03-06-10 ローマの休日
武闘大会当日まで総合ネットワークの回復を待ったが結局それは叶わなかったんだけどもそれまでただぼうっとしていた訳じゃあ当然ない。
皆に集められるだけの情報を集めて貰って相手側に転生者候補がいるのかというのも一応調べておいた。
だがやっぱり武闘大会に出るような奴らの中にはそんな頭が良さそうな奴は見当たらなかった。
まあそうだよな。
転生者がもしいたのならそいつは俺と同じ魔術師方面に適性が向いているだろうから脳筋の仲間にはいないだろうと最初から思っていた。
まあいるとしたら奴らの取り巻きとかスポンサー的な役割で奴らに助言とか出来る人物なんかだと思われる。
今まで奴らにそれなりに投資して来ているんだからここで意味も無く壊されでもしたら目も当てられないだろう。
おもちゃは壊れないに越したことはないしね。
それで一応武闘大会会場も視察して置いてついでに出場登録を出る奴皆で行おうとしたんだけど何故か俺の分は既に登録されていた。
おいおい。やけに手回しが良いな。
それも【ロック=ザフリーダム】の方の名前で登録してあるし。
しかもこれってあれだよな。
逃げるなよっていうのとちゃんと見張っているぞというのを俺達に暗に示しているんだよな。
なんか今回の相手はこういう裏からの持って回ったやり方が好きみたいだな。
若しくはそれしか出来ないという事かもしれない。
まあここ迄お膳立てしてくれたら感謝しかないよ。うん。言う事無しだね。
あ、そう言えば大会では剣術とかいった区割りは無くてなんでも有りの重量無制限の無差別級試合だった。
まあ政府側がこの大会を毎年結構な金をかけて行っている趣旨は魔獣をいかに多く倒せる奴がどの位いるかを見定める為なんだからどんな方法を使ってでも強ければそれでいいという考えなんだろうから当然だな。
まあその方が俺みたいに貧弱な奴の事など他の出場者連中の眼中にも入らないだろうからそれで良いか。
皆も出場登録を済ませたようだがサーラだけはやらないみたいだね。
まあサーラの役割は主に牽制なんだからこの大会には向いてないもんね。
それとヘルは出場しないと言っていたと思ったが土壇場でやっぱり出ることにしたようだ。
なんで急に心変わりしたのかと聞いてみたら俺が大会に出場する気が変わらない様だと確信したかららしい。
なんだよ。俺が出るって言ったのを信用してなかったのかよ。
まあ俺の事だから急に方針転換するっていうのはままある事なのかもしれないが他人との約束だけは守るようにして来ていたと思うんだけどなあ。
それに俺が出場するのとヘルが出場するのは関係なくね?
その事に対してヘルが言うには俺の安全の為に先に相手に当たったら半殺しにして再起不能にする為だという。おお怖っ。
なんか凄い過保護だよなあ。
別にそこまでする必要はないんじゃないか?
相手も売り言葉に買い言葉って感じでつい口から出ちゃったんだと思うんだから勘弁してあげなよ。
俺が煽っちゃったという側面も無きにしも非ずだったからな。
まあ程々にして置きなよ。根に持たれたら面倒だぞ。
そして今日は遂に武闘大会の開催日なんだが出場者は早めに行って予選に出場しなければいけないらしい。
まあこれが去年の大会で上位者だったりしたらシードになって予選免除になって午後からの重役出勤でよかったのになあ。
大会の仕組みはシード選手が八人と予選組が八人でそれぞれ一回戦を対戦するというもので予選組八人を集団のバトルロイヤルを八試合行って決めるらしい。
だけどバトルロイヤルを勝ち抜けて決勝トーナメントに出てもそいつはもう既にボロボロになっていて碌に戦えないんじゃないか?
なんかシード組にやけに有利な仕組みだよな。
こんなんで新しい有望な奴は見つかるのか?
まあ今までこういうルールでやってきたのを急に変えるって言うのは色々大変なことが有るんだろうね。
動き始めた事は簡単には止まらないからなあ。
それと同じチームの奴はバトルロイヤルでは同じ組には極力ならないように調整するってことらしい。
まあ複数人で組まれたらそいつらが無茶苦茶有利になるし最後に残った奴らが戦わずに勝ちを譲ったりしたら興ざめだしな。
このルールのお陰で皆とは二回戦まで当たらない事は確定しているのでそういう所は良かったなと思うよ。
朝から仲間内で殺伐としなくてもいいというのは気が楽だね。
皆で和気藹々と試合会場に向かって歩いているともうそろそろ着こうかっていう時にヘルが急に警告を発してきた。
『マスター! その角の右から急激に接近して来る者がいます!
このままでは衝突の危険がありますので注意してください! 』
なんかヘルは集団の中にいるので急には動けなくて自分では対処出来ないからか警告だけでもと俺に言ってきた。
俺はふーんといった態度でなんだろうとそっちに目を向けると誰かが喚いているのが聞こえてきた。
「うわーーん! 遅刻、遅刻ーー!!
アン! なんで起こしてくれなかったのよーー!! 」
エッ?! なんだって?! 今なんて言った?!
なんか漫画みたいなことを言って走ってくる奴がいるなんて初めてだったのでその事に気が逸れていたら急に飛び出してきたそいつとぶつかってしまった。
ドスッ!!
オウッ?!
「うぎゅっ?! 」 ドサッ!
道の角から口にフランスパンの細いのをくわえた女の子が突然飛び出してきて俺の鳩尾に突っ込んできた。
女の子はパンを口の奥に押し込まれて苦しそうにしながら尻餅をついている。
うわっ。痛そうだな。
まあ俺もぶつかられてちょっとは痛かったがそこ迄では無かったから女の子の方を心配して声をかけた。
「おい。大丈夫か?
口にそんな物をくわえていると危ないぞ。
ほら。手を貸してあげるから立ちなよ。」
「ゲホゲホッ。ご、ごめんなさい。ぶつかってしまって。
手を貸してくれてありがとうございます。って貴方は?! 」
おっ? なんかこの子は俺のことを知っているみたいだな。
手を貸してあげた俺のことを顔を上げて見た女の子は凄く驚いた様子だった。
ヤレヤレ、有名人になるとこれだから困るよな。
何? サインでも欲しいのかな?
俺がそんなアホみたいな事を考えているとその子は俺の頭の上の方を凝視しながら文句を言ってきた。
「貴方が【ロック=ザフリーダム】なのね!
【フィールデン パワーズ】のビッグ・ワンダーに喧嘩を売るだけでは飽き足らずに私にも酷い事をしようっていうの?!
なんて悪逆非道な男かしら! 信じられないわ?! 」
『マスター。彼女は管理者のようです。
気を付けてください。』
ああヘル。そうだな。
こいつ今俺の頭の上にあるネームプレートを見て名前を言ったみたいだからな。
管理者って事で間違いないだろう。
でもこの位の歳ではそんなに管理者のランクは上がってなくて特に危険って訳でもないんじゃないか?
『マスター。自分の事を忘れてませんか?
マスターは十歳の時に既に最高ランクになっていたじゃないですか。』
はあ? オイオイ、ヘルさんよ。
俺の事はパンロックの記憶を移されたという特殊な事情があったからそうなったんであって普通には起きない事態だろう?
『そんな事は分かりませんよ?
マスターに起こった事とは違う方法で管理者ランクを上げる事が出来るという可能性を否定できません。
他の管理者とは出来るだけ距離を置いた方が安全です。』
まあそうかもしれないがこいつは見ただけで違うと分かるだろう?
そんなに心配する事か?
少女の見た目は十歳を越えたばかりに見えるしなんと言ってもその頭部を見た者は全員俺と同じ気持ちになるだろう。
それはこの少女はバカなんだろうなという事をだ。
なんでかって? そんなのは少女の髪型を見れば一目瞭然だ。
その少女の頭にはなんとアホ毛が二本触角のようにピョンピョンと跳ねているからだ。
俺は今まで生きてきた中でこんな髪型をした奴を見たことは一度もない。
多分前世を含めてもないだろう。
ヘルにはこの髪型の意味が分からないんだろうか。
俺は少女が喚いているのも気にせずにずっとそのアホ毛が跳ねるのを見ていたら相手も俺の視線に気が付いたのか自分の頭を抑えて後ろに下がってしまった。
「一体どこを見ているのよ?!
ハッ?! 貴方もしかして管理者なの?! 」
「えっ? いや、なんか目の前でピョンピョンと髪が跳ねていると気になってしまってな。
見られるのは嫌だったのか? それは悪かったな。」
「なんだ。そうだったのね。
エヘン! この髪型は王家に伝わる由緒ある髪型なのよ!
目に出来ることを光栄に思いなさい! 」
「えっ? という事は君は王族の一員なの?
これは失礼いたしました。」
そう言って跪いて頭を下げると少女が慌てだした。
「アッ?! ち、違うわよ! 私はそんなんじゃないわ!
勘違いしないでよね! プンプン! 」
なんかさっきからお約束が続出しているがこれはワザとなんだろうか?
そうだろうな。ワザとじゃ無ければおかしいよな。
「うん? 違うのか?
だったら普通の人がその髪型をしていても良いもんなのか? 」
俺が矛盾点を指摘すると少女はまた慌てだした。
「こ、これはその、あれよ……。
そ、そうよ! これは私だけ特別に許されたのよ! 」
「うん? やっぱり君は高貴な生まれの者なのかい? 」
「だ、か、ら! そんな事はどうでも良いのよ!
やっぱり【ロック=ザフリーダム】は酷い奴だという話は本当の事のようね!
さっきから他人の突いて欲しくない所ばっかり突いてくるもの! 」
ええ~? それって俺の所為か?
それは元から存在が矛盾しているのが悪いんじゃないのか?
こいつってばビジターナよりも質が悪いぞ。
まだビジターナの方が周りに迷惑をかけないようにする気遣いがあったよな。
あ、いや、あれは侍女のメイスさんのお陰だったか。
そういえばこいつには侍女のお姉さんとかが付いていない様だけど大丈夫なのか?
『マスター。
身辺警護の者なら角の向こうからこちらの様子を窺ってますよ。
風体は執事のお爺さんのようです。
ですが特に話に割り込む心算はないみたいですね。
なんだかこの国の王族は放任主義なのでしょうか。』
へえ。つまり自己責任でなんでもやれって事なのかね。
執事の爺さんもいい迷惑じゃないか?
まあ孫みたいな感じでなにをやっても可愛く思えるのかもしれないな。
「ええと。君は俺のことを誰からどんな風に聞いたんだい?
教えてくれないかな。」
「これって言っても良いのかしら?
まあ良いでしょう。教えてあげます。
貴方の事はさっき言った【フィールデン パワーズ】のビッグ・ワンダーに聞きましたわ。
なんでもこの国のハンターは大したことがないとか言ったらしいわね。
あまりこの国の事を悪く言わない方が身の為よ。
これは忠告よ。」
「えっ? 俺が言ったのは多分そのビッグ何某が俺の相手にならないと言っただけで他のハンターの事とかは特に言及していないんだけど?
なんだかそいつにとって自分の都合が良い様に話が捏造されているみたいだな。」
「えっ? そうなの? 」
「俺の話を信用するならそういうことになるな。
なんだ? なんだかそいつの言う事を余り信じてなかったのか?
それにしては俺と最初に会った時には悪逆非道とか言っていたじゃないか。」
「貴方と話していたら聞いていたのとは大分違うように感じたから考えを改めたのよ。
やっぱり両方の話を聞いてから判断した方がいいと思ったから。」
「ふーん。まあ君がどう思おうが俺には特に関係がないな。
じゃあ俺達は武闘大会の予選に出なければならないのでもう行くよ。またね。」
「えっ? アッ!
私も武闘大会の会場に行かなくちゃいけなかったんだった!
もう! 貴方と無駄に時間を使ってしまって遅刻が確実になっちゃったじゃないのよ!
どうしてくれるのよ! 」
「はあ? そんなこと言われてもなあ。
それより早く向かった方が良いんじゃないのか? 」
「そうだった?! うわーーん! 」
そう言って少女は走っていった。なんだかなあ。
そういえば彼女は名乗っていかなかったな。
俺の方から名前を聞くのもなんだからと待っていたら結局名乗らずに行ってしまった。
彼女のネームプレートは見えていたから特に聞く必要もなかったし偽名でも名乗るのかなと思っていたんだけどそれもしなかったし。
あれかな。皆自分の名前を知っていて当たり前だとでも思っていたのかもね。
じゃあここで俺が代わりに発表しよう。
彼女の名前は【ティアフォーラ=フィールデン】という。
うん。俺はネームプレートを見てこう思ったね。
名は体を表すというのは本当だったんだ! ってね。
だってそうだろう?
自分でアフォーラ、即ちアホーだって言ってるんだからな!
「プッ、もう駄目だ。くっ、我慢も限界だ。くくっ。
ハハハッ、アーッハハハハッ。アッハハハハッ。ヒィーッヒヒヒヒ。く、くるしいーっ! 」
ヒッ、ヒッ、フー。ヒッ、ヒッ、フー。
はぁ~、はぁ~。
な、なんとか息が落ち着いてきた。
危うく呼吸困難になって倒れるところだったぜ。
立ち去ってから俺を倒そうとするなんてやるな! アホ毛姫!
俺はなんとか彼女がいる前では笑わないように我慢していたんだけど限界を越えてしまってとうとう皆の前で笑い出してしまった。
皆はなんで俺が笑い始めたのか分からないからかキョトンとした顔をしていたが唯一理由が分かっているヘルが一言注意してきた。
「マスター。
他人の名前を笑うのはマナーに反しますよ。
厳に慎んでください。」
「なんだよロック。
誰の名前がそんなに面白かったんだ?
今の子がいつの間にか名乗っていたのか?
気が付かなかったな。」
「うん? いや、別に今の子の話じゃないよ。
例の俺の対戦相手の名前だよ。
彼女が言っていただろ? ビッグ・ワンダーだって。
彼の名前のビッグってたまたま体が大きく育ったから丁度良いけれどもし小さくしか育たなかったとしたらどうするつもりだったんだろうってね。
名前を付ける時は良く考えて付けないと取り返しがつかない場合があるよなって話だ。
さて、それじゃあ俺達も遊んでないで試合会場に行こうか。
今日は色々楽しい戦いができそうな気がしてきたよ。」
「そうか? まあお前は怪我しないようにしろよ。
危なくなったら直ぐに棄権しても良いからな。」
「だから言っただろ?
そんな事には絶対にならないって。
まあ予選を見れば俺の言ってることも分かるだろ。
楽しみにしてな。」
ガッシュは肩をすぼめてヤレヤレといった風な感じで俺を見てきたが他の皆はそうでも無い様だ。
ふふん。俺様の雄姿を見て惚れるなよ? って今更か。
そんな感じで俺達は武闘会場に入っていった。
第六章 新活動写真天国の物語 end




