03-05-05 オウディーエンス王国の逆襲
俺たちが倒した盗賊の死体を漁ってみるとちょっと気になる物を見つけた。
それは隊長格だと思われる男が持っていた物でこいつらが持っているとしたら珍しい物だったので気になって取って置いた物だ。
それはちょっと見ではただのメモ書きにしか見えない物だったが良く考えるとこいつらにそんな物は特に必要などないだろう。
盗賊をするのに必要な条件が几帳面な事だなんて話は聞いた事がないしな。
それで気になって取って置いたんだが馬車をディスに任せて進ませて俺は御者席に座りながらちょっと詳しく観察する事にした。
するとそのメモ書きには日付とその日までのカウントダウンをチェックしているような落書きっぽいのが書いてあった。
なんだこれ? 誰かと会う約束でもしてたのか?
まさか彼女の誕生日を祝う予定でもあったという訳でもないだろうしなあ。
ヘル。この日ってなにか特別な事でもあるのか?
『なにを言ってるんですか? マスター。
その日は王国祭の日じゃないですか。
そんな事も忘れたんですか? 』
王国祭? それってなんだ? なんのお祭りだ?
『えっ?! 本当に知らないんですか?
この国の建国を祝うお祭りじゃないですか。』
えっ? そうなんだ。俺は全然知らなかったぞ。
村でもこの日にお祭りなんてしてなかったよな?
『ああ。そういえばそうでしたね。
なぜか村ではやってなかったんでしたね。』
そうだぞ。村でお祭りっていったら収穫祭くらいだろう?
他にお祭りなんかやった覚えはないな。
それでこの王国祭ってのはどんな事をするんだ?
出店とかがいっぱい出るとかか?
『まあそうですね。そういうのも勿論ありますが目玉は王族のパレードとかですね。
見物人が街に溢れて通りを埋め尽くしたりします。
だからそれを目当てにスリや窃盗が頻発したりもしますね。
去年私たちが王都に来た時に足止めを食らった理由の杖の窃盗事件もこの時に起きたものですよ。』
ああ、あの時の事件か。
そうか。去年王都に来た時にはもう終わった後だったということか。
それでこのメモ書きはどういうことなんだと思う?
まさか盗賊がお祭りで遊ぶのを指折り数えて心待ちにしていたという訳じゃあないだろう?
あいつは多分隣国の兵隊だった奴だし他国のお祭りでもあるしな。
これはやっぱりこの日に集まるか同時にかでなにか良からぬ事を仕出かそうと企んでいるという事だろうな。
あ~ぁ。嫌なものを見つけて変なことに気が付いてしまったなあ。
なあヘル。これって俺たちがどうこう出来るような問題じゃあないだろう?
こんな事を衛兵に言っても絶対に信用されないだろうし逆に俺たちが後で疑われ兼ねないぞ。
もう俺たちの手に余るからってこの情報を総合ネットワークに送り付けてそっちで対処するように言ってくれないか?
『マスター。なにかを忘れていませんか?
マスターはもう昔の貧弱なチェリーボーイではなくなって今は国の機関の特別監察官になったんですよ。
もっとドーンと構えてボスっぽく衛兵をアゴで使って奴らを一網打尽にしても良い身分になったんですからこの授かった力を思う存分使ってやりましょう。マスター。』
あぁ…………。
ああ、そうだったな。すっかり忘れていたよ。
そういえば北の街でもこれを使って対応しても良かったんじゃないか?
まあ使うまでもなかったがな。
そうか。じゃあまずはこの情報を大々的に全国に公開しよう。
国中の奴が全員知ってても奴らは計画を実行しようとするのかを見物するのもオツだろう。
それでも実行しようとすれば絶対に目立つだろうからそれから動いても間に合うようにこっちも準備しておけばいい。
その準備とかは政府の人に丸投げだ。好きにやってくれ。
ヘル。これをするのになにか俺たちでやらないといけない事は有ると思うか?
『そうですね。マスター。
これを機会に【ロック=ザフリーダム】の名前と容姿をおおやけに広めてしまいませんか?
その方が今後も動き易くなると思うんですがどうでしょうか。
顔とか声は魔石で偽装用の仮面でも作って着けて変えてしまえば良いと思いますよ。』
へえ。面白いことを考えたな。
そうだな。俺も偉そうにする練習の為にちょっとはっちゃけてみるか。
それで謎の仮面紳士とか名乗ってみるのも面白そうだな。
くくくっ。なんか楽しくなってきたぞ。
+ + + + +
それから俺たちは王都に向かって馬車を進めて数日後には王都に着いていた。
俺たちは爺さんの屋敷に直行して取り敢えず厄介になることにした。
皆には休むように伝えて俺とヘルは例のメモ書きからの情報を文書に纏めておいた。
明日はこれを持って衛兵の本部に行って偉いさんと会って俺の作戦を実行して貰えるように頼むつもりだ。
おっと、その前に変装用の仮面を魔石で作って置かないとな。
俺が色々とやっていると姉さんとファンロックが部屋を訪ねてきた。
爺さんちに来ても誰にも会わずに部屋に閉じ籠っていたからなにか有ったのかと心配して来てくれたらしい。
家族愛というのはとっても有り難い物だねえ。
俺は変装用に作った仮面を装着して二人に語りかけた。
「ふはははは! 我が名はロック=ザフリーダムである!
良くぞ我が部屋にやって来たな! 我が愛しの姉弟達よ!
今日は大いに歓迎しよう! 」
「え~?! なにその仮面! 凄くカッコイーじゃん!
僕にも同じ物を作ってよー! それに声も変えられるの?
僕もそれで遊びたい! 作って作ってー! 」
「あらあら、まあまあ。面白そうな物を作って遊んでいたのね。
そんなに夢中になる程なの? 私にも一度やらせて貰えないかしら? 」
なんか俺がウケを狙ってやった演技が二人の厨二心をくすぐってしまったらしくえらい勢いで食い付いてきた。
ああ、そういえばこの世界では皆娯楽に飢えていたんだったなあ。
そりゃ食い付くわけだ。
あれ? なんか二人にも作らないといけないような雰囲気になってきたぞ。
あっ、これもしかして姉さんの香りで操られ掛けているのか?
もう、直ぐにスキルに頼るのはただの怠慢だよ。姉さん。
そんな事しなくても作ってあげるからちょっと待っててよね。
しょうがなく二人にも似たような物を作ってあげた。
ファンロックには石仮面を、姉さんには仮面舞踏会用の上だけのマスクだ。
「ふはははは! 俺は人間を辞めるぞっ! ジョ〇ョーッ!! 」 ド・ド・ド・ド・ド・ドッ!!
「あはははは! ボクは仮面の騎士さ! さあ姫との結婚を掛けてボクと決闘だっ! 」 シャキーーンッ!
うわー? 二人ともノリノリだーー?!
これって後で正気に戻った時に羞恥心で悶え死にしないだろうな。すごく心配だ。
その後はヘルも入れて四人で変なノリの小芝居をやって面白おかしく遊んだ。
こんなに姉弟で遊んだのは久しぶりだな。
昔は良く皆で遊んだりしたもんだったなあ。
昔を懐かしんでいると姉さんが話し掛けてきた。
「ハーちゃん。もう直ぐお姉ちゃんは結婚してしまうけれど姉弟の絆は永久に不滅よ。
だから困ったらいつでも頼ってきてね。
幸いお相手の方は王族の方らしいのできっと力になってくれると思うわ。
お姉ちゃんもこれでハーちゃんが危なくなっても安心だわ。」
「もう、姉さん。俺はもう成人しているんだからハーちゃんは止めてって言ってるでしょ。
それにもう自分のことは自分で守れるようにもなったから元から安心だよ。
あとヘルも一緒にいるからね。
でも姉さんの気持ちはありがたく頂いておくよ。
今までもずっとありがとうね、姉さん。」
俺がそう言うと姉さんは急にメソメソしだした。
なんだよ。本当は結婚したくなかったのに無理して結婚するのかよ?
俺がそう聞くと結婚したいに決まってるじゃないときっぱりと言われた。
じゃあなんでそんなにメソメソしているんだよ?
変な姉さんだなあ。
『はあ。全然ダメなマスターですねえ。』
『ダメダメー? 』
『はい、ダメダメです。』
いつもいつも二人はうるさいよ!
~ ~ ~ ~ ~ ~
「おい、衛兵本部から送られてきたこの報告は本当なのか?
本当に王国祭になにかが起こるのか? 」
「はい。今情報を確認中です。
ですが情報の確度は高そうですよ。
なにしろこの情報を持ってきたのは件のヘル・ヘルシング嬢達ですからねえ。
彼女がこれまで報告してきた情報は全て事実でしたから信頼度は総合ネットワークが言うには最高ランクです。
これを疑っていたら一体誰を信じられるのかという位ですから。」
「そうか。くそっ!
また隣国の奴らがうちの国で好き勝手するのを黙って見ていなければならないのか?! 」
「まあヘルシング嬢達が関わっているんですからそういう事にはならないとは思いますよ。
この報告と一緒に対策案も上げてきていたんですがこれが結構面白い策で戦争騒ぎの時にも似たようなのを推してきていました。
その時はまだ彼女の策は重要視されなくてあまり真剣に議論されなかったようですが今回は違った結果になるでしょうね。」
「ほう、そうなのか。
彼女は情報を探って来るだけじゃなくて対抗策を考えることもできるのか。
それこそ凄い人材じゃないか?
これに匹敵するような凄い奴はうちの機関にはいないのか?
もしいないんだったらもう彼女をスカウトしたらどうだ?
その方が話が早いだろう。」
「ああ。その必要はありません。
今回判明したんですが彼女たちは総合ネットワークの指揮下にある特別監察官であることが分かりました。
だから身元を調べても情報が出て来なかった訳ですね。納得です。
灯台下暗しって感じですねえ。お恥ずかしい限りです。」
「なんだ。もう俺たちのお仲間だったのかよ。
そりゃビジターナを救ってくれたりしても当たり前だった訳か。
それにそそくさと離れて行ったというのも頷ける対応だな。
そういう奴は保護対象に情が移ると困るからといって必要以上に慣れあったりはしないもんだからな。」
「そうですね。
今考えるとそうだったとしか言えない対応だったのになぜ気が付かなかったのか不思議ですね。
まあ理由を考えるとしたらいつも鎧姿なのでそのインパクトが強過ぎてあらかじめ不審者だという先入観があった所為でしょうか。
とにかくこれでヘルシング嬢の身元を探らなくても良くなったので一仕事終了です。」
「まあそうなるか。
さっきからちょっと気に掛かっている事があるんだがヘルシング嬢達の達ってなんだ?
他にも誰か一緒にいたのか? 」
「おや? よくそんな細かいところに気が付きましたね。感心です。
そうですね。衛兵本部には彼女たちは二人で現れたようです。
一人は勿論全身鎧姿のヘルシング嬢でもう一人は黒のローブで全身を隠した仮面の性別不明な者だったようです。
多分ですが男性でしょう。」
「なんで性別が不明なんだよ?
普通は声とかでわかるだろう? 」
「いえ。それが声を聞いた者によると人間の声ではないような感じだったというんです。
多分なにかの魔道具で声を変えているんだと思います。
名前を総合ネットワークで調べましたがこちらもヘルシング嬢と同じで一切回答がありませんでした。
これは総合ネットワークの指揮下の特別監察官は皆身元の調査は出来なくなっているという事なんでしょう。
まあそういう対処をすることもままある事ですね。」
「なんかやけに秘密主義だな。
そんなに秘密にしなければならないことか? 」
「そうですねえ。
元の身分が結構高い者だとか逆に超低い者だとかだと新たに与えられた役職の権力を狙って周りの者を標的にされる事とかが有り得ますからしょうがないという側面もありますよ。
私達もそこには出来るだけ触れないようにした方が良いでしょう。」
「そういうものか。
じゃあこの件はその二人に任せてもいいのか? 」
「いえ。そういう事じゃあ無いみたいですね。
この件は衛兵本部で対処して彼女たちは裏で動くということのようです。
まあ今までと同じということです。」
「なんだ。そうなのか。
まあ策があるのならそれでもいいか。
王国祭までそんなに日にちは残ってないが準備は大丈夫なのか? 間に合うんだろうな? 」
「まあ間に合わせるしかないですねえ。
また自分の仕事が増えましたね。がっかりです。
ああ、早く彼女と結婚して癒してもらいたいなあ。」
「前から思っていたけど結婚ってそんなに良いもんでもないぞってもう聞いてないか。
まあ精々頑張って俺達を守ってくれよ。」




