第17話 オスカー
治療が終わるとオスカー先生は再び本を開いた。カミラさんは雑談でもしててくれと言っていたけど、本を読んでいる人に話しかけるのは少し良くない気がする。あれ、そもそも何を話せばいいんだ? 人と話すことに関する経験値が少なすぎて何にもわからないぞ・・、 まあいっか、先生話す気なさそうだし。景色でも見てよっかな・・。そんな風に窓の外に目をやると、先生が突然話し始めた。
「ドラゴンの君に言うのもなんだかおかしいですけど、君はわたしの髪や肌の色について何も言わないんですね」
「あ、えっと、はい」
唐突に聞かれたその質問は僕が地球にいた頃のことを思い出させた。
どこの世界にも差別のような物はあるんだな・・、
「まぁ色が違うだけで騒ぐのはヒトだけですからね。そんな物をいちいち気にするなんていうのは全くおかしい! 君もそう思うでしょう」
「まぁ・・、そうですよね」
「ところで全く関係ないんですが君は今何歳なんですか?」
「ほっ、ほんとに関係ないですね、え~っと大体1ヶ月半くらいですかね」
「ほう、1ヶ月半でもうそんなに成長しているんですか。ドラゴンの成長というのは早いんですねぇ」
「まだ何も出来ないんですけどね」
「そうなんですか? ブレスも吐けないんですか?」
「・・、はい」
「あぁ、不躾な質問でしたね。申し訳ない。ただドラゴンと言えばブレスみたいな部分もありますのでね、ついつい聞いてしまったんです。本当に申し訳ない。」
先生は頭を下げた。
「い、いえ! 大丈夫です! と、ところで先生は医者なんですよね? どこで医術を学んだんですか?」
「そうですね~、全部話すと長いのでかいつまんで話しますね。
まぁ私は戦争孤児というやつでして、物心ついたときからずっと路上で生活していたんです。しかしある日、盗みで捕まってしまって王国の更生施設にいれられたんです。ただ路上で飢えに苦しみながら生活してきた私には天国のような場所でしたがね。そこで私は多くのことを事を学ばせていただきました。それで大体の人は2年以内に親元に帰されるんですが、私の場合は親がいなかったので里親の方が見つかるまでの1年はそこに雑用係としてとどまっていました。そして合計3年の月日がたったとき、当時は王国軍の医師をやっていた私の先生が私の里親になってくれまして、その方と生活していくうちに医術についてかなり詳しくなりましたね。まぁ後から聞いたら先生は小間使いが欲しかっただけなんだそうですがね、フフッ。」
「なるほど、・・すごい、ですね」
つい口をついて出てきた言葉は、なんのひねりもない「すごい」という言葉だった。きっと僕には想像できないくらいの過酷な過去を乗り越えてきたんだろうな、という思いが口をついて出たんだろう。
先生は不思議そうな顔で、
「なにがです?」
ときいてきた。
「いえ、大変だったんだろうなと思って」
「まあ、大変と言えば大変でしたけどね。たいしたことはありませんでしたよ。」
そして再び沈黙がおとずれた。
聞えるのは扉の外からのうめき声と、鳥の鳴く声だけだった。
その沈黙を破ったのは元気な少年の声だった。
ノックと共に部屋に入ってきた鈍い赤髪の少年は元気に叫んだ。
「オスカー先生! ドラゴンさんの治療が終わったらドレイクの方に来てってカミラさんが言ってる!」
「ありがとうマルス、すぐ行きますね。あ、そうだ、次からはもう少し静かに話していただけると嬉ですね。寝ている方も多いですから。」
「うん!」
マルスと呼ばれた少年は相変わらず元気いっぱいの返事をすると、走って行った。
「デューク君はここにいてもいいですけど、どうします?」
「あ、えっとじゃあ、ここにいようかな」
「わかりました。もし何かあったら呼んでください。なるべくすぐに戻りますので。」
「わかりました」
先生は扉を閉めて出て行った。
足音が遠ざかっていくのが聞えた。
―――――
しばらくすると、再び足音が聞えてきた。
どうやら一人ではなさそうだ。
足音はドンドン近づいてきて、扉の前まで来ると足音はとまった。
『コンコンッ』
ドアがノックされた。
どうしよう、返事した方がいいに決まってるけどなんて言おう。
『ドンドン!』
さっきより強い。
「先生はいません」と声をかけようとすると、扉の前から怒鳴り声が聞えてきた。
「おい! オスカー!! でてこい!!」
さきほどカミラさん怒鳴られたチビデブ男の声だった。




