03-06-03 栄光への道
宿屋で皆が帰ってくるのを待って今後のことを相談することにした。
皆も街をぶらついてそれなりに情報を仕入れてきたみたいだ。
ヘルも総合ネットワークから街の周辺や隣国に関することを調べてきたという。
なんか何もしないで寝てたのは俺だけのようだな。
ちょっと気まずい雰囲気が流れたが俺は気にしないぞ! うん!
特定の三人から胡乱げなまなざしが注がれたが気にしないで話し合いを始めよう。
最初に皆が仕入れてきた情報を聞いてみたがどれも大したものではないか真偽が定かでない噂程度のものだった。
おい。こんな情報程度でさっきは勝ち誇っていたのか?
こんなのは寝ていた俺でも知ってるぞ。
こいつらが仕入れてきた情報とは山脈には秘密の抜け穴があるとか山頂には巨大な魔獣が棲んでいるとかお伽話の域を出ないものばかりだった。
子供向けの絵本に乗っているような話は情報とは言わないと思うんだがその辺はどう思ってるんだ?
まあ露店のおっちゃんやおばちゃんが話すような情報は他所から来た旅人向けのどうということもないくだらないものだというのは定番だろう。
そんなところから重要な情報が出てくる訳がない。
もし出てきたのならそれは真っ赤な嘘かこちらを騙そうとしているということだろう。
もうそっちの方は放っておいてヘルの方からの情報に期待しよう。
それでヘルの方はどうだったんだ?
「はい。私の方も特に重要な情報は無かったと思います。
最近はどこでも魔獣が増えてきていますし隣国との関係もあまりよくないといった事位ですね。
ですが少し今までと違うのは魔獣の種類が隣国でしか確認されていないものだということですか。
噂の抜け穴の話の出どころはこれが元になってるんじゃないでしょうか。」
「へえ。面白い話だな。
じゃあ本当にどこかに抜け穴があってもおかしくないのか。」
「ほら見ろ。俺達の調べてきた事も満更でもないだろ? 」
「馬鹿言うな。
そんな有るのか無いのか分からないことを偉そうに言われてもこっちが困るわ。
それにもし抜け穴があるんだとしてもどこに有るんだ?
それが分からなければ意味はないだろ?
たとえ有ったとしてもそれが俺たちにどう関係するんだ?
その抜け道を使って隣国に行くのか?
だがそうしたら馬車とかをおいて行かないといけないかもしれないぞ?
現実的じゃあないな。」
「まあそうか。」
結局有用な情報は無かったが二日後に南に向けて旅立つことを決定した。
隣国にわたるには南に下ってから山脈の低いところにある国境の街を通るしかないからな。
この街の西側には高い山しかないからだが皆この山を鬱陶しく思っているんだろうな。
それが抜け穴の噂が絶えない理由だろう。
それから俺たちは二日かけて旅の準備を終えて南に向かって再出発した。
+ + + + +
ザザァーーッ!
「うわあっ?! 急に降り出したぞ?!
皆馬車に乗れ! 一先ず雨宿りだ! 」
夏になりかけのこの季節にありがちな急な土砂降りの雨に襲われて皆で馬車の中に避難した。
馬車の中は折り畳みの二段ベッドを畳めばぎりぎり全員が乗れる程度の広さしかない。
ヘルは俺の代わりに御者席に座って馬車を制御するようだ。
すまんね。無人のままでもディスはしっかりと進んでくれるだろうが他所の人が見て誰も御者をしてないというのは馬車が暴走するかもしれないと不安になるだろうからな。
しばらく馬車の中で雨宿りしながら皆と他愛もない話をして過ごした。
ベスが自棄に近付いてきて鬱陶しいがまあちょっとのことなので我慢しよう。
おい。胸を擦り付けてくるなよ。
皮鎧を着てるんだからガサガサした感触しかしなくてなんにも嬉しくないぞ。
おうっ?! なんか急に寒気がしたのでそっちを向けばサーラがこっちを睨んでいる。
オイオイ。これは俺の所為じゃないだろ?
冤罪だ! 俺はずっと手を上にあげていて触ってなんかいないぞ!
なんだか痴漢疑惑を掛けられたが俺はなんにもしていないと胸を張って言えるぞ。
裁判でも無罪を主張する!
だがなぜか皆の目が俺が悪いと言っているような感じだ。
こうして世間に冤罪が尽きないんだなあ等と感慨にふけっていたらヘルから雨が上がったと連絡が入った。
よし! 気合を入れ直して張り切っていくか!
気合を入れて外に出たら道が思ったより雨で緩んでいてドロドロだった。
うわあ。これ馬車がぬかるみに嵌ったりしないだろうな。
まあうちの馬さんは大馬力だから大丈夫か。
だが他所はそうじゃないみたいで所々で立ち往生しているようだ。
最初は皆で助けようかとも思ったがキリがなさそうなのでやめておいた。
横を通り過ぎていく俺たちの馬車を恨めしそうに見るのはやめてくれませんかね。
そんな感じで馬車を進めていたら不意に強い衝撃が伝わってきた。
ガタン、ガタンッ! ガラガラガラガラ。
ドチャッ。ドチャッ。
オウッ。ちょっとうつらうつらしていたから急な衝撃にびっくりしたぞ。
なんだったんだ今のは? 気が付かずに橋でも渡ったのか?
御者席から体を乗り出して通って来た道を振り返って見てみたが橋があったような感じでもない。
なにか頭に引っかかるものがあったのでちょっと休憩を取る事にして止まってみた。
皆にはそれぞれ休憩しててくれと言って俺は通って来た道を戻ってさっきの衝撃の原因を探ることにした。
戻って見てみると街道を横切るように固い地面の場所が一定の幅であるようだ。
そこだけ土が薄く上に乗っているような状態なので轍もそんなに深くない。
轍のところに足を持っていき下がどうなっているか土を蹴るようにして退かしてみたら下から驚くものが現れた。
それはどう見てもコンクリートのような構造物だった。
俺は転生してから昔の遺跡とかを何回か見てきたがコンクリートの一体構造のものは見たことがなかった。
大体が同規格の石の板とかでしかないものだった。
俺はこれがなんなのか凄く気になってきた。
顔を上げて周囲三百六十度を見回してみた。
地面の下の構造物は道を真横に縦断しているのではなく斜めに横切っているようだ。
道から外れた先は片方は平原で草が覆っていてその先がどうなっているかは分からないがもう一方は山側で森があるが何故か木が生えていない草の道がまっすぐ山まで伸びているのが見える。
そこ迄確認した時ヘルがお茶の用意ができたと告げに近づいてきた。
俺がなんでここに来ていたのかを察したヘルが総合ネットワークの検索を掛けたのか情報を上げてきた。
「マスター。お茶の用意ができましたよ。
…………。
これは昔の鉄道かなにかの痕跡ですね。
このような痕跡は国の各地で確認されています。
これがどうかしましたか? 」
「うん? まあな。
取り敢えずお茶を飲みながら話すか。」
俺は皆のところに戻って一緒にお茶を飲みながらこれからのことに関して話すことにした。
+ + + + +
「今通ったところに昔の遺跡のようなものがあった。
皆の中にも気が付いた者がいたかもしれないが道の下に固いものがあっただろう? それが遺跡だ。
それがここから左右にずっと続いているようなんだ。
一方は草しか見えないが山側の方は山脈まで続いているのが見えた。
そこで皆に相談なんだがこの遺跡の道を行けるところまで見に行きたいんだがどうだろうか?
もしかするとなにか大きな発見があるかもしれないと思っている。」
「へえ。そんなのがあったのか? 気が付かなかったな。」
「ああ。ちょっと道が堅かったわね。馬車に乗っていたから分かったんじゃない? 」
「そうだな。馬車の方が地面の影響をうけやすいからな。
それで気が付いたんだ。」
「ふ~ん。その遺跡ってなんの遺跡なの? ロッくん。」
「昔の交通機関用に作られた道だ。
今でいえば馬車専用といった感じだな。
昔はこれが街と街を繋いでいたようだ。
それで事によってはこの道が隣国に繋がっているんじゃないかと思っている。
まあ確率は低いとも思っているがな。」
「えっ! そんな事なら大発見じゃないですか?!
ぜひ確認に行きましょう!
そして私たちが第一発見者として国に表彰されるんですよ!
うわー、そうなったら一躍有名人ですよ~。
わたし困っちゃうな~。」
「ハハハ。そうなったら良いけどな。
皆はどうだ? 距離はあるが行ってみないか? 」
「おう。こういうのが本当の冒険だよな!
こういうのがやりたかったんだよ、俺は! 」
「そうねえ。第一発見者の栄誉はあっても困らないし未来のためにも良いわよね。
私も賛成するわ。」
「ロッくんの好きなようにやっていいよ。」
「ボクも参加したてでこんな機会が来るなんて運がいいですよね!
大賛成です! 」
「よし! それじゃあどうするか。
ヘル。次の村まではもう近いのか? 」
「はい。今日中には着く予定でした。」
「そうか。なら一度その村でちゃんと準備をしてから向かうとするか。
それで良いな、みんな? 」
「おう!」 「「はい!」」
そんな感じで遺跡の調査が決定した。
さてどんな結果になるのか俺も興味津々だ!
+ + + + +
村に着いて一日休養してから旅の準備をしっかりした。
まあ遺跡は逃げないしね。
準備してし過ぎって事もないだろうし。
数日後に道を引き返して遺跡の場所に着いた。
ここから山側の方向に草地を進んで行くんだがなんでこんな通りやすい道を有効活用しなかったんだろう?
山に向かうのに最適だと思うんだが。
ヘルと話して原因を考察してみたが多分こんなことだろうと結論付けた。
それはただ単にそちらの山に有効な鉱物とかが出なくて行く理由が低かったからだというものだ。
まあ鉄道を通そうっていう所には元々有効な資源が出るところは選ばないだろう。
利用価値がないところを使うのは当たり前だよな。
そんなところに道を通しても金の無駄遣いだ。
それに最寄りの大きな街からは行って戻ってくるような感じで遠回りだしね。
まあそんなことを考えながら草地を馬車で進んで行く。
たまに大きな木が倒れていて道を塞いでいたりしたがヘルの怪力で道の端に寄せて事なきを得たりした。
山に近づくにつれて魔獣の襲撃を受けるようにもなってきたが皆にとっては大したことじゃあないみたいだね。
いつもと違う種類だと逆に喜んでいたくらいだ。
道幅は結構あるので真ん中を通れば急に襲われても距離が開いていて余裕で対処できるようだな。
そんな感じで数日かけて山のふもと迄やってきた。
さあ、ここからが本番だ。
多分トンネルとかが土砂かなにかでふさがっていたのが山崩れかなんかで隙間ができたとかなんかだろう。
そう思って探索を始めたがどうやらそうではないらしい。
行きついた山側には倉庫のような建物が立っていてその扉がただ開いていただけだった。
そしてそこから魔獣が出入りしているのが確認できた。
つまりこの倉庫の中でトンネルと繋がっているのか?
ところでこの建物はなんなんだ?
ヘルに情報が無いか調べてもらったが総合ネットワークにはそんな情報は上がってないそうだ。
でも見た感じそんなに古いものでもなさそうに見える。
ましてや遺跡でなんかは絶対にない。
これはどういうことだ?
もしかして俺たちのようにここに目を付けた奴が以前にもいたのか?
その可能性がなんだか高そうだな。
そして色々調べていたが総合ネットワークにはその事を知らせていなかったという事だろう。
なんだよ。なんか急にやる気が失せたな。
誰かの二番煎じだなんて一番やる気が失せることだよな。
でも皆はまだそれに気が付いていないのか魔獣を倒して中に入ろうと言っている。
うん。まあ。最後まで付き合うか。
人員を二つに分けて外で魔獣がこれ以上はいらないように見張る組と中に侵入する組に分けた。
外は女性陣とヘルで中は男性陣だ。
中を調べて問題がなければ後で入れ替えると決めておいた。
それじゃあなにか良い置き土産がある事を祈って探索に出発だ。
開いていた扉は横にスライドするタイプだったので俺たちが入ったら人がぎりぎり通れるくらいに狭めておいてもらった。
中から魔獣が来てもすんなり出られないようにだ。
まあ念の為にだな。
中に入っての感想はただの倉庫だなぁだった。
まだ中になにか入っているだろう木箱が並べられていて出荷待ちみたいな感じだ。
うん? 出荷待ち?
どういう事だ? ここは使われなくなってるんじゃなかったのか?
木箱自体は時間が経っているように見えることから結構古いものだとは思われるがその時点でここのトンネルは使えていたって事なのか?
なんだか疑問が出たり引っ込んだりで忙しいな。
まあいい。
もう一度気合を入れなおして真面目に探索するとしようかねえ。