03-03-07 魔石武器の大乱闘
宿屋の前の道は少し広くなっていてゴミな奴らが大勢いてもそれほど窮屈でもない。
宿屋の入り口に鎧姿の女性が立っていてその前にはテーブルやイスでバリケードが作ってある。
バリケードを囲うように怖い顔の男たちがすごんでおり普通の人ならすぐさま逃げ出しているだろう。
風が一陣吹き抜けた。
囲いの外の地面に転がっていた紙屑が風にあおられて転がっていった。
転がっていった紙くずはどちらの事を暗示しているのだろうか。
結果はもうすぐ明らかになるだろう。
鎧姿の女性が声を上げた。
「あなたたちはなんの用でここに来たのですか。
今ならなにも咎めませんからここから立ち去りなさい。
さもなければ痛い目を見ることになりますよ。
これは警告です。
事が起きてからでは一切許すことは出来ません。
結果は殲滅です。
この街に続く間道で大勢の不届き物が処分されたことを知っている者はいないのですか?
あれと同じ末路になりますよ。
よく考えて行動しなさい。」
すると囲っていたものの中から一人の男が前に出てきて声を上げた。
「なんだと?! あれをお前がやったというのか?!
畜生! よくも俺の弟をやりやがったな! 絶対に生かしちゃおかねえぞ! 覚悟しろ! 」
あれまあ。いさめたつもりが逆にあおってしまうという結果に。
この女性はついてないですね。
でもなんだか女性の方は笑っているようです。
「あーっはっはっはっは! なーんだ。
もう既にお前の弟を殺してしまっていたのか。
だったら兄弟そろって冥土に送ってやらないとな!
弟も寂しがるだろうしな! あーっはっはっはっは! 」
なんだか笑って誤魔化しているようですが皆にはバレバレですよ。
そしてもう開き直っているみたいですね。
「くそ! あいつだけは絶対に許さん! 許さんぞ!
どんなことをしてでも殺してやる! 八つ裂きだ! 」
どんどん会場がヒートアップしてきましたね。
これは熱い戦いが予想されますよ。
そろそろ戦闘開始の合図が鳴らされようとしています。
注目しましょう。
男の一人がやれと合図すると数人が別々の方向からバリケードにたかってきた。
女性がバリケードの隙間から剣を鞘付きのまま突き入れるとたかっていた奴らは次々と吹っ飛ばされて地面を転がっていく。
吹っ飛ばされた連中は気絶したのか起き上がって来ない。
それでも次々と男たちはたかっていく。
そしてまた女性が突きを入れる。
そんなことを何回か繰り返しているとバリケードの一か所が崩れてなんとか人が一人通れそうな隙間ができた。
男たちが喜んでその隙間になだれ込もうとしたとき女性が逆にその隙間から打って出た。
出た瞬間に一番手前にいた男は剣の柄であごを跳ね上げられて宙を舞った。
男が宙を舞っているのを後ろにいた者たちが驚愕して目で追っている隙に女性は剣を横に大きく振りぬいた。
ズバーンと大きな音が鳴り剣の届く範囲にいた者たちはすべて吹っ飛ばされて大きな空間ができた。
「なんですか? 弱っちい奴らですね。
これなら剣を抜く前に終わってしまいますね。」
女性がさらにあおると男たちが一斉に群がってきた。
女性は手に持っていた剣を腰に戻すと両手と右足を同時に突き出して三人の男たちを吹っ飛ばした。
延ばした足の先をクキクキと動かしてから足を引き元の位置に戻して肩幅に広げながら首を左右に振りながら言った。
「私はまだ全然実力を出してませんよ。
私が全力を出せるようにあなたたちももっと本気を出しなさい。
さあ、いつでもどうぞ。」
そして右手を前に出して手のひらを上に向けてから指だけをクイクイと動かして手招きした。
「「うおおーーーっ!! 」」
男たちは怒り心頭に達したようでもう連携とかタイミングを合わせるだとかはどうでも良くなったのか次々と突っかかっていく。
それを女性が冷静に一人ずつ対処していく。
右から殴りかかってきた相手のパンチを頭を反らして避けカウンターパンチを食らわせる。
そこに左から襲い掛かってきた奴には右回し蹴りが側頭部に炸裂した。
足を後ろに上げて前傾姿勢になったところに前から掴みかかってきたが右足を戻す反動を利用して上半身を後ろにそらしそのままバク天した。
ついでに前から来た奴には前蹴りのプレゼントだ。
後ろに下がって前が開けたところに一瞬で前に出て近くにいた奴に右拳で当身を食らわすとそいつは遠くに吹っ飛んでいく。
食らわした姿勢のまましばらく動かないでいると男たちの雰囲気が変わった。
ようやく相手が尋常な強さではないと理解したようだ。
立っている者も最初の半分もいなくなっている。
すると残っている男たちの後ろからひと際図体の大きな奴が前に出てきた。
「おう。なかなかやるようじゃないか。
だが俺にはそんな技は通用しないぜ。
この筋肉には誰も太刀打ちできんからな! わーっはっはっは! 」
言ってることはよく分からないがとにかくすごい自信だ!
女性はどう立ち向かうのか?!
「あら、そうなの?
じゃあちょっと触ってもいいかしら? 」
「おう、いいぞ! 触ってみな!
そして俺の筋肉に怖気づくが良いわ! 」
女性はスタスタと大男に近づくとその腹に手を当てた。
そして体を足の先から腕まで順にブルリと回転させるとドンッという音と共に足元の地面が砕けて埃が舞った。
男はと見ると白目をむいて気絶しているようだ。
立ったままの姿勢でゆっくり後ろに傾いていってドーンと音を立ててぶっ倒れた。
女性は武術をたしなんでいるようだったがまさか発勁まで使えるとはどんだけ達人なんだー?!
ここまで来て漸く男たちは持っていた剣を鞘から抜いた。
「あら。とうとう剣を抜いたわね。
ではこれからは真剣勝負ということで良いですね?
結末はどちらかが死ぬまでですよ?
では掛かっていらっしゃい。」
女性も剣をすらりと引き抜いた。
それからは剣での戦いになったが女性の優位は揺るがない。
男の振ってきた剣を斜めにした剣で受けてそのままするりと横をすり抜けるように動き抜けたところで斬撃を加える。
スルリスルリと剣を受けては男たちを斬っていく。
しばらくそんなことを繰り返しているうちに残っている男たちは数人になっていた。
そこへ宿の入り口から声がかけられた。
「おい! そこまでだ! この女が死んでも良いのか?! 」
女性が表で暴れているうちに宿の裏口から侵入した男が中にいた女性を人質に取ったようだ。
人質になっているのはまだ若い女性で気を失っているのかぐったりしている。
するとそれを見た最初に戦闘開始の合図をした男が話しかけて近づいて行った。
「遅いぞ! やっと女を押さえたのか?! 殺してはいないだろうな?! 」
「そんなヘマするか。ただ気絶しているだけだ。」
「他の奴はどうした? やられたのか? 」
「もう一人の女を食い止めている。こいつさえ確保すればいいんだろ? それじゃあさっさとずらかるぞ。」
「あら。そんなこと言わずにもっと遊んでいきましょうよ。
私が全員お相手いたしますよ? 」
「うるせえ! お前なんかとやりあってたまるか! おう、急いで行くぞ! 」
その時急にキュイーーンという変な音がどこからともなく鳴りだした。
おっ。これはあの伝説の必殺技の出る前触れじゃないですか?
期待が高まって来ましたよ!
「あら。これを見てもまだそんなことを言えるかしら? 」
女性がそう言うと男たちが振り返って女性を見返した。
その瞬間鎧の女性の顔の部分にあるバイザーがカシャンと跳ね上がるとバッシャンッという大きな音と共にまばゆい光が発しあたりを真っ白に染め上げた。
出たーーっ!
伝説の秘技「仮面フラッシュ」が炸裂したーーっ!!
「仮面フラッシュ」とは古代遺跡から発掘された古代の聖典「ミンメイ書房大全」にも載っている由緒正しい必殺技の内の一つで普段は仮面で隠している美しい顔をいきなり晒す事で相手の目をくらませてその間に相手を倒すという技だっ!
この鎧の女性はそんなにも美人なのか?!
私も一度見てみたいですね。
「「目がーーっ! 目がーーっ! 」」
おおっと、そんなことを言ってる間にも男たちは目を押さえて呻き転がり回っています。
これはもう失明してしまったかもしれませんね。
ですが最後に美人の顔が見れたのなら本望でしょう。
鎧の女性は人質だった女性を抱きとめて体の状態を見ているようですが命に別条はないみたいで安心しているようです。
と、そこで急に半開きだった入り口の扉が勢いよく開かれた。
「姫s……じゃなくてお嬢様! あっ、ヘルシングさん! お嬢様は無事ですか?! 」
「はい無事ですよ。ちょっと気絶しているみたいですが大丈夫でしょう。」
おおっと。ここで鎧の女性の名前が判明しましたっ!
女性の正体は謎の女鎧騎士ヘルシングさんだったーーっ!!
ヘルシングという名前ですがどこかで聞いたことがあるような気もしますがこの世界には吸血鬼なんて多分いないので関係ないでしょう。
この後生き残っていた男たちはヘルシングさんが美味しく命をいただきました。
+ + + + +
宿屋での襲撃を撃退したヘルは少しの旅の用意だけを持って王女たちを連れて近くの街壁までやってきた。
そこでまず侍女の人を外に放り出し次いで王女も外に放り出した。
侍女の人、名前をメイスさんというらしい。やっと名前が出たね。
メイスさんは外に危なげなく着地し王女も上手くキャッチしたようだ。
そして現在はヘルが王女をおんぶして間道をこちらの街に向かって移動している最中だ。
さっきまでの襲撃の模様はドローンを使って録画していたのをもう一度第三者目線で客観的、俯瞰的に見直して何かボロが出てないか確認していたものだ。
実際のライブ映像の時にはじっと黙ってハラハラドキドキしながら手に汗握って見ていたので後で気が付くと手が痛くなっていた。
あんなおちゃらけた事は実際には絶対にできないよ。
今は三人組が魔獣狩りから帰ってくるのを待っているところだ。
早く王女の事を教えてやりたいと思っている。
もう時間が遅いので今日はもう街を出られないが明日の朝にはここを出て王女を迎えに行くつもりだ。
皆も多分そういうだろうしね。
そして近衛の人たちに王女を引き渡せばやっと俺たちの旅の再開だ。ホント長かったよ。
ところが三バカはいつまで経っても帰って来なかった。




