03-06-07 鉄仮面
王都に向かって旅をするようになって暫く経った。
王都に近づくにつれて魔獣の襲撃も減ってきていて馬車の進みも良くなってきた。
皆は途中の街などで武闘大会の詳しい情報を仕入れてきていてどうやら開催時期は秋の収穫が終わった後になるらしい。
このままの速度でも十分間に合うと分かってからは腕が鈍らないように積極的に魔獣を倒すようにもしている。
というか俺たちみたいな連中が他にも結構いるようで時々出くわすようにもなってきていた。
「よう。お前達も武闘大会行きか? 」
「えっ? ああ、はい。そうです。
全員ではないんですけどね。
パーティで動かないと不味いですからしょうがなく皆で向かっているところです。」
「やっぱりか。
しかし若いのに結構な腕前だな。
こりゃ俺たちもうかうかしてられんな!
がははは! 」
なんて声を掛けられて実力を測られることも多くなってきた。
俺達は殆どの皆が若造であるにも関わらず少数でここ迄無事に馬車の旅を続けて来ているという事で良く目を付けられるようになってきていた。
特に鎧で全身フル装備のヘルが目立っていて遠巻きに見られているようだ。
でもなぜか声を掛けようという者はいないみたいでなんだか居心地が悪そうにしていて可哀そうでもある。
やっぱりこの暑さでも兜も脱がないというのは奇異に見えているようでどんな酷い顔だよなんて思われているみたいだ。
まあそれは真実を射止めてはいるんだが陰でコソコソ言ってるのが聞こえると案外気分が悪いもんだな。
そこで俺は前から考えていた事をヘルに提案してみた。
なあヘル。ちょっと提案なんだがお前の事をちょっと改造できないかと思っているんだが試していいか?
『えっ? なんですか? いきなりですね。
それはどういった改造ですか?
戦闘力アップとかですか?
ですが今は特に困ってませんよ? 』
これより強くなってどうする気だ?
世界征服でも企んでいるのか?
そうじゃなくてヘルの見た目だよ。
なんとかその鎧を脱いだ状態に出来ないかと思ってな。
どうだ? やってみないか?
『ご心配をお掛けしてすみません。
ですがこの鎧は外骨格の役目を果たしているのでもし鎧を脱いだとしたら物凄く貧弱な体になってしまいます。
そうなっては元も子もありませんし顔はどうにもなりませんよ? 』
まあ顔は仮面を被っているというのを考えていたんだが。
そうか、鎧を取るというのは駄目なのか。
じゃあ兜を取るというのはどうだ?
兜を脱着できるようにするだけなら強度的にはあまり関係ないんじゃないか?
少し強度は落ちるが魔石を薄く加工して覆ってしまえば頭部の中身を隠せるだろうし。
それならどうだ?
『それなら余り強度の事は問題にはならないかもしれませんが結局仮面をしていたら見た目を良くするという目的には添わないんじゃないですか?
そんなに上手くいかないと思いますよ。
ですからこういうのはどうでしょうか。
兜のバイザーを上げた時に中に設置した小型のスクリーンに素顔が見えた感じに目元を表示するというものです。
これなら簡単に出来ませんか? 』
それで良いのか?
だったら直ぐにでも出来るとは思うが結局は鎧が脱げないのは変わらないぞ?
『はい。それで満足ですよ。
マスターのお気持ちは凄く嬉しいんですが私はマスターの事を出来るだけお守りして行きたいと思っていますのでこれが一番最良ですね。』
よし、分かった!
じゃあ早速次に宿に泊まった時にでも落ち着いて作業するからよろしくな。
表示する目元とかはどうするんだ?
誰かを参照して合成するか?
『ああ、それは私が自分でやりますから魔石の加工だけお願いします。
スクリーンさえ出来れば後は私の記憶の中からその時々にあったものを使用しますから。
平常時はお嬢様のものを使ったりマスターを怒るときは奥様のものを使ったりしてあげますね。
くすくす。』
おいおい!
ちょっと待ってくれよ?!
そんな事になったら俺の日常生活が落ち着かないだろうが?!
『あら、そうですか?
奥様にはマスターを良く監督するようにと言付かっていますから問題ありませんよ?
くすくす。』
ああもう!
こんな事ならヘルの改造なんて思いつかなければ良かった!
『マスター。嘘ですよ。
本当は感謝していますのでこれからもよろしくお願いしますね。』
ホントかよ? ……ホントかよ?!
+ + + + +
次の街の宿屋に泊まった夜に早速ヘルの兜に改造を施してスクリーンを設置した。
改造は上手くいって直ぐに取り付ける事が出来た。
早速試しに使ってみたヘルは鏡を見て凄く嬉しそうにしていた。
これからはバイザーを上げてもヘルの顔を見た人の目が潰れることが少なくなると良いね。
因みにスクリーンがあっても仮面フラッシュやレーザー攻撃が問題なく使える事は確認済みだ。
夜の街の夜空に何度も閃光が迸ったりしたのは花火のようで奇麗だったな。
皆にも見せてあげようかとも思ったが夜遅かったのでやめておいた。
また機会があれば野営の時にでも見られるだろうし。
次の日の朝に食堂に揃っていた皆の前でヘルが急にバイザーを上げるというドッキリを敢行したが皆それ程びっくりしていなかった。
なんだよ。
詰まんねえ奴らだなあと思っていたら朝起きて直ぐにヘルが皆に通信で教えてしまっていたようだ。
おいおい。ヘルの奴どんだけ浮かれているんだ?
昨日の夜寝る前に明日の朝皆に突然披露してびっくりさせるって決めてたんじゃないのかよ。
まあいいけども。
皆ヘルの顔を見て嬉しそうにしているので野暮な事は言わないでおいた。
それからはヘルはちょくちょくバイザーを上げて皆と話すようになった。
目だけでも見えるというのは結構人の印象を変えるようで街の人たちにも声を掛けられるようになってヘルは大層嬉しそうにしていた。
俺はこの結果にとても満足していた。
ヘルに他所の男たちが気のある声を掛ける様になるまではな。
+ + + + +
「すみません。私は他所には行きませんのでお断りさせて頂きます。」
「そ、そうか。
まあ気が変わったらでいいからその時は声を掛けてくれ。
じゃあな。」
こんな感じで今なぜかヘルの人気が爆上がりしていて他所のパーティが声を掛けまくって来ている。
なんでなんだろうね。
ヘルって別に皆の前で特に実力を出して見せた訳でもないのに。
この場合の実力とはレーザー攻撃のことね。
これってあれかな。
俺達みたいな若造の小グループが無傷でここ迄来れているのが全てヘルのお陰でだとでも思われているのかね。
まあ一部ではそうとも言えるのかもしれないが一応ガッシュ達の実力を見もしないでそんな風に思われているというのはなんか納得できないな。
まあガッシュ達が武闘大会に出る時に実力を侮られていた方が有利に働くだろうからここは敢えて特に言わないでおこうと思う。
そんな時にあいつらが懲りもせずにヘルに話しかけてきた。
「やあ。その全身鎧を着ている君がヘルさんかい?
俺はチーム【フィールデン パワーズ】のリーダーをしているリックという者だ。
そしてこいつらが仲間のカイエンとクーガーだ。
他にもいるが今は別行動をしている。」
「どうも。」「よろしく。」
「はあ。初めまして。」
「今日声を掛けさせてもらったのは君に俺達のチームに入ってもらいたかったからだ。
どうだい? 一度俺たちとチームを組む事を考えてもらえないかい?
なんだったら俺達の実力を見てもらってもいい。」
「ああ、そういうことですか。
残念ですが私はパーティを移るつもりは微塵もありません。
ですので今回はご縁がなかったということでお断りさせてもらいます。
すみませんね。」
「おいおい。俺達のことを知らないのかい?
だったら教えてあげるが俺達は去年の武闘大会で上位になった者ばかりで組んだチームなんだよ。
今年は俺達の誰かが優勝するかもしれないとも言われているんだ。
今ならまだチームに入るのに制限はないが仲間の誰かが優勝してからだと希望者が殺到して入れないかもしれないよ?
今年の大会で君が活躍でもしない限りはね。」
「ああ。私は武闘大会には出場しませんのでやはりチームには入れませんね。
それではそういう事で。失礼します。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
あれかい? 俺達が男ばかりだからだとかが理由かい?
それなら安心してくれ。
ここにはいないがチームには女性メンバーも数人入っているよ。
後で会わせてあげるからその点については心配しなくても良いよ。」
「いえ。そういう事では無くてですね……。
私はこちらのマスターに仕えているのでパーティを移ることはありえません。
大変申し訳ありません。」
ヘルはそう言いながら成り行きをニヤニヤしながら見ていた俺の後ろにサッと回り込んで俺の両肩を掴んで前に押し出した。
あっ、こいつ相手が引かなくて面倒臭くなってきたから俺に押し付けてきたな?
後どうでも良いが仕えているマスターを前に押し出してもいいもんなのかねえ。
大事なマスターの身が危なくなってるぞ?
ヘルと話していたリックとやらが俺の事を上から下までジロジロと舐め回すように見てから俺に話しかけてきた。
「へえ。ヘルさんは君の従者なのかい?
ということは君は貴族か大家の者という事でいいんだね?
だとしたらすまないが念の為に家名があったら教えて貰ってもいいだろうか。
なにか不敬を働いてしまっても不味いからね。」
へえ。そこに気が付くなんてこいつ結構頭がいいな。
若しくはこいつも貴族かなんかかそれとも付き合いでもあるとかかね。
まあいい。
ここは普通に家名を名乗っておくか。
偽名を使ってもこの国では余り意味がないからな。
「はあ。俺はこの国ではないけれど一応貴族の一員ですよ。
家名はロリングストンです。」
「えっ? ロリングストンだって?
おいおい、知らないと思って大きく出たな。
その家名に憧れるのは良いが滅多なことで名乗らない方が良いぞ。
馬鹿にされるからな。」
はあ? こいつなにを言ってるんだ?
呆れたような目で俺を見ながら俺の言った家名が嘘だみたいな事を言って来やがった。
おいヘル! どういう事だ? なにか知ってるか?
『いえ。私も知りません。
この国には私たちが設置している中継器以外は王都にしか総合ネットワークの基地が存在していないのでこの国の情報は人の噂くらいしか得られていません。』
言ってなかったが俺の内職はまだ続けている。
内職といっても総合ネットワークの中継器を道なりに設置して置くというものだが俺達の方も総合ネットワークの本部と連絡を取れないというのは困るのでやっている事だ。
この国には総合ネットワークは殆ど残っていないみたいで俺たちが倒した魔獣の魔石はどんどんと中継器へと変わっていっている最中だ。
俺も馬車の御者席で中継器を作っていたからただ座っていたという訳では無いんだよ。
それよりも俺んちの家名が馬鹿にされるってどういう事だよ?
納得のいく説明を要求する!
「あの~。なんでですか?
ロリングストンじゃ駄目なんですか? 」
「お前知らないで使っていたのか?
ロリングストンっていう家名はかの【冒険王 バズロック・ロリングストン】のもので有名でこの国では子供でも知らない奴はいないってくらいなんだがな。
一体どんな田舎から出てきたんだ? 」
ブホッ!!
な、なにが起こった?
俺の耳がおかしくなったのか?
今バズのことを選りにも選って【冒険王】だなんて訳の分からない称号で呼んでなかったか?
どうなんだ、ヘル?
『はい。私にもそう聞こえました。
間違いないですよ。』
そ、そうなのか。
これは詳しく聞かないといけなくなったな。
「はあ。そうなんですか。
その方はどういう人でどんな事をしたんですか?
すみませんが教えてください。
あっ、こんなところで立ち話もなんなのでどこか落ち着けるところでなにか食べながらにしましょう。
俺が奢りますよ。」
「おっ、そうか?
じゃあ俺たちの行きつけの飯屋でもいいか? 」
「ええ。そこでいいですよ。
さっきの話の続きをして貰えるのならですが。」
「おう。じゃあこっちだ。付いて来てくれ。
しかしこんな事で飯代一食分も出してもらえるなんてなんか悪いな。」
「いえいえ。そんな事ないですよ。
俺達の知らない事を教えて貰うんだから当然の報酬です。」
そうして十人でぞろぞろと連れ立って飯屋で詳しく話を聞いたんだがそこで俺はかつてない衝撃を受けるのだった。(遠い目。)




