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マセキ・コントローール!  ~せっかく異世界に転生したのになんか捻くれた性格に育っちゃったみたいです~  作者: さんご
第三転生期編  第六章  新活動写真天国の物語

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03-06-08 汚れた英雄

「うおりゃーーーーっ! マッシュ! 俺が抑えておくから横から攻撃してくれ!! 」


「分かった! しばらく抑えていてくれ! 」


「麻痺の効果のある香りを今散布しているから直ぐに効いてくると思うわ! それまで頑張って! 」


「みんな頑張れー! 」


 三人の勇者プラス一人の荷物持ちが強大な敵に立ち向かっている。

 ここは山脈の頂上付近の洞穴の中だ。

 四人は山脈越えを計画してここ迄やって来たが一時の休息を求めてこの洞穴に入り思いがけずに強敵に出会ってしまったのだ。


 四人の名前を挙げると先ずはリーダーの【冒険王 バズロック・ロリングストン】だ。

 次に挙がるのはバズロックの終生の友【聖剣士 マッシュ】。

 三人目は紅一点の【香倶耶姫 マリーシェ・シュールバイト】。

 そして最後が【最堅の荷物持ち オルド】だ。

 四人のチーム名は【死戦叛天】と呼ばれている。


 彼等はこの後辛くも超大型魔獣を撃退して山脈越えの偉業を成し遂げる事が出来た。

 魔獣が超大型だったというのは持ち帰った牙の大きさから推測されたもので彼等はそんなに大きく等なかったと謙遜していたが誰もそれを信じる事は無かった。

 彼等の偉業はそれに留まらず【反逆公爵の戒心事変】や【毒沼魔獣の殲滅戦】など多岐に及ぶが彼等はいつも詳しい事を話したがらなかったので詳細は分からなかったが結果が真実を物語っていた。


 彼等は暫くこの国に滞在していたがマリーシェが身籠った事で自分達の故郷へと帰っていった。

 彼等がどこへ帰っていったのか色々憶測が乱れ飛んだが結局は誰も行方を知ることはなかったという。


  ~ ~ ~ ~ ~


 という話がこの国には蔓延しているようだ。

 話を聞いていた俺達のパーティの内数人が羞恥心により顔を真っ赤にして身悶えしているがこれは本当にあった事なのか?

 俺には全く信じられない。


「ええと、ちょっと確認したいんですけどリックさんはこの話をどうやって知ったんですか?

 それに皆さんが知っている話の内容は全て一緒なんでしょうか? 」


「この話を知ったのは二十年位前だったかな。

 村に役人がやってきて村人全家族に一冊ずつ小冊子が配られて良く読むようにと言われたんだ。

 読めない奴は読める奴に読んでもらって絶対に一度は話を聞いて置くようにってまで言われたが村には他に読むような物なんて無かったから事あるごとに村長が皆に読んで聞かせてくれていた。

 興味のある奴は自分でも好きな時に読めるようにって文字を勉強して迄読んでいた。

 まあ俺もその口の一人だ。

 お陰で字が読めるようになって良かったよ。ハハハ。」


「他の皆さんも同じですか?

 話の内容も同じという事で良いですか? 」


「ああ、同じ状況だったな。

 話も同じだと思うよ。あ、俺はカイエンだ。覚えてくれよ。」


「俺も全く同じだな。俺はクーガーだ。よろしくな。」


「私も家にあった冊子を読んで覚えたよ。面白いお話だよね。

 はい、注文の品はこれで全部だよ。」


 横から彼等より大分若いウエイトレスのお姉さんが彼等の話にお墨付きをくれていた。

 しかし俺は更に確認して置いた。


「もしかして皆さん同じ村の出身ですか? 」


「いや違うよ。

 聞いてたと思うけど俺達は去年の大会上位者だと言っただろう?

 だから国中のいろんな所から出てきた者の集まりなんだ。」


「ああ、そうでしたね。これは失礼しました。」


 という事は国の意向でこのくだらない与太話が流布されたという事だな。

 なんで国がこんな得にもならない話を皆に読めといったんだ?

 俺が暫く考えに没頭していたらいつの間にか目の前に置かれていた俺の昼飯が無くなっていた。

 えっ、なんで? と思って周りを見回してみたらもう皆食い終わっていたみたいで店が回らない事で苦情を言われたらしくいつ迄も食わない俺の分まで処分してくれていたようだ。


 どうもありがとさんよ!

 俺は金を出したにもかかわらず一口も飯を食わずに食堂を出ることになった。

 こん畜生めー!


  + + + + +


 あの後気不味くなったからかリックたちはヘルの勧誘を諦めて帰っていったが俺達は今だに困惑に包まれていた。

 彼らが語ったこの国でのバズ達の話がどうにも信じられなかったからだった。

 いや、所々真実を織り交ぜてきているから本当か嘘か判断出来ないんだ。

 全然違う人だという感じじゃなくてもしかしたらという狭い所を突いて来ているから質が悪い。


 これって詐欺師が良く使う手口と一緒じゃないか?

 嘘の中に少しの真実を混ぜると信憑性が増して相手を騙し易くなるという奴だ。

 疑り深い奴でもコロッと騙されてしまうと良く言われている。

 ということは向こうはこっちを騙そうとしているっていう事だよな。

 分かったよ。

 そっちがその気なら受けて立とうじゃないか。


 俺の灰色の脳細胞が真実は一つと爺ちゃんが言っていたと記憶の中からゴーストに導かれて心が叫んでいるんだ!

 一体なにを言っているのか俺にもサッパリ分からんがまあそういう事だ。

 俺達は口数少なく宿屋に帰ってそれぞれの部屋に引き上げた。

 今日は皆眠りが浅くなること請け合いだろうな。


 だが俺は違うぞ!

 一晩かけてこの謎を全て解いてみせる!

 絶対にだ!!

 明日のことなんかもう知らん!!

 どうとでもなれだ!!


  + + + + +


 といった具合でその日は徹夜でヘルと総合ネットワークに残っている数少ない記録を漁ったりしてあの話の検証をして過ごした。

 記録によると確かにバズ達がオウディーエンス王国で確認されていない時期がありそれが隣国への旅だったというのが妥当だろうと結論付けられた。

 バズ達が行った偉業についても彼らがこっちに帰ってきてからの言動などから大まかな所は合っていると思われる。

 但しその内容については嘘ではないが大袈裟や紛らわしいものだったようだ。

 おい! JAR〇に訴えるぞ!


 山脈越えの話の真実は街道を南からぐるっと回るのが面倒くさいと言ってこっちの方が近道だと山越えを強行して頂上付近の洞穴に這う這うの体で逃げ込んだらそこで昔の魔獣の死体を見つけて牙を持ち帰ったというものだったんだがそれをオルドが酒場で酔っ払って良く喋っていたと記録に残っていた。

 オルドは酔うとその話ばかりしていて皆には法螺吹き扱いされていた。

 バズ達は特に言い触らしてはいないようなのでそうなってしまったんだろう。


 確かにバズ達が倒したとは言ってないようだったしバズが切りやすいように持って抑えておいてマッシュさんが横から牙を切ったというのは本当だったんだろうね。

 但し死体に限る。って奴だ。

 因みにその牙って象牙じゃないかと思われる。

 反逆公爵と毒沼の件はママンのスキルで言うことを聞かせたり毒を無害化したり解毒薬でも使ったんだろうな。

 他にも色々やったらしいが総じて話が大袈裟になっているようだ。

 そして本題のなぜこんな話を国が流布したのかということだが多分こんなことだと思われる。


 二十年ほど前バズ達が無茶をして山越えをなんとかやり遂げて魔獣の牙を持ち帰って来た事は王都でも結構話題になったんだろう。

 この世界には娯楽が少ないから皆この話に飛びついたんだろうな。

 王族の者も魔獣の牙の実物を見て本当の事だと誤認してしまいバズ達を英雄だと持ち上げてしまったとしても不思議じゃない。

 そして庶民にこの話が受けているということを知ってこれをどうにか国のために利用できないかと思いついたんだろう。


 当時この国の庶民はリック達から聞くには識字率が非常に低かったという事が分かる。

 それをこの話を本にして配ることでなんとか改善出来ないかと考えて見事にそれを成し遂げたのだ。

 しかし彼らには肖像権とか著作権とか言う概念が微塵も無かったので話の主人公を実名で載せてしまったのだろう。

 だが載せられた方は堪った物じゃ無かったに違いない。

 それでバズ達はマリーシェが身籠ったというのを口実にこの国から逃げるように故郷に帰って来たというのが事の顛末じゃないかな。


 ふう。これが俺の導きだした答えだ。

 朝まで掛かってしまったが後悔は少しもない。

 ヘルに俺の考察結果を皆に教えておいてくれといって俺はベッドにダイブした。

 これから健やかな眠りを堪能するのだ。

 後のことは頼んだぞ、ヘル。スヤ~。


  + + + + +


 どうやら俺は夕方頃まで寝てしまっていたようだ。

 前のように変な夢の続きかと一瞬思ったがヘルツーの短剣型宝玉が直ぐ傍に置いてあったのでちょっとホッとしたのは皆には内緒だ。

 周りを見た感じではヘルはどこかに出かけているようでまだ帰ってきていないみたいだ。

 あの後皆に検証結果を伝えておいてくれと言ったのはどうなったんだろうか。

 まあもう俺の出る幕はないだろうからどうでも良いけどね。


 腹も減って来ていたので下の食堂にでも行くかと部屋を出て階段まで来るとなんだか食堂が騒々しい。

 皆が食事をしているような騒々しさではなくどうやら喧嘩でもしているような感じで怒号が飛び交っている。

 うわっ。こりゃ今降りていくと巻き込まれ兼ねんぞと降りていくのをちょっと躊躇したがまあ俺はあそこにはいなかったんだから騒動には全然関係ないから大丈夫だよねと軽く考えてそっと降りていった。

 だが後になってそれはとんだ思い違いでこの騒動の中心に俺は据えられていたのを知るのだった。がっくり。


 食堂ではヘルを中心に俺達のパーティと昨日会ったリックとやらのグループが喧々諤々の言い合いををしているようだ。

 うん? もしかしてまだヘルのことを諦めてなかったのか?

 いや。なんだかそんな感じの話ではないようだ。

 あれに近付いていくのはちょっと嫌だなあとは思ったがもう晩飯の時間が近づいてきており食堂で騒いでいては宿屋も迷惑だろうと意を決して連中の間に入って行く事にした。


「はぁーい! 皆落ち着いてー! ここはもう直ぐ晩御飯の準備をしないといけないから静かにしようねー! 」


「おっ! やっと本人が現れたみたいだぞ!

 おい! お前が本当にバズロックの息子ならば俺と戦え! 」


 はあ~? この人はなにをいきなり変な事を口走っているんですかねえ~?

 俺が皆の前に割り込んで仲裁したらリックの仲間だと思われる一人が俺に突っ掛かって来た。

 これは一体どういう事かとリック達の顔を見るとなんだかすまなそうな表情をしている。

 だが詳細は話してはもらえないようなのでヘルに尋ねる事にした。


 おい。これは一体どういう事だ?

 ただの喧嘩とかじゃないのか?


『すみません。マスター。

 マスターにご迷惑をお掛けしない様にと思っていたんですがここ迄付いて来られてしまったので帰ってくれるように言っていたところです。』


 いや。こうなった原因の方だ。

 それと俺がなんで戦わないといけないんだ?


『ええと。言い難いんですがマスターがロリングストンを名乗っていたという事をリックさんが仲間に喋ってしまったようでその真偽を確かめようと大勢で私たちに接触して来たんです。

 その時相手の一人がマスターを嘘吐き呼ばわりしたのをサーラさんをはじめに皆さんが真に受けて咎めた事で言い合いになってしまいました。

 そしてなんでだかマスターが英雄の息子ならさぞかし強いんだろうなという話になって皆そこで口籠ってしまったのでやっぱりなって言われて喧嘩に発展してしまいました。

 どうも上手く弁護出来なくて申し訳ありませんでした。』


 うおい! 謝るのそこかよ!

 まあ確かに俺は戦闘力たったの五のゴミだが頭脳労働担当の賢者とか魔法使いだとか言い訳なんかいくらでも出来ただろうが!

 なんで皆して口籠っちゃうんだよ!

 俺って皆にゴミだと思われているって事なのか?

 がっくりだ。


『いえ。そうではありません。

 私が魔法を使えるのは秘密にしておいてくださいと通信で釘を刺してしまっていたので皆それで喋れなくなって口籠ってしまったようです。』


 なんだよ。そんなことか。

 こりゃ皆には悪かったな。

 俺はこの国では魔法が使えるのは隠すつもりなんて微塵もなかったから喋ってしまっても良かったんだよ。


『そうだったんですか?

 だったら言って置いてくれればこんな事にはならなかったかもしれないですのに。』


 あれ? ヘルには言ってなかったっけ?

 確か特別監察官の権限でやらかした案件を裏からどうにでも出来ると言われた時にそんなような事を言ったような気がしていたんだが俺の思い違いだったか?


『そうですね。

 そこ迄の事は言ってませんでしたね。

 まあ過ぎたことを嘆いていてもしょうがありませんからこれからどうするかですが。

 ここは格好良くマスターの魔法の威力を見せつけてあげますか? 』


 いや。それは止めておこう。

 ここは俺に任せてもらうということでヘルにはフォローを頼むよ。

 そうして俺は突っ掛かってきていた奴に話しかけた。


「ええと? 俺があなたと戦うんですか?

 それは止めておいた方が良いですね。」


「なんだ。やっぱり大して強くもなかったということかよ。」


「いえ。俺が本気を出したらあなたが死んでしまうかもしれないですからね。

 こんな事で死んでも詰まらないでしょう? 」


「なんだと! 言うに事欠いて俺が死ぬだと?

 馬鹿にしてくれたもんだな!

 こうなったら腕の一本や二本を失うことを覚悟してもらうぞ! 」


「ハハハ! そんな事には絶対になりませんよ!

 瞬殺です。一瞬で終わらせてあげますよ。

 ですがさっきも言いましたがこんな所で死んでしまっても詰まらないでしょう。

 そうですね。武闘大会で決着を付けるということでいかがですか?

 まあ大勢の前で無様な姿を晒したくないというなら仕方ないですけれども。」


「言ったな! そっちこそ観衆の前で命乞いさせてやる!

 それまでの命を大事に生きな!

 それと分かってると思うが絶対に逃げるなよ! 」


「アハハハ。そんな訳ないでしょう?

 じゃあそういう事で今日のところはお帰りください。

 お帰りはあちらです。」


 俺が宿屋の入り口を手で示すとリック達は俺を睨みながらぞろぞろと帰っていった。

 さてここ迄煽ってしまったからには皆が納得する勝ち方をしないと不味いだろう。

 王都に着くまでになんとか用意しないといけなくなったが頑張って準備するしかないな。





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