03-04-10 遭遇と別離の境界
王都の爺さんの屋敷に世話になってもう一週間にもなる。
その間にファンロックとフリオペラを連れて学園に行ってみた。
俺も来るのは初めてなのでどんなところかという興味があったので色々と見て回った。
フリオペラは学園の寮に入るというので爺さんちから早々に移っていった。
彼女とは結構長い付き合いになったのでこのまま最後まで学園にいられるようになればいいと思う。
そういえば彼女は学園に入るのにお金とかどう用意したのかと思っていたら自分が着けてきていた宝石とかを売ったらしい。
なるほどね。かさばらず身に着けておけて大金になる。
上手い事考えたなあ。
どれくらいになったかと聞いたら学園を卒業するまで余裕で持つ金額だとか。
まあ一国の姫が持っている宝石がそんなに安い物な訳がないよな。
ことによると国宝クラスじゃないか?
そんなのを売りに来られた宝石商もびっくりだろうな。
ファンロックは春から爺さんの家から通うことになりそうだ。
これでママンから離れられて気が楽になっただろうな。
俺も王都の学園に通うってことに気が付けばよかったのになあ。
まあもう過ぎてしまったことを嘆いても仕方ないか。
二人の学園入学が決まったのでそろそろ俺たちの旅を再開するかねえ。
ガッシュたちにそのことを相談しにリーナの家に向かうと思わぬ人と出くわした。
それはビジターナ王女たちだった。
そういえばこの人も色々あったのにまだフラフラしてるのかね?
「あらまあ。ヘルシングさんとハーロックさんじゃありませんか。
そういえばリーナが帰っているんだからいてもおかしくはないんですよね。
ごきげんよう。
ヘルシングさん。過日は大変お世話になりました。
このように無事に王都へ帰ってこられました。
このご恩はいつかお返しいたしますのでしばらくお待ちください。」
「ふふふ。それは良かったですね。
これからはもう少し身辺に気を付けたほうがよろしいですよ。」
「はい。今回のことでとても身に沁みましたわ。
これからは護衛を常に付けるように致しました。」
そういって周りを見回すと確かに護衛の女性騎士が二人ほど待機しているようだ。
侍女のメイスさんを入れて三人で周りを囲うように配置している。
「今日はリーナが帰ってきていると聞いて遊びに来たんですよ。
あれからまた成長したのかしら?
とても楽しみですわ。」
そういってリーナの家に向かって歩き出した。
俺達もそのあとに付いて行くとちょうどサーラが出てきた。
どこかに行くのかと思ったらなんか中に居づらい事があって出てきたという。
おいおいガッシュとリーナが喧嘩でもしたのかと思ったらまったく逆でイチャイチャしていて見ていられないと言う。
ええ~? 王都にくる前は結婚なんか絶対にするかといった雰囲気だったと思うんだが一体なにがあったんだ?
サーラ特派員の報告によるとリーナ達が家に帰って来た時にはもう件の婚約の手紙が既に届いてしまっていたらしい。
まあそうだろうな。
姉さんの飛び入りのせいで旅の予定がグダグダになったからな。
マッシュさんが三人にこれはどういうことだと聞くとガッシュがこれはちょっとした手違いでと言い訳を始めたらマッシュさんにそんなにリーナが嫌いかと逆に問われたらしい。
いえそんなことはないですと答えたらじゃあいいじゃないかといって婚約してもいいよといった雰囲気になったらしい。
だがここでそんなに簡単に事は進まない。
マッシュさんがリーナと結婚したかったら俺に勝ってからだと条件を付けたからだ。
これにガッシュは最初は絶対に勝てっこないと諦めた様子だったらしいんだがリーナがガッシュのことを真剣な目で見つめていることに気が付くと俄然やる気を出したみたいでがむしゃらに何度も立ち向かっていったらしい。
でもまあそんなに簡単に勝てる訳もなく何度も打ちのめされたがその度に雄叫びを上げて立ち上がりまた向かっていったらしい。
これには見ていたサーラも感動したらしく胸が熱くなったといっていたが当事者のリーナはもっと気持ちが盛り上がっていたようだ。
マッシュさんも遂にガッシュが立ち上がれなくなるとまだまだ修行が必要だが特別だといって機嫌よく結婚を認めると見ていた大勢の門下生の前で大声で宣言した。
すると見ていた皆から大きな歓声が上がり道場内はお祭り騒ぎになってしまったみたいだ。
リーナも少ない女性の門下生やサーラに祝福されて顔を真っ赤にして照れていたらしいがガッシュはもっとだろう。
そんなことがあってから今までずっと目の前でイチャイチャされていい加減うざくなって出てきたところだったと言う。
うわー。俺ならもっと早くに嫌になってるよ。
サーラに残念な目を向けていると俺と一緒に話を盗み聞いていた王女がすごく鼻息を荒くしている。
おい、こいつなにを興奮してやがる。
そりゃこんな漫画や恋愛ドラマのような展開が起きるのは相当貴重なんだろうがあんたは立場があるだろうが。
前もこんな風になって失敗したんじゃないのかよ。
こいつを止めなくていいのかと侍女のメイスさんを見たらこっちも同じ状態だった。
おい! 主従で羽目を外していたらそりゃ誘拐もされるわ!
さらに護衛の女性騎士の人たちも同じ状態だったのでもう呆れるを通り越して驚愕だよ。
まあ女性はみんな押しなべて恋バナが大好きだということなんだろうな。
ましてやテレビや映画なんかもなくて刺激が少ない世界なんだから仕方がないか。
もうサーラから新たな情報が出ないと分かった王女達は勇んでリーナの家に突撃していった。
こりゃ今日はリーナ達とは相談なんかできないな。
ふと横を見るとサーラが所在無げにして立ち尽くしている。
そうだな。時間も余ったし今日はサーラと一緒に王都で遊ぶか。
俺はサーラに向けて手を差し出して一緒に行こうと誘ったら満面の笑顔でうなずいて手を握り返してきた。
よし。
俺たちの王都散策はこれからだ!
俺たちは手をつないだまま王都の街の喧騒に向かって走り出していった。
~ ~ ~ ~ ~
どうしてこうなった。
俺はただマッシュさんと模擬戦をしただけのつもりだったんだがいつのまにかリーナと結婚することになっていた。
訳が分からないと思うが俺も分からない。
いや。なんか途中から雰囲気が変になってきていたのは分かってはいたが模擬戦が楽しくてそんなことには構っていられなかったんだよ。
マッシュさんとの連続しての特別な模擬戦なんてやりたくてもやれないことだからな。
それに途中からリーナが睨んできたから余計に模擬戦に集中したのにこんな結果になるなんて思わないだろ。
はあ。何度目かの溜息を吐いているがその理由は俺の腕にリーナが腕を組んできているからだ。
それにちょっと当たっているみたいで柔らかな感触がするような気がする。気がするだけか?
これは別にいやってわけではないんだがなんかリーナの態度が急に積極的に変わって戸惑っているといったような感じだ。
だって家に帰るまでは結婚したくないって言ってたんだぞ。
それが百八十度ひっくり返るなんて普通は思わないだろ。
これにどう対処したらいいのかロックに聞きたいんだが全然こっちに顔を出さない。
一体どうしてるんだ?
旅に出る相談をするんじゃなかったのか?
早くなんとかしないと本当に正式に婚約が決まってしまいそうだ。
ロック! いやハーロック様! 早く俺の危機を救ってくれ!
本当に頼むから! お願いします! ハーロック様ーー!
~ ~ ~ ~ ~
家に帰ったらもう手紙が既に届いていたわ。
私は父さんにこうなった理由を話したんだけどなんか上手く伝わってないみたい。
別に私もガッシュのことは嫌いではないのだけれどこんなに若くから未来を決めてしまうのはちょっと早いんじゃないかと思うの。
ガッシュの方も特に私のことが好きって訳でもなさそうだし。
そう思っていたら父さんがガッシュの力量を試すために模擬戦を始めたんだけど彼はなんだか最初から諦めているみたい。
なによ。そんなに私のことなんてどうでもいいの?
もうちょっとくらい本気を出してもいいんじゃないの。
そんな感じでちょっと睨んでやったら向こうもこれは後で怒られるんじゃないかと思ったのかやっと本気を出してきたわ。
それからは二人とも模擬戦に集中しだして周りのことなんて気にしないようになった。
父さんの出した条件は勝つことだったんだけど結局それはかなわなかったがなぜか結婚を許可された。
あれっ? どうやら勝てそうにないから結婚はしなくていいだろうと思っていたんだけど一体どうなってるのよ?!
父さんの顔を見たらすごくニヤついた表情をしている。
あっ! 騙された! これは勝とうが負けようが最初から許可するつもりだったんだわ!
父さんはこれでこの道場の跡取りができたとすごく喜んでいる。
くそっ! 最初から仕組まれていたなんて考えてなかったわ。
サーラたちがなんか結婚が決まったのを祝福してくれているようだけどそんなことより私は父さんに対する怒りで顔が真っ赤になってしまっているのが自分でも分かるほどだった。
それから周りはお祭り騒ぎになりとても結婚なんてしないなんて言えるような雰囲気ではなくなってしまった。
やっぱり父さんは道場の跡継ぎが前から欲しくてこうなることを考えて私を旅に行かせたのね!
最初から変だとは思ってたのよ!
それまでは旅に出るのを全然許可してくれなかったのに急に許可するなんて!
なんて遠大な計画だったの?!
もうこうなったらこの場は従う振りをしておいてとにかく旅に出てしまうに限るわ。
そしていつまでも結婚なんかしないでうやむやになるまで引き延ばして最後までとぼけるしか方法が思いつかない。
もう! ハーロックの奴はなんでこういう時に早くこないのよ!
早く旅にでないとなんか結婚式まで開かれちゃいそうな雰囲気じゃない!
そう思っていたら来なくてもいい人が代わりにやって来た。
なんでビジターナが来るの?!
あなたはお呼びじゃないのよ!
それからなんでこう根掘り葉掘り事情を聞いてくるのよ?!
もううざいわよ! いい加減にして!
あぁ~! ハーロック! お願いよ~! 早く来てよ~~っ!
~ ~ ~ ~ ~
なんだかあれよあれよという間にガッシュ君とリーナちゃんが結婚することが決まってしまった。
あれ? 二人はまだ結婚したくなかったんじゃないの?
それで急いでリーナちゃんちに帰って来たと思ってたのにどうなってるの?
でもまあ二人は前からお似合いだとは思っていたからおめでとうと言っておこう。
なんか照れて真っ赤になってるけど可愛いねえ。
私も早くロッくんと結婚したいなぁ。
なんて最初の頃は考えていたんだけどなんか二人が皆の前で堂々とイチャイチャしだした。
最初は初々しいなあと思っていたんだけど最近はいちゃつき具合がどんどんとエスカレートしている。
それを目の前で見せられる私の身にもなってほしいと思うんだけど。
もう我慢の限界だとリーナちゃんちを出て散歩にでも行こうかと思ったらロッくんと王女様がやってきた。
二人は偶然すぐそこで会ったらしい。
私は二人にガッシュ君とリーナちゃんのことを詳しく説明したら王女様の方がぐいぐい食いついてきた。
まあ女の子はみんなこういう話が好きだよねえ。
一通り説明し終わると王女様はさらに詳しく知りたいとリーナちゃんちに突撃していった。
ロッくんは特に興味が無いみたいだったけれど今日はもう二人には相談事はできそうになさそうだと分かると私に手を差し出して遊びに行こうと誘ってくれた。
私も久し振りにロッくんと会えて嬉しかったので一も二もなく飛びついて一緒に遊びに行った。
やっぱりロッくんは優しいねえ。
私も早くロッくんと結婚したいなあ。
ねえ、ロッくん。大好きだよ! 早く私をもらってね!
~ ~ ~ ~ ~
人生、色々ですねえ。マスター。
マスターにはどうやら因果律を変化させるなにかがあるということが経験則的結果から分かってきました。
マスターと会えて私の人生も様々に変化してきました。
まあ人生といっていいのかどうかは分かりませんけどね。
これからも色々な人たちと出会いそして分かれその人生を変えていくのでしょう。
私はそれがどうなっていくのか最後まで見てみたいです。
ですからこれからも末永くよろしくお願いしますね、マスター。
あら、こんな言い方をするとなんだか私たちも結婚するみたいですね。
あの二人に影響されたのかしら? ふふふっ。
第四章 境界の物語 end