03-07-05 武闘大会も大詰め
本戦二回戦はその後も順調に進んでリーナとガッシュも無難に勝ち残っていた。
今回の大会で四強の内三人が俺達のチームの者だというのは十分誇れる事だろう。
もしかしたら決勝も同門対決になるかもしれないな。
そうなったら【フィールデン パワーズ】の奴等は面目丸潰れだろうな。
明日から小さくなって外を歩かなきゃならないかもしれんぞ。
まあそんな事はどうでも良いか。
今問題なのはサーラがさっきの俺達の試合中にベスが口走った戯れ事を真に受けて俺にくどくどと説教をしてくる事の方だ。
なんで変な事を言ったベスじゃ無くて俺に文句を言って来るのか納得がいかないがまあ甘んじて受けておこう。
逆らうとどんな結果になるか分からんからな。
最近のサーラはなんか鬼気迫っていてちょっと怖いんだよな。
なんか拗らせているのかね。
これはママンか姉さんのスキルで精神的な問題を解決してもらった方が良いような気がする。
王都に戻ったらいの一番にやってもらおう。
それまでは出来るだけ波風を立てないようにしないとな。
はあ。次から次へと問題が出てくるなあ。
『マスター。仲間と旅をすれば色々問題が出るのは当たり前の事です。
それをどのように解決するのかも旅の楽しみに出来ないと旅など長く続けられませんよ。
もう少し頑張ってみましょう。』
ハイハイ。分かりましたよ。ヘルさんや。
でもサーラの事って特に旅だから起こったという様な問題じゃないんじゃね?
こいつってば前からこんな感じだったような気もする。
旅に出てそれが顕著になっただけのように感じるんだけどその辺はどう思うよ。ヘル。
『そうですねえ。そうとも言えますかねえ。
ですがマスターが領地にいた頃は引き籠りがちで家族を除けば特にサーラさん以外の女性とは話もしなかったじゃないですか。
ですからサーラさんは安心しきっていたみたいでその頃は有った心の余裕が最近は無くなってきてしまったんでしょう。』
なんか俺が浮気をしているみたいな言いようだが俺とサーラはまだそんな関係じゃないぞ。
『そう思っているのはマスターだけです。
周りの皆さんはもうとっくに将来を誓い合っているもんだと思ってますよ。』
な、なんだと……。
い、いつからそんな風に思われていたんだ?
『そうですねえ。
ああ、旅にサーラさんが付いて来てくれる事になった時からですね。
その時にマスターが告白でもしたんだと思われている様です。
まあ危険な旅に女性が付いて行くというのは得てしてそういう関係だと思われても仕方ないでしょう。』
そ、そうだったのか……。
俺はもう告白したと皆に思われていたのか。
だとしたらサーラのこの態度も仕方ないものだと言えなくもないのか。
なんか俺はこのままサーラと結婚しないといけないのか?
『まあ、そうなりますね。
危険を冒してまで旅に付いて来てくれた彼女を捨てて他の女性と結婚したとしたら振られた女性はもう手が付いていると思われても仕方ないので未亡人のような扱いになってしまいます。
そんな事をした男性も振った女性の家族に面目が立ちませんので故郷を離れなくてはならないでしょう。
そうならない為には最低でも女性を第一夫人にして新しい彼女は第二夫人にするしかないですね。
まあそんな事が出来るのは貴族かお金持ち位ですが。
マスターはどちらの条件もクリアしているので心配無用ですよ。』
なにが心配無用だよ!
そんな事したら周りに総スカンされるだけじゃないか!
はあぁ。俺の未来はもう決定してしまったのか。
ん? いや待てよ? ここでもしサーラが俺を見限って他の男になびいたらどうなるよ?
それなら問題が無くなるんじゃね?
『残念ながらサーラさんが他の男性を好きになる事は到底考えられません。
無駄な希望を持っててもしょうがないですよ、マスター。』
そんな事はない! 希望は常にあるんだ!
これからはサーラを色男とくっ付ける事に全力を注いでいくぞ!
『無駄な足掻きを。男性はいつもこんな感じなんですかね。
がっかりです。』
+ + + + +
俺とヘルがサーラの説教中に内緒話をしている内にリーナとガッシュの試合は既に終わっていて次のベスの試合がもう始まりそうだ。
おい、サーラ。皆の試合を応援しなくてもいいのか?
俺の質問にサーラは勝つのが分かっているんだから見る必要はないと言ってきた。
仲間に対して凄い信頼だな。
俺は二人が勝つ事に確信を持てなかったんだけどそこまで言える理由とかがサーラには有るのか?
サーラが言うには対戦相手の試合を見ていたらそんな事は馬鹿でも分かるんだと。
そうか。俺は対戦相手の試合なんか特に見てなかったからな。
分からなくても仕方ないよな。
サーラが暗に俺が馬鹿だと言ってる様な気がするのは俺の気の所為だよな。
そうだよな、ヘル?
『さあ、どうでしょうか。』
ふぅ~。いや、これで良いんだ。
サーラが俺に愛想を尽かして離れて行く最初の一歩だと思えばどうという事も無い。
だがもうこの事に関する話は止めよう。
俺の精神を悪戯に傷つけても良い事は無いしな。
次のベスの試合に集中しようよ。
サーラもそれで良いよな?
だがサーラはベスにもなにか思う事でも有るのかあまり良い顔をしない。
なんだ? サーラとベスってそんなに仲が悪かったのか?
今まで全然気が付かなったぞ。
どうなんだ、ヘル?
『そうですねえ。
今まではエリザベスさんの方がサーラさんに気を使って波風が立たない様にしていたんですが先の試合中に身体を差し出す云々という事を口に出してしまいましたから敵認定されてしまったのかもしれませんね。』
ああ、そうだったな。
しまったな。俺が変な話をベスに振ったからこんな事態になってしまったのか。
もうこうなったら俺が全責任を取るしか道は残されていないようだな。
「サーラ。ちょっと聞いてくれ。
さっきの試合中の会話は実は俺の仕込みだったんだよ。
俺は試合を棄権しようとしたんだが大会関係者からどうにか試合の形を取って負けてくれと言われたんだ。
だが俺もただ舞台に上がって負けましたと言うのもなんだと思って一芝居打ってからにしようとベスに頼んだんだ。
だけどベスも大勢の前でいきなり芝居をするって事で舞い上がってしまったみたいで下手に盛り上げようとして変な事を口走ってしまったんだろう。
だから本当はあんな事は思ってもいない筈だ。
試合が終わって帰ってきたら本人に聞いてみれば分かるだろう。」
「ロッくんがそう言うなら聞いてみるよ。
だけどエリザベスちゃんもロッくんの事が好きみたいなのは前から分かってたんだからあんな事言われたらそう取ってもおかしくないんだよ。」
「は? 」
「えっ?! 分かってなかったの?! 」
ええーー?! そうなの?!
初耳なんですけど!
『マスター。どこまでニブチンなんですか? 』
『ニブチン、ニブチンー。』
「バ、カ、メ。」
ウワァーー?! ヘルツーどころか聞いてない振りをしていたリーナにも馬鹿にされたよ?!
ガッシュとラムドは巻き込まれないようにか控室の隅の方に避難していて二人でコソコソと話し合っている。
ここは一体どんな地獄なんだ?!
神は俺を一体どうしようというんだ?!
俺は真っ赤な顔をして羞恥心にさいなまれた後にガックリと膝をついて両手を地に付いた。
俺はこの後ベスが試合を終えて帰って来た時にどんな顔をすれば良いんだろうか。
誰か教えてくれないかな。あ、駄目ですか。そうですか。
そうこうしている内にベスが試合を終えて控室に帰ってきた。
あっ?! 結局ベスの試合を見損ねてしまった!
試合結果はどうなったんだ?
「……えへへ。負けちゃいました。
済みません、ハーロック様。
折角私の為に勝ちを譲って下さったのに結果を残せなくて。」
「うん? いや、そんな事はどうでも良いよ。
それよりもどこか怪我をしていないか?
大丈夫か? 痛い所が有ったらサーラに言って治療して貰えよ。」
あー。試合を見てなかったから上手い事フォロー出来んぞ。
どうする? あ、ヘルは見てたんじゃないか?
ちょっと詳しく教えてくれ。
それかヘルがフォローしてくれても良いぞ。
『ええまあ。一応見てましたけど。』
「はい。大丈夫です。ぐすっ。
ちょっと痛いだけですから。
明日にはきっと治ってますよっ、こんなの。」
「そうか? 無理するなよ。
サーラ。念の為診てやってくれ。
良いか? 」
「……うん。ロッくん。分かったよ。
エリザベスちゃん、こっちに来て。
診てあげるから。」
「済みません。お願いします、サーラさん。」
サーラはさっき迄のわだかまりを捨ててベスの怪我を診てくれるようだ。
すまんね。情けないリーダーで。
やっぱり俺にはリーダーなんて向いてないのかもしれんな。
控室の中は皆がバラバラに過ごしていて全然纏まりが有るようには見えない。
『マスター。なにを今更当たり前の事を言ってるんですか?
マスター達は軍隊ではなくてチームなんですからバラバラで良いんですよ。
例えば軍隊というのは戦闘に勝つという一つの方向に向けて一丸となって向かう事に特化しているのに対してチームというのはそれだけでどんな問題にも対処できなければいけないので色々な個性の者が集まって出来ていないといけないんです。
まあこのチームは物理攻撃と魔法攻撃に偏っていてなんでも出来るオールラウンダー的な役割の人がいませんから不完全なんですけれどそこはしょうがありませんね。
マスターは結構上手くやっていると思いますよ。』
そうかねえ。まあその事は良いからベスのフォローをしてやってくれよ。
俺はガッシュとリーナの試合に集中したいからな。
ベスの事をなだめている内に二人は既に呼ばれていて舞台に向かっていた。
手にはいつも二人で模擬戦をやっている時に使っている木刀だ。
この大会はなんでも有りの試合だと前に言っていたと思うが使う剣等も真剣から木刀まで好きに使って良いとされている。
まあ普通の参加者は他の人に遠慮して模擬剣等を使っているが自分がいつも使っている得物が特殊だと試合で他の物を使うと実力が発揮できないなんて事もあるのでそういう人は自分の剣を使う事が多い。
逆に今回のように事前に話し合って極力怪我しないようにと木刀を使うなんて事も参加者の自由だ。
観客も別にどうしても血が見たいという訳でもなくそこにこだわりはないみたいで特に文句は飛んでこない。
二人は舞台上で静かに向き合って立っていた。
そして審判員の合図によって二人の試合は静かに始まった。
まあいつも練習試合をしているので相手の手の内なんか全部知っているしもし急に剣筋を変えて来たら粗が出て逆に相手が有利になってしまうだろう。
いつもの練習のように静かに始まった試合だが段々と力が入ったものに変わっていく。
ここから流派によらない個性がでた剣筋になってきてリーナは奇声を挙げ始めガッシュはより基本に準じた堅いものになってきた。
どちらが強いのか。
それは時の運といった所だろうか。
次第にリーナの動きに精彩がなくなってきた。
やっぱりガッシュの二回戦の相手がヘロヘロな状態で特に疲れる前に決着が付いたというのが大きいんだろうな。
しばらく続いた試合も急に終わりが来た。
ガッシュの木刀がリーナの頭の上で寸止めされている。
そのままの姿勢で二人は暫く止まったままでいたがリーナが参りましたと言って審判員のおっちゃんがガッシュの勝利を宣言して試合は終わった。
二人は舞台上で何事かを話した後なんと腕を組んでバカップルっぽいのを観客に見せつけながら控室に帰ってきた。
これってあれかな。
俺に仲が良い所を見せつける為にやってるのかな。
やっぱりそうだろうな。
帰って来た二人は俺の顔を見てこうやるんだよと言っている風な態度だった。
あのさあ。俺は別にサーラともベスともどちらともそんな関係ではないんだよ!
そんなの見せ付けられてもなんの参考にもならないんだよ!
なんかこいつら本当のバカップルにしか見えなくなってきたな。
取り敢えず武闘大会の方は決勝進出者が決定して後は決勝一試合を残すのみとなった。
決勝までは少し休憩を挟むようで時間を取るようだ。
そうアナウンスでアホ毛姫が放送していた。
結局この子も最後までしっかり仕事をこなしていて立派なもんだ。
俺があのくらいの頃はまだガッシュとサーラの三人で遊び回っていたよな。
あの頃はまだ好きだ嫌いだなんて関係なくただの友達としての付き合いで満足していたと思うのにいつからそんな事にこだわる様になったんだろうか。
ああ、そうか。
俺は転生者でその頃のガッシュとサーラは小さな子供でしかなく将来恋愛対象になるなんて思ってもいなかったんだな。
だからベスからのアプローチにも気付けなかったのか。
凄く納得だ。
それにあれも関係しているのかもしれない。
あれだよ、あれ。パンロックの記憶を移された件だよ。
ただでさえ転生者だというのにジジイの記憶まで重ねられたらそりゃ精神も枯れる訳だよ。
俺ってこれから本当に人を好きになる事が有るんだろうか?
我ながらちょっと心配になって来たぞ。
俺が一人落ち込んでいるとやっと決勝戦が始まるようだ。
ガッシュはリーナとの試合が良い具合にウォーミングアップになっていたようで調子はバッチリなようだ。
意気揚々と舞台に向かっていった。
相手は今迄特に気を配っていなかったが【フィールデン パワーズ】に所属する選手のようだ。
今まではビッグの影に隠れて目立っていなかったがやっと日の目を見たという感じか。
ビッグよりも弱いといってもうちのベスに勝っているんだから実力は本物だろう。
これは良い試合になるんじゃないかと思っていたら開始して直ぐにガッシュが勝利してしまった。
えっ? なんで? と疑問に思っていたらヘルが教えてくれた。
理由は簡単でベスとの試合中に身体を痛めてしまっていたという事らしい。
ああ、俺はその試合を見てなかったからね。
見当外れな事を言っても仕方ないよね。
相手はベスとの試合で全力を出し過ぎてしまっていて後の事まで気にしている余裕がなかったんだとさ。
お陰でベスにはどうにか勝てたがそれ迄だったという事か。
うーん。この大会って結局ガッシュが凄く運が良かったねっていう事でしかなかったって感じじゃね?
まあ、運も実力の内って言うし結局そういう奴が生き残っていくんだろう。
見方によってはガッシュの方が物語の主人公っぽくもあるよな。
良く考えたら両想いの彼女がいて武闘大会でも優勝なんてリア充の権化じゃねえか!
こんな事なら俺が優勝すれば良かったよ!
やり直しを要求する!
まあ無理なんだけどね。
あ~あ。




