03-06-06 ビルマの竪琴
「ウオオオーーーッ!! どんどん来いやあーーーっ!! 」
「キイイエエェァアアーーーーッ!! クソがーーーっ!! 死ねえええーーーっ!! 」
「ロッくんのバカ、ロッくんのバカ、ロッくんのバカーーーッ!! 」
「ボクはまだやれるんだ、強くなれるんだ、ブッブッ…………。」
「良いわよ良いわよーーーっ! もっと出てきて私のお小遣いになりなさーーいっ!! 」
どうしてこうなった。
まあ皆の気持ちも分からんでもないが。(一部俺の悪口なんだけども。)
『すみません。私がちょっとやらかしてしまったばっかりに……。』
ホントにね……。
+ + + + +
時を戻そう。
あの後鉄道の道を馬車を連れて進み始めたんだが迫り出している木の枝が結構邪魔になってヘルと馬車のパトランプのレーザーで切り落としてそれを皆で退かすということを繰り返していた。
まあその所為で全然馬車が進まないというのが今の状態だ。
そんな時急にヘルが癇癪を起こしだした。
えっ? AIも苛つく事があるのか?
なんて思っていたらレーザーをやたら滅多らに連射し出して進行方向の木をなぎ倒し始めた。
幸い道のそばには大木は生えていないようなので道を塞ぐようなことはなかったが見渡す限り倒れた木で一杯だ。
ヘルは次いでとばかりに道の上に沿ってゴン太レーザーを発射して通り道を奇麗に掃除していた。
いきなりやらかした事には驚いたがまあ結果は納得するような感じだったのでこれで少しは進行速度が上がるかと思っていたらそうは問屋が卸さなかった。
ヘルが倒した木を住処にしていた小型や中型の魔獣がこの惨状を作ったと思われる俺達に向かって大挙して襲い掛かってきたからだ。
最初は散発的に襲い掛かってきていた魔獣も時間と共に数を増していき次から次へとこちらに向かってくる。
最初は皆も魔獣を倒すことで鬱憤を晴らしていたんだがどんどん増える魔獣に気が立ってきたのか段々前のめりになってきた。
ヘル姉妹のレーザー攻撃でどうにか補助をしていたが皆が前に出過ぎていて上手く行かなくなってきた。
というのが今の状況だ。
おーい。皆帰ってこーい。
ミズシマー、一緒にニッポンに帰ろうー! ってミズシマって誰だ?
…………。
駄目だ、返事がない。ただの屍のようだ。
もうこのまま皆には好きにさせるしかないか。
皆が馬車のそばに戻ってきたらレーザーを周囲に斉射すればすんなり片が付くんだけどなあ。
それから暫らくの間皆は魔獣と七転八倒の戦いを繰り広げていた。
戦いでは何も生まれない。それを体現する戦いであった。
皆ももう疲労困憊になってしばらく動けなくなっていたがその顔は非常にスッキリしたという表情だった。
まあそんな事もあったがその後は順調に旅は進んで初めての隣国の普通の道と交わった。
ヘルに隣国の地図はあるのかと聞いたら大雑把なものしかないという。
それを皆で見せてもらうと隣国フィールデン王国の形は東の山脈に沿うように縦長の領地のようだ。
西側がどうなっているかは分からないらしい。
なんでその情報がないんだ?
俺達の国の奴で西に行った奴はいないのか?
どうやらそうらしい。
西に向かう街道には関所があり他国の奴はそこを通れないみたいだ。
その先になにか重要なものがあるのか。
はたまたその先の国と関係を持ってもらうとなにか都合の悪い事でもあるのか。
まあ俺達は行ける範囲で旅が出来ればいいのでどうでもいいか。
さて地図を確認するとどうやら首都は北の方にあるようだ。
南に行けば他の人たちが使っている国境の街があるのでそちらに行く意味はないな。
そっちに用があるのなら最初からそっちに向かってるよな。
俺達は北に向かって交わった街道を進むことにした。
+ + + + +
北の首都に向かって取り敢えず進むことにしたんだけどちょっと疑問が出来たのでヘルに聞いてみた。
なあヘル。俺達って国境を無断で通って来た事になるんじゃないか?
密入国ってことにならないのか?
『えっ? ああ、その事ですか。
それは事後報告でも良いんですよ。
結果的に入って来た事をその国に報告しておけば問題にはなりません。
傭兵たちだって好きに我が国に入って来てたじゃないですか。
入る事には特に何も言われることはないですよ。』
へえ~。国境ってそんなゆるゆるなんだ。
まあどこの国も人手が足りてないって事なんだろうな。
前のバリセローも姫を連れて入国する時は簡単に出来たって事か。
じゃあ密入国の罪っていうのは無いって事か?
『密入国の罪はないですが密出国の罪はありますよ。
ご先祖様のパンロック氏もその所為で他国に出られないという状態になっていたじゃないですか。』
ああ、そうだったな。
でも国を出てしまったらそんなの関係なくないか?
『そうですね。
もう二度と帰らないというのならそれでも良いのでしょうがそうでないのなら帰ったら牢獄行きでは皆密出国するのを躊躇するでしょうね。
まあ出国禁止になってるような人はそんなに大勢いるって訳でもないんですが。』
そうか。
皆いつかは故郷に帰りたくなるもんなんだな。
俺も無駄に目立って政府に目を付けられて出国禁止って事にならないようにしないとな。
『マスターは今のところ大丈夫ですよ。
総合ネットワークの特別監察官になってますから裏からどうとでも出来ますからね。』
おい! そういう事は早く言ってくれよ!
今回の抜け道のことで目を付けられるんじゃないかとヒヤヒヤしていたんだからな!
『あら、そうなんですか。
マスターも冒険がしたいお年頃なのかと思っていました。
クスクス。』
笑うなよ。サーラが見ている。(って怖っ! なんでこっちを見てるの?! )
まあ鉄道跡を見つけた時に妙にワクワクしてしまった事はどうにも隠せなかったようだな。
そんな会話をしながら馬車を進めていたんだがその間魔獣が引っ切り無しに襲い掛かって来ていたのは皆には内緒だ! 嘘だ! 内緒じゃない!
いやもうホント。これどうなってるの?
倉庫からの道でも結構居たと思っていたんだけど街道に出てからも殆ど変わらずに魔獣が襲ってくる。
それも大型が多い様だ。
他国が魔獣の被害が酷いっていうのは嘘や大袈裟な話じゃあなかったって事だな。
これじゃあ街から街への移動も簡単な事じゃあ無くて大規模な警護隊を連れたキャラバンとかじゃないと無理じゃね?
もう結構この道を進んでいるんだが一度も行きかう人とは会っていない状態だ。
俺達の戦い方はまずヘル姉妹のレーザー攻撃で荒方の魔獣を出た傍から間引きをして数匹を手負いにしてから皆の剣の練習相手をして貰っている。
俺とヘルはもっぱら魔石の回収係だ。
一時期ファンロックに丸投げしていた時は楽が出来て良かったなあなんて昔の事を思い出して懐かしんでいる最中にも次々とノルマが増えていく。
もう嫌だあ~!
と言って駈け出そうとしたらヘルツーの宝玉からレーザーが発射されて俺の直ぐ後ろに来ていた魔獣を撃ち殺していた。
俺はそれを知って背中にザっと冷や汗が流れた。
こんなどうでも良い普通の戦闘中に身の危険を感じるなんていうのは随分久しぶりの事だ。
俺は認識を改める事にした。
これは今迄と違って尋常な状態じゃあ断じてない。
舐めて掛かっていると足元を掬われ兼ねない状態だ。
俺はヘルに言って皆に一旦馬車のところに戻るように通信して貰った。
パトランプからの放送では聞き逃すかもしれないからな。
皆も魔獣との戦闘中ですんなりと撤退出来ない状態だったので少しづつ後ろに下がりながら馬車のところまでなんとか無事に戻ってきた。
そこでパトランプからのレーザーの一斉射でいったん魔獣を全て殲滅してもらってからちょっと休憩しながら今後の戦闘方針を相談する事にした。
+ + + + +
「皆ちょっと休憩しながらでいいから聞いてくれ。
この国に入ってから運悪く魔獣の襲撃にばかり遭っていると思っていたがその認識は間違っていたみたいだ。
どうやらこの国はどこへ行ってもこんな感じだと思われる。」
「えっ? そうなのか?
なんだよ。そりゃ別に良い事じゃないか。
剣の修行にはちょうどいいだろ。」
「そうね。私達はその為に旅に出たんだから願ってもない事じゃないの。」
「そう言うけど皆小さい怪我を沢山していてボロボロじゃない。
一度ちゃんと治療した方が良いよ。
そういう事が言いたいんでしょ? ロッくん? 」
「ああ。その通りだ。
皆が修行をしたいのは分かっているしそれを応援したいのは変わらないがこの国でも一度どこかに落ち着いてから取り掛かっても遅くないんじゃないか? 」
「そうですね。
どこかに拠点を作って落ち着いてからの方が効率が良いと私も思います。
こういつも気を張ってばかりいる状態が続いていると思わぬミスをしてしまいがちですし。」
「ああ、俺もそう思う。
いつも気を張って精神力を鍛えるっていうのはありかもしれないがしょうがなくその状態にいるっていうのといつでもやめられるというのでは全然効率が違うんじゃないか?
ここは一度速度優先でどこかの街に入ってから仕切り直しという事にしないか?
なんだかこのままだと誰かが大怪我しそうな予感がして怖いんだよ。」
「そういう予感というのは馬鹿にできませんよ。
自分にも覚えがあります。
ボクはハーロック様の意見に賛成です。」
「そうか……。
そうだな。そうするか。
リーナもそれでいいだろ? 」
「分かったわ。
ガッシュがそう言うんならそうしましょう。
それで落ち着ける街だか村だかは近くにあるの? 」
「それが全然分からないから余計に不安だったんだよ。
事によればこのまま野営する事になるかもしれん。
そうなったら夜は安心してなんて寝られないぞ。」
「ええ~? そんな事になったら只でさえ冴えない顔がもっと酷い事になっちゃいますよ!
こうなったらサッサと街に向かいましょう! 」
「よし! 皆もそれでいいな?
それじゃあ速度優先で極力魔獣とはまともに戦わずに強行突破という感じで街を目指そう! 」
「おう! 」「「はい! 」」
そんな感じで話は纏まって俺達は強行軍で馬車を進ませる事になった。
そしてなんとか日のある内に街ではなく村の門をくぐる事が出来た。
村の少ない宿屋になんとか滑り込むことが出来た俺達は夕食を食べた後直ぐに眠りに落ちてしまった。
俺達は自分達で思ってたよりもかなり疲れていたのか次の日の昼過ぎにようやく起きることが出来るような感じで続けて二日もそこに泊まる事になった。
身体の疲れをしっかりと癒した俺たちはその後のことを話し合ってここでしばらく魔獣狩りをして過ごすことにした。
村の人達は魔獣が頻繁に出て困っているようで俺達が魔獣狩りをやると知ってからは凄く親切に接してくれるようになった。
魔獣の肉も出来るだけ持って帰ってくれと依頼され馬車の後ろに荷車を数台連結して持って行きいつも魔獣で一杯にして帰ってくるようにもなった。
そんな感じでなんと一か月もその村で魔獣狩りをして過ごしてしまっていた。
俺達は過ごし易いこの村が結構気に入っていてもう少しここにいても良いかとも思っていた。
その日もいつものテーブルで皆と夕食を食べていたら偶然同じ宿屋に泊まっていた客達が今度王都で武闘大会が開かれるらしいという話をしていたのを脳筋たちが聞いてしまうまでは。
なんで脳筋達っていうのは揃って耳がいいんだろうね。
耳も筋肉で出来ているんだろうか。
まあそんな事はどうでもいいか。
とにかく脳筋達の動きは素早かった。
武闘大会の話をしていた客達ににじり寄って詳しい話を聞いて凄く盛り上がっていた。
そして荒方話を聞き終えてテーブルに戻ってくると案の定王都に行こうと言い出した。
まあそう来るよな。
はあ。仕方ないか。
結構ここでの暮らしを気に入っていたんだけどなあ。
しょうがない。
俺も王都へはいつかは行かなければと思っていたからな。
いい機会だし皆を説得する手間も省けるしでちょうどいいか。
それから数日後に村での細々とした用事を片付けた俺達は村を出発した。
村人には結構本気で引き留められたがまた寄るよと言って別れてきた。
さよなら、俺の平和な日々よ。
ようこそ、魔獣の大群よ。
って感じの旅になりそうだなあ。
ああ、ヤダヤダ。




