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     ◇



 寮の部屋に帰って、簡単な晩御飯を食べて、シャワーを浴びて、それからお茶を淹れて……。ホッと一息ついた頃にはもうすっかり夜になっていた。


 ぱんぱんに膨れ上がったカバンに手を伸ばし、リオンから没収した不思議アイテムを机に並べてみる。


 改めて、どれもこれも見たことないデザインのものばかりだ。


 その中でも特に異彩を放っている、"なんか銃っぽいやつ" をそっと手に取る。


「これが未来の杖……なのかあ?」


 学校からの帰り際、ふと思いついてコレを、入学の折によくしてもらった魔杖屋まじょうやに持っていってみたのだが、結局のところよくわからなかった。


 ちなみに、詳細は以下の通りである。



~~~~~~~~~~~



 私以外客がいないのをいいことに、カウンターの奥の作業台に通された。 例の "銃っぽいの" をひとしきり観察した後、店主があきらめたようにこう言う。


「これ……ほんとに魔杖なのかね?」


「それを訊きに来たわけなんですが……てんちょーも見たことないですか」


「ないね。……あと、その気の抜けた呼び方はやめろな」


 初老の店主はキッパリと言うと、持ち手の底に仕込まれた、四角い瓶状のモノを取り出して机に置いてみせた。


「たしかに、この瓶は魔力不導体──それも、耐熱性のかなり高い材質みたいだが……肝心の中身が無いんじゃあね」


 ガラスのような透明の瓶を手に持って中を覗いてみても、少し歪んだ店主の顔が向こう側に見えるばかりであった。


 時々、中に残った粒子みたいなのがキラキラ光っててちょっと綺麗だ。観光地のお土産とかに使えそうな感じ。


「……銃を模した魔杖なのか、魔杖を模した銃なのか……機構まで銃と一緒だったら、おそらくこの瓶に "弾" でも込めるんだろうが……そしたらもう俺にゃどうしようもない。あいにくとウチは鉄砲屋ガンスミスじゃないんだ」


 店主は肩をすくめながら応えた。それでも四方八方から "銃っぽいの" を眺めているあたり、興味はあるらしい。


 最初こそ、こう見えて暇じゃないんだがね、とかぶーたれてたけど、なんやかんや暇なんだろう。


「嬢ちゃん、ホントにこれで魔術()撃たれたんだね? 魔術()弾丸が飛んできたわけじゃなく」


「まあ、たぶん……知らない魔術だったけど」


「そうか……。しかし、こりゃどう見ても合金だぞ……こんなとっちらかった魔力場の中で魔法作用に単一指向性を持たせて、しかも高速で発射するとなると……」


「……中に芯があるんじゃないですか? それこそ、フツーの魔杖みたいに」


「それくらい考えたさ。……でもそうしたら、わざわざこんな重い素材で作る必要がないだろう。なにかカラクリがあるはずなんだが」


 魔杖まじょうも、昔は一人一本、一生大事に使うような物だったそうだけど、現代じゃだいぶ感覚が違う。


 杖が良いからといって爆発的に魔術の効果が上がるなんてことはそうない。魔術の精度や成立速度を上げる、補助具としての機能が主だ。


 専門性が高く、その扱いだけで一つの職業になり得る『職能魔術』に使う専用の魔杖ならばともかく、一般的には軽くて丈夫で安価な木製で、どんな魔術も器用に扱えるような魔杖まじょうが好まれる。


「自作にしちゃあデザインが工業的だが、この精巧さは量産品とは思えん。これの持ち主は、アーガルスの出だったな? ……あの地の職人は気高い。用途はまるでわからんが、これだけのものを作って無銘なはずが……』


「まあ、アーガルスのものって決まったわけでも……」


「……なあ、嬢ちゃん。試しに撃ってみてもいいかね、これ」


「それは、ちょっと……。いちおう借り物なんで……あわわ、だめ、解体バラすのもだめです、だめですってば」


 店主はどこかしょんぼりした手つきで私に "銃っぽいの" を返した。彼には悪いが、万が一試し撃ちで街を破壊されても困る。


 なんだか申し訳なくなった私は魔杖まじょうのお手入れ用の布を1枚購入して、お店を後にした。



~~~~~~~~~~~



 以上、先の通り、専門家でも見たことない謎の代物である、ということしかわからなかったのである。


「未来の杖……なんかダサくない?」


 なんだろう、そしたらやっぱり100年後の世界は、老若男女がぱっつんぱっつんのあの服にこのダサい杖を携行して生活しているんだろうか。なんだその地獄。


 いやー……現代に生まれてよかった。


 でも、価値観は時代に応じて変化するものだし……それこそ、市井の流行のファッションなんて年単位で移り変わっている。リオンのあの碧い瞳には、私達の格好の方がよっぽど野暮ったく映っているのかもしれない。


「ま、どーでもいいんですけど」


 すっかりぬるくなった紅茶をすすって、”銃っぽいの” から瓶を取り出す。


 ここに弾を込めるんじゃない? という店主の勘を信じるなら、瓶を外しておけば取り敢えず暴発の心配はないはずだ。覚えていたら、一度デューイ教師に見せてみるのもいいかもしれない。担任だし、魔法化学担当だし。


 とはいっても……こんなわけわかんない物騒なモノに加えて、あいつが身に纏っていた大量のナイフまでもをそのまま机に放置しておくのもよろしくない。


 仮に監督生にこの現場を押さえられたらどうなることやら。下手すりゃ退学、よくても学院に潜む無政府主義者アナーキストの烙印を押され、残りの学院生活を肩身狭く送る羽目になるだろう。


 ……ひょっとして、それがリオンの言う、悪人まおーの正体……?


「いやいやいや、……しょっぼ」


 しょーもない考えに自分で突っ込みを入れつつ、没収物を机の引き出しにしまった、その時だった。


 ジリリリリリリ!


「……?」


 没収物の1つ、のっぺりとした板状のよくわからないアレから、けたたましい音がした。


 ジリリリリリリ!


「わわわわなにこれなにこれ」


 ──ジリリリリリリ!


「えええこわいこわいなにこれどうすんの……ん?」


 ていうかこの音、私知ってる……。


 これ、電話の呼び鈴だ。


 見てみれば、光沢のある黒一色だった板には、何やら魔法陣めいたものが浮かび上がっていた。


 ────ジリリリリリリ!


 少し躊躇したけど、寮の就寝時間はとっくに過ぎてたし、とにかくその魔法陣に触れてみる。


「止まった……よね」


 すると、音が途端に止んだ。


 ……これでよかった、……のかな?


 とにかく、音は止んだ。寮監が注意しにくることはないだろう。


 でも、魔法陣はまだ消えていない。大丈夫なのこれ? こわれた?


「〜〜〜〜」


 ……?


「〜〜。〜〜〜〜!」


 ちょっと待って。なんか、聞こえる。


 人の声だろうか。遠すぎて何を言ってるのかはわからないけど……。


「〜〜!」


 恐る恐る、耳に板を近づけてみる。


「応答しろ、【銀獅子】! ……【銀獅子】! 聞こえているのか!」


 ……おっさんが叫んでいた。


 謎の名を呼ぶその声は低く渋みがあって、まあとにかく知らんおっさんだった。


 ていうか、これホントに電話なの? この大きさで? 電話線とかないよ? え、ちょっとすごいんじゃないこれ。


「状況を報告しろ!」


 リオンの不思議アイテムに若干興奮を覚えつつも、私は、さてどうしたものかと逡巡していた。


 まず、切り方がわからない。それに、電話の相手方はどうやら一向に返事をしないリオンを案じている様子で、冷静さを欠いていた。


 とりあえず、話してみよう。


「あのー……」


「【銀……! ん?」


「あ、もしもし」


「女性……? そんな、かけまちがいなんて起こるはずが……」


 電話の相手は、私の声に困惑しているようだった。


「失礼ですが、こちらは銀……リオン・アージェントの携帯では……」


 ようやく知ってる名前が出てきた。……いや、ケータイっていうのこれ? 電話じゃないの?


「あー、えっと……。リオンさんの同級生の……ジル・ソーリスと申します」


「ッ!? ジル……ジル、ソーリス……だと……!」


 私の名前を聞いた瞬間、電話の相手が息を呑む。


 この時、私の中に何かとてつもなく嫌な予感が渦巻いていた。


「あの、そちらは……」


「私は………………」


 ややもすると沈黙は解けて、やがて意を決したようなため息が聞こえてきた。


「……私は、ウォルター・ボイド。リオン・アージェントの……そうだな。上司・・、と言ったらわかりやすいかな、"魔王" 殿」


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