03-08-07 ケセラセラ (なるようになる)
俺が馬車を止めても脳筋共と義姉弟はそのまま気付かずに暫く歩いていた。
そして誰ともなく振り向いて俺達が付いて来ていないのにようやく気付くと何か有ったのかと四人は慌てて走って戻って来た。
「おい! どうかしたのか?! 」
「うん? ああ、まあ、ちょっとね。」
「何よ! 何か有るんならハッキリ言いなさいよ! 」
あぁ、どう言ったもんかな。簡単には説明出来ないよな。
俺はチラッとヘルとサーラの方を見てみたが二人は特に口を出す様なそぶりは見せていない。
全部俺に丸投げのようだ。おい、ちょっとは助けてくれても良いだろう?
はぁ、なんとか脳筋達を言い包められれば良いがこれはちょっと揉めるかもしれない。
なんと言っても直ぐそこに港町の門が見えているのにそこには行かないと言うんだからな。
「ええとだな。皆はさっき横を通り過ぎた三人組には気付いていたか? 」
「なんだ? 子供二人と母親の親子連れがどうかしたのか? 」
「そう、それだ。
あの三人なんだが皆はなんか見覚えは無いか? 」
「えっ? そう言われましても特に見覚えは無いと思いますよ? 義兄さんは見覚えは有る? 」
「ボクは最近どっかで見たような気もするんだけど何処でだったかは分からないですね。
それで三人は一体誰なんですか? 」
「うん、まあ、俺も名前とかは全然知らないんだけれど最近俺達に深い関りがあった三人なんだ。
それでその深い関りというのが例の海賊達の人質になっていた人物だという物なんだよ。」
「えっ?! ああっ! そう言えばそんな子達がいたわね!
私はチラッとしか見なかったから顔までは覚えていないけどそういう子達が居た事はしっかりと覚えているわよ。」
「まあ俺達が見たのは二人の子供達だけで女性は片方の子の母親なんだけどあの後に海賊のアジトから助け出されたらしいね。」
「へぇ。そりゃまあまあ良かった事なんじゃないか?
それでそれが俺達になにか関係があるのか?
もう賠償なんかの事後処理も終わったんだろう? 」
「俺もそう思うんだけどなあ。
でもなんか二名程それに異を唱えている人達がいてだな。
なんか助けてあげて欲しいな~みたいな感じ? 」
ここで自分達の事が話に出て来てようやくサーラとヘルが会話に混ざってきた。
「皆は気が付いて無かったかも知れないけど三人はなんだか凄く深刻そうな感じで歩いていたの~。
でも変じゃない~?
私が思うに海賊から助けられてこれからは良い事しか無いと思っていたんだもの~。
皆は気にならない~? 」
「皆さん。私も同じ様に感じてちょっと総合ネットワークに問い合わせて調べてみたんですがどうやらあの三人は特に救済されていないみたいです。」
あれ? なんか俺も知らない情報が出てきたぞ?
「うん? ヘル、どういう事だ?
俺達が引っ張って行った海賊船四隻だけでも賠償金の額は足りるもんだと思っていたんだけど違ったのか? 」
「いいえ、マスター。そんな事は有りません。
賠償金の額は普通の案件よりも多い位でした。
ですが子供二人に割り当てられた賠償金は本人に対しての損害が特に無かった為に少額しか貰えなかった様です。
一人の子は母親を結果的に亡くしていますが海賊に直接殺されたという訳でも無いので考慮して貰えなかったみたいです。
それにその事に対して大人達に意見すると言うのも子供達には無理だった様ですね。
あと生き残っていた方の母親は海賊のアジトに捕らわれていた関係で一時海賊の一味ではないかと疑われて暫く拘置されていたので直ぐに子供にも会えず賠償金の分配交渉にも立ち会えなかった為に彼女の取り分は無かった様です。」
「オイ! 総合ネットワークはそれで良いと思っているのかよ?!
ヘル! 今からでも文句を言ってちゃんとした額を渡すようにしろよ! 」
「残念ですが賠償金の分配に関しては海賊被害者の会と言った団体が取り仕切っていたようで既に会も解散していてもう資金は残っていない様です。」
「そんな訳あるか! 普通は一定額よりも多くは分配しないで念の為にプールして置くもんじゃ無いのかよ! 」
「普通はそうなんですがどうやら被害者の会の中に有力な貴族とかが含まれていたようでそちらの意見に引きずられてサッサと好きな様に決められてしまったみたいですね。」
これだからクソ貴族は嫌いなんだよ!
何でもかんでも自分達の都合の良い様に規則を自由に変えて平然としてやがって!
それで上に居る貴族共が勝手にやるもんだから下の平民達もまた貴族の真似をして好き勝手にしやがる。
一体何の為の法律なんだ?
ホント馬鹿らしくなってくるぜ。
俺がヘルの報告に一人でメッチャ怒っているのを見てガッシュ達は全員ドン引きしていてオタオタしている。
あっ? この状況を上手く使って誘導すれば港町に行かないのを有耶無耶に出来るんじゃないか?
よしっ! そうと決まれば早速やっていこう。
「あっ? 悪いな皆。つい向きになってしまったな。
でも皆も今の話を聞いていてあの三人を助ける事に関して否やは無いんじゃないか?
どうだ? 協力してくれるか? 」
「ああ。今の話を聞いて助けないという薄情な考えを持つ事なんて到底許容出来ないな。
リーナ達もそうだろ? 」
「ええ、勿論よ。出来るだけの事はしてあげたいわね。」
「ボクも賛成です! なんとかしてあげたいです! 」
「私も賛成ですが何をしてあげたら良いんでしょう? 」
フフフ。皆上手く乗って来たな。
このまま港町に行かない事に気付かない内に一気に話を決めてしまおう。
「そうだな。
とは言ってもまずは本人達の要望を聞いてみない事には始まらないだろう。
じゃあ馬車の向きを変えて三人を追い掛けようか。
俺達が長い事話している内に随分と遠くまで歩いて行ってしまっているみたいだしな。」
「おう! 」 「「ハイ! 」」
フゥ~。なんとか皆の意識を港町から逸らす事が出来たようだなぁ。やれやれだぜ。
「ところでやっぱり港町には行けなかったわね。」
オイ、リーナ!
なに余計な事を口走ってるんだ!
変なフラグを立てるんじゃない!
後で困るのは自分達なんだぞ!
場の空気を読めよ!
「だね~。」
「ですねー。」
「港町なんて無かった。」
「そういう事になるんですね。」
あ~ぁ。まあいいか。皆が気にしていないなら、それで。
『そうですよ、マスター。』
『ソウソウ~。』
じゃあまあ、そういう事にして置こう。
しかし、俺の気苦労は一体なんだったんだ?
泣けてくるぜ。
+ + + + +
俺達は馬車の向きを変えて三人を追い掛けたんだが程なくして追い付く事が出来た。
まあ彼女達は気持ちが落ち込んでいて足取りも重かったんだから思ったよりも離れていなかったからね。
そこで俺は声を掛けてちょっと止まって貰って三人の詳しい状況を聞く事にした。
「オーイ! そこの人達! ちょっと止まって貰って良いかな? 」
「はい? なんでしょう? なにか私達に用ですか? 」
女性は俺の声掛けに少し警戒した感じで返事してきた。
「あっ! さっきの人達? やっぱりそうだよね? 」
「うんうん! あの時の男の人と騎士の女の人で間違いないよね! 」
ああ、やっぱり二人の女の子達にはちゃんと覚えられていたか。なんかちょっと気不味いなぁ。
俺が気不味く思っているのを察したのかその後はヘルが引き継いで話をしてくれた。なんか悪いね。
そこで俺達は自分達の事を海賊を討伐した傭兵団だと言って助けた筈の三人が何か困っているらしい様子なのを見て気になって声を掛けに戻って来たと説明した。
俺達が海賊を討伐した傭兵団だという事は女の子達の証言で直ぐに信用されたようで母親も安心して俺達と会話をしてくれるようになった。
そして立ち話もなんなので街道の外に馬車を移動させてヘルがお茶の用意をして少し休憩しながら詳しく話を聞く事になった。
そして分かった事情とやらがこうだった。
まず母親とその実子の親子なんだが父母と子の三人で船で移動中に海賊の被害に遭い父親はその襲撃の際に海に落ちてその後は行方が分からないらしい。
なんか生存は絶望的みたいだ。オイオイ、そんなの聞いてないぞ。
そして母と子はアジトと船に離されて置かれてそれぞれが人質となって働かされていたらしい。
そんな中で俺達が女の子を助けに来たという感じだな。
もう一人の母親が死んでしまった子の方は父親が事故で死に母と子で実家に帰る途中の船旅で事件に巻き込まれて海賊に捕まったそうだ。
そして母親は体が弱かったのか数日間の船の上での生活で体調を崩して呆気なく死んでしまった。
そして子供だけ残ったのだがなぜか意味も無くそのまま船に乗せられていた所を俺達に助けられたと。
なんだか踏んだり蹴ったりな人生だな。
そして子供二人だけが俺達に助けられた訳なんだが港町に保護されてからしばらくの間病院に泊まらされていたらいつの間にか賠償金の分配の話し合いが終わっていた。
そしてはした金を掴まされて病院から出されたらしい。
病院に入っている間にアジトに捕まっていた母親は無事に救出はされたのだが暫く拘置されていた事もあり直ぐには子供とは会えなかった。
母親が子供に会えたのは彼女達が病院から出されて数日後の事だった。
会えるまでの間子供達は宿に泊まっていたのだがそこで貰ったお金を殆ど使いきってしまったようだ。
役所に紹介された宿はなんかやけに待遇の良い宿屋だったみたいだな。
役人の方も親切心でやった事なんだろうが子供達の懐具合くらい確認しろよ。
子供達には宿賃の相場とか待遇の良さとかは分からなくてただ言われた様にやった結果そうなってしまった。
そして感動の再会をした親子は殆ど文無しだったという訳だ。
一方天涯孤独になってしまった子の方は再会を喜ぶ親子を傍で見ていて自分の境遇を思い出し二人と別れようとしたが母親に引き留められて一緒に行動する事になったそうだ。
なんというかこの母親は立派な人物のようだな。
そんなに良く知りもしない他所の子を引き取ろうとするなんて大したもんだ。
聞けば船での移動も家族で職を探している途中の物だったそうなので仕事ならなんでもやろうという気概だったから一人増えてもどうとでもなると思っていたらしい。
だけど港町では今は特に仕事が余っているようではないらしくどこか内陸の街での仕事を探しに行く途中で俺達と行き会ったという状況で別に目的地は決まってはいないと言う。
さて、三人のそういった事情を詳しく聞いた俺達だが一体彼女達に対して何が出来てどの様な方針で対処した方が良いんだろうか。
う~ん。ちょっとこれは彼女達から離れて少し皆で相談した方が良いんじゃないか?
三人にはしばらくお茶を楽しんでいて貰い俺は皆に声を掛け少し離れた所に移動してから一体どこまでどの様に手を貸したら良いかを話し合った。
そして結論として出た答えは関わるのなら最後まで責任をとるような形にすると言う物だった。
しかし責任が取れる人物はと言うとこの場にいる者の中では領主の嫡男である俺以外には全く見当たらないんだけどもその辺は皆どう思っているんだ?
特に言い出しっぺのサーラとヘルはそれで良いと思ってるのかよ?
なんだか俺は全然納得が行かないんだけども?
皆の顔をぐるっと見回してみるが全員一斉に目を逸らしている。
皆言ってる事は立派なんだが実体が伴っていないとなんの説得力もないんだけど?
はぁ、まぁ、しょうがないか。
三人に色々と事情を聞いて置いて今更になってじゃあまあそゆ事でと言って素知らぬ顔で何もせずに別れるなんて事は到底出来る訳がないよなぁ。
あ~ぁ。なんかドッと疲れたよ。
はぁ、だけどそうも言ってられんしなぁ。
さてと、そんじゃまあ三人にいっちょ提案でもしますかねぇ。
俺は三人に近寄りながらなんとか笑みを作りながら声を掛けた。
「ちょっと皆さんに提案があるんですが聞いて貰えますか? 」
そして俺のいきなりな提案に三人はとても嬉しそうに快諾してくれたのだった。




