03-08-04 パイレーツ オブ フィールデン 逆撃の傭兵団
港町に潜んでいる海賊の仲間達を出し抜く為に面倒くさい策を実行に移した俺達は港から離れて沖合で時間を潰していた。
出航する船に見つからないように結構な距離を取っているが向こうから見えないって事は普通はこっちからも見えない訳なんだけど俺達にはドローン壱号・弐号という強い味方がいるので何も問題は無い。
そんなに距離を取っていたらいざ海賊の襲撃があった時に間に合うのかと思われるかもしれないが海賊の船もいきなり商船の近くに現れるという訳じゃあないんだから接近するのにも時間が掛かるよね。
俺達はドローンで海賊が商船を一生懸命追いかけているのを確認してからゆっくりと追いかけても船の速度が違うんだから余裕で間に合う計算だ。
まあ海賊が艦隊だという情報もあるので待ち伏せを仕掛けてくるのかもしれんがそれでもドローンを進行方向に先行させて置けば問題ないだろう。
そんな感じで商船と距離を取ってのんびりと船を進ませているとヘルが弾んだ声で報告してきた。
「皆さーん! 遂に海賊の奴らを捕捉しましたよー!
奴等が襲撃を掛けると同時にこちらも後方から仕掛けますよー!
準備は良いですかー?! 」
「おう! 」「はい! 」「良いです! 」
なんか皆のテンションもいつもより上がっているみたいだな。
まあ今迄結構な鬱憤が溜まっていた様だし無理もないか。
かく言う俺もその内の一人なのは言うまでもないんだけどね。
アルカロイド号を商船に向けて速度を上げて走らせながらヘルに襲撃の詳しい状況を聞くとこんな感じだった様だ。
最初は商船の後方に二隻の船が縦に並んで近付いて来たんだけど商船側では一隻だけの様に見えた事から海賊の船だとは思わずにのんびりと航行していた。
しかし近付いて来た船が二隻だと分かるとようやく海賊の襲撃だと気が付いて一番速度が出る風向きに進路を変えて逃亡を図った様だがいかんせん船には大量の積み荷が乗っているのでそんなに速度は上がらなかった。
それに海賊の方は襲撃前なんだから積み荷なんかないし同じ方向に向かえばいずれは追い付かれてしまう。
商船は進路をジグザグに進めながら通りがかりの他の船に遭遇してなんとか助けて貰えるかに一縷の望みを託して決死の抵抗をして見せた。
程なくして前方にゆっくりと進む二隻の船が現れてこれで海賊も諦めてくれるかと安堵したが海賊の追撃は収まらない。
海賊がやけに執拗に襲ってくるなんてそんなに切羽詰まっているのかと後方に注意を向けていると進路方向にいる二隻の船の動きがおかしい事に気が付いた。
前方の船はふらふらと進路を変えて商船の航行の邪魔になるように行動していた。
そこでようやく前方の船も海賊の仲間だと気が付いて商船は逃亡を諦めて船上で海賊を迎え撃つ決心を固めたようだ。
現在は後方から来た船二隻に左右両側から挟まれる形で接舷されて襲撃を受けている最中だが抵抗して結構粘っているらしい。
こりゃ早く行かないと海賊に商船の乗組員とか乗客を人質とかに取られる展開になって面倒臭い事になり兼ねんぞ。
俺は時間稼ぎにヘルにドローンを使って海賊船のマストに帆を吊り下げているロープを全て切断するように言った。
急に自分達の船に異常が起こったら襲撃の手も弱まるだろうと思ったからだがどうにか思惑通りに行った様で海賊達は動揺しているらしい。
このまま俺達が行くまで持てば良いんだけどな。
ところでなんで海賊達をドローンの攻撃で始末しないのかと言えばひとえに俺達の鬱憤晴らしの為だ。
こんなに手間をかけさせてくれた海賊共を自分達の手で直に始末しないでどうする。
ストレス解消しないと最悪ハゲるぞ。
まあ俺達は表向きには衛兵とかの公的組織ではなく善意の傭兵のチームという事になっているからこういう風に好きに対処しても誰からも文句を言われる筋合いじゃないからね。
でも俺も一応犠牲者は出したく無いという思いも有るには有るが商船側にも自己防衛という努力義務が当然有るんだからある程度は自分達で頑張ってもらわないとな。
なんて事を考えていたら船が目視できる距離まで近付いて来た。
俺は船を減速させるようにヘルに言ってから皆に最後の行動確認を行った。
「全員聞いてくれ!
これから海賊の襲撃現場に乗り込む前に最後の確認だ!
アルカロイド号を海賊船に接舷したら各自梯子やかぎ爪の突いたロープなんかで乗り移って好きに暴れてくれ!
但し二人一組でお互いを庇い合うのが前提だ!
こんな事で怪我とか死んだりなんかすんなよ!
それで船を奪われないように最低二人位船に残ってもらいたいんだがどうする?! 」
「私とガッシュは当然乗り込むわよ! 良いわよね?! 」
「リーナ、分かった! ラムドとベスはどうだ?!
出来ればどっちかが残ってくれると安心なんだが! 」
「すみません、ハーロック様! 私は攻撃班でお願いします! 」
「ボクも特訓の成果を確認したいので今回は攻撃班で良いですか?! 」
「分かった! それじゃあ二人で組んで当たってくれ! 十分気を付けてな!
サーラ、今回は俺と留守番組だ! それで良いな?! 」
「うん! ロッくん、分かったよ! 」
「ヘルは皆のサポートを頼むぞ! 危なそうなら手加減しなくても良いが出来たら船長か責任者っぽいのは生け捕りで頼むな! 」
「はい! マスター! 全力で当たります! 」
「良し! そろそろ接舷する! 皆頼んだぞ! 」
「おう! 」 「はい! 」 「久々に行くわよ! 」
最後に確認を終えた俺は銛撃ち銃を海賊船の船尾にある居住区らしき場所に打ち込んで繋いでいたロープを巻き取って抜けない事を確認して船が離れないようにした。
だがちょっと海賊船とは距離が離れ過ぎていて皆は上手く乗り込めないようだった。
ありゃ、こりゃ駄目かと思っていたらヘルが左手を伸ばしているので何かあるのかと見ていたら腕の上部がパカッと開いて何かワイヤーの付いた突起物がバシュッと飛んでいった。
ヘルは舷側の上部に突き刺さったそれを引っ張っても外れる事がなさそうだと確認するとワイヤーをギュィーンと巻き取って身体をフワッと浮かせるとササっと海賊船に乗り込んだ。
おいおい、ヘルの機体ってばあんなギミックまで搭載してんのかよ。
パンロックの奴はどんだけ機能を盛り込めば気が済むんだ? アホか?
まあ使う機会が有るんなら良いか。
それより今は乗り込む方が重要だ。
ヘルは船に結んでいたロープを掴んで乗り込んだようで直ぐに船を海賊船に横付けに固定した。
それからの皆の行動は素早かった。
サッと船に乗り込むと早速手当たり次第に海賊共を倒していった。
ところで俺は船に残っているのになんで見えない筈の船上の事が分かるのかというとヘルの視界やドローンからの映像をAR表示の画面で見ていてヘルに指示を出しているからだ。
俺はチームのリーダーであるからして戦闘を皆に任せてのんびりと遊んでいる訳じゃないのだ。
あ、そういえば先行している海賊船が逃亡しないようにこっちもドローン弐号のレーザーで帆を落として置こう。
ヘルツー、頼んだよ。
『はーい! 分かったよー! でもこっちの海賊は倒さなくても良いの~? 』
そうだな。帆を直されても面倒だから手足に一、二発当てとくか。
でも殺さなくても良いぞ。それは後のお楽しみに取って置くからな。
『ラジャー! 』
そんな感じで向こうの映像も確認しながら待っているとヘルから連絡があった。
『マスター。こっちの二隻には海賊団の団長は乗っていないみたいですね。
あっちの船に乗ってるんでしょうか。 』
ヘルが捜索してみたが襲撃側の船には乗っていないみたいだな。
だったら普通は監督目的で向こうの船に乗っているもんだと思うがなんかこの団長だかはやけに慎重な奴みたいだしもしかしたら今回の襲撃には同行していないのかもしれんな。
そうこうしている内に襲撃を掛けていた海賊共はあらかた排除出来たみたいだ。
商船の方にも結構な数の被害者が出た様だが仕方ない事だと諦めてもらうしかないな。
まあ怪我人はサーラに診て貰えば有る程度の者は命が助かるかもしれんからちょっと頑張ってもらうか。
そういやサーラが自身のスキルで役に立つのって滅多になかった事じゃね?
今回の事件が大々的に活躍できる最初の機会となるだろうな。
乱闘が収束したのを確認したのでもうアルカロイド号の番はいらないだろうとサーラを伴って海賊船から乗船して商船に移乗して責任者らしき人と面会した。
「どうも、私がこの傭兵団のリーダーのロックです。
そちらがこの商船の船長殿でよろしいですか? 」
「いえ、違います。私は副船長のキールです。
船長は海賊との戦闘で怪我をして今は手当てをしている所です。」
「そうですか。
手当ての人手は足りてますか?
良ければこちらのサーラが医術のお力保持者なので手伝わせましょうか? 」
「えっ?! それは本当ですか?!
でしたら是非ご助力頂きたい! 」
「はい、分かりました。
サーラ、そういう訳だから怪我人を診てやってくれ。」
「ええ。了解したわ。
じゃあ、キールさん。怪我人を一ヶ所に集めて下さい。
それと包帯になりそうな布と糸と針。
後は強めのお酒を用意してください。」
なんかサーラが今迄になくキリっとした表情でテキパキとキールさんに指示を出している。
あ、これは例のスキル使用時の状態だな。
ならここはサーラに任せても大丈夫だろう。
俺は海賊船の内部の捜索と制圧に行っているヘル達の方に向かうか。
海賊船も搭乗員全てが戦闘に参加していたという訳ではないだろうからな。コックとかね。
いやむしろコックは戦闘に積極的に参加しているような気がしないでもない。
まあ念の為と何かお宝を隠し持っているという状況がワンチャンあるかもと思ってヘル達に頼んでいたんだ。
俺には今の商船でやれる事は特にないだろうからそっちを手伝おう。
海賊船に戻って開けっ放しの扉に近づいて中の様子を窺う。
ヘルツー。索敵状況をマップに出してくれ。
『了解ー。赤点が不明人物でーす。』
ありがとさん。
さて、なんか良い物が有りますように。
そんな事を思いながら新人君をホルスターから抜いて身構えながら中に侵入していった。
~ ~ ~ ~ ~
私が乗っている海賊船が岸を離れたのが船の揺れ方が変わった事で分かった。
また海賊達が船を襲いに出航したみたい。
私とお母さんみたいな人達がまた生まれるんだと思うと凄く悲しくなって涙が溢れてきた。
なんで私が海賊船に乗っているのかというと簡単に言うと攫われたから。
私とお母さんはお父さんが事故で死んでしまったのでお母さんの実家に出戻りする事になった。
その時に船で移動していた所為で海賊に襲われて拉致されてこの船に連れてこられた。
単に運が悪かったと言ってしまえばそれだけなんだけどなんで私達なのかと思う事もあった。
そしてお母さんは攫われて幾日も経たない内にあっさりと死んでしまった。
お母さんには船上の生活が合わなかったみたい。
そして何故か私は全然平気みたい。
なんでなの? 私もお母さんと一緒に死にたかったのになんで大丈夫なの? 意味が分かんない。
ところで私達が攫われた理由は船に乗っている海賊達のご飯を作らせる為だったようなんだけど当てにしていたお母さんは早々に死んでしまって人質として連れてきた私はまだ子供なのでご飯は到底作れません。
なのでもう用済みな筈なんだけどなんでか生かされている。
あれかしら。奴隷として売るつもりなのかもしれない。
まあなんにせよ、今私は生きていて船倉に押し込まれている状態なわけです。
久しぶりに海賊船がお仕事をやりに出港してしばらくして目当ての船を見付けたのか船上が慌ただしくなったと思ったら今迄になく大きな怒声なんかが聞こえてきた後に急に静かになった。
こんな事は初めての事なので私は船倉の隅で同じように攫われてきていた子と抱き合って震えていたら誰かが扉を開けて入ってきた。
「オイ! そこに隠れているのは分かってるぞ!
素直に出てくるなら痛い思いをせずに始末してやるから安心して出て来い!
五つ数える内に出てこないのなら嬲り殺しだ!
さあ、いーち、にー、さーん、しー……。」
なんなの?! なんでいきなり殺されるの確定なの?!
それに五つ数える内にって時間が短すぎない?!
と、とにかく何か返事をしなければ殺されちゃう!
今はしばらく前に連れてこられた抱き合っている子がいるんだから死ぬ訳には行かないわ!
「ま、待って! 殺さないで!
今出て行きます! 」
私は抱き合っている子と一緒に物陰からそろりそろりと出て行った。
するとそこにはまだ若いお兄さんが一人で立っていた。
そしてバツが悪そうな顔でこっちを見ていた。
これが私ことメインとハーロックさんが初めて会った時の状況です。




