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第28話 木霊の悪戯

 辺りの霧は全く晴れそうになく、時折何かがこすれたりぶつかったりする音が響くだけだった。


「この霧って風で吹き飛ばしたり出来ないの?」


「やってみるか?」


「うん」


「じゃあよく見てろよ」


 ドレイクはそう言うと、杖を使って強い風を巻き起こした。小さな渦を巻くその風は、本来なら辺りの霧を吹き飛ばしてもおかしくないのに、僕たちの周りの霧は一向に晴れる様子はなかった。


「なんで吹き飛ばせないの?」


「この霧が実際には存在してないからだな」


「どういうこと?」


「つまりこの霧は木霊こだまが見せてる幻影だってことだよ」


「あ! そういうことね、だから風おこしても吹き飛ばないんだ!」


「そういうことだ」


「じゃあさ、どうやったら霧から出れるの?」


「しらん」


「なんで?」


「いや、知らないもんは知らないだろ」


「え、じゃあどうするの?」


「まあ大抵の場合、悪戯好きな木霊は何かしらの接触をしてくるからな、とりあえずそれを待とうか」


「あと一個気になったんだけどさ、杖っているの?」


「・・ん?」


「だって体内で魔力練って魔回路に流して外に出すんでしょ? 杖っていらなくない?」


「あぁ、なるほどな。そうだな~、じゃあ例えばだけどな、口を開けて息を『はぁ~』ってやると口から出てくる息は暖かいだろ? だけど口をすぼめて『ふ~』ってやると息が冷たくなるだろ? それはわかるな?」


「うん」


「魔法も一緒でな、放出の仕方を変えると威力が変わるんだ。杖を使うとより強い魔法を放つことが出来る。だから基本的に戦闘に魔法を使う人はみんな杖を使ってるんだ」


「なるほど、そういうことね」


「ソウダョー」


 突然聞えてきた甲高い声のした方を振り向くと、そこには先ほどの鮮やかな色の鎧を着た何かが立っていた。そいつの周りだけ霧が晴れていた。


「木霊?」


「ソウダヨー!」


「なんでこんなことしたの?」


「タノシイカラダヨー!」


「僕たち行かないといけないところがあるんだよね」


「ツカマエテミナー!」


 木霊こだまはそう言うと走って行ってしまった。僕が木霊を追いかけるため走り出そうとすると、ドレイクが僕の腕を掴んで引き留めた。


「単独行動はだめだ、基本的に周囲の状況が分からないときには勝手に動くな。常に目の前は崖だと思って歩け」


「うん、ごめんなさい」


「わかればいいんだ。まずは状況を確認しよう、恐らく木霊を捕まえればこの霧は晴れる、しかし周囲の霧のせいで視認できる距離は1メートルから2メートルだろう。そんな状況でどうやって木霊を捕まえるのが良いか? わかるか?」


「う~ん、どうすればいいの?」


「もし俺が探知魔法が得意なら、霧なんて関係なかったがそうじゃないから論理的に考えるしかない。木霊が俺たちに何をさせたいかを考えるんだ。まず木霊は俺たちが霧の中を彷徨って困るのが見たいんだ。じゃあそのために木霊はどう動くのか? どう動く?」


「見つからないように動く」


「ちょっと適当すぎるけどまあいい、そうだ、俺たちに見つからないように動くはずだ。しかし様子が見たいわけだからあまり遠くには行きたくない。じゃあどう動けば見つからず、かつ近くで見ていられるのか?」


「う~ん、わからないけど、一個思いついたのは炎はいて木燃やしちゃえば木霊って消滅するんじゃない? 木霊って木の精霊なんでしょ?」


「ハッハッハ! お前すごいな、ほんとは悪魔なんじゃねえか? 少なくともアースドラゴンの発言とは思えねえわ。まあそれも一つの手だが、いい手じゃないな。木の精霊は根に持つタイプだからな、あまり敵対しない方がいいぞ。」


「木だから根に持つって事? じゃあもうわかんない」


「そうか? まあ多分この辺にいるんじゃないか?」


 そう言ってドレイクが杖を振ると、僕たちの真後ろに木霊が現れた。


「なんで!?」


「ナンデ!!??」


「まあいる場所の大体の見当がつけば俺ならすぐに見つけられるんだ」


「スゴイネー!」


「まあ賢者だからな」


「ジャアゴホウビアゲルネー!」


「ごほうび?」


「ナニガホシイー?」


「飯が欲しいな、大量に」


「イイヨー! キミハー?」


 木霊こだまはそう言うと僕の方を向いた。


「僕もいいの?」


「イイヨー!」


「ど、どうしようドレイク?」


「何でもいいんじゃねえか? なんか欲しいものないのか?」


「う~ん、ないかな~」


「ジャア、ボクガキメルネー!」


 木霊はそう言うと何やら不思議な動きをすると僕の手を握ってきた。小さくて暖かい手から何かが流れこんできた。


「ジャアマタネー!」


 木霊はそう言っていなくなってしまった。すると霧はすぐに晴れ、目の前には肉や果物のこんもりとした山が出来ていた。


「木霊って意外と優しいんだね」


「まあお前がいたからじゃないか?」


「なんで?」


「確認されてるだけで毎年何千人も森で行方が分からなくなってるんだがな、そのうち半分は木霊の仕業だって言われてるくらい木霊は悪戯好きなんだ、度が過ぎるほどに。まあ地域によって木霊の性質は異なるけどな」


「うん」


「それから木霊にご褒美をもらったなんて話は聞いたことがない」


「うん」


「つまりここにいた木霊達はお前を手助けしたかったんじゃないか?」


「なんで?」


「アースドラゴンだから」


「ん?」


「アースドラゴンは森の守護者だからな、木霊が手助けしたくなっても不思議はない」


「ラッキー?」


「まあそうだな。とにかく平和に終わってよかった」


「うん、そうだね。・・てかさ、これどうするの?」


「あぁ、それなぁ・・。半分ぐらい食うか?」


「半分も食べられないと思うけど・・」


 目の前に積まれた食料の山は、保存食を入れていた袋にはとても入りきりそうになかった。

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