」
「もう何度も謝ったじゃん!次からはもしそれが自分の意思じゃないとしてもマンドラゴラ畑には落ちないように気をつけますよ」
「冗談だよ冗談、そんなにプンプンするな笑
あ、そうだ!デュークも収穫やってみるか?おもしろいぞ」
「おもしろいの?じゃあやってみようかな」
ということで僕はドレイクについて畑に向かったが、ついた瞬間にだまされたことに気がついた
そこにあったのは体高が1メートル程度の僕が見上げるような高さの植物で、畑というよりは密林といった方が適切なのではないかというような様子だった
こんな物の収穫が楽しいはずがない
前世では少し歩く事さえも厳しかった僕は、見舞いに来る人全員にいろいろな話を聞いていたが、祖父に農作業のつらさを聞いては、そのきつさを想像して農家は偉大だなと尊敬したものだ
そしてこのマンドラゴラとか言う物の収穫は確実にそれよりも重労働だろう
稲や小麦とは比べものにならないサイズなのだから
「どうだすごいだろう!普通の奴らではここまでのサイズにすることは不可能だろうな、俺がアースドラゴンのブレスを研究している途中に発見した法則を元に、ものすごく緻密に計算して魔力を注いだからな」
「うん、まあ、すごいけど」
「なんだよ~、普通は20センチくらいにしかならないんだぞ」
「これってどうやって収穫するの?」
「・・、これはなぁ、どうしよっかな・・」
「・・え?」
「こいつらな、地上に引き抜くとものすごい声でわめくんだよな」
「うん」
「で、その声聞くと最悪死ぬんだよな」
「うん」
「しかも調子のって育てすぎたからこいつらの声は即死級だと思うんだよな」
「うん」
「下手したら結界も破けちゃうかもしれないんだよな」
「・・・うん」
「まあ考えてても進まないからとりあえず一個抜いてみるか!」
「待てぇぇぇぇえい!!!」
「ん?」
「いや!だめでしょ!そんなの抜いたら!死ぬよ!?」
「まあまあ、落ち着けって。とりあえず一本だけ抜いてみよう、な?」
「なんで笑ってんの!あちょっ!」
ドレイクが杖で魔方陣を描きはじめると、マンドラゴラのうちの一本が揺れ出した
僕は諦めて耳を塞いだ
マンドラゴラは「メギャッバキバキッ」というものすごい音とともに地上に顔をだした
ただでさえ見上げるような高さだったマンドラゴラは、想像の3倍ほどバカみたいなサイズだった
10メートルはあるだろうと思われるその植物?はものすごい形相で叫んでいるようだった
が、どういうわけか全くうるさくない
鼓膜がどこかに行ってしまった可能性も考慮したが、ドレイクの方を見ると、ドレイクは耳を押さえてすらいない
なんならヘラヘラ笑っている
試しに耳を押さえていた手を離すと、叫び声はかすかにしか聞えなかった
「騙したんだ」
「ちがうわ!笑」
「じゃあなんで叫び声が聞えないの」
「俺が魔法で防いでるから」
「うわー、さいてー」
「ごめんって笑。けど自分以外が焦ってる様子見るのってなんか面白いじゃん」
「うわっクソ野郎だ」
「あっはっはっは」
なんだか損した気分になっていると、突然ドレイクが思い出したように話し出した
「音って何だろうな?」
「ん?」
「今俺はマンドラゴラの口周りに分厚い壁を作って音を防いでる、けどはっきり言ってこれは効率が悪いし、完全には防げない。そしてこのことから音は壁を貫通することがわかるが、音以外に壁を貫通する物を俺は知らない」
「確かに不思議だね」
「不思議だ」
そんなことを言いながら僕たちはマンドラゴラを家に運んだ