03-04-08 生者と死者の境界
もう忘れかけていたバリセローの奴が家に押し掛けてきたが軽く返り討ちにしてやった。
まあ全然俺の相手にはならないね。
もうその事は忘れよう。過ぎたことだ。
それでまた旅に出る準備を始めたんだがガッシュとリーナがなんだか早くするようにせっついてくる。
なんだよもう。ゆっくり準備させろよな。
「おいロック。いつ旅に出るんだ?
俺たちはもう準備万端だぞ。力がみなぎっているんだ。
早くしてくれ。」
「そうよ。とっととこの村を出ましょう。
私の剣が魔獣の血を欲しているのよ。」
「ハイハイ。分かってるよ。
あれだろ? 二人が結婚させられそうになっている件だろ?
出来るだけ急ぐからそんなに慌てんなよな。
でも別に二人が結婚してもいいと思うんだがダメなのか?
相性もよさそうに見えるんだけど。」
「ばっ、馬鹿言え!
まだまだ結婚なんてできるか!
俺がいくつだと思ってるんだ? 」
「いや、俺とお前は同じ歳だろ。
そんな事は分かってるよ。」
「もうそんなことを言っている段階じゃないのよ!
早くしないと父さんに婚約の了承を迫る手紙が送られちゃうのよ!
手紙が着く前に家に帰らないと大変なことになっちゃうの! 」
「えっ、もうそこまで話が進んでいるのか。
なんかガッシュの家の人がやけに結婚に前向きなのはなんでなんだ? 」
「そ、それはだな。まあなんだ。色々あるんだよ! 」
「それはガッシュが私のことをやけに持ち上げて気があるように見せたからよ。
ほんと、余計なことをするからこんなことになっちゃうのよ! 」
「だから何度も謝ってるだろ。
俺もこんなことになるとは思ってなかったんだから仕方ないだろ。」
「どうなんだか。」
二人の会話を聞いているとなんかもうこいつら付き合ってるようにしか見えないんだけど。
そう思ってサーラにも意見を聞こうとそちらを向くとなんか羨ましそうに二人を見てやがる。
なんだよ、こいつも恋愛脳になってるのか?
なんだかパーティー内に恋愛ごとを持ち込むのはやめてくれませんかね。
しょうがないので早々に旅に出る用意を済ませることになってしまった。
俺の準備はヘルに丸投げだ。楽ができていいね。
そんな訳で予定より一日だけ早く俺たちは旅に出ることになったが一日早まってもそんなに変わらんだろうにね。
急に旅に出るということが決まったのでママンたちにはまた事後承諾の形になりそうだ。
また後で怒られる事になりそうだがやむをえまい。
フリオペラに出発の用意を急いでさせて次の日の朝早くに起きて家を出ようと玄関を出たら誰かが既に外に立っている。
それはなんとアメリア姉さんとファンロックだった。
それも旅に出るような恰好をしている。
なんで? なんで二人が待ってるの?
特にほかの人には言わないで用意したつもりだったのに。
変だと思ってヘルの方を見たら顔をそむけた。顔はないけども。
あっ、こいつチクっていたな!
最近ママンや姉さんたちとよく一緒にいたりしたのを見ていたのでその時にでも既に取り込まれていたのか。
がっくり来てどうするかと考えていたらうちの新しい箱馬車が玄関前に横付けされてきた。
この馬車は去年捕虜を王都に連れていったときに使った護送車を改造した奴だな。
なに? これに乗っていくつもりなの?
オイオイ、大事になってきたぞ。
これチャンとした護衛を付けないと不味いんじゃないか?
馬車を移動してきたのは最近うちで働きだしたというラムドだった。
こいつも旅装束っぽいのを着てるな。
まあ御者は必要だから当たり前か。
馬車の方に気を取られていたらいつの間にかママンたちが玄関の外に出てきた。
俺は二人の事を聞こうとママンに話しかけた。
「えっと、これどういうことなの? 」
「あら、ハーロックさんにはまだ言ってなかったかしら。
実はファンロックさんが来年度から王都の学園に通いたいと言うから一度見に行ってきたらという事になったのよ。
それで今ちょうどハーロックさんが王都に行く用事があるんでしょう?
だから一緒に行けばいいと思ったのよ。
名案でしょう? 」
はぁ。やっぱりそんなことか。
まあファンロックの奴をたきつけたのは俺だからこいつはしょうがないにしても姉さんはなんなんだ?
「あのー、姉さんはなんでいるんですか?
今回のことには関係ないんじゃないですか? 」
「ハーちゃん! なんでそんなこと言うの?!
私だけ仲間外れにしようだなんて酷いわ!
お姉ちゃんは泣いちゃうわよ?! 」
「えっ、そういう意味じゃないです。
ごめんなさい、姉さん。」
「あらあら、二人とも姉弟喧嘩はやめなさい。
アメリアさんも王都に行ったことがないのでは領主家の者としての示しがつかないので今回ついでといってはなんですがお邪魔させてもらうことにしました。」
「ええと、父さんはこれについて何も言わなかったんですか? 」
「あら、あの人のことはどうでもいいでしょう? 」
「どうでもいいですか? 」
「ええ、どうでもいいですわ。」
バズはいらない子みたいだ。
まあうちの女王様がウンと言ったらそれまでだ。
もう決定されたことなので俺も素直にいうことを聞いておいた。
ラムドが箱馬車の荷台に結構な荷物を載せるのをバンドナとベスが手伝っていく。
おいおい、どんだけ持っていくんだ?
よくこれだけ載せても大丈夫だよな。
いや、ほんとに大丈夫か?
旅の途中で馬車が壊れたりしないだろうな。
なんかすごく不安になってきたぞ。
それに手伝っている二人もなんだか旅装束みたいだ。
おいこれ大丈夫か? バンドナも一緒に旅に付いてくるのか?
まあ姉さんは自分のことも満足にできないだろうからそうなるのは分かるが問題は家の方だ。
バンドナが家を空けてうちはちゃんと回るのかってことだ。
ママンは気が付いているのか?
「あのー、バンドナも付いてくるみたいですけど家の方は大丈夫なんですか? 」
「ええ、その点もちゃんと考えてありますよ。
わたくしの実家の執事の一人を派遣してもらうことになっていますからね。
安心してください、ハーロックさん。」
「そ、そうですか。なら安心ですね。」
うわー、ママンの実家の執事が来るのかよ。
こりゃあバズの奴は大変だぞ。
前に来たときはバズの領主仕事にダメ出しの嵐だったからな。
あれから大して仕事ぶりが変わってないのはみんなが知るところだ。
そういやバンドナもママンの実家から移ってきたんだったよな。
ママンが小さいころから世話になっていると聞いたことがある。
若く見えるが歳は一体いくつなんだ?
うおっ?! 急にバンドナの方から冷気が襲ってきた!
いや違うんですよ。そんなつもりはないですよ。
心の中で謝っているとすっと冷気がやんだ。
はぁ。気を遣うなあ。
こんなことがこれからしばらく続くのか。
うんざりするがもう決まってしまったことのようなのでどうしようもないな。
そういえば事態の急変についていけず俺たちの出発の準備がまだ済んでないな。
俺も馬車の準備をしようとしたらラムドがすぐそこに止めてあると教えてくれた。
俺たちの馬車の準備も終えてたのね。なんか悪いね。
ヘルに荷物を載せるのを任せてちょっと姉さんと相談することができた。
「あのー、姉さん。ちょっとお願いなんだけどフリオペラさんも一緒にそちらの馬車に乗せてもらえないかな。
定員数的にそっちの馬車はまだ席が空いてるよね?
どうかな。気が合わないとかならしょうがないけど。」
「うん? ハーちゃんの馬車には席が空いてないの? 」
「ああ。俺たちの馬車は移動用じゃなくて野営用なんだよ。
だからどうかな? 」
「そうなの。だったらいいわよ。一緒に行きましょう。
フリオペラさん! 荷物をこちらの馬車に乗せてください。
一緒に行きましょう。」
「まあ、いいんですか? 良かったです。
言ってはなんですがハーロックさんの馬車はあまり乗り心地が良くなかったのでうれしいです。」
ほんとは護衛依頼を受けているという建前なので向こうの馬車に乗せるのは不味いんだろうがずっと御者席の俺の隣に座っているのを姉さんにみられるとまたなんか言われるだろうから助かったよ。
そうこうしているうちにいつまで経っても待ち合わせ場所に現れない俺たちに業を煮やしたのかガッシュたちが家にやってきた。
なんか悪いね。予定外のことが起きて時間を食ってしまってたんだよ。
ガッシュたちはもう一つの馬車と姉さんたちを見て事情を察したらしく特に何も言ってこなかった。
逆にかわいそうなものを見るような目を向けてきたが自分たちも被害を受けるってことを自覚しろよな。
そうこうしているうちに出立の準備が双方とも終わったようだ。
姉さんたちの馬車に護衛が何人か付くのかと思っていたがどうやら違うようだ。
えっ? 俺たちが護衛するの?
まあ、やってやれないこともないけどそれでいいのか?
一応ママンに確認しておくか。
「あのー、母さん。姉さんたちの馬車に護衛は付けないんですか? 」
「えっ? バンドナが一緒に行くんですよ?
大丈夫に決まってるじゃないですか。
なにを言ってるんですか? 」
おいおい、ママンのバンドナ万能説が炸裂したぞ。
ほんとママンはバンドナを信頼してるんだよな。
まあ周りの皆もそう思っているようなので今回はそれでいいか。
「ハーロックさんには言ってなかったかしら?
バンドナはうちの実家で騎士団長をしていたのを私が無理を言って連れてきてしまったのよ。
だから護衛とかはやり慣れているからそんなに心配しなくてもいいわよ。
どーんと任せておきなさい。どーんとね。」
ええー?! そんな事聞くの初めてなんですけど!
もうだからか。だからうちの屋敷に衛兵みたいのが全然いないのか。
まあそりゃ騎士団長を務めていたような人がいれば下手な衛兵はいらないか。
「それは初耳です。そういう事は早く言ってください。」
「まあそれは御免なさいね。オホホホ。」
そんな訳で出発だ。
姉さんとママンは抱き合って別れを惜しんでいるがちょっと離れるだけだよね?
なんか嫌な予感がしてきたぞ。
そんな俺の気持ちを察してか天気もちょっと曇り空だ。
そうして二台の馬車は連なって村を出ていった。
~ ~ ~ ~ ~
くそっ! どうしてこうなった?
あんな小僧にいい様にあしらわれるなんて大恥だ!
こうなったら王都にいる仲間に頼んで奴らに目にものを見せてやる!
そんなことを考えながら王都への道を外れて少し休憩をしていると御者をしていた男が話しかけてきた。
一体なんだ?
「旦那さま。あの馬車はロリングストンの馬車じゃありませんか? 」
「なんだと?! 」
言われてよく見てみると確かにロリングストンの小僧が乗っていた馬車とロリングストンの家紋が書かれた大きな馬車が街道を通っていくのが見えた。
くそっ! 俺から馬車を奪っておきながら自分たちは別の馬車で悠々と旅を続けるとは頭にくる!
「旦那さま。これからどうするつもりですか?
まだあいつ等にかかわるんですか? 」
「ああ。当たり前だ。こんな目にあわされて黙っておくことなんぞ出来ん。
王都についたら仲間の奴らに手伝ってもらってロリングストンの奴ら全員に復讐してやる! がっ?! 」
そう言ったとたん俺の意識は二度と戻らなかった。
~ ~ ~ ~ ~
街道を進んでいると知っている者たちの反応があったのでちょっとドローン壱号機で様子をうかがっているとなにやら物騒なことを口走っていますね。
はあ。本当に馬鹿な人たちですこと。
せっかく拾った命を無駄にするなんて。
レーザーでサクッと処理をして死体をどうしましょうかと思いましたがドローンで運べないですかね?
足六本のうち二本を使って釣り上げて残り四本の足の推力だけでぎりぎり持ち上げられたようなので森の奥に運んでおきましょう。
後でこれにもアームを付けてもらった方がいいですね。
マスターもこれで後顧の憂いがなくなったので安心ですね。
こういうのを雉も鳴かずば撃たれまいとかいうんでしょうか。
まあどうでもいいですね。
さあまた楽しい旅の始まりですよ!




