03-07-10 異世界魔法王女ティアフォーラ エクソダス! 「魔法王女 爆誕!」
「うわーーん! 遅刻、遅刻ーー!!
アン! なんで起こしてくれなかったのよーー!! 」
『だから言ったじゃないの。
今は総合ネットワークと同期が出来ていなくてタイマー機能が使えなくなってるから朝の目覚ましは期待しないでって。』
そう言えばそんな事を昨日アンが言ってたような気がする。
アンは私が忘れていたのに気が付いて呆れたような顔をしてこちらを睨んだ。
私は気不味くなったのでちょっと顔を背けてしまった。
今私と話をしているのはアンといってトンボのような羽が生えた小さな妖精よ。
私の顔の高さで走るのに合わせてフワフワと浮いて付いてくる。
妖精と言えばお伽話に出てくるのが定番なんだろうけどアンは私の小さい頃からの友達なの。
まあ本当は実際には存在しなくて私だけに見える幻のような物なんだけどね。
だから今みたいに口に出して喋らなくても心の中で考えただけでアンには伝わってしまうので最近はちょっと困っているわ。
なんでかって?
そんなの男の子の事に決まってるじゃない。
最近うちの図書室に所蔵してあったマンガや小説にはまっているんだけど私がそれに出て来るカッコイイ男の子に夢中なのを見て現実にそんな子はいませんなんて言って来るんだもの嫌になるわ。
良いじゃない。ちょっとくらい夢を見たって。
だって私は多分好きな男の子とは結婚なんてできないんだし。
理由は主に政治的に有利な相手としか結婚が許されないと思うから。
なんでこんな面倒な事になっているのかと言うと実は私が王女だからなの。
皆に改めて自己紹介をするわね。
私はフィールデン王国の王女をやっているわ。
名前は【ティアフォーラ・フィールデン】というの。
親しい人にはティアちゃんと呼ばれているわ。
皆も遠慮なくティアちゃんと呼んでね。
話は戻るけどアンから顔を背けて走っていたら通りの角から出て来た人と出会い頭に衝突してしまった。
私は口に咥えていた朝食代わりのパンを喉の奥に突っ込まれてついでに尻餅も付いたわ。
相手の人は男性でまだ若く私ともそんなに歳は離れていないみたい。
優しい人のようでぶつかった事に対して特に怒る事も無く転んだ私に手を差し出してくれた。
出された手を取って立ち上がって男性の顔を改めて見てみると凄いカッコイイ人だった。
名前はなんて言うのかと思って頭の上の【氏名表示】を確認するとなんと【ロック・ザフリーダム】と表示されていたので驚いたわ。
だってこの名前には最近聞き覚えがあったから。
ちょっと前に兄の友達のビッグ・ワンダーが兄に愚痴を言っていたのをチラッと聞いた時に聞こえた名前だ。
その時にこいつは悪い奴だみたいな事を言っていた様な気がする。
うん。この人は悪い男の人だ。
いわゆる詐欺師だ。それも結婚詐欺師に違いない。
なんでそれが分かったかと言うと理由は一目瞭然。
彼は周りに奇麗な女の人を沢山侍らしているからだ!
チクショーメ! やっぱりカッコイイ男の人は美人の女の人も放って置かないよねえ。
今から知り合っても歳の差もあるし間に合わないよねえ。
あ~あ。なんで運命様はこんな出会いを私にさせたんだろう?
あっ! もしかして本当に彼が運命の人だからかもしれない!
『ちょっとティア! 汚い言葉を使っちゃいけないと何度も言ったのを忘れたの? 』
えっ? ああ、ごめんなさい。つい出ちゃったわ、エヘヘ。
『笑って誤魔化しても駄目よ! ホントにもう!
やっぱり勉強の役に立つかと思ってマンガや娯楽小説が図書室に有る事を教えたのは間違いだったかしら。』
アン、なに言ってるのよ?
そのお陰で色んな言葉を覚えられて仕事のお手伝いも出来るようになったんじゃない。
今日もこれから武闘大会にお仕事のお手伝いをしに行く所でしょ。
『あっ! ソレよ! 今遅刻しそうだったんじゃないの? 』
あっ、そうだった!
もう! これもそれも彼がカッコイイからいけないんだわ!
責任を取って結婚してもらわなくっちゃ!
『なに言ってんだか。
取り敢えず彼とは後で武闘大会の会場で会えるみたいだからとっとと行くわよ! 』
は~い。分かりました~。
ダ~リン! 暫くお別れだけど待っててね~!
私は後ろ髪を引かれる様な気持ちを残しながら彼と別れて闘技場に向かって走り出した。
+ + + + +
私の今日のお手伝いの仕事は会場のウグイス嬢よ。
これは第一に声が良くないと出来ないんだからね。エヘン!
私の声は小鳥がさえずる様だと皆に言われてるんだから!
取り敢えず今日のお仕事の打ち合わせが済んだと思ったら直ぐに試合が始まるみたい。
予選は決着が付くまで時間が掛かるようだから巻きで行かないといけないみたい。
予選一試合目が始まったので今日の予定表を見ながらチラッと確認したら彼が出場していた。
それも魔術師として。
試合開始からそんなに時間が掛かる事も無く彼は圧勝していた。
私もこれまでに武闘大会を何回も観戦したが魔術師が活躍しているのを見たのは初めてだった。
彼が本物の魔術師だという事が良く分かった。
スゴイ! スゴイわ! やっぱり私のダ~リンなだけはあるわ!
『誰が私のよ? 』
ウッサイわね、アン!
今ダ~リンの雄姿を目に焼き付けているんだから静かにしててっ!
『ハイハイ。
でもあんな魔術をホイホイと連発していたのを見るとあの杖は凄い業物なんじゃないかしら。』
えっ? あれって杖の性能のお陰なの?
『半分はそうね。
良い杖だとしてもそれを上手く使えるかというのは持ち主の技量に依存するからね。
彼は多分国家魔術師並みよ。』
ええ~?! それ本当? だとすると彼は将来安泰ね!
これは是が非でもお嫁に貰ってもらわないとだわ!
『まだそんな事言ってるの?
そんなに優秀な彼を他の女性が放って置くわけないじゃない。
もうきっと売約済みよ。
一緒にいた女性達を貴方も見たでしょ。』
大丈夫よ! 彼は私に手を差し出してくれた位イイ人なのよ!
あの人達も優しくされて自分に気が有ると勘違いしてしまっただけだと思うわ!
『はぁ~。自分がそれに含まれないと思ってるのは貴女だけね。』
ウッサイわね、アン!
私は王女なのよ! 王族パワーを使ってでも絶対に彼を取り込んで見せるわ!
『うわぁ~。貴女の読んでるマンガに出てくる嫌な王女丸出しじゃないの。
そんなんじゃあ彼に嫌われちゃうわよ? 』
ウッ?! やっぱりそうかしら?
でもでも私は既に出遅れちゃっているんだからなんとか巻き返すには手段を選んではいられないと思うんだけど。
『そうねえ。だったらこの武闘大会後も会えるようになに事か接点を作ったらどうかしら?
そうすれば次第に仲も深まっていけるかもしれないわよ。
まあ確実ではないけれどね。』
接点を作るのは良いけれどどうするの?
私個人じゃあ大した繋がりは保てないんじゃない?
『それこそ王族パワーを使いなさいよ。
彼は本戦に勝ち残ったんだから優勝披露パーティに出る資格は有るんだから上手く誘い出してそこでお話でもすれば良いじゃない。
パーティに出ないようならばさっきの王族パワーで無理矢理招待するとかしなさいな。』
その手があったか!
さすがアン! 頼りになる~。
『それ程でも無いわよ。』
+ + + + +
武闘大会も本戦に進んだわ。
早速一試合目に彼が出て来たので興味津々で見ていたんだけど対戦相手の例のビッグ・ワンダーが試合が始まったと思ったら直ぐに倒れてそれでお終いだったの。
彼の魔術の技が見たかったんだけど拍子抜けよね。
彼は二回戦目で同じチームの女の子との対戦だったんだけどなんだかワザと負けてあげたみたい。
やっぱり彼は女の子には優しいのね。
そんな事しているから周りに勘違いした子が大勢群がって来るのに。もう!
でも彼らしいと言えばそうよね。
そんな事を考えていたら彼は会場にいる人達と喧嘩を始めてしまった。
女の子を庇ってという感じなんだけど魔術を使ってのお仕置きはちょっとやり過ぎな気もする。
お陰で観客席は大騒ぎになってしまったんだけど騒ぎを鎮めるのを彼に頼んだら又違う魔術を使って会場を静かにさせていたのでビックリした。
彼はどれだけの魔術が使えるのか見当も付かない。
規格外にも程があると思う。
こんな人が今迄国内にいたとしたらもう既に話題になっていてもおかしくないと思うから外国出身なのかしら。
『そうみたいよ。
カイが彼の事を人を使って調べさせたようなんだけど最近になって地方の村に修行の旅に出ていると言って暫く留まっていたそうよ。』
カイって言うとお兄様のパートナーよね。アンみたいな。
そうかあ。だから私を見ても最初は普通に接してくれていたのね。
+ + + + +
その後の武闘大会は波乱もなにもなく進み終了した。
優勝は彼のチームメイトの男の人だった。
三位の同じチームの女の人とカップルみたいだったのでライバルが減って言う事は無いわね。
彼を優勝披露パーティに誘うのに都合が良い結果だったので運命様も私の後押しをしてくれているみたいだわ。
早速お家に帰ってパーティの準備をしなくっちゃ。
取って置きのドレスで着飾って彼に猛アピールするわよ!
『貴女が着飾ってもねえ。』
ウッサイわね、アン!
だったら他にどうアピールしたら良いのよ!
『貴女が今ハマっているマンガや小説の話でもしたら?
それだったらいくらでも話が出来るでしょ。』
そんなので喜んで私とお話してくれるかしら?
『まあ私もサポートしてあげるから取り敢えず頑張ってみなさい。』
は~い。頑張ってみるわ。
+ + + + +
お家に帰ってパーティの準備も終わってさあ勝負と思っていたら兄様が話しかけてきた。
「やあティア。武闘大会のお仕事お疲れ様でした。
それで大会の方は面白かったかい? 」
「兄様! ええ、とっても有意義なお仕事でしたわ!
特に彼に会えた事が一番のご褒美でした! 」
「うん? その彼っていうのは誰だい?
僕の知っている人かな? 」
「ええ、まあ。
名前は確実に知っていると思いますわ。
前にビッグ・ワンダーがお兄様に愚痴っていたロック・ザフリーダムさんです。
彼はとっても優しい方で言われていた様な悪い方ではありませんでした。
ビッグさんには厳重に抗議しないといけませんね。」
「ふ~ん。なんだかティアは彼を見る目にフィルターが掛かっているようだから余り当てにはならないね。
カイ、アンと直接話せるように通信を繋いでくれないか? 」
『ああ、これで話せるぞ。』
急に男の人の声が聞こえたと思ったら兄様の肩の上に天使の羽を持った翼人が姿を現した。
大きさはアンと同じ位で彼はアンと同じようにお兄様に付いているパートナーね。
普段は相手のパートナーとは直接話せないので余り面識はないんだけどちょっと怖い感じの人だ。
兄様がアンと直接話をして彼が魔術師として比類なき存在だという事を認識した所でカイが彼の持っている杖に付いても聞いてきた。
アンは情報を包み隠さず全て開示してしまったので必然彼の持つ杖に注目が集まってしまった。
私は彼に迷惑を掛けたくなかったので杖に付いてどうこう言いたくはなかったんだけど兄様達にとっては杖の方が重要みたいでどうにか手に入れられないかと相談していた。
私も国に必要だと言われれば手伝う他はなく嫌々ながら彼との商談に立ち会う事になった。
と思ったんだけど彼に会ったとたん彼が急に体調を崩して倒れてしまった。
彼は暫く休憩した後パーティを早引きしていった。
ただ彼と楽しくお話したかっただけなのにどうしてこうなった?!
でも改めて彼とは商談の場を設けるって事は約束できたのでその時にでも又お話したいなぁ。
+ + + + +
あれから何日かして彼との商談の日になった。
彼は護衛の全身鎧の人とちょっとふっくらしたエロい女性を連れて商談にやってきた。
やっぱりこのエロい女性は彼の事を見張る目的で付いてきたんだろうな。
兄様はこの女性のエロさに参ってしまったみたいで目線が胸元へと行ったり来たりしている。
こんな分かり切った誘惑に翻弄されるなんて兄様も情けないわね!
そんな事とは関係無く商談は順調に進んでいたと思ったら突然お父様が商談に乱入して来た。
それどころか彼の事を人質にしてしまえなんて暴言まで吐いてしまった。
このクソ親父がーーっ! と一瞬思ったが良く考えてみると彼を自分のモノに出来るかもしれないって事に気が付いたがやっぱりそんな事したら彼に嫌われちゃう可能性の方が高いわよね。
はぁ~。迂闊に発言しないで良かったわ~。
もうこのクソ親父っ! コロしちゃうぞっ!
『ティア! またそんな言葉を使って!
でもまあ今のは私でもそう思ったからノーカンにしてあげるわ。』
クソ親……お父様と過激なお話し合いを暫くしていたら急に兄様が立ち上がってクソお……お父様の事を乱心したと言って近衛の人達を使って塔に幽閉しちゃった。
グッジョブ! 兄様!
もうこのまま王権を簒奪しちゃっても良いんじゃないかしら。
それから彼とは商談を仕切り直して夜まで話し合いを行ったわ。
私は眠たくなって来たので途中で中座しちゃったけれど彼が私専用の杖を特別に作ってくれる事になったので大満足よ!
そう彼は杖も自分で作れちゃう飛んでもない人だったの!
でもこれは皆には秘密にしないといけないからここだけの話ね。
+ + + + +
「行くわよっ、アン! サンダーブレイクッ! 」
「イエス、マム。サンダーブレイク、イグニッション。」
私専用の杖の宝玉から雷のような稲妻が迸り標的を撃ち抜いた。
今日は彼に貰った杖の試し撃ちをやっているところよ。
彼から貰った杖には天使の羽と輪っかが宝玉を守るように付いている形でマンガにも似たようなのが出ていたから初めて見た時から凄く気に入ってるわ。
性能も今見たように物凄くて大満足よ!
ちょっと気になるのは宝玉の制御を行っているアンが片言でしか宝玉から音声を出せないところね。
アンに理由を聞いたら定番ですからという返答があったけどどういう意味かしら?
まあそんな事はどうでも良いわ。
これで私ももっと魔獣や悪い人達に対して対処することが出来て役に立てるようになった。
「これからももっと頑張って行くわよ! アン! 」
「イエス、マム。」
~ ~ ~ ~ ~
俺が作った杖の宝玉からの定時報告を確認していたらアホ毛姫が頑張っている所がAR表示画面に映された。
俺が杖を作って売るのに普通の杖で済ます訳ないだろ?
杖の宝玉にヘルのAIの劣化コピーを移植して常時情報収集するように設定して置いた。
杖の製造依頼に宝玉に細工をしてはいけないなんて取り決めは無かったから俺の好き放題にさせてもらった形だ。
でもまあ杖なんてそんなに持ち歩かないんだから得られる情報もお察しである。
唯一常時持ち歩いているアホ毛姫の日常報告を見るのが最近の楽しみになっている位だな。
だけどこれって編集したら面白いお話になるんじゃね?
まあ暇になったらやっても良いな。
そんな事を考えながら馬車に揺られて実家への帰路を急ぐのであった。
第七章 異世界戦闘倶楽部の物語 end




