03-07-01 予選第一試合
武闘大会の会場は闘技場を使って行われるんだがその建物に入って直ぐの所にホールがあってそこに対戦表が張ってあった。
本戦の試合はトーナメントなのでもうシード選手の分は表に名前が書かれている。
名前欄には一人置きに空きがあるのでそこに予選組の通過者が入るってことだろうな。
例の俺の対戦相手は本戦の一試合目に名前が載っている。
これって俺が予選を通過したら奴と一試合目で当たるように仕組まれているのか?
相手はどんだけ俺と早く戦いたいんだよ。
まあ決勝戦まで当たらないという事になったらそれまでの戦いで俺の手の内がバレてしまうかもしれないからその方がこっちにとっても都合が良いか。
もし仕組まれていないのなら俺の方も考えて戦わないといけないのでめんどくさいしな。
どうか仕組まれていますように。お願いします!
俺が本戦の対戦表を見ている間に皆は予選の何試合目に出るのかを確認していた。
ついでに俺の出る試合も見て来てくれていた。すまんね。
聞くと俺の出る試合は一戦目だった。
ああ、これはやっぱり仕組まれてるな。
予選の試合順と本戦の空き枠の所が同じという事はそういう事なんだろう。
まあ分かりやすくて良いね。
傍にいた職員ポイ人にこれからの予定を聞くとチームで登録している人たちには狭いが個別の控室が割り当てられているというので場所を教えて貰った。
そこは一応小窓で会場が見られるようになっているのでそこで呼び出されるまで待機していてくれと言われた。
俺達は自分の試合までどこで待てばいいのかと心配していたのでこれには助かったね。
まあ出場選手がそこらをホイホイ出歩いていたらどんな問題が噴出するか分からんから妥当だよな。
皆で控室でぺちゃくちゃ喋りながら待っていると拡声の魔道具で大きくなった声が会場全体に響き渡り予選の開始が告げられた。
第一試合に出場する選手は直ぐに闘技場の舞台に集まるようにということなんで早速直ぐ傍にあった出入り口から舞台に向かって歩いていく。
歩きながら周りを見回すともう既に観客は満員近くまで入っているのが見えた。
こんな素人同然の奴が混じっているような予選の試合を見ても面白いもんなのかねえ。
まあ知り合いとかが出るのを見に来ているとかもあるのかもね。
闘技場の舞台は真ん中にでんと設えられていて高さは腰くらいで周りは芝のような草で覆われているので落ちても特に怪我の心配とかはしなくてもいい様になっている。
闘技場の内壁にある扉から出場者がぞろぞろと出てきたがなんかやけに数が多くないか?
と思っていたら舞台に上がった奴が直ぐに降りていった。
なんだこれ? 俺が疑問の渦に陥っているとアナウンスが記念出場の人はとっとと帰ってくださいとか言っている。
なんだよ! 大会主催者の政府はそんな事を許してんのかよ?!
まあ出場登録には安くもない金額が掛かっていたから主催者側もお金が儲かるなら良いかと許してるんだろうな。
お金を出す方もこれで一応武闘大会の予選に出場したと言い張れるんなら安いもんなんだろう。
でも本気で出て来ている人達に怒られないんだろうか。
周りを見ても怒っているような人は特に見当たらない。
これも長い伝統とか言うものなんだろうね。
なんか始まる前にもう疲れたよ。
そうしていると遂に武闘大会予選一試合目の始まりをアナウンスが宣告した。
うん? 今気が付いたがアナウンスをしているのはさっき会ったばかりのアホ毛姫じゃないか?
そう思って放送席っぽいところを見てみると確かにアホ毛がピョンピョンしていた。
分かり易い目印があるっていうのは周りにとって凄く都合が良いもんなんだな。
変な所に感心していると審判員らしい人が舞台の端に上がってきて試合開始を宣言すると舞台を飛び降りていった。
おっと。ぼうっとしている場合じゃなかった。
俺は手に持ってきていた杖を両手で上にかざすとおもむろにキーワードを唱えた。
「ブラック! アーーンド ホワイト!! 」
+ + + + +
ここで俺の装備を説明しておくか。
体には特に特別なものは付けていない。
いつもの皮鎧を着ているだけだ。
だが頭部には俺の長距離ライフル用に作った一般人用のスクリーンバイザーを付けている。
これは通常の使い方ではバイザーの内側にライフルのスコープを見たような映像が映し出される物だが勿論色々な使い方が出来るようにもなっている。
それが今回日の目を見たサングラスとしての使い方だ。
レンズ部分の光の透過率を自由に変更して透明にしたり真っ黒にしたりと好きにできる。
いつもはゴーグルっぽい使い方をしておいていざとなった時にサングラス機能をオンにする。
そのいざとなった時ってどんな時かって言うとそれはヘルの仮面フラッシュが炸裂する時だ!
それ以外にないだろ?
とまあそんな感じの装備を付けている俺が取る戦法はヘルの得意技を借りたものに他ならない。
まあ今回ヘルはこの技は使わないだろうから俺が使っても良いんじゃない?
ヘルには俺の考えは筒抜けだから既にこの戦法を取るのは分かっていただろうに特になにも言ってこなかったから許可されたもんだと思っておこう。
後で特許料でも支払っておこうかね。
試合開始を審判員が宣言すると出場者は近くにいる弱そうな奴から歯引きされた模擬剣や槍などで打ちかかって行っていた。
勿論特に弱そうに見える俺にも近くの奴らは目を付けていたようで周りの奴を牽制しながら打ちかかってきたがその剣がこちらに届く前に俺の魔術が発動していた。
「ブラック!」
というキーワードを唱えると俺のバイザーの色が瞬時に暗くなった。
「アーーンド」
この言葉で杖に付いている魔石の宝玉にフラッシュ用のエネルギーがキュイーーンという音をさせて溜まっていく。
「ホワイト!! 」
そして魔術の発動だ。
バシャン! という音をさせて宝玉から白光が放たれて辺りを真っ白に染め上げる。
俺に向かってきていた数人が真面に光を見たようでギャーという悲鳴を挙げながら俺の横を通り抜けて転がっていった。
俺は後ろからの襲撃を警戒して舞台の端の方に立っていたのでそいつ等はそのまま舞台を落ちていった。
あ、言ってなかったが舞台を落ちると失格になるルールがあるよ。
記念出場者が直ぐに降りていた事から大体想像が付くよね。
俺の近くにいて光を真面に見た者たちは他にも大勢いて全員が目を抑えて「目がー! 目がー! 」と言ってゴロゴロと転がって呻いている。
まあフラッシュの出力は本家のヘルよりも大分抑えて放っているので失明まではしないんじゃないかな。
なんか後遺症とかが残ったとしたらごめんねと言うしかないね。
そんな風に転がっている奴等を放っておいてもし視力が回復して再度俺に向かって来たら面倒なのでついでにとどめを刺して置く事にした。
まあとどめと言っても息の根を止めるっていう訳じゃ当然ない。
あ、これも言ってなかったが人殺しは罪には問われないが失格になるよ。
それで俺のとどめの刺し方は電撃による失神だ。
宝玉からスタンガンの火花をさせながら転がっている奴らに当てていくと面白いようにビクッビクッとしながら気絶していく。
俺からちょっと離れた所にいた奴らはちょっと視力が落ちた程度で無事なようだし他にも後ろを向いていた奴もいてまだまだ倒すべき奴等は一杯いるな。
俺は辺りを見回してニヤリとした笑みを浮かべると再度杖を掲げてキーワードを唱えようとしたら皆俺に背を向けて走って逃げていく。
だけどもそんなに広くもない舞台を皆で逃げ惑っていても逃げる場所などない。
俺はゆっくり後を追っていってたまにフラッシュを炸裂させる。
ちょうどその時こちらを見ていた奴らが視力を奪われ転げまわるのを見た奴の一人が思い切って目を瞑って剣を振り回しながら俺に突進してきた。
おっ、遂に攻略法に気づいた奴が現れたな。
だがそれは一人でやっても意味ないんだよなあ。
やるなら皆で一斉に面で襲い掛かってこなきゃな。
俺に一人で向かって来た奴が一体どうなるのかと他の奴らがこっちを凝視しているのを俺が見逃す筈もなくフラッシュを炸裂させて殆どの奴を餌食にしてからサッと向かって来た奴を避けてその背中にスタンガンを食らわせる。
無事に残っている奴はもう数人しかいない。
ゴロゴロと転がっている奴にとどめを刺しながら残りの奴らを追い詰めていくが逃げ回っていて捕まえられない。
もうこれどうするよと審判員の方を見ると彼は逃げ回っている奴らに向かって戦わないのなら失格だと叫んだ。
おっ、これで奴らも向かってくるかと思ったらあっさりそれを受け入れて失格になっていた。
なんだよ?! それなら自分で舞台から降りればいいじゃねーかよ!
奴等が言うにはなんだか良く分からんが奴等にも一応の矜持という物があるらしくて敵からは絶対に逃げ出さないというのを遵守する事で負けてはいないと言い張っているようだ。
はあ?! しっかり舞台の上で逃げ回っていたじゃんかよ!
俺の指摘にそれは作戦上の陣地移動だと抜かしやがった。
一体どんな言い訳だよ!
舞台にどんな地形効果があるっていうんだよ?!
俺は呆れて物が言えなくなったのでもうそれで良いよと放っといた。
まあこれで俺は予選通過したって事で良いんだよなと審判員に確認すると「はい。」と返事を貰えた。
これで本戦の一回戦目で彼奴と当たることが確定したな。
あいつもさぞかし喜んでいることだろう。
まあそれまで俺は控室でのんびり過ごすとするかね。
思ったよりも試合をするのは疲れたよ、パトラッシュ。ってパトラッシュって誰?!
+ + + + +
その後も予選が次々と行われていったが皆も順調に予選を通過していった。
なんだか八人しか枠のない所に同じチームの奴ばかり六人も占めてしまっても良かったのかねえと思ったが良く考えるとシード組の方も【フィールデン パワーズ】の奴等が大半を占めているそうなのでこういうもんなんだろうと思うことにした。
特筆すべき事があるとしたら予選最後の組に出たヘルの活躍は見物だったね。
ヘルはいつもの鎧姿の格好に真っ赤なマントを肩から背中に垂らして一体どんな高貴な騎士なんだという雰囲気をさせていた。
もう見ただけで一歩下がってしまう威厳が感じられて一般人には近付く事さえ戸惑われる程だった。
戦いの方も圧巻だった。
ヘルは身長程も有りそうな大剣をどこからか持ち出してきてそれを軽々と自由自在に振り回していながら相手には怪我が無いようにインパクトの瞬間に力を抜いてやんわりと場外に吹き飛ばしていた。
吹き飛ばして置いてやんわりとはこれいかにって感じだがその通りだったんだから他に言いようがないね。
まあ二、三人纏めて吹き飛ばしていた時にはそこ迄手加減が出来ていなかったみたいだけども。
こりゃ大会後もヘルへの勧誘は治まる事は無くもっと増えるのは確実だな。
俺達の控室の扉の周りには俺達がどんなチームなんだと気になった奴らが駆け付けてきていて凄い人だかりが出来ている。
予選も終わったので皆で昼飯を食べに行こうかとしていたんだが通路側に出る事は出来ないみたいだ。
しょうがなく舞台側の扉から控室を出てどこかから出て行こうと出口を探していたら俺達に声を掛けてくる奴がいた。
まあそれはアホ毛姫なんだけども。
「あら、そんな所から出て来るなんて道が分からなくなったのかしら?
良ければ私が教えてあげてもいいわよ。」
「おっ、さっきの子か。
実は人がたくさんいて控室の入り口が使えなくてな。
しょうがなくこちら側から出てきたんだけどここから出る扉はないのかい? 」
「ああ、そういう事ね。
貴方達の活躍は凄かったからそれもしょうがないわよね。
まあだったらここの扉から出ても良いわよ。」
そう言ってアホ毛姫は放送室っぽい所の扉を開けてくれて通れるようにしてくれた。
うん。この子はアホな事を除けば本当に良い子なんだよな。
ちょっと頭を撫でてあげたくなってしまったが王族の頭を触るなんてことをすればどんな事が起きるのか分からないので無理矢理我慢してありがとうとお礼だけ言って外に出た。
帰りもここを使って良いと言ってくれたが出来るだけ厄介にならないようにしよう。
その時に頭を撫でてしまわないか自信が持てないからな。
闘技場から外に出て近くの食堂で皆で飯を食ったんだがそこでも周りの客から声を掛けられまくった。
ベスとラムドは周りからチヤホヤされる事が今迄特になかったからか顔を赤くさせて浮かれまくっていた。
まあこんなにモテる事は今後もあるかどうか分からないので今の境遇を満喫して置けばいいと思うよ。
後はそれを引きずってしまって試合に影響が出ないように出来れば言う事は無いんだけどねえ。
まあこれも経験の内か。
気分がいい時に忠告されると反発心が生まれてしまって良くないから後で失敗した時にでも言えばその方が身に沁みて分かるだろう。
飯を食い終わったので闘技場に向かって歩いていると今一番会いたくない奴等と会ってしまった。
例の【フィールデン パワーズ】の奴らだ。
目ざとく俺の事を見つけたビッグ何某が話し掛けてきた。
「おっ? 嘘つき連中が皆して歩いているぞ。
おい、お前ら一人でも予選を勝ち抜けたのか?
まさか一人も予選を通過出来なかったとかじゃないよなあ。
どうなんだよ! 」
「どうもご心配頂いてありがとうございます。
お陰様を持ちまして六人全員通過いたしましたよ? 」
「あん? お前ら七人いるじゃねえか!
なに一人抜かして誤魔化しているんだよ! 」
「えっ? ああ、一人は元々戦闘要員じゃあなかったので大会には出場していません。
もしかしてその一人も武闘大会に出ないといけないとか言われるんでしょうか? 」
「ちっ。そんならそうと初めから言って置け! 」
「ハハハッ! そんな無茶苦茶な!
貴方は存在同様に言う事も無茶苦茶ですね!
これは俺と戦ったらどうなるか見物ですねえ。」
「あん? どういう事だよ! 」
「それは戦ってみてから分かりますのでもうちょっと我慢して待って置いてください。フフフッ。」
「クソ! 勿体ぶりやがって!
まあ精々それまでの命を大事に生きな! 」
「おやおや。なんだか殺人予告とかですか?
そんなこと言ってると牢屋行きですよ?
良いんですか? リーダーのリックさん? 」
「それは良くないな。
オイ! ビッグ! それ以上無駄口を叩くな!
でないとチームから追放だぞ! 」
「ちっ。分かったよ。」
「あれまあ。怒られてしまいましたねえ。クスクス。」
「なんだと?! 」
「おい、ロック。
もうその辺でやめておいてくれ。
これ以上なにか言いたいのなら闘技場の舞台の上でやってくれ。」
「ハハハ。じゃあそうする事にしましょう。
俺達は第一試合だから直ぐですしね。
全力でお相手しますよ。」
「ああ。そうしてくれ。
ビッグもそれまで少しぐらい我慢しろ。」
「フンッ! 」
そう言って奴等は先に闘技場に入っていった。
俺達も入ろうかと皆に言おうとしたらガッシュがそんなに煽るなよと注意してきた。
煽っても特に良い事なんか無いだろうとも言われた。
まあ確かにガッシュの言う通りなんだけどもああいう奴を見るとついつい煽ってしまうんだよなあ。
これは俺の悪い癖って奴なんだろうけど自分でもどうにもならないんだよねえ。
なんでなんだろうと理由を考えても特に思い当たる事は無い。
これはもしかすると前世に関わる事が原因じゃないだろうか。
もうそれしか考えられない。
だとしたらこの癖は直しようがないのかもね。
まあそんな事は後で考えよう。
今は武闘大会の事を優先だ。
ここは気を入れ変えて戦う体制を整えて望まないと足元を掬われるかもしれない。
そうして俺達は気分一新して闘技場に入っていった。




