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03-06-09 魔界転生

 期せずして武闘大会に出場することになってしまった訳だが俺は武力方面はからっきしなんだよな。

 ところで武闘大会って魔術師でも出ていいのかね。

 まあ駄目でもいいか。

 その時は大会とか関係なく勝負してあげればいいしね。

 勿論俺は負ける心算など更々ないので相手をこれでもかという迄へこませてやろうと思っている。


 どういう手段を使うかはその時まで内緒な。

 でも魔術師として戦うんだからそれなりな杖とかが必要なので鍛冶屋で適当な鉄の棒を買ってそれに魔石の宝玉を付けた物を用意した。

 まあこれを使うのは今回限りで大会後はこの国の王都の商店で高く売り飛ばしてしまってもいいし取って置いて魔術師ムーブをする時に使うのでもいい。

 どうしてヘルツーの宝剣とか新人君を使わないのかというのは俺の手の内を大勢に知られたくないっていうのが一番の理由だな。


 俺に奥の手を使わせる事が出来た奴はすなわちその時点でもう死んでいるという状態でなければならない。

 俺は慎重の上にも慎重を期す事で今まで生きてきたんだからこの考えを変える心算は一切ないよ。

 王都に着く前にどうにか杖の体裁を整えることが出来たので一度魔獣相手にも使ってみたが満更でもない出来だった。

 なんか手放すのが惜しくなってきたが大会後に王族から杖を売ってくれないかという話が出るんじゃないかと予想しているんだよね。

 うちの国のビジターナの時と一緒でこの国でも杖が不足しているんじゃないかと思っている。


 だから武闘大会は言ってみれば俺の杖のデモンストレーションの場だと言っても過言ではないな。

 ここは派手に使って皆の目を引き付けないと高く売れないので頑張りどころでもある。

 えっ? まだ金を儲ける心算なのかって?

 俺の老後の為にはこんなもんじゃまだまだ足りないよ。

 悠々自適な老後の為には今が稼ぎ時なんだよ。


 すなわち他所の国での一発目が肝心なんだ。

 ここで自分の価値を高めて置かないとこの国の政府に良い様に扱われ兼ねない。

 えっ? そんなに派手に行動しても大丈夫なのかって?

 前にそれを避けていたのは自分の国でだったからで他所の国では思う存分はっちゃけても最後は逃げてしまえばいいだけなんだからやるしかないよね。

 過去のバズ達もそんな感じでやらかしていたんじゃないかな。


 そう言えばリック達から聞いた話ではバズ達はママンが身籠ったので故郷に帰ったという風に本に載っていたと言っていたがその辺りの事は巷に流れていた噂で知った事を混同していたようだ。

 なんか辻褄が合ってないんじゃないかとあの後他の村人に本があったら見せてくれと金を払ってまでして確認したんだよ。

 リック達が子供の頃はバズ達の話がブームになって仲間内で盛んに話し合ったんだろうな。

 そうしている内に話の出どころとかが曖昧になっていったんだろう。

 まあ有りがちだよね。


  + + + + +


 そうこうしている内に王都まであと数日という街まで来ていた。

 ここまで来る間にガッシュ達からは本当に武闘大会に出る心算なのかと聞かれたり止めておいた方が良いんじゃないかと引き留められたりもしたが俺の魔術の威力を知っているのになにを言ってるんだろうね。

 ガッシュ達が言うには相手が剣術のスキル持ちだったりしたら魔術を使う前に一瞬でけりが付いてもおかしくないんだってよ。

 随分と侮られたもんだよな。

 俺がそんな事にも気が付かない盆暗だとでも思ってるのかよ。


 俺は勝つ為ならあらゆるどんな卑怯な事でも堂々と実行出来る気概がある。

 勝てば官軍負ければ賊軍。

 詰まりはそういう事だな。

 昔の人は良い事を言うねえ。


 まあ今更グダグダ言ってても始まらない。

 ここはドンと構えて大会が始まるのを待とうじゃないか。

 そう言って皆の意見を封殺したがこれで上手く行かなかったら凄く格好悪いよな。

 まあその時は俺は死んでるかもしれないがそんな事には絶対にならないから安心して見ててくれよ。

 俺の事よりも自分達の方の準備は大丈夫なのかねえ。


 ガッシュ達は普段の状態でどこまでやれるのかが知りたいらしく特別に準備なんかしないそうだ。

 まあなにか事が起こるのは日常の中でだし準備なんかがいつも出来るとは限らないからそれで良いのかもしれないがやけに実戦的な考えだよな。

 いわゆる常在戦場という奴か。

 これって道場とかで教わったのかと思って聞いてみたら今までの旅の中で辿り着いた境地とでもいったものだと言う。

 なんかその歳でやけに悟りを開いたかのような事を言ってるがホントかよ? あやしい。


 ところで最近俺達の事が巷で話題になっているようで普通の街の人たちにも注目されるようになってきた。

 そんなにヘルの事が珍しいのかと最初は思っていたがなんだか視線の先は俺みたいだ。

 遂に俺の時代が来たかと思ってサッと前髪を払って気取ってみたら見ていた人達がビクッとしていた。

 なんだよ。憧れてるんじゃなくて怖がってるのかよ。

 俺ってそんなに暴れ回ってるっていう様な認識のされ方なんですかね。


 俺って最近なんかしたか? と一瞬思ったがそう言えばしていたよな。

 それは去年の武闘大会で上位に入って今年は優勝も狙えるかというような有名人に喧嘩を売ったという事以外には考えられないよね。

 まあそれはその通りなんだけどなんで一般人までがその事を知ってるんだよ。

 そして俺達の面まで割れているというこの状況。

 どこまでこの話は拡散してるんだ?


 まあ俺は良いんだよ?

 絶対に負けないから。

 だけど相手はこの国で大勢に知られている有名人なんだろ?

 負けた時は一体どうするつもりなのかねえ。

 あっ! これって大会後に逆恨みして襲ってくるっていう奴じゃね?


 オイオイ。そんな定番はお呼びじゃないんですけど。

 まあでも皆の注目がヘルから俺に移ったというのは良い事なので顔を隠すとかいうことはやめておこうか。

 皆ぁ俺の美しい顔を見て心を癒しておくれぇ。

 なんてナルシストっぽい感じで放置していたら街のチンピラっぽいのが突然俺達に突っ掛かって来た。


「オウオウ! この野郎!

 てめえがロリングストンを名乗ってるっていう若造か!

 良くも皆の憧れに泥を塗るような事をしてくれたな!

 俺様が【フィールデン パワーズ】の皆に代わって天誅をくれてやらあ!

 覚悟しやがれ! 」


 えっ? これって相手側からの仕込みで茶々を入れてきたっていう事でいいの?

 だったら俺も全力で相手してあげるよ?

 いや、違うようだ。単なる一ファンの突発的な行動のようだな。

 彼奴ってそんなにファンがいるようにも見えなかったんだけど力に憧れてるっていう層は結構いるもんだからな。

 だけどこいつみたいに実力行使に出るなんて奴は珍しいんじゃないか?


 下手すりゃ相手次第では死ぬかもしれないのにね。

 ああ、そういう事か。これはあれだよ。

 俺に住民とのトラブルを起こさせてメンタル的な揺さぶりをかけてやろうという魂胆だな。

 でもこんなチンピラにそんな事を考えられるような脳味噌はないよな。

 これは誰かが裏で糸を引いているって事なんだろう。


 つまりはあいつらの仲間の仕業かよ。

 せこい真似しやがってまあ俺を怒らせてどうしようっていうんだよ?

 こいつと喧嘩でもしてこの国の衛兵にでも捕まえさせたいのか?

 うん? ああ、そうか。

 別に悪気でこんな事を考えたって訳でもないのか。


 俺が衛兵に捕まった所為で武闘大会に出られなくなってあいつとの勝負がうやむやにでもなれば儲けものだとでも考えた奴がいたのかもね。

 でも俺様はこんな安い挑発には乗ってあげないよ。


「いえ! 違いますよ?!

 俺たちはそんなんじゃありません!

 なんか俺達が誰かに似ているって言って喧嘩を吹っ掛けられまくってこっちも迷惑しているんです!

 あなたからもどうにかするように衛兵に言ってください! 」


「ああ? いい加減なことを言うな!

 だったら証拠を見せてみろよ! オラァ! 」


「ええ! いくらでも見てください!

 ここに【ロック=ザフリーダム】って書いてあるでしょ?! 」


 そう言って例の特別監察官の身分証明用のカードを名前以外を良く見えないようにしてチンピラ君に見せると相手は急に気不味くなったのかもごもご言い訳しながら帰っていった。


「えっ?! あ、うん。そう、だ、ね。

 なんだよ。聞いてた事と話が違うじゃないかよ。

 あ、ああ。悪い。なんか人違いみたいだ。

 騒がせて悪かったな。もう行っていいよ。」


 ププッ。騙されちゃってまあ。いい気味だね。

 元々俺はロリングストンを勝手に名乗っているって事なんだから身分証の名前が違ってても不思議じゃないのにねえ。

 でもこれで俺が身分詐称をしているという事が確定したと奴等にも知れるだろうな。

 もう諍いの発端になった家名に関してのこちらの主張は意味をなさなくなったので後は俺が謝りさえすれば済む話なのかもしれんがもしそうしてもあいつは納得なんてしないだろう。

 なんか根に持ちそうな奴だったから謝り損になるんじゃないか?


 そんな事を考えているとなんか皆の視線が俺に集まっているのを感じた。

 俺達のやり取りを聞いていたガッシュ達はまた俺がなんか変な事をして誤魔化したなと呆れたような感じでこっちを見ているがこれが一番穏便な方法なんだよ?

 いきなり起きたトラブルを上手く捌けたんだからこれで良いじゃんかよ。ねえ?

 まあ皆が庇ってくれていたのを台無しにしてしまった事は謝って置こう。ごめーんね!


 さあ、そんな事よりも皆に確認してこの街は素通りしてしまうとするか。

 こんな街でも変な輩がうろちょろするんならもう早々に王都に行っていた方が余計なトラブルも起きないだろうしな。

 皆に言って旅の補充品だけ買って王都に向かって出発だ!


  + + + + +


 その後は特に絡まれもせずに王都に到着した。

 もう直ぐ武闘大会だということで宿屋が予約で一杯でもう少し遅れていたら宿が取れなかったかもしれないな。

 俺達はなんとか高級な宿を確保できたから良いがこれが若い田舎から出てきたばかりの奴らなら野宿とかでテントで寝起きしなければならないところだな。

 ああそうか。素通りしてきた街でチンピラに絡まれたのはあそこで足止めを食っている間に時間が経ってしまい王都に着いた時には宿がどこも一杯で泊まれない様にしてやろうという策だったんだな。


 あんなところで急に絡まれるなんてなんか不自然だなあと思っていたのはこういう事だったのね。凄く納得した。

 やっぱり毎年武闘大会に出ている奴等は周辺の事情が良く分かっているからか変な所からの搦め手も行えて良いね。

 まあそんな事をしなくても普通の若い奴らなら宿を探すだけでも一苦労していたんだろうけど俺達は最近大金持ちになったばかりの成金だからなあ。

 お金なら有るのよって感じで超高級な宿でもサッと取ってしまって大会まで豪遊して過ごしてもいいくらいなんだよねえ。

 まあそんな事は勿体ないからしないけどね。


 ところでここ迄の成り行きを見ているとなんか向うには可成りの策士が付いているような感じだよな。

 策も二重三重の意味が隠されているような感じで良く考えられている物みたいだし。

 これが偶々だったり急な思いつきだったんだとしたらどんだけ頭が良い奴だよって感じだよなぁ。

 …………。

 あっ?! なんか今嫌な考えが頭を過ったぞ!

 これはもしかすると俺みたいな転生者がこの件に絡んでるんじゃないのか?!


 なんか考えだしたらそれしかないんじゃないかと思えてきてしょうがないんですけど?!

 えぇ~? 嘘だろ~?

 ここで同時代の転生者が登場か~?

 なんか出来過ぎてね~?

 あぁ~。こういう所でこの国に総合ネットワークが繋がってないのが悔やまれるんだよなぁ~。


 ハッ?! いや! そうじゃないぞ!

 もう俺達は王都に着いてるんだからこの国の首都に有るっていう総合ネットワークの支部にコンタクトが出来るんじゃないか?!

 ヘル! どうなんだ?!


『はい。マスター。

 マスターのおっしゃる通りなんですが今は私達にはコンタクトが出来ない状態です。

 申し訳ありません。』


 うん? どういう事だ?

 なんでコンタクトが出来ないんだ?

 それと謝っているのはなんでなんだ?


『はい。説明いたします。

 実は昨日の時点で私達の国に有る総合ネットワークの本部とこの国の総合ネットワークとの間での通信が回復していました。

 そしてそれから現在に至るまでそれぞれが持っていた過去の情報やデータをやり取りして相互に補完したりするのに全能力を注いでいる状態の様です。

 ですので私達が検索を掛けても全然応答が帰ってこない状態が続いているので非常に困っています。

 それと謝罪についてはこの事をマスターに黙っていた事に付いての物でした。

 この事を知られるとなんか余計に怒られるんじゃないかと思って言わないでおけるならそうして置こうと結論いたしました。

 どうもすみませんでした! 』


 ええ~? 総合ネットワークって今そんな事になってるの?

 じゃあ復旧の見込みとかは全然分からないのか?


『はい。いつ頃復旧するかとかは全然分かりません。

 もうお手上げ状態です。

 後これは私の予測に過ぎない事なんですがもしかすると私達の発言力が低下する恐れがあるかもしれません。

 これは我が国とこの国の総合ネットワークのどちらが今後の主導権を握れるかによって変わって来るものだと思います。

 まあ私は我が国の方が勝つんじゃないかとは思っていますが。』


 そうか。そうなると俺達の特別監察官の権限もその所為で左右されるって事なんだな。

 そしてもし勝てれば俺達はこの国でも結構な権力を発揮できるようになるって事か。

 まあここはうちの本部に頑張ってもらうしかないな。

 なら転生者云々もこれが収まってからじゃないと調べられないのか。

 ヘル。状態が回復したらすぐに教えてくれよ。

 後は出来るだけ早く収まって相手に対処できる時間が多ければいう事は無いんだけどなあ。


 そして俺はヤキモキしながらヘルからの知らせを待っていたが武闘大会の始まる日まで遂にそれは来なかった。

 そして相手からのちょっかいもなぜかその間鳴りを潜めていたのだった。





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