03-04-09 戦争と平和の境界
王都に向かっての旅はまあまあ順調だ。
夜も野営はしないで村や街の宿屋に泊まっているので疲れもそれほどない。
反面移動距離はそれなりだが。
ガッシュたちも最初は気を張って警戒していたがここらは魔獣が減っているのか街道にはあんまり出てこない。
まあ安全なのはいいことだ。
姉さんは馬車の中でずっと寛いでいるみたいで別に旅装束はいらんかったんじゃないかと思う。
フリオペラと楽しくおしゃべりに夢中らしい。
ファンロックは時々俺の馬車の御者席に遊びに来ていて色々話しかけてくるがちょっとうざいよ。
こいつって友達少ないのかしら?
今のうちに頼れる仲間を作っておかないと将来領地を継いでから苦労するぞ。
まあ今のところはそんな感じかねえ。
王都への距離も半分が過ぎたころ事件が起きた。
まあ盗賊っぽい奴らの襲撃なんだけどこんな通行量の多い街道で起きるとは思ってもいなかったのでびっくりした。
そんなに食うに困っている奴らがいるのかねえ。
ヘルが大分先の方の街道のわきに隠れている奴らを見つけて俺に皆に警告するか聞いてきたと同時にバンドナが殺気を帯びて箱馬車から降りてきた。
おい嘘だろ? ヘルだから見つけられる距離だと思うんだが普通の人間に分かるもんなのか?
ヘルに教えたのか聞いてみたがそんなことはしていないという。
どんなニュータイプだよと呆れていると馬車からベスも剣を持って降りてきた。
えっ? こいつも戦えるの?
まあバンドナが鍛えていたのかもしれんがいきなりで対人戦はきついんじゃないか?
そんな俺の心配は杞憂だったようだ。
二人はいきなり走り出して俺たちの馬車を追い抜いて続けてガッシュたちも追い抜いていく。
みんなも尋常じゃない殺気を放つバンドナ達が迫ってきたので何事かと身構えたがそのまま通り過ぎていったので呆然としていた。
バンドナ達はそのまま街道わきの草陰に左右に分かれて勢いよく突っ込んでいき正体の確認もせずにいきなり切りかかっていった。
ガッシュ達もようやく盗賊のたぐいが潜んでいた事に気づいて二人の後を追っていったが着いた頃には全てが終わっていた。
バンドナが強いのはママンから聞いた話から分かっていたがベスの強さも結構なものだった。
こりゃガッシュ達よりも強いんじゃないか?
そのことにガッシュとリーナも気づいたらしくベスを見る目が厳しいものになっていた。
まあ取り敢えずその事は脇に置いておこう。
それよりも今は盗賊の身元の方が気になる。
ヘルが総合ネットワークに検索してもどこの誰なのか分らないと言うからだ。
皆にも手伝ってもらってなにか身元を示すものを持ってないか調べたが特に身分が分かる物は持ってなかったようだ。
これってあれだよな。隣国から来た奴の特徴だよな。
もしかしてこいつらって俺が起きるのを阻止した戦争をやりに来ていた傭兵の奴らじゃないか?
こんなのを国中にばら撒く事態になってしまっていたなんてことなら俺のしたことはいったい何だったんだよ。
ヘルに確認するように言うと俺の予想は当たっていたようだ。
国の各地で盗賊被害が急増しているという報告が上がっているらしい。
くそっ! 戦争を止める策を授けた代官たちはうまくやったんじゃないのかよ。
そういえばその事を確認してなかったな。
ヘルにあの後どうなったのか調べてもらうと途中までは俺の思った通りに進んでいたが最後の傭兵たちがどこかに消えていったという想定が違っていたようだ。
俺の想定では奴らは自分の国に帰るもんだと思っていたがそうではなくこの国の各地に散らばっていったらしい。
俺は戦争に来ていた奴らの事情を甘く見すぎていたようだ。
こんな潜入作戦に駆り出されるような奴らは元々捨て駒として扱われているような奴しかいなかったということだろう。
隣国の首脳部は戦争が起きても起きなくてもいらない奴らが処分できると初めから考えていたに違いない。
そして奴らももう国の縛りが解けて自分たちの好きなように出来ると喜んで俺たちの国で暴れ回っているということなんだろう。
こんな事になる位ならとっととヘルに皆殺しにしてもらっていた方がよっぽどか良かった。
いい気になっていた俺の考えもまだまだ未熟だってことだな。
でもなあ。
これって元々俺がやらなきゃいけない事か?
こういうのは中央政府が責任をもって対処するのが普通だよな。
政府の奴らはこの戦争事件で何かしたのか?
俺には全くそんな様子は伺えないが見えないところでなんかやってるのかね。
まあこのことに関して俺はもう関わるのはやめる事にする。
キリがないからな。
自分の身近なところにだけ気を配ることにしよう。
ヘルに総合ネットワークにそう伝えておくように言ってこの件は終わりだ。
俺たちは再び馬車の旅を続けることにした。
盗賊どもは道から離れたところにポイだ。
ファンロックは盗賊が出るなんて思っていなかったらしくて酷く怖がっていた。
おい、お前バズに処刑場にまだ連れて行かれてないのか?
俺の時はもっと幼い時から連れ回されていたぞ。
やばいな。
これバズの奴全然ファンロックに期待してないんじゃね?
このままだとファンロックは使い物にならないいらない子になってしまいそうだ。
なんとか軌道修正しないと俺の跡継ぎ擦り付け計画が頓挫してしまう。
こうなったらこの旅の最中に出来るだけ血に慣れさせて矯正していくしかないな。
これからはどんどん魔獣狩りに関わっていこう。
ファンロックもなんか理由を付けて戦わせるか?
そうだな魔石採集をさせるか。
それなら適度に血に馴染む事が出来るだろう。
はあ。また予定にないことが増えていく。
俺の旅っていつもこんな感じにしかならないのかねえ。
まあしょうがないと諦めるしかないか。
今更だしねえ。
そんな感じで旅は続いていった。
+ + + + +
そのあとの旅は特に大したこともなく順調に進んでもうすぐ王都に着きそうだ。
ファンロックもそれなりに血にも慣れてきて今ではササッと魔石を取っている。
うんうん、良いことだなあ。
もっと頑張り給えよ。
バンドナの子供のラムドとベスとも話すようになり色々と聞けた。
彼らはバンドナの本当の子供じゃなくて孤児だったのを引き取ってもらったという。
二人は実の兄妹ではなく赤の他人だったようだ。
引き取られたのはまだ赤ん坊だった頃かららしいので実の両親のこととかは分からないみたいだが今は別に気にしていないと言っていた。
人に歴史ありといったところかねえ。
剣術なども小さいころから仕込まれていたそうなのであの強さも当然といったところだろう。
こそっと聞いたがバンドナの容姿は昔とほとんど変わっていないそうだ。
あれかな。野菜の戦闘民族的な体質で若い時間が長いのかね。
今に金髪になったりするのかと一瞬思ったが既にもう金髪だったよ。
まあ二人が皆とも打ち解けられていたようで安心したよ。
もうすぐ王都に着くからお別れだと思うとちょっと寂しいね。
+ + + + +
数日後に無事に王都に着いた。
あれれ~? おかしいぞ~?
フリオペラを連れ戻しに隣国の騎士たちが王都の門とかで待ち構えているもんだと思っていたがそんな奴らの姿は見られない。
どういうことだ?
ヘル、なんか情報はないか?
『いえ。特にないですねえ。
これはもうお家に帰ったということなんじゃないですか? 』
そうかなあ。なんか俺たちの分からないところで事態が動いてるとかじゃないよな?
後手に回るのは嫌だぞ。
まあもう俺たちに打てる手はないんだけどな。
あっ、あれかもしれん。
最近の盗賊騒ぎで変に目立つのを避けてどこかに隠れているのかもしれない。
うん。なんだかそんな気がしてきた。
良し。もうそれで納得しとこう。
これ以上考えても仕方ないしな。次だ次。
今回も前と同じでリーナの家の近くの宿屋に泊まろうかと思っていたら姉さんが爺さんちに行かないのかと聞いてきた。
えっ?! 爺さんって誰?! と思ったが俺の爺さんはママンの父親しかいないよね。
バズの両親はすでに死んでるし。
姉さんは爺さんのことを知ってるのかと思ったら小さいころにはよくうちにも来ていたらしい。
最近は年のせいで長旅はきついってことで来ていなかったが領地以外にも王都にも屋敷があって半年ごとに移って生活してるとのこと。
爺さんの領地は王都のすぐ傍だってよ。なんとも羨ましいね。
そうかあ。そういやママンの実家は大きな貴族だと聞いてはいたが詳しくは知らなかったな。
まあ会った事もなかったから興味が薄くても仕方ないよね。
姉さん情報によると爺さんちはシュールバイト伯爵というそうだ。
うわー。そうだったのか。結構な大身の貴族家だぞ。
こりゃ不味いかもしれん。
前に王都に来たときに顔も出さずにいたことがばれたらなんか大事になるかもしれない。
このことは姉さんたちに口止めしなくちゃと思ったがよく考えたらバンドナにはそんなことは頼めそうにないよね。
あ~ぁ。なんとか穏便に済みますように。
俺たちは取り敢えず爺さんちに世話になるという事で既に手紙で連絡してあるそうだ。
用意がいいねえ。まあそりゃそうか。
ガッシュたちはどうするかと聞いたらリーナの家にお邪魔するそうだ。
サーラは俺たちと一緒にくるかと聞いたが遠慮するといっていた。
まあ知らない貴族の屋敷は気を遣うからだろうね。
リーナの家に皆を降ろして馬車二台で爺さんちに向かう。
俺は場所を知らないので後をついていくしかないね。
前に王都に来たときに通った役所街を通り過ぎてさらに王都中央に向かう。
えぇ~? もう直ぐそこに王城が見えるんですけど。
ハァ~。立派なお屋敷が立っている敷地だらけの中でひと際大きな屋敷が建っている場所の門に入っていく。
衛兵っぽい人が四人も立っていたがバンドナが顔を出すとそのままの勢いで通っていく。顔パスか。
こっちの馬車を調べなくてもいいのかよ。
うわー。奇麗に整えられた庭がすごい広いです。
門から屋敷までの距離も結構あるぞ。どんだけだよ。
お屋敷の玄関前のロータリーぽいところを回って正面に着くと扉が開いて執事っぽい人やメイドさんがたくさん出てきた。
おいおい、いったい何人いるんだよって感じだ。
これで全員じゃないんだろ?
余りのゴージャスっぷりに引いていると年を取った男女が出てきた。
これが爺さんと婆さんか。
うおっ?! なんか殺気が襲ってきたぞ?
どうもすいません、育ちが悪いもんで。
馬車から姉さんが降りてきて爺さんたちと抱き合って再会を喜び合っている。
ファンロックもおずおずしながら挨拶を交わしていたので俺も続こうとしたら従者らしき人に馬車はあっちへやってくれと言われた。
あれ~? 俺のことはいらない子ってことなの?
なんか涙が出ちゃうよ。
まあ貴族家の嫡男が御者をやっているとは普通は思わんわな。
しょうがないのでこのまま馬車を移動するかと思っていたらバンドナが慌ててやってきて従者に馬車を移動させるように言ってきた。
良かった。俺はいらない子じゃなかったみたいだ。
あ、従者の人を怒らないであげてね。
紛らわしいことしてたのはこっちの方だからね。
ちょっとごたごたしたが俺も爺さんたちと無事に挨拶できた。
爺さんは細身だがまだまだしっかりとした感じの人で目が優しそうだった。
婆さんは少し太っていてふっくらといった感じだったが目がちょっときついかなあ。
まあこれからしばらくご厄介になるんだから仲良くしたいな。
フリオペラも学園に入る用意ができる迄はここにいるらしい。
まあ一人で放り出すのも可哀そうだから最後まで面倒見るか。
面倒見るのは俺じゃないけども。
取り敢えずはいったん旅はお預けになりそうだ。
俺もちょっと体を休めて休憩かねえ。




