03-02-09 旅の領主邸への招待
道具屋を出て宿屋に向かって歩いているとヘルが話しかけてきた。
『マスター。後ろを付けてきている二人組がいます。
ただ付けてきているだけのようですのでこのまま放置しますか? 』
えっ? なんで? 付けられるような事この街でしたっけ?
今まで見たことない奴か?
『はい。今まで私たちの近くに来たことのない人たちですね。
ヘルツー。これからはツーと呼びますね。
後ろの人達の身元を調べてみてください。
これも練習ですよ。』
『はーい。やってみまーす!
…………。
あっ、この人たち領主関係の人達みたいですよ。
外見からも身なりが良いですし間違いないと思いまーす。 』
ヘルツーは腰に短剣として吊っており持ち手の柄頭に中位の宝玉がはまっているように見せていてそこを通して外部の情報を見ている。
だから体の反対側は見えないが俺の両手の指に着けているレーザー発射機の指輪を通しても外部の確認が出来るのでそれを使って補完しているようだ。
取り敢えず見る事は出来るが細かいところまでは見えないみたいだ。
まあ簡単な照準装置用だからそこまでの性能は要求してないし無理もないが。
それらを駆使してネームプレートの内容を確認し俺が昨日作った総合ネットワークの中継器から本部とかに照会して身元を探ったところ王都にも来た事がある奴らでその時ここの領主と一緒にいたらしい。
領主ねぇ。なんかあったか?
まだ総合ネットワークの中継器は設置してないしその事は関係ないよな。
後は今のヘルとかか? この動甲冑は目立つしなぁ。
あ、この動甲冑はパンロックが作ったということは多分知られているだろうしそっち関係か?
動くところを見て価値を見出したとかか?
なんかめんどくさくなって来たぞ。
出来るだけ出歩かずに過ごすしかないか。
ヘルもちょっと我慢してくれよ。
『分かりました。マスター。しょうがないですね。
これもヘルの美しさの所為なんですから甘んじて受けましょう。』
『別にお姉ちゃんの美しさは関係なくない? 』
『そんな事はありません。ちゃんと見ている人は見ているんですよ。』
『そうかな~? 』
『そういうもんです。』
姉妹でなんか言い合いをしているが俺はこの後どうするかを考えるので精一杯で聞き流していた。
宿屋に着くまで向こうは接触してこなかったので取り敢えず居場所の確認をして来たという事か?
なんかこの後に強硬策とかを仕掛けてくるのか?
情報が足らなくてなにもする事が出来んな。
まあ仕掛けてきても蹴散らす事は出来るのでこちらも放置するしかないか。
ヘルに周りの警戒を頼んでおくしか出来んな。
よろしくなヘル。
『はい。私にドーンと任せておいてください。ドーンと。』
+ + + + +
次の日の朝ゆっくりとしていると宿屋の人がお客さんだよと知らせてきた。
ついに来なさったな。
さてどんな用事だろうか?
変な事にならなければいいが。
宿屋にやって来たのは領主の使いの者で今日皆さんをお招きしてちょっと話がしたいということらしい。
俺だけじゃなく皆を招待するってことはそんなに変な要件じゃないのか?
まあ全員で行くのならばそれなりに安全だろうと皆と話し合い招待を受ける事にした。
招待されたといってもそんなのに合わせた服などは持ってきてないのでどうしましょうと言ったら使いの人が言うにはなければそれなりの服を貸すので普通の格好で来ても良いらしい。
まあそうだよね。旅人に無茶言うなってことだよね。
そういう訳で俺たちは街に入った時用の服を着て迎えの馬車に乗った。
馬車は領主用のじゃないかという立派な馬車だったので驚いたが使いの人が言うには大勢を一度に運べる馬車がこれしかないらしい。
後は荷馬車に毛が生えたようなのしかなくて仕方なくこれになったとのこと。
ヘルを連れていくか聞くとぜひ連れてきてくれと言っていたらしい。
やっぱり動甲冑関連なのかね? だったらやだなぁ。
そんなこんなで馬車に揺られてそう遠くもない領主邸に到着した。
領主邸は思ったほど大きくなくそんなに人がいるようではない様子だった。
そりゃそうだ。
俺んちとそんなに変わらない領地なんだからうちと大差ないのもうなずける。
俺はなんだか緊張しているのが馬鹿らしくなって来た。
これで出て来るのがうちの親父のバズ見たいのだったらアホみたいだ。
俺はなんだか変なところで緊張がほぐれてきたがほかの皆はそうでもないようでまだぎこちない様子だ。
皆は一応田舎とはいえ貴族に招待されることなんかほとんどないんだから当たり前か。
使いの人が一緒にいるので言えないが皆に俺んちに招待されたと思ってみろと言ってやりたい。
途端に緊張なんかどっかに行ってしまうだろう。
そんなもんだ。
さて館に入って応接間っぽいところに通されてそのまま待っててくれと言われた。
服はなんだか変えなくてよさそうだ。
向こうもそんなに良い服の持ち合わせがないんだろう。
そんなに持ってない良い服を汚されても困るしね。俺んち参考。
しばらく待っているとちょっとがっしりした体格のうちのバズとそう変わらない年齢のおじさんが女性を連れて応接間に入ってきた。
入って来たのはやっぱり領主夫妻らしく気さくに話しかけてきた。
「おう。突然呼び出して悪かったな。
俺はここの領主をやっているシアター・グラディアトルだ。
こっちは妻のシンガーだ。よろしくな。」
「急に呼び出されて驚いたでしょう?
もうこの人ったらいつも思い立ったらって感じで困ってるのよ。
ようこそおいで下さいました。今日はゆっくりしていってね。」
「はい。有難う御座います。お邪魔いたします。
それでいきなりですみませんが今日お呼びになられたのはどのようなご用件でしょうか? 」
「そんなかたっ苦しい言い方しなくていいぞ。
お前はロリングストンのバズの息子で良いんだよな。
だったらあいつとはダチだからな。
最近奴とは会っていなかったからちょっと話が聞きたかったんだよ。
それでどうだ? あいつは元気にやってるか? 」
なんだよ~。バズの友達かよ~。びっくりさせるなよなー。
ホントにもう。
「ええまあ。元気といえば元気ですかね。
今はちょっと前にあった魔獣の襲撃騒ぎの後始末に色々やってるようです。
あっ、自己紹介が遅れました。
自分がバズロックの長男でハーロックと言います。よろしくお願いします。
こちらが一緒に武者修行の旅に出ている仲間で順にガッシュ、サーラ、ミシュリーナです。」
「おう、そんな感じで良いぞ。
そうか、そんな騒ぎがあったのか。知らなかった。それが聞けただけでも良かったよ。
それと何か見覚えがあると思ったらミシュリーナだったのか。
お前も会ったことあるだろ。」
「ええ、マッシュさんのところの子よね。しばらく見ないうちに綺麗になったわねぇ。見違えたわ。私たちの事は覚えてないかしら。」
「あっ、昔よく家にいらしてましたですよね。なんとなく覚えています。ご無沙汰してます。」
「ワハハハハ。昔俺とバズとマッシュと後オルドで旅をしたんだ。そこでシンガーとも出会ったんだよな。」
「そうでしたね。懐かしいですね。あっ、マリーシェちゃんも元気かしら。」
「ええ、うちのママン、いえ母も元気ですよ。」
そんな感じで会話は進みついでにお昼ご飯も頂いた。
なんで俺の事に気が付いたかというとやっぱりヘルの事からだった。
動甲冑は元々領主家に有ったものだが職人の参考になればと道具屋に下したらしい。
値段が値段なので買う奴もいないだろうと思っていたので買われたと聞いて興味を持って調べさせたら俺だったという訳だ。
ヘルの事は黙っていようかとも思ったがバズとも仲が良かったらしいのでもう粗方話せる事は話しておいた。
今後何かあった時にでも頼ろうかと思ってね。
ヘルを連れまわしてもいいですかと聞いたらシアターさんもその方が作った奴も満足だろうと了解をもらった。
あとは総合ネットワークの事だけどどうするかな。
やっぱり話しておくか。
協力が得られたらその方がいいし。




