03-04-04 護衛と旅客の境界
俺たちは北の街から南に向かう旅に出る事にしたがそこで同行しないかと商人のおっさんに誘われた。
皆で話し合って一緒に行くことにしたがこの商人には何か裏がありそうだ。
さてどんなことが起こるのやら。
次の日の朝に商人のおっさんと会い条件を話し合った。
俺たちの意見は大体通ったが向こうが相応の報酬を払うと言ってきた。
いや俺たちは別に催促なんてしていない。
だが無報酬なら護衛もしないというのは向こうも困るらしい。
つまり守ってほしい何かがあるってことだよね。
駄目だよ。そんな丸分かりのこと言っちゃ。
ほんとに商人歴が長いのか? 詐称じゃないのか?
でもヘルが再度確認してもやっぱり間違ってないらしい。
この人ほんとに裏がある人なのか?
いやなにか良からぬブツでも運んでいるのか?
よく分からなくなってきたな。
まあそれ以外は特に問題はないようなので正式に護衛をすることになった。
でも俺たちは正式な護衛という仕事をやったことがないのでその内容を知らんのだが良いのか?
そこらへんは気が付いた時に指摘してくれるらしい。
まあまあ親切だね。
あ、この商人のおっさんの名前はバリセローさんというらしい。聞いたことないね。
そんな訳で明後日の朝に出発するということになった。
一応は途中の大きな街には寄る予定だが日程の関係でどうなるか分からないので保存食などを買っておくことにした。
ヘルに料理の材料も買っておくように言っておいたら調味料も欲しいというので色々買い込んでいたら馬車の収納が一杯になりそうだ。
こりゃ馬車に積む物資が多すぎて載らないんじゃないかと思ったがなんとか纏める事が出来た。
+ + + + +
出発の日の朝に馬車を引いて街の門のところで待ち合わせをしていたら結構大きめな馬車がやってきてそれが約束した商人のものだと知って驚いた。
俺は物資を沢山積んだ荷馬車が来るもんだと思っていたから来たのが豪華な旅客馬車なのでこりゃなんだか思っていたのとだいぶ違うぞと警戒を強くした。
でもまあ俺たちのやる事は変わらないのでそのまま受け入れた。
初めに同行者の紹介でもやるのかと思っていたが最初の休憩地で行うということで早速出発することになった。
ああこりゃなんか厄介な人物でも乗っているのかとこの話を受けたことを早くも後悔し始めた。
サーラが同行者の事を確認しなくていいのかと言っていたがこういうことだったかと軽く流していた事を謝りたい気分だ。
俺の暗い気持ちとは裏腹に今日は良い天気で朝一で空に飛ばしておいたドローン達も元気に飛んでいるのが見える。
まあいるのを知っていなければ気が付かれる事もないだろう。
基本的にドローンの存在は秘密にするつもりだが使用の方は積極的にしていくつもりだ。
なんだか商人の警戒している襲撃が起きる可能性がストップ高で推移しているようだからな。
ああヤダヤダ。
人間との対人戦をまたやる事になりそうだと皆にも覚悟するように言っておかなくちゃなと心にメモっておいた。
馬車は軽快にドンドンと進む。
今日もディスは元気だねえ。
大きなお尻を見ながらそんなことを考えていたらヘルが警告を発してきた。
この馬車隊の後ろに結構な数の騎馬隊が距離を開けてついてきているという。
ええ~?! もうなの? もう襲撃が起こっちゃうの?
いや、もしかしたら商人のおっさんが念のために用意した護衛かもしれないという可能性が微粒子レベルで存在するかもしれんぞ。いわゆる微レ存という奴だ。いや無いか。
しょうがない。
僅かな可能性に賭けてみるか。
ヘル、この先に馬車が退避できそうな広い場所が近くにあるか?
『はい。ドローンからの映像を表示しますね。
現在地はこの光点の場所です。
ここから少し行ったところに馬車がぎりぎり入れそうな場所がありますがここに入ったら馬車はもう身動きできませんよ。
どうしますか? 私が先行してレーザーを使って少しでも空間を広げておくこともできますが早く決断をしないと時間が無くなりますよ。』
……。
分かった。先行してくれ。
するとヘルが急に全速力で前方に走っていった。
皆はヘルの急な行動にびっくりして俺の方に確認するために顔を向けてきた。
ちょうどいい。襲撃の可能性の事をついでに話しておくか。
皆を馬車の近くに呼び集め襲撃があるかもしれないことやそれを避けられないかヘルに馬車を隠せる場所を用意させるために先行させたことを話した。
俺は馬車の御者をサーラに頼んで商人のバリセローに騎馬隊の事を知っているかを確認することにした。
馬車を降りてその場に立ち止まり後ろをついてくる馬車を待った。
直ぐに馬車が来たので御者の人にバリセローさんと話がしたいと告げて対応を待った。
御者は馬車の前方に付いている小窓を開けて中にいる人になにやら告げると馬車の横の窓が開いて商人が顔を出した。
「ハーロックさん、どうかしましたか? 」
「はい、まあ。
実は馬車の後方を騎馬隊が追随しているようなんですがなにか心当たりがありますか?
バリセローさんが用意したとかじゃありませんよね? 」
そう言うと商人の顔色が急に悪くなった。
「いえ。心当たりはありません。
この馬車を狙ってるんでしょうか。」
「いえ。それは今は分かりません。
それでどう対応するかなんですがこの先に馬車が隠せそうな場所があるみたいなんですけどそこに一時隠れてみるというのはどうでしょう。
ただしそこに入ったらもう逃げ出すことは無理になってしまいますが。
でももし襲われるとしたらこの先に待ち伏せされているかもしれないので挟み撃ちにされるよりは多少は良いかもしれませんがまあどちらでもあまり変わらないかと。
後ろの騎馬隊をやり過ごせるかもしれない方に賭けてみるのも一つの手かと思います。
どうですか? 私は賭けてみる方を推薦します。」
「…………。
分かりました。私も賭けてみましょう。」
「そうですか。
ではこの先で自分たちの馬車が左に向きを変えて木々の隙間に入っていくので速度を落としてそれに続いてください!
御者の人も分かりましたか?! 」
「は、はい! 分かりました! 旦那様、それでよろしいですか?! 」
「ああ! 前の馬車に続いてください! 」
「じゃあ、俺は前の馬車に戻りますね。曲がる前には何かしら合図を誰かにさせますのでお願いします。」
俺はそう言って商人の馬車を離れた。
馬車に駆け戻って御者をサーラと代わるとヘルツーにドローン壱号機を使ってバリセローたちの馬車の中の話が拾えないかと聞いてみたらなんとか馬車の後ろから取り付く事が出来たようだ。
そうして得られたお話がこちら。
「バリセロー。やっぱり追いかけてきたのかしら。」
「はい。多分そうだと思います。執念深い奴らですから。
ですがもう撒いたと思ったんですがなぜこちらの行動が分かったんでしょう。」
「そうですね。今の街にいた間はあの人たちは見かけなかったんでしょう? 」
「はい。街中にはいませんでした。
これは街の出入りを監視でもされていたのかもしれませんね。」
「はあ。本当にどこまで追ってくるんでしょう。
嫌になりますね。」
「もう少しの辛抱ですよ、姫様。
王都に着きさえすればもう安心ですから。」
「そうですね。もう少しですからお互い頑張りましょう。」
……。
…………。
………………。
うわーーー。もおーーー。どうしてなんだよーーーー?
なんでっ、こうっ、なるのっ?!
なんだよ! 姫様って! どこの姫だよ! 名前が姫なんじゃないよな?!
ああーー。なんかやる気がどっかに行っちゃったよーー。
もうどうするよ、これ。
どうでも良くなっちゃったよ。
はあぁ、気が抜けたなぁ。
なあヘル。お前気が付いてたの?
『いいえ。今回は私もびっくりですね。
この姫様っていう人はこの国に入るまで総合ネットワークに登録されてませんでしたから分かりませんでした。
大分前にマスターが因果律がどうこうと話していたことがありましたよね。
あれが本当だと思えてきました。
マスターの事件遭遇率はどこかの名探偵に匹敵するんじゃないですか? 』
そうだよなぁ。
なんで俺ばっかり。
その時俺の頭になにかが閃いた!
ヘル! お前だよ! お前が特異点なんだよ!
そうかやっと分かったぞ。
そうだよ。ヘルがやってきてから、じゃないなヘルが杖に取り付いてからだな。
それから変になったんだよ!
『ちょっと待ってください! マスター!
聞き捨てなりませんよ、そんなこと!
私から言わせてもらえばマスターがパンロック氏の記憶を移された時からだと思いますー。
私はその巻き添えですー。良い迷惑ですー。』
それは言うなっていったろうが!
それになーにが良い迷惑だよ!
そんな機体を動かせるようになったのは杖に取り付いたからじゃん!
迷惑どころか幸福じゃん!
文句言うなよ!
あーだこーだ。
うんぬんかんぬん。
+ + + + +
などとワーワーギャーギャー罵り合っていたら馬車を隠す場所までもう来てしまっていた。
慌てて合図を出して馬車を隙間に隠すとバリセローの馬車も後をついて入ってきた。
すかさずヘルが大きな木の枝で馬車の後部を隠しだした。
三バカたちも手伝ってそんなに時間をかけずに隠ぺいすることが出来たようだ。
これでどうにかなれば良いんだけどと思って静かにしていると間道を騎馬隊が通過していった。
運が良いことに俺たちには気が付かなかったようだ。
ドローン弐号機に騎馬隊の動きをそのまま追ってもらい俺たちはしばらくここで隠れていることにした。
ここでバリセローが同行者の紹介をしようと言ってきたのでそれに応じた。
俺たちの紹介を終えると今度は向こうだ。
どんなふうに紹介してくるかと期待していると同行者の少女はバリセローの姪で来年度から王都の学校に入学するために旅をしていると言っていた。
話しぶりを聞いてみて学校云々というのは本当のことのように思えた。
だってすごくわくわくしている様子だったからな。
これが演技だったのならどんなアカデミー賞女優かって所だ。マヤ、恐ろしい子!って感じだ。
まあそっちの事情はどうでもいいが今は騎馬隊の方だ。
弐号機からの映像で連中も俺たちが消えたことに気が付いたらしいことが分かった。
数騎に分かれて四方八方に探しに向かっていった。
さてこれからどうするか。
奴らがこの辺からいなくなるまで待つしかないかなあ。