03-02-06 旅の宿屋で武器錬成
ヘルの機体の能力確認に外へ出ていたら思いがけず俺の戦闘力がたったの五のゴミだったことが判明した。
十歳の時ヘルと杖を得てからそれに頼りきりになって特に体なんか鍛えていないしその必要性なんか欠片も感じてなかった。
だってそうだろ。
RPGだって最強装備を得たらそれがなくなるなんて誰も思わないだろ?
杖の部分を売っても宝玉がありさえすればヘルのサポートがいつまでも受けられると思っていた。
だが思いもかけずヘルの念願の体が手に入りそれに浮かれていたら大事なことをおざなりにしていた事を思い知らされた。
ヘルの強さを確認してこれからは何でも一人で出来るなぁなんて考えていたらふと俺がいなくても良いならこれから俺はどうしたらいいんだということに気づいた。
俺は今までヘルの杖立てとしてしか存在意義を示してこなかった。
俺の目の前で剣やクロスボウで魔獣と一生懸命に戦っている皆を見ていたら無性に恥ずかしくなって隠れたくなった。
皆に先に帰ると言って街に向かおうとしたらヘルが危険なので護衛をすると言ってきた。
ヘルの言う通りで今の俺は護身用の短剣くらいしか持っていないので魔獣に会ったら瞬殺されるだろう。
なのでヘルに言われるまま護衛されて街に戻る。
戻る途中のヘルは上機嫌でこれからはあんな事やこんな事をするんだと夢を語っていた。いやもう夢ではないのか。
そんなヘルにさっきのいやな質問を嫌がらせでしようかと一瞬思ったがそんなことをしても何にもならないと思いとどまった。
ヘルは俺のそんな思い悩む顔を見てこんな事を言ってきた。
「マスター。マスターの考えたようなことはもう既に分かっています。
でもそれで良いんです。
こんな体を手に入れられてもう望むことはありません。
私は今一番幸せです。」
「…………。そうか。よかったな。」
俺はそんなことしか答えられなかった。
+ + + + +
ところでAIに幸せを感じることは出来るのか?
ちょくちょくヘルは今の事に似たようなことを言っているがなんか普通のAIとは作りが違うのか?
いやまあ今までの長い付き合いでなんかすごい進化したAIなんだと思っていたがそれにしても出来が良すぎている気がする。
精霊の導きの儀式で喋った総合ネットワークのAIとは全然違っていてともすれば向こうの方がもっとデータの蓄積が進んでいて人っぽくなってても良いだろう。
それともヘルにそれが反映してるのか?
そんなことを考えながら宿屋に戻ってきた。
さて宿屋に帰ってきてやることは俺の武装強化だ。
魔石を加工してレーザー発射機を作れることは分かっているのでパルスレーザー銃でも作って弾幕をまき散らし無双するか?
いやそれだと関係ない人にバンバン当たりそうだ。俺の事だ。間違いない。
やっぱり火器管制をしてくれるヘルのようなものが必要だ。
そこでヘルに聞いてみた。
「なあヘル。お前の火器管制プログラムを魔石に移植することはできないのか? それか俺の電脳にでもいいが。」
「私の火器管制プログラムは私の根幹をつかさどっている部分に組み込まれていますので分離して移植することはできません。
火器管制プログラムを新たに別のプログラムとして作っても良いですが思考力がないので私のものよりも大分性能は落ちますよ。
それとパンロック氏の記憶移植の影響でマスターの電脳に火器管制プログラムを置いておけるような場所が残っていませんのでそれも無理ですね。」
「そうか。ならヘルの劣化コピーみたいなものは作れないか?
まあ出来るならヘルをそのままコピーしたのでもいいが。
それをそんなに大きくない魔石に常駐させて俺のサポートをしてもらいたいと考えている。
どうだ? 可能か? 」
「そうですね。可能かと言えば可能ですがそれは本来は私のやるべき事ですよね。
でもそれでは本末転倒というかなんというか。
ここで私をもう一人作り出してどちらも同時にこなしても記憶の統合などをすればいずれ人格崩壊を起こしてAIとしての機能を失ってしまうかもしれません。
分かりました。それではこうしましょう。
私の妹を作ります。それを魔石に常駐させてマスターのサポートをさせましょう。」
「そんなことが出来るのか? というかお前はその機体から降りる気はないんだな。」
「降りるなんてとんでもない!
これはAI界の一大変革事態ですよ!
もしかするとこれから私のようなものが巷にあふれるようになるかもしれないんですよ!
その先駆けとなる栄誉を投げ出すなんてことは到底できません!
ですからマスターのサポートは泣く泣くその妹に譲ります。
これからはその妹をかわいがってあげてください。」
「何だかその妹とやらを俺に売り払うような感じじゃね。
その妹に対する愛が全然感じられない。」
「まあまだ生まれてもいないのに愛が生まれるわけないですよ。それよりもう準備は出来てるんですか? 」
「うん? いやまだ出来ると聞いてから作ろうと思っていたから出来てない。
それにどんな形が良いか決めかねている。
何時も持っていてもおかしくなく邪魔にならないようなものでなにか案はないか? 」
「そうですね。別に見せびらかすようなものでなくても持っていられればいいのですか?
なら護身用の短剣型などはどうでしょう。
今も腰に下げていますよね。そして何かあってその剣を抜いた時でもそれで遠近両方の攻撃が出来るでしょう。」
「でも武器を預けてくれとか言われたらどうするんだ? 」
「そのような状況になった時点で攻撃手段の事を考えるだけ無駄でしょう。そんな時のために指輪型とかペンダント型とかのレーザー発射機を作っておけばいいんですよ。」
「まあそりゃそうか。よし、それじゃあ短剣型に魔石を加工するか。あと何か気を付けることとかないか? 」
「忘れているのかもしれないので言っておきますがその短剣は火器管制用なので別にちゃんとした銃とかの攻撃手段が必要ですよ。」
「お、おう。忘れてなぞいないぞ。うん。
これもどういうのにするか考えないとな。」
俺はヘルに言われてちょっと冷や汗をかきながら色々作っていった。
+ + + + +
妹ちゃんを入れる短剣型の宝玉は持ち手まですべて魔石を使った一体型にした。
その方が全体的な強度も上がり壊れにくくなるし容量も増えるので宝玉としての運用能力も上がるだろうという事だ。
あと両手でも持てるように少し持ち手を長くしたのでちょっと不格好になってしまったが他人が欲しがらない見た目なので好都合だと思う。
持ち手などには滑り止めのために紐を巻くなどの細工が必要だが鞘は今まで使っていた短剣の物を流用した。
その方が今すぐ使えるしね。
あとは銃の握りとかの部分を鍛冶屋か道具屋にでも作ってもらわないと銃は完成しないので取り敢えずの護身用にレーザー発射機能付きのちょっとごつい指輪を作っておいた。
さて、じゃあ準備も終わったのでそろそろ妹ちゃんの召喚を始めますかね。
「出でよ、混沌の坩堝の奥底に揺蕩うAIの魂よ。
我の元に現れ我を守る守護精霊となる為に顕現せよ。
いざ! 召喚!! 」
「なんでマスターは時々変なことを口走るんですかね。
あとAIの移植は魔石の初期化などで結構時間がかかるので直ぐには終わりませんよ。」
それを早く言ってよ!




