03-04-06 名案と愚策の境界
旅の途中でうちの領地にちょっと寄ってみた。
寄っては見たんだけどそう言えば俺って黙って旅に出たことになってるんだよな。
こりゃママンや姉さんにしこたま怒られるんじゃないかとひやひやしながら家に帰ってきたら取り敢えずといった感じで親父のバズロックに会う事になった。
そういやバズは旅に出る事に対してなにも言ってなかったと思うんだけどこいつも俺に何か思うところでもあるのか?
まあ会ってから聞いてみようかね。
「おう、もう帰ってきたのか? 早いんじゃないか? 」
「いや、まだまだ旅の途中だよ。
今回は王都に行く用事が出来たんで途中にあるここにも寄って行こうかって事になっただけだよ。
それでちょっと一週間ほどここで休息していきたいんだけど良いよね? 」
「ああ。別にいつまでいても良いけどそっちの知らない顔の方たちは紹介してくれないのか?
お前の嫁候補なんだろ? 」
「ばっ、馬鹿言うな!
アホな事言ってるとぶっ殺されるぞ?!
ちなみに俺に殺されるんじゃないからな?! 考えて物を言えよ!
それにこの三人は旅の仲間だ!
それ以上でもそれ以下でもない! 」
「ふーん、そうか。まあいい。
で、その三人も家で泊まっていくのか? 」
「ああ、そのつもりだけど。皆それで良いか? 」
「私は一度ガッシュの家にお邪魔して挨拶してからどうするか決めても良い? あ、私はガッシュの従妹のミシュリーナです。初めまして。」
「おう。よろしくな。
という事はマッシュの娘さんか。
こんな美人に育つとはあいつも苦労したろうな。」
「いえ、それほどでも。」
「こんにちは。フリオペラです。
王都に行くのをハーロックさんたちに護衛してもらってます。
私はご厄介になります。」
「ほう。こちらのお嬢さんを護衛してるのか。
ちゃんと護衛なんて出来るのか? 」
「出来るにきまってるだろ。
変な事言うと信用されなくなるから止めてくれ。」
「お久しぶりです、バズロック様。ヘルです。
これからもよろしくお願いいたします。」
「えっ?! ヘルさん?!
ちょっとハーロックどうなってるんだ?!
詳しく説明しろ! 」
「えっ?! 父さんヘルのこと知ってたの?! 」
「えっ、ああ。
まあ、その事は後で二人でじっくり話し合おう。
じゃあお嬢さん方。
部屋を用意させるんでゆっくりしていってくれ。
バンドナ、後は頼む。
ガッシュとサーラもご苦労さん。
久しぶりの実家だろう?
ゆっくり休んで旅に備えたほうが良いぞ。
あと積もる話もあるだろう?
じゃあロック、俺たちは残ってお話し合いだ。」
「ああ、分かったよ。
それじゃあ皆、それぞれ休んでくれていいよ。
サーラ、ガッシュまたな。」
そう言って取り敢えず俺たちは解散した。
これからバズと色々話し合う事が出来たのでママンたちとの再会はお預けだな。ああ、良かった。
+ + + + +
俺とバズは執務室に残って話し合う事になったがヘルも一緒に立ち会うようだ。
なんだ? なんか俺に秘密になってることでもあるのか?
不審げな顔で二人を見ていたらバズが話し始めた。
「で、ハーロック。こっちの鎧の女性がヘルさんだというのは間違いないんだな? 」
「ああ。父さんはなんだか杖だった時のヘルとは知り合っていたということで良いんだよな?
だったらその杖の頭頂部に付いていた宝玉がヘルだというのも分かってるんだろう? 」
「ああ、分かっている。」
「どんな感じで知り合ったのかは後で良いとしてもよく俺に気づかれなかったなあ。まあいい。
で、旅に出てすぐに鉱山街に用事で寄ったときにその鎧を見つけたんだ。
杖はご先祖のパンロックが作ったものだろう?
その鎧もパンロックが作ったもので動甲冑と呼ばれているものだった。
動甲冑というものは普通は人が着るものなんだろうがそれには人が着れるような隙間はなくあの宝玉がちょうど良く嵌まる隙間しかなかった。
そこでヘルがこの動甲冑があれば自分の身体として使えるんじゃないかと言い出して大枚をはたいてほとんど全財産で購入したという訳だよ。
そして思惑通りに動甲冑はヘルの身体として使えるようになったんだ。
只なあ、この機体はパンロックの作品だといっただろう?
これがとんでもない性能でほとんど人と同じかそれ以上の動きが出来て更に杖だった時の魔法攻撃力が倍増するという特典も付いていたんだ。
だから今では俺たちの中で一番頼りになる一人になっていると言っても過言ではないよ。」
「そうか。鉱山街で買った動甲冑というものがパンロック様の作ったもので元々あの杖と対になるような存在だったという事か。
うん? 鉱山街っていうとシアター・グラディアトルのところか? 」
「あっ、そうだよ。忘れてた。
鉱山街でいきなり領主に招待されたと思ったら父さんの友達だっていうんだから二重に驚いたよ。
そういう事は事前に俺たちにも教えておいて欲しいんだけど。
あとシアターさんとシンガー夫人が手紙でも寄越せって言ってたよ。」
「お、おう。そうか。
でも懐かしいなあ。
あいつらは元気そうだったか? 」
「まあ別段変なところはなかったように思うよ。
あと領地で起こっていたこまごました事件をちょっと片付けておいたからその事が手紙のやり取りで出てもついでにやった事だから気にしなくても良いからね。」
「ふーん。一体なにをやったんだ?
まあそれは手紙で確認するか。」
「ヘルが身体を手に入れた件はそんなところだね。
それでさっき飛ばしたヘルと知り合った経緯についてももうそろそろ話してくれても良いんじゃない? 」
「えっと、そうだな。
ヘルさんどうします? 」
「はい。バズロック様。
もうマスターにも話してしまっても良いでしょう。
マスター。実は私たち姉妹はマスター以外とも脳内通信で会話が出来るんです。」
「やっぱりそうか。
以前からなんか辻褄が合わないことが結構あったからそうじゃないかとは思っていたんだけどなんで黙っていたんだ? 」
「はい。実はマスターは以前からあまり他の人と会話をしない方でしたので少しでもその機会を増やそうと便利そうな機能は隠すことにしたんです。
この機能はマスターから他人には直接は繋げられないので用事とかが有った時に私たちを介して連絡すると必然的に会話の回数が減ってしまうと考えたからです。
余計な事をしてすみませんでした。」
「そうか。まあ言われた通り昔からあまり他人とは会話をしない方だったからその懸念は的を射ていたのかもな。
でももう結構な大人になったんだからもっと早く教えてくれても良かったんじゃないか?
それとこの機能を知っていたら三バカの暴走時に慌てなくても済んだんじゃないか? 」
「はい。おっしゃる通りですがあれはあれで良かったと断言できます。」
「開き直るなよなあ。まあもうその事は良いよ。
それでヘルは家の皆とは全員と知り合いって事で良いのか?
そして自分のことを全部伝えているのか? 」
「はい。皆さんとは一度は話したことが有ります。
ですが自分のことと言っても当時は杖の宝玉でしたのでそれに宿っているくらいにしか説明していなかったと思います。」
「分かった。
じゃあ今日皆に会ったら鎧に宿る事が出来て体が得られたとでも言っておいてくれ。
父さんもそういう事だからよろしくね。」
「ああ、その件は分かった。
だがお前は母さんたち皆に言う事が有るんじゃないか?
そっちは大丈夫か? 」
「ああ~~? そうだった~~!
ねえ、どう言ったらいいと思う?
なにか良い言い訳とかない? 」
「そんなのが有ったら俺が聞きたいくらいだ!
もうジャンピング土下座でもしたらどうだ?
驚いて怒るのをやめるかもしれんぞ?
可能性は極限的に低いが。」
「もうー。せっかく家の為になる事とか王都でして上げたのに~。
俺の役にも立ってよ~! 」
「おっ、そうだったみたいだな。ありがとさんよ。
おかげで隣の国とは賠償金を貰うって事で話がついたぞ。
おまえにも小遣いをやるからな。大事に使えよ。」
「今はお金より情報だよ! ホントになにかないの?
あっ、そうだよ!
さっきの件で秘密裏に動く必要があったとかそう言う事に出来ないか? 」
「まあそういう事も無いことはないが母さんたちにまで秘密にする必要はないだろう? そこはどうするんだ? 」
「う~ん。ここは苦しいけど敵を騙すには先ず味方からって言うしかないか。
もうこれで行くしかない!
父さんも口裏を合わせてよ! 」
「ああ。
家の為に頑張ってくれたみたいだから今回は手助けするよ。
おまえもドジするなよ?
失敗すると俺にも被害が及ぶからな。」
「分かってるよ。二回も怒られるのは俺も嫌だからね。」
「はあ。そんなに上手くいくでしょうか?
失敗の可能性のほうが高いと思われますが。」
「ヘル!
男は失敗すると分かっていても挑戦しないといけない時が有るんだ! 」
「いや、失敗するんじゃねえよ! 」
+ + + + +
バズとの話し合いは最後にグダグダになってしまったが取り敢えずは終わった。
これから皆がいるリビングに向かっているところだが胸のドキドキが止まらないぜ!
ああ。言い訳が上手くいくことを祈るしかない。
バズが先にドアを開けて入っていった。
次は俺が入りその後にヘルが続く事になっている。
俺はゆっくりとドアを通りリビングに入ったと思ったらいつの間にかジャンピング土下座をしていた。
なにが起こったのか分からないだろうが俺にも分からない。
とにかく尋常ならざるなにかが有って俺は無意識の内にジャンピング土下座を敢行していたと思われる。
気が付くと俺の隣にバズも同じように土下座をしていた。
これはあれか?!
なにかのスキル使いにでも操られているのか?!
俺とバズはまんまと敵の手に引っかかってしまったというのか?!
なんてとぼけていても事態は進展しないのでもう諦めて認めるしかないようだ。
俺とバズはママンたちの覇気の所為でこんなことになってしまっていると。
つまり俺たちはリビングに入った瞬間にママンたちとの戦いに負けてしまっていたのだ!
くそ! 俺の連勝記録もこれでストップか。
まあ最初から大して連勝してなかったけども。
そんな事よりこの止めどなく溢れてくる汗はなんだ?
俺の汗腺はどうにかなってしまったのか?
これが本当の冷や汗と言うものなんだろうかとよそ事を考えていたらママンの涼しげな声がリビング全体に響いてきた。




