03-08-05 特攻野郎 【×××・×××××】チーム
マップに反応が有った船倉に勢い込んで突入して格好つけた脅し文句を発したら出てきたのは可愛らしい女の子の二人組だった。
オイ、なんでこんな所に女の子なんかがいるんだよ! 責任者出て来い!
まあ見た感じ悪い子って感じじゃないから人質とか奴隷とかなんだろうな。
着ている服も最低限な感じだし。
だけど俺ってばこんな子達に嬲り殺しにするとか口走ってしまったのかよ。情けなくて泣けてくるぜ。
彼女達は俺の顔色を窺って恐怖からかブルブルと震えている。
ああ、これはもう駄目だ。
俺が何か言っても余計に怖がらせるだけだな。
これはもう他の誰かに変わってもらうしかないだろう。
ヘルえも~ん。タースケテー。
『なんですか、ヘルえもんって?
まあ状況はツーからの報告で分かってますから急いでそちらに向かいますね。
それにしてもマスターはホントに変な行動をするのが好きですね。感心します。』
五月蠅いよ!
この子達のネームプレートが良く見えなかったんだから子供だなんて分からなくても仕方ないだろ!
むしろ問答無用で撃ち殺してないんだから結果オーライだろ!
『ハイハイ。もうそちらに着きますから驚かないで下さいね。』
分かった。後はよろしく頼むな。
そうして扉の前から移動すると間髪入れずにヘルが船倉に入ってきた。
「あら、こんにちは。可愛らしいお嬢さん方ね。
私はヘルと言います。この海賊船を政府から頼まれて討伐に来た傭兵です。もう大丈夫よ。
こっちの男の人も同じ傭兵でロックと言います。
口は悪いけど優しい人だから安心してね。
さて、貴方達は海賊に攫われて来た人で間違いないですか? 」
「は、はい。そうです。」
「他にも攫われて来た人とかがいるとか知ってるかしら? 」
「は、はい。私とこの子の母親がいましたが私の母は死んでしまいましたがこの子の母親は連れて行かれてからは見ていません。」
「そうですか、それはお気の毒に。
連れていかれた方は他の船に乗せられているのかもしれませんね。
そちらも注意して捜索するように言っておきますね。
それじゃあここを出ましょうか。
何か持って行きたい物が有るなら忘れずに持って来てくださいね。」
ヘルが上手い事取りなしてくれたので俺に対する警戒感は下がったようだがまだまだ監禁されていた影響が抜けてはいないようだったので俺は先立って船倉を出て甲板に向かって歩き出した。
この船にはもう他に反応がないのはマップで分かっている。
だから警戒する必要は全く無いのでサッサと外に出た。
くそっ。久しぶりに下手こいたなあ。
まあでもあの子達とは今後は会う事も無いだろうから受け入れるしか無いな。
母親が死んだ子は可哀そうだが孤児院とかに入る事になるだろうな。
もう一人の子も母親が生きている事を祈るばかりだ。
くそ海賊共が! 良くも俺の神経を逆撫でする様な事を仕出かしてくれやがったな!
残りの海賊共は生かして衛兵に突き出してやろうと思っていたが俺の手で引導を渡してやる!
残りの二隻の海賊共め! 楽に死ねると思うなよ!
『マスター。不必要に精神を荒げないで下さい。
周りにいる者達にも影響しますよ。』
うん? そんな事が起こるのか?
なんでだ?
『マスターの魔石操作のスキルに寄って周りにいる者達の魔石の状態が不安定になってそれが身体に影響するようです。』
オイオイ。そんな事初めて聞いたぞ。
じゃあ何か? 俺はおいそれと怒る事も出来ないのか?
『そういう訳でも有りませんが僅かでも影響が有るという事を頭の隅にでも留めて置いて下さい。』
分かったよ。出来るだけ自制する様に心掛けるよ。
それで良いんだろ?
『もう。そんなに投げやりにならなくても良いじゃないですか。ハゲますよ? 』
な、何を言ってるのかね? ヘル君?
ハゲる等という事は無闇に発言する事じゃあ無いぞ?
気を付け給えよ? ハハハ。
『ハイハイ、分かりました。気を付けます。』
そんな感じでなんかヘルに誤魔化された感が漂ったがまあいいだろう。
だが海賊共に対する怒りはまだまだ燻ぶっている状態だ。
きっちりケジメを取らせてやるよ。覚悟しな。
もう一方の船を探索したガッシュ達だがそちらには人質とかの被害者は乗っていなかったようだ。
そんなら残りの二隻の方かなあ。
まあゆっくりとあっちの船に向かうとしますかね。
+ + + + +
襲われていた商船の副船長のキールさんに後の事を任せてというか丸投げして俺達は残して置いた海賊船二隻の方に向かった。
近づいて見ると放置していた二隻の海賊船はやけに大人しい様子で海賊共が何か行動しているという風でも無い。
あれれ~? ちょっとヘルツーさん? 何かやらかしてませんか?
『ソンナコトナイヨー? おにーちゃんに言われた事しかしてないヨー? 』
そうですか? まあすぐに詳細は分かるか。
アルカロイド号をもう一隻の船の影になるように油断なく静かに近付けて海賊船の横に接舷してヘルを先頭にさっきと同じ要領で乗り込んだ。
俺もさっき同様にモニター越しに観察していたんだけど甲板に負傷して転がっていた海賊達の様子がやけに神妙な感じで無抵抗で素直に皆に捕縛されていく。
えぇ~? これは一体どうなってんの?
なんで奴等全員抵抗しないの? 捕まると大体死刑だぞ? 死ぬのが怖くないのか?
俺が疑問に思っている事は他の皆も同様みたいで首を傾げながらも全員を縛り上げていった。
その途中で分かった事なんだけど奴等が大人しかった理由はやっぱりヘルツーがやらかしたからだった。
ヘルツーは俺の命令で奴らの手足に一、二発のレーザー攻撃を撃つという時にただ風穴を開けるだけじゃなく十字模様になるように撃ち抜いていた。
奴等に取ってはいきなり帆がマストから落ちたと思ったら全員の手足に十字模様の聖痕が突如として現れたといった感じになってこれは神様の怒りに触れてしまったんじゃないかと錯覚したみたいだ。
それで多くの奴等が教会の聖句を唱えていたとか。
やけに信心深いみたいだけどそれなら最初から悪い事なんかするなよなあ。ホントバカばっかりか。
まあ実際はドローンによるレーザー攻撃だったんだけどそれを知らなければそんな風に思ってもしょうが無いね。
とまあ、思いもせず大した手向かいもなくもう一隻の方も同様に無抵抗で全員捕縛できた。
始める前はこいつ等を全員ぶっ殺してやろうと思っていたんだけどなんか拍子抜けだよなあ。
あ、そう言えば海賊の首領だか団長だかもちゃんと乗ってたらしい。
ヘルツーが念入りに偉そうにしていた奴には三、四か所にレーザーを撃ち込んでいたらしく出血はともかく手足が自由に動かせない状態でそこらに転がっていた様だ。
そしてその素性なんだけどやっぱり件の御曹司だったみたいだね。
だけど軽く聞き取っただけだが最初に船を用意するから海賊をやらないかと持ち掛けて来た黒幕がいるらしい。
となるとこんな海賊船を用意出来る様な結構な大物がバックに付いていると言う事なんだろうか。
まあこの後の取り調べは国の方にお任せしますかね。
俺達が詳しく取り調べても最後まで追い詰められるという訳でもないんだし。
まあそんな感じで俺達の海賊退治は終わったんだけどもこの後どう行動するかだよなあ。
まず海賊を含め海賊船をどうするかなんだがこのまま海の藻屑にしてしまうというのが一番簡単な方法なんだけどもそうすると今回被害に遭った商船の人達の賠償金が全く出ないという事になる。
死人に口なし、証拠も無しでは誰からも金は取れないよねえ。
と言う事で御曹司は生きたまま官憲に突き出される事が確定した。
ついでに船も売って金に換えられれば最悪それだけでも十分な金額になるだろう。
次にどこに突き出すかだが引き返して地元の官憲に突き出したら裏から手を回されて呆気なく釈放とかが有りそうで怖い。
そうしたら俺達の苦労はなんだったんだという事にもなり兼ねん。
従って連れていくのは俺達の国の港一択なんだけどもこっちはこっちで全然信用にならないしなあ。
最初に海賊騒ぎが起こったのは俺達の国の王女誘拐事件だしその時に全然役立たずな感じだったし。
どっちにするかと比べるとまあうちの国の方が多少はマシかなあと言うくらいだな。
しょうがないからそれで我慢しよう。うん。
そんな感じで商船の副船長のキールさんと話を纏めて俺達は海賊船を四隻数珠繋ぎにしてアルカロイド号で牽引していく事になった。
まあ海賊共の生き残りに船の操船をさせる訳にもいかないし商船にはそんな事が出来る程の推進力はないから当然といえば当然の事ではあるけれど。
だけど船を四隻も引っ張っていける性能が有るなんて事が港の人達に知られたらうちのアルカロイド号が変に注目を集めるのは否めないだろうなあ。ああ、ヤダヤダ。
商船の方には出来るだけ早い速度で港に向かってもらい衛兵とかへの事情説明をお願いして置いた。
そして俺達の方は引っ張っている船が事故らないようにゆっくりのんびりと進める事にした。
まあ今まで海賊退治をするって事でそれなりに気を張っていた事もあってちょっとした休暇だな。
皆も海賊船の方に移って船上での立ち回りなんかの訓練をしているみたいだ。ホント好きだねえ。
そんな感じでのんびり数日かけて目的地の港に着いたんだがなんだが想像していたのと様子が違う。
港の桟橋らしき所にはもうこれ以上乗れないんじゃないかという程の人だかりが出来ていて今にも海に落ちそうになっている人もちらほら見受けられる。
えぇ~? これどういう事~?
これってもしかして俺達の事を待ってるとか言うのか? マジか?
こんな大袈裟な事態になるとは全然思ってなかったわ。
こりゃ参ったね。キールさんに軽く口止めしといたのが全然役に立ってないじゃんよ。
でもまあ良く考えてみると今回俺達が退治した海賊達は元々は王女誘拐犯達だった訳だしそれを捕まえたとあっては国を挙げて表しない訳には行かんか。
あぁ~。やっちまったなぁ~。
これで国の上層部に目を付けられるかもしれんのか。あ~ぁ。
……うん? いや待てよ?
今の俺達のオウディーエンス王国での立場って総合ネットワークの特別監察官のチームって扱いじゃないか?
ちょっと前迄はフィールデン王国向けの傭兵っていう立場だったからなんか勘違いしていたな。
あぁ、助かった。安心したよ。
これで心置きなく堂々と港に入れるな。
おっと、そう言えば特別監察官の時は仮面を付けないといけないんだった。
忘れてたがギリ間に合ったな。ふぅ~。
+ + + + +
それからの俺達の対応は早かった。
俺達は政府側だから即刻衛兵達に後始末を丸投げして詳細はヘルを通して総合ネットワークから報告が回るように手配してサッサとフィールデン王国の港に引き返した。
海賊船の後始末なんてもう無視だ。好きにしてくれ。
船を最高速で飛ばしてその日の内にフィールデン王国の港に帰り付いた俺達は港町にある役所に出向いて特別監察官の身分をひけらかして海賊を討伐してオウディーエンス王国に引き渡した事を告げた。
こっちではまだその情報が行き渡っていなかったのか大層驚かれた。
だが数日の内にもっと驚く事になるんだよなあ。
大商会の御曹司が海賊団の団長だってんだからこの港町は上を下への大騒ぎになるだろうよ。
だけど俺達はそれに関わるつもりは毛頭ない。
そんなのは地元の治安部隊で頑張ってくれたまえ。
そんな事よりも俺達は自分達の馬車とかの方が心配だ。
ちゃんとディスは大人しくしていたのやら気が気ではない。
それに隠して置いた大金は無事なんだろうな。早く確認したくてしょうがないぞ。
俺達は次の日の早朝に宿を出て色々回収に向かった。
まあ心配した物は全部無事ではあったが。
そう滅多な事では無くならないですよとヘルは言っていたが額が額だ。
皆もちゃんと隠し場所に無事に置いて有ってやっと一息ついていた様子だった。
まあこれでやる事は全部やった感じなのでようやく俺んちの領地に恙無く帰れるってもんだ。
帰ったら暫くは家でゴロゴロしたいなあ。
なんて考えながら俺達はフィールデン王国からの帰還の途についたのだった。
あ、因みにアルカロイド号は船大工の親方に取り敢えず預けておいた。
また要る時が来るまでは好きに見て参考にしてくれとも言っておいたので有効活用してくれるだろうよ。
と、言う事でこの海賊団討伐事件が俺達のチーム【ハード・ロッカーズ】の名を歴史の表舞台に初めて記した物になった訳だ。
今思うとちょっと照れ臭いね。




