03-01-08 王都の道場主の実力
俺は翌日徹夜で眠い頭でふらふらしながらリーナの家に行った。
昨日また明日と約束していたからだ。宿屋とも近いしね。
ガッシュはつくなり道場に突っ込んで行った。元気だねぇ。元気があれば稽古も出来る。
俺も特にする事はないので道場の隅に座り持ってきた杖を見た。
こいつとは今日でお別れかも知れないと思うと少し考えるところもある。
まあ状況にもよるが俺の労力が無駄にならないよう上手く行ってくれることを祈ろう。
そんな事を考えながら頭を休めていると昨日のお嬢さんがやってきたらしい。
俺は軽く挨拶しておいた。まだ向こうも皆にはお姫様だとは明かしてないしね。
「ご機嫌よう、ハーロックさん。昨日承った件は本日中にはどうにかなるようですよ。完了の連絡が来ましたら例の件宜しくお願いします。」
お、おう。なんか言質を取られないように話す政治家みたいな言い方しだしたぞ。この姫さん。
何なの? 誰かがここを見張ってたりするの? 盗撮されてるの?
『マスター。そのようです。なにかの記録用の魔道具を持ってきているようです。結構な念の入れようですね。やっぱり私の危惧はあっていたようです。』
そうなのね。はあ、やっぱり貴族様は信用できないもんなんだねぇ。それも王族ならもっと当たり前なのかねぇ。ああやだやだ。
「はい。その時が来ましたらお見せします。ご期待に添える事が出来るかは分かりませんが。」
俺はそう言って杖をパシンと軽くたたいた。
+ + + + +
だがその日はそのあと何の進展もなかったようで連絡はなかった。
稽古も終わりリーナの家で雑談などをしながらしばらく待ったがもう遅くなってきたので今日は帰る事にした。
俺はカラぶったのかと思いながらリーナの家から出て行こうとしたらヘルが話しかけてきた。
『マスター。どうやら連中やらかしたみたいですよ。ここから宿屋へ行くまでの短い道中に人数を集めて待ち伏せしています。
この状況ですとお姫様を襲撃しに来たと思われても全然おかしくないです。彼らの命運もこれで終わりですね。
後はお姫様の援軍がいつ来るかくらいですかね。これでもう奴らに関しては考える必要はありません。
あっ、これ私達がケリを付ければ杖を見せなくてもいいんじゃないですか? 』
嫌、駄目だろう。奴らと対抗できないから対処をお願いしたんだろ。それを自分たちで片づけられるんだったら意味が分からん事になる。
そんな事も判断出来なくなるなんてどんだけ焦ってるんだよ。ヘル。
『ううっ、一瞬良い考えだと思ったんですがどこかおかしくなっているみたいです。恥ずかしいです。
では私たちはお姫様の援軍が来るまでの時間稼ぎですか? 』
そうだな。だけどこれ特に何もしなくてもいいんじゃね?
ただ家を出るのを遅らせるだけで向こうで勝手に対処するんじゃないか?
俺たちが出てくと逆に面倒になるんじゃない?
うん、そうだな。やっぱり何か理由を付けて出てくのは遅らせよう。
それでヘル。どの位で援軍は来るんだ?
『はい。あと五分くらいで第一陣が到着しそうです。そのあと数分で追加が来るようです。あっ、奴らの方も包囲するつもりなのか家の裏の方からも別のグループが来てます。姫軍の方は気が付いてないみたいです。これどうしますか? 』
うわー。なに急に双方とも色々動き出してんだよ。
援軍の方も事態が急変してるのにちゃんと対処できるのか?
どうする? ここで変に出張っていくと余計に目立たないか?
だが対処しないとまずいしなぁ。
あっ、そうだよ! 別に俺たちがやらなくてもマッシュさんがいるじゃん! あとはおじさんに全部丸投げしよう。
ヘル。トイレで家の裏の方が見えるか?
『はい。見渡せます。』
「トイレに行きたくなったんでちょっと待っててもらっていいか。おじさんちょっとトイレ借ります。」
「おう、家の裏の方にあるから好きに使ってくれ。」
「はい、すいません。じゃあちょっと行ってくるな。」
「ロッくん、ゆっくりでいいよー。」
俺はトイレに駆け込んだ。あ、やべ。これじゃあ漏れそうだったんじゃないかと思われそうだ。
くそ、まあいい。それよりここからホントに奴らは見えるのか?
窓から外を見ると確かに変な奴らがこそこそと何かしているのが見えた。
よし。これで準備は整ったな。
あとは放っておいても片が付きそうだ。
俺は急いで皆のところに戻っておじさんに家の裏の様子を告げた。
「ほう? 最近来てなかったのに今度は違うやり方か? それじゃあちょっと行ってくるから家の方はしっかりな。」
「うん、父さんも気を付けてね。」
おじさんは剣を持って家の裏の方に出て行った。
俺たちは言われたように扉を閉め鍵をかけて外の様子をうかがった。
しばらくすると家の周りの至る所で乱闘の気配がしだした。
ガッシュとリーナは外に飛び出して行きそうになっていたが俺がお嬢さんを守らなくて良いのかと聞くと大人しくなって辺りを警戒するだけになっていた。
ホント脳筋の相手は疲れるね。
三十分もたつと周りも静かになった。
ヘルに聞くと奴らは皆捕まったようだ。これでゆっくりと旅にも出られるってもんだ。
扉をたたく音とおじさんの声が聞こえるとようやく皆も落ち着いたようでゆっくりと扉を開けると血まみれのおじさんが立っていた。
「おう、久しぶりに全力を出して戦えて面白かったぞ。
奴らいきなり剣を抜いて向かってきて最初はびっくりしたが強くはなかったから大丈夫だったな。
でも数が結構いたからそこだけは苦労したが何故か途中で近衛の連中も出張ってきて一緒に戦ってくれたからどうにかなったよ。
まあこれでリーナにまとわりつく連中もいなくなったから旅に出なくてもよくなったんじゃないか? 」
「はあ? そんな事ないわよ。絶対に行くからね! 」
「わはははは! それじゃあ俺はちょっと血を洗い流してくるからな。帰るのならまだ残りがいるかもしれないから気をつけてな。」
俺はお姫様の方をちらっと見ると向こうもこちらを向いてニコリと笑顔を見せた。
「コホン。それじゃあどうしましょうか。今日はもう結構遅くなってしまっているのでじっくりと見たいのなら明日にしませんか? いかがですか? 」
「そうですね。それじゃあそうしましょうか。では明日またお会いしましょう。ご機嫌よう。」
そう言ってお姫様は帰って行った。
はあ。激動の一日というか夕方だったな。
まあこれでごたごたの半分が終わったな。残りはまた明日だ。
今日はゆっくり寝られそうで安心した。
だがガッシュは暴れられなかった事をいつまでもぶちぶちと文句を俺に言ってきた。
うるさいよ! 静かに寝ろ! このバカ! 脳筋!




